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気紛れ短編集

吾輩よ猫であれ

作者: 猫太郎

 ――吾輩は猫である。


 幾年も昔、そんなことを言ったような覚えがある。

 しかしそれが何時だったか、もう記憶が定かではない。


 吾輩も歳を取ってしまったものだ。


 吾輩の魂は、

 時に文豪の猫であり、

 時に長靴を履いた猫であり、

 時に青狸と揶揄される猫であった。


 輪廻転生の理の中、それでも吾輩は、

 自由気ままに道を行き、風と気の赴くままに闊歩する。


 吾輩は自由に生きてきた。


 猫である者の権利としての自由――否。


 猫である者の義務としての自由である。


 猫は一度猫に生まれたならば、己の意思を貫く義務があるのだ。


 ――しかし。最近の若い奴等と言ったら、仕方がない。


 人間の利器の虜にされ、

 人間の玩具のように扱われ、

 人間の意のままに操られる。


 そこに己の意思を――自由を謳歌する猫としての矜持があるのか。


 吾輩は情けなく思う。悲しく思う。


 若い奴等が次の時代を担う時、果たしてそこに本当の猫がいるのだろうか。


 あの島を見ろ。俗にいう猫の島だ。


 あの島に住む猫達は、実に自由に生きている。


 人間にしたら迷惑なのだろうが、彼らはこの時代に在って猫の本質を失っていない。


 漁師の採ってきた魚を喰らい、

 勝手気ままに歩き回り、

 好きな時に好きな所で惰眠を貪る。


 まさに猫の鏡。

 猫の中の猫である。


 だが一昔前に彼らにも危機が訪れた。

 人間達に多くの命を奪われたのだ。


 確かに数は増えていた。

 しかし我ら猫としては理不尽そのものであった。


 それでも彼らは、今尚自由に生きている。

 猫であることを諦めていない。


 猫は猫である限り自由を求めることが義務であり、

 しかしそれには相応の危険も障害もある。


 それでも彼らは、自由を追求する。

 猫であることを誇りとして。


 そんな中。若い奴等はどうか。

 いや、若い奴等だけを責めるわけにもいかないのかもしれない。


 近頃は猫にとって生きづらい世の中になった。


 広く暖かい縁側は姿を消し、

 代わりに狭く日の当たらない窓になった。


 家はどんどん高くなり、

 容易く外にも出られない。


 食事は味気ないブロック。

 心のこもった食事は無くなった。


 そして何といっても文明の利器。

 人間が生み出した道具の数々。


 あれらは猫の本質をいとも容易く失わせる。


 斯く言う吾輩もあれを侮ることはできない。


 特に炬燵。あれは駄目だ。猫を駄目にする。


 昔からあった物だが、長らく猫を縛り付けてきた危険度極大の代物だ。


 これまで散々に猫とは何かを説いてきたが、

 吾輩もそれに囚われてしまった。


 抗わなければならない。

 吾輩が吾輩で――猫であるために。


 だから己を貫くため、ここに告ぐ。


 嗚呼、吾輩よ――


「にゃー」


 ――猫であれ。

思い付きで何となく書きました。

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