3話
3話になります。よろしくお願いします
俺に可愛い飼い主ができてそれなりの日にちが経った
一人寂しく森で暮らしていた俺も今では立派なシティボーイだ
マニーズと俺はシュレーダーという町で暮らしている
森の中では知ることのなかった知識だが、この世界はアクアホルンというらしい。アクアホルンにはいくつかの大陸があるみたいだが、詳しくはわからない。話もできないから、人が聞いてる話を一方的に聞いて理解するしかないのだ。とりあえず今住んでいるのはアクアホルンの数ある大陸の一つマンダス大陸だという事。その中のセントラルロート地方の首都シュレーダーに俺たちは居るってことだけはわかっている
シュレーダーは大きな町で伯爵様が治めているらしい
丘を中心に立つこの町は中央に豪華な伯爵様のお屋敷があり、そこを中心に円の様に広がっている。お屋敷に行くまでには三つの区域があり、中央から上流区域、中流区域、下流区域に別れている。俺たちが居るのは下流区域だ。下流区域はレンガ造りの家が多く人も一番多い。外からは城壁をくぐると大通りがあり、年中露店やら人が行きかっているので賑やかだ
今日はそんな大通り沿いにある宿屋兼酒場に来ている
宿屋はいくつかあるのだが、その中でも一番大きい
ここに来た理由は情報収集と依頼を受ける為だ
冒険者ギルド的なものがあるのかと思っていたのだがそういうのはないらしい
この世界では困ったことがあるとその町の一番大きい宿屋の主人に相談するのが当たり前らしい
宿屋には酒場が併設されているので、そこの掲示板に宿屋の主人が依頼を張り出す
それを冒険者達が見て依頼を受けるというのが一般的のようだ
そうなると難しい依頼を初心者が受けたり、同じ依頼を複数の人が受けてしまうという問題があるのではないだろうかと思っていたのだが、どうやらそれは自己責任のようだ。世の中そんなに甘くない
ただ、一応の暗黙のルールがあり、なにかというと「早い者勝ち」だそうだ。なんてことはない
報酬が欲しけりゃさっと行って、さっと帰ってこいと
依頼には大きく二つの枠があって、平常依頼と緊急依頼がある
張り出されている依頼は平常依頼が殆どで、内容は鹿・ウサギの肉の調達、野草の採取、配達、修理、中には介護的な内容の物もある
緊急依頼は貴族や金持ちが出すことが多い
依頼の内容も難易度が高そうなものばかりで、討伐やら捜索やら調査。それに遠くに行かないと取ってこれない肉や野草の依頼なんかがある
俺たちが受けるのは平常依頼の方で、肉の調達がもっぱらの稼ぎだ
色々試してみたのだが、配達や修理は俺だと何の役にもたてない
だが、野草や肉はこのコーギーノーズをもってすればすぐに見つかるのだ
それに気づいたマニーズは毎日のように俺を連れてウサギ狩りに出かけている
「もう少しで500ゴールド貯まるのよね」
毎日、俺の鼻とマニーズの巧みな弓使いで新鮮な肉を大量に仕入れてくるのでお金もいい感じで貯まっているようだ
ぶっちゃけ500ゴールドがどれだけの価値があるのか知らないが
「500ゴールド貯まったら装備一新したいなぁ」
装備は重要だな。飼い主に死なれたら困るし
「よし! カール! 今日も新鮮なお肉取りにいこ!」
カール。俺の名前だ。マニーズが俺につけてくれた
まかせとけ
「ワン」
可愛い飼い主の微笑みに俺は頷くように返事をした
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マニーズの準備を整えて町の外をでると、道なりに進んでいく
途中でT字路があり、そこを左に曲がっていくと俺がいた森がある。右に曲がると山の方へと続いている。いつも肉を狩るのは右に進んだ山沿いの川の周辺だ。森の方はモンスターがいるらしいのであまり行かないらしい。そこに数日間住んでた俺としては恐ろしい情報だ。出会わなくてよかった
川沿いに到着すると俺の出番だ
嗅覚・聴覚、それから気配を察知し獲物を探す
早速ウサギの匂いを嗅ぎ取り匂いがする方へ先導する
ある程度の距離で動きを止めマニーズを見て合図をする
それを見たマニーズは大きく頷き弓を構える
身を低くしウサギへと近づく
俺の役目はウサギの発見・ウサギの感知範囲ギリギリまでの誘導・そして止め係だ
ゆっくりと近づきウサギが反応するギリギリまで前身する
ある一定の距離まで近づくとウサギは動きを止め周りを警戒しだす
これ以上近づけばウサギは一目散に逃げだしてしまう
ここで動きを止める。後はマニーズが弓を射るのをじっと待つ
ウサギの動きを注視しつつ、ひたすらマニーズが動く瞬間を待ち続ける
——ッビン!
マニーズが矢を放ったとほぼ同時に俺は弾ける様にウサギへと駆ける
——ッドス!
鈍い音が聞こえた
マニーズの矢は外れた
だが、問題ない
矢に驚き地面に突き刺さった矢を見るウサギ
ウサギはその瞬間に身を翻し飛び上がるように逃げようとするが、矢が陽動となり一瞬動きを止めたウサギに俺の牙が襲い掛かる
「カール!」
走り寄ってくるマニーズに俺は絶命したウサギを咥えたままで見せる
「カール! 偉い!」
喜びにあふれた微笑みでマニーズは俺を撫でる
もはや二人の連携の前にウサギなんか目ではない
あくまでもウサギだけだが
鹿相手だとこうはいかない
何度か欲を出して鹿を狩った。マニーズの矢が当たれば楽なのだが、外れた時は俺の出番になる。俺が足に噛みつき足止めをしている間にマニーズが剣で止めを刺さすのだが……一度だけ俺が鹿の蹴りを食らって痛い思いをしたことがある。マニーズは眼に涙を浮かべて謝り、それ以来、鹿は狙わなくなった。痛いのはもう嫌だ
その後もウサギを狩り続け日が傾く前に町へと帰った
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「ねえ、あんたパーティ組んでないよな?」
今日の成果であるウサギ5匹を肉屋に売り、宿屋に帰ろうとしていると突然話しかけられた
「え……? 私?」
マニーズが振り返るとそこには冒険者らしき二人の女性が立っていた
「そうそう、あんたよ。いきなり声かけて悪いね。よければ一緒にパーティ組んでもらえないかなって思って声かけさせてもらったんだ」
男らしさ溢れるその女性は笑顔でマニーズに近づいた
「え……あの……私」
マニーズは困惑した顔つきで俺を見る
いや、俺を見られても困るんだが。これは嬉しい事じゃないんだろうか? ……あ、そうか、マニーズは一度騙されたんだよな
「あー、すまん。いきなりだし困るよな。良ければ酒場で話させてもらえないかな?」
「ちょっと、デルフィン。困ってるじゃない。ごめんなさいね。この人ってば遠慮がなくて」
「なんだよネリー。お前だって納得してくれただろうが」
「それはそうだけど、自己紹介もしないで仲間になれだなんて失礼すぎるわよ」
「う……」
声をかけてきた女性はデルフィンというらしい
引き締まった体と鉄製の鎧。きつい顔立ちでいかにも度胸のありそうな女性でぐいぐい来そうなタイプだな
一緒にいる女性はネリーと名乗った
デルフィンとは正反対で優し気だがどこか抜けたような顔立ちをした女性だった
ローブに身を包み杖を握りしめながらデルフィンを諫めている
「いきなり声をかけてごめんなさい。私はネリー。こっちはデルフィンよ。良ければお話をさせてもらえないかしら?」
間延びした口調で話してくるネリーは上目遣いでマニーズを見る
「あ、はい。話ぐらいなら」
「おっしゃ! そうこなくっちゃな!」
「ありがとう! それじゃ酒場にいきましょ」
話を聞くことになった俺たちは酒場へと足を向けた
「改めて自己紹介だ。あたしはデルフィン。見た通り冒険者をやってる。魔法は苦手だ」
「私はネリーよ。デルフィンと一緒に冒険者をやっているの。私は剣が苦手なの」
「マニーズです。冒険者になってからはまだ日が浅くて。一応、弓と剣を使ってます」
三人が互いに自己紹介をする
「あ、あと、こっちがカールです。私の……その……仲間です」
お? ペットとかじゃなくて、仲間っていうあたりにマニーズの愛を感じるな
「あぉん」
自己紹介を受けた俺は静かに鳴いてみた
「珍しい犬だな。この辺じゃ見ないけど……へぇ、可愛い顔してんじゃない」
「よろしくね。カール」
デルフィンとネリーは俺を見つめにっこりと微笑みながら頭を撫でてくれた
「あの、それで……パーティとは?」
「ああ、そうそう。いやね。私達は二人で色々と依頼受けてこなしてるんだけどさ。そろそろ緊急とかもやってみたいわけよ。でもさすがに二人じゃなーって思ってさ」
「一応、私たちも声を掛けられたことはあるのよ?でも、こっちは女二人でしょ? 来る人来る人、変な目つきで見るから……ねぇ?」
なるほど、いやらしい目で見てくる男と組むのはごめんってことか
「あー、それで私に」
「そそ、女同士なら心配なんていらないだろ? 女だと色々困ることもあるけど、女同士なら理解しあえるしさ」
「たしかに、そうですね」
女性同士という言葉に態度を軟化させるもマニーズはまだ不安のようだ
「それに一人より数人で行動すれば危険も少なくなる。いくら腕に自信があっても闇討ちなんかされたらさすがにな」
「そろそろ二人じゃ限界な事もあって……そんな時にあなたを見かけたの。ウサギとはいえ毎日のようにあれだけ狩ってくるなんて腕がいいのね」
「あ、いえ……それはカールが居てくれるからであって、私だけじゃあんなにうまくいきません」
「へぇー、おいなんだよカール。やるじゃないか」
デルフィンは俺ににやりと笑いかける
「デルフィンは動物好きよねー。にやにやしちゃって」
「わ、悪いか!」
「犬好きなんですか?」
「お、おう。家にいたころは三匹飼ってたぜ!元気にしてるかなぁ」
それを聞いたマニーズはきゅっと唇を噛みしめて俯くと何かを決意したように顔を上げ二人を見る
「あ、あの! 私で良ければ一緒に組ませてもらえませんか?」
マニーズの申し出に二人は眼を大きく広げお互いの顔を見る
「受けてくれるのか!? ありがてぇ!」
「やったね! こちらこそよろしくね」
こうしてマニーズと俺は初めてのパーティを組むことになった