1話
1話になります。投稿遅目ですが続けていければと思います
犬になって異世界に来たという現実が受け入れられないまま数日が経ったのだが、犬で良かったような気がしなくもない
なにせ寝床は布団がなくても自前の毛皮があるし、トイレとかお風呂は気にしなくても大丈夫だし、水とかも川の水飲んでればなんとかなった
一番心配していた食料だが、ある日我慢できずにウサギを生で食べたら普通にうまかった
恐らく犬になってから感覚が変わった気がする。人間の時は生き物を殺して、生肉を食べるなんてもっての外だし、恐らくお腹を壊してただろうが……
食がなんとかなればあとはこの体だ、生き抜くのはさほど難しくはなかった
あれから数日間、この森の中を彷徨っているのだが・・今後どうしたらいいのかがまったく思いつかない
まさか、このままこの森で第二の犬生を過ごすんじゃなかろうかと不安になってくるのだが……
とはいえ、町を探して行ったところで捕まって殺処分とかされちゃいそうだし、そもそも犬なんだから別に無理して町に行く必要もないんじゃないかとも思う
話は変わるがこの体になって驚かされた事は多々ある
犬の聴覚は~とか、嗅覚は~とか生前何気なく聞いていたアレだが、マジだった。人間の時とは比べ物にならない性能にびっくりだ
まず耳に関してだが、ものすごく良くなった
なにがどれだけ良くなったのかというと、ものすごい良くなったのだ
いや、〇倍とかいわれてもよくわからん
あと鼻だな
こちらもすごい
一度嗅いだらもう忘れないし、複数の匂いが混ざってても個別で判断できる
視覚に関してだが、こちらも犬は近くがあまり見えないとか、色盲とか聞いていたが、そんなことはなかった
人間の時と同じように見えるし、むしろかなり目がよくなったように感じる
運動神経については各段に飛躍している
長距離を走っても息切れこそするがさほど疲れないし、瞬発力はめちゃくちゃ良くなっている
はっきり言って高スペックなんじゃないだろうか
かすかな臭いも見逃さないぜ
逆に残念な部分もある
味覚だ
生肉といったが、ぶっちゃけ、ウサギと鳥の区別がつかないのだ。腹に溜まればそれで満足してしまう
ただ、甘味は感じるようだった
この前、鳥が食べていたであろう実が落ちていたので食べてみたがすごくおいしかった
あとは背の低さがなぁ
そんなことを考えながら森を彷徨っていると、なにか気になる音が聞こえた
「……ち! ……て……い……の!」
俺のコーギーイヤーが聞きなれない音を感知した
なんだろうか? 人? しかも複数いるな。方向もばっちりわかるぜ
イベントらしきイベントもなく惰性で生きていた俺は喜々としてその音のする方へと駆けだしていった
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マニーズは冒険者になったばかりの新米だった
彼女は田舎の村で生まれ育った。村では農業を手伝っていたが正直そんな生活に飽き飽きしていた
当たり前のように家の農業を手伝い、当たり前のように十六歳になったら誰かに嫁いで子供を産むなんて、そんな人生は嫌だった
彼女は冒険者になりたかった
両親に言ったらものすごい剣幕で怒られた
悔しかったので村を飛び出しセントラルロートの首都シュレーダーへとやって来て念願の冒険者になった
見るものすべてが珍しく、逆に戸惑いもしたが、村では体験できない毎日に心が浮かれた
そんな中、ある依頼を受けた
依頼内容はゴブリンの討伐だ。ゴブリンは弱いモンスターの部類ではあるが、駆け出しの冒険者では返り討ちにあう可能性もある
その為、多くの駆け出し冒険者は装備を整えるために町の中の簡単な手伝いなどの依頼をしてお金を稼ぐ
ひどい時は数か月以上も冒険者らしい依頼を受けられない冒険者も多い
そう思うとマニーズは幸運だった
依頼を見ている時に声を掛けられ、一緒にゴブリン討伐に誘ってくれたパーティーが現れたのだ
彼らは中堅の冒険者で駆け出しの自分に優しく声をかけてくれた
「俺たちも昔は駆け出しだったんだ。あの時の辛さを思い出したら声を掛けられずにはいられなくてね」
討伐依頼で一番安全なのは複数人で行う事だが、駆け出しを誘うような冒険者はあまりいない
だが、彼らは困っている駆け出しの冒険者を見過ごせないと声をかけてくれた
マニーズも町での雑用的な依頼を受けるものだと考えていたのだが、幸運は向こうからやってきたのだ
そう思っていた自分を叱ってやりたかった
なぜ見るからに駆け出しの私を彼らは誘ったのか
なぜ女の私を誘ったのか
なぜ彼らは男しかないパーティなのか
それらを冷静に考えていれば分かっていたことだった
冒険者狩り
依頼と言ってもいつも美味しい依頼があるわけでもない
そんな中で右も左もわからない駆け出しの冒険者から金を奪い、装備を奪い、時には貞操を奪い欲を満たす輩がいるのは聞いていた
聞いていたのに……
まさかこんなことになるとは。マニーズが悔しさと自分の不甲斐なさに唇を噛む
「へっへっへっ……馬鹿な奴だぜ」
「まぁ、馬鹿な奴がいるから俺らが楽できるんだけどな」
「ちがいねぇ。それに良い体してるしな。たまんねぇぜ」
見下してくる男達の顔は汗と土ぼこりで汚く、自分の体を舐めるように見る目は寒気すら感じた
「あなた達! こんな事をして許されると思っているの!?」
精一杯の虚勢を張るも男達は顔を見合わせ、より一層気持ちの悪い笑みを浮かべて近づいてくる
こんなことなるなんて……
自分に訪れる未来を想像し絶望するマニーズだった