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忌まわしい過去。
どこかの誰かから聞いたことがあるようなイジメと嘲笑の記憶。
さっきの野次馬達の視線が、グルグルと頭の中で渦巻いて思考を鈍らせていくのがわかる。
「やっぱり現実ってのは糞ゲーだな」
悲劇のヒロインを気取る歳でもないのはわかっている。
ただ、思い起こした記憶にただの1つも良い思い出がないのに。
こんなくだらない事はいつまでもいつまでも簡単に思い出せるのは何故なのだろう。
もし俺が何かの主人公ならこの出来事を起点として普段と違う行動を起こし、壮大な事件に巻き込まれることになるのだろうが生憎のNEETだ。
考えたって仕方がないし、小腹が空いてなにもしたくない。
腹が減ってはNEETもしていられないのだとすんなり割り切る頃には、最寄りのコンビニへと入店していた。
「温めお願いしまぁああす!!」
「いらっしゃっせえぇええええ!!」
やだなにこれテンション高いし人多くない?
活気付くコンビニ店員と群れる労働者達の狭間で呆気にとられる俺は立ち尽くす。
現代人はなんて不摂生でストレスが溜まることを行っているんだ…母ちゃんに言えばいつでも飯くらい出てくるだろうに。
そんなことを思いながらも社会勉強してやるかと店内を物色…しようにも目ぼしいものなど選ぶ暇なく適当に目に付いたパンを手にとって長者の列に並ぶのが精一杯だった。
「あの部長がさー私のお尻撫でてくんの!マジキモい!」
「わかるわかる!あいついっつもやらしい顔してるし!」
何かのアトラクションの待ち時間かと疑いたくなるほどの列に並んでみると、様々な声が嫌でも耳に入ってくる。
夢にまで見たOLとのラブストーリーは目の前で並ぶ2人組に打ち砕かれたのは言うまでもないだろう。
大体いやらしい顔ってなんだ!現代芸術家がキャンパスにぶちまけた絵の具のような化粧面しやがって!
「ねぇ君、もしかしてさ神城君?」
とまらない悪態を心の中で吐き出しているとすぐ後ろから声がした。
ズキンと胸が痛くなり、動悸が止まらないが決して恋ではない。
「ねぇ!絶対神城君だよね?久しぶりじゃん!」
「うぇっ?」
あまりにも情けない震えた声で、恐る恐る振り返る俺。
ニコリと微笑む姿はこの腐った現代社会の中で一筋の光ではないのだろうか。
綺麗で大きな瞳がこちらを見上げ、ゆるふわな髪に素材そのものを生かした控えめな化粧姿。
どこかの会社で勤めているのだろうがそこらのOLとは一線をかく気品溢れるスーツを着こなし、かつての同級生でありクラス1の美少女がそこにいた。