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異世界冒犬譚  作者: さくら
夢見る乙女が描く未来
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閑話 デルフィンとネリー 2

閑話その2になります

 あれから一カ月。ネリーはデルフィンと一緒に村を出て冒険者になった


初めての町、初めての依頼、初めての遺跡、初めての戦い。そのすべてが光り輝く宝石の様にネリーの瞳に映った。危険な時もあったが、それが余計に人生に刺激を与えてくれた。デルフィンと一緒に来てよかったとネリーは心の底から思っていた


そんな刺激的な毎日を過ごしながら依頼を繰り返していたが、徐々に問題も出てきた


「はぁ、やっぱり仲間が欲しいね」


「うん、私が足引っ張ってばっかりだし」


「は!? 何言ってんだい! そんなことあたしはこれっぽっちも思ってないよ!?」


デルフィンはネリーがため息交じりに漏らした言葉に畳みかける様に異論を叫ぶ


「で、でも、今日の討伐だって、私を守るために失敗しちゃったし」


「はぁ、あのねぇ、ネリーが魔法を使える様になってあたしはものすごい助かってるんだよ? ネリーが怪我なんてされたらあたし一人じゃ今と同じペースの稼ぎできないんだから」


元々、デルフィンはネリーに戦闘での期待はそこまで持っていなかった。戦闘は自分でやる。その代わり食事や身の回りの事を頼むつもりだったのだ。だが、それは良い意味で裏切られた


何回目かの戦闘の時に突如ネリーが魔法を使ったのだ。本人曰く少しでも役に立ちたいと勉強をしていたそうなのだが……たかが数日で魔法を使えるなんて聞いたことがない。魔法には素質が必要なのだ


最初こそ目くらまし程度の火を起こす魔法しか使えなかったネリーだが、日に日にその効果は上がっていっている。ネリーには魔法の素質があったのだ


「魔法使いなんてそうそういないからね。ネリーは貴重な戦力なんだから、怪我なんてされたら困るのさ」


「ありがとう。もっと頑張るね」


「頑張りすぎても困るけどね。あたしの立場がなくなっちゃう」


笑いながら酒をあおるデルフィンだったが、ネリーは羨望の眼差しをデルフィンに向けていた


ネリーにとってデルフィンはすでに憧れの存在になっていた。物怖じしない性格で男達と対等に話ができ、戦闘ではいつもネリーを守ってくれる。そんなデルフィンの為に少しでも役に立ちたかった。魔法に関してもそうだった。さすがに攻撃魔法とまではいかないにしても生活に役立つ魔法ぐらいはと試したところ思いのほかうまくいった


「とはいえ、適当な奴と組んでもねぇ……男なんてこっちからごめんだし」


「うん。男の冒険者はあんまり良いイメージないね」


女二人の旅だ。まだ冒険者になって一カ月程度だが、下心丸だしでちょっかいを出してきた男は数多くいる。その度にまたかと呆れていた


「そこまで強くなくてもいいんだけどね。あたしとネリーのフォローをしてくれる……そんな女冒険者が居てくれればいいんだけどなぁ」


女性の冒険者は数が少ないのだ。戦闘もできてしかも女性となれば引く手あまただろう。とはいえ、二人だけで依頼をこなすのも限界だった。上へと目指すのであれば戦力の増強は必須事項だ。二人は現状を打開する方法が思いつかず頭を抱えていた




 討伐の依頼から帰ってきた二人はいつものように酒場のマスターに依頼の確認と清算をお願いしていた


「依頼通りの石のようだな。ほらよ。報酬だ」


今回の依頼はある洞窟で採れる珍しい石を持って帰ってくることだった。依頼は問題なく終わったが戦闘ではやはりネリーのフォローに回ったデルフィンがかすり傷を負ってしまった


デルフィンは焦っていた。このままではネリーが怪我をする日も出てきてしまう。元々戦闘には不向きだったネリーだが魔法を使えるようになってからは積極的に戦ってくれている。だが、一度怪我をしてしまうと恐怖心が芽生えてしまう。ましてや冒険に誘っておいて怪我などさせるわけにはいかない。単純に自分が強くなれればいいと思い鍛錬は欠かさずしているが、そんなにすぐに強くなれるほど世の中は甘くない


「そういやぁ、お前ら仲間を探してたよな?」


酒場のマスターがメモを取りながら話しかけてきた


「ん?ああ、探してるけど……見ての通り女二人だ。男はごめんだよ」


「心配すんな。女だ。これといった目立った成果は上げてないが、最近冒険者になった奴がいるんだが……」


「ふーん」


冒険者になったのは自分たちもつい最近だ。それは気にはしていない。だが、役に立たないのであれば無理に仲間にする必要もない


「いや、やってる依頼もウサギ狩りとかその程度なんだが……肉屋の評判がよくってな。毎回三匹以上は卸してくれるってんで、にやけながら話てやがったよ」


デルフィンは他人事の様に返事をしたが、続けて言うマスターの言葉に興味を示す。店の評判が良いという事は冒険者にとってはステータスだ


態度、良い依頼物を納められる人物ということであれば人格、技術は問題ないという事だろう。それに毎日三匹以上というのは普通ありえない


ああいった仕事は駆け出しがやるのだが、駆け出しは狩りの仕方を知らない。なので成果は散々なものだ。デルフィンとネリーは幼い頃から動物の世話をしていただけあってなんの問題もなかったが、人によっては数日成果がでないなんてザラだ。それを毎回三匹となるとよほどの腕だ


「毎日かい? それは言いすぎなんじゃないかい?」


「俺もそう思ったんだけどよ。どうやら本当っぽいぜ?」


「そいつの名前は?」


「マニーズってんだ。へんな茶色い犬といつも一緒にいるから見りゃわかる」


犬と一緒にいる女の冒険者は珍しいのですぐに分かった。酒場で何度か見かけたことがある。女性の冒険者という事もあり、気にはなっていたのだが、身のこなしぶりから見て、さほど強そうではないという事で声をかけないでいた。数週間前はいけ好かないパーティと一緒にいたのを見ていたが……


「情報ありがとうよ。今度声かけてみるよ」


マスターから話を聞いたデルフィンは早速ネリーに相談することにした


「前に赤毛の冒険者の子がいたろ?」


「うん? ああ、私達と同じころに冒険者になったっぽい女の子?」


「ああ、どうもその子の評判が良いらしい」


「そうなの? デルフィンが微妙って言ってなかった?」


「まぁね。あの時は身のこなしと言い、人を見る目がないから微妙だと思ってたんだけどね」


「ふ~ん……で、どうするの?」


「ちょっと様子見かな。本当なら声を掛けてみよう」


「うん、わかった」


その後、数日間、町の中で見かけたマニーズは噂通りだった。毎日の様にウサギを狩って店に届ける。それだけでなく薬草と言ったものまである程度の量を採って来ていた。普通に考えれば駆け出し冒険者の三倍の稼ぎを出している。店員との関係も良好のようだ。笑顔で数十分は話し込んでいた


「どう思う?」


「私は良い子だと思うな。仲間になってくれたら心強いかも。あとあの犬って不思議だね。見たことないや」


「あたしも初めて見るね。へんな恰好だけど、うちで飼ってたのより賢そうだ。見て見なよ、主人が話し込んでる脇でちゃんと座って待ってる」


うんうんと頷くネリーを見てデルフィンは決意した。あの子を仲間に入れようと。そしてさらなる冒険者の高見をネリーと一緒に目指すのだ


それがネリーへの、そしてあの村の連中を見返す一歩になる。そう信じていた。デルフィンは赤毛の冒険者へと歩を進め声をかける


「ねえ、あんたパーティ組んでないよな?」

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