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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
6章 ナルス帝国学院
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94話 魔の鉱山④


 迷った。

 マジで迷子になってしまった。

 わたしはちょっと泣きそうになりながら坑道を一人で歩いている。尻尾感知で残念勇者かエレンさんの霊力を見つけることが出来れば問題ないのだけど、ここは魔境だ。霊力が停止しているため、感知が起動しない。



「うぅ……外に出られる気がしない」



 わたしはそう言いつつも坑道の先へと進んで行く。何だかより奥へと進んでいる気がするけど果たして大丈夫なのだろうか。道が下りになっているから鉱脈の奥へと向かっているのは間違いない。でも引き返すことは出来ない。何故ならあの道は破壊されてしまったから。



 ぷるん?

(大丈夫?)


「う~。ギンちゃんだけが癒しだよ……」



 フードの中でプルプルしているギンちゃんがいなければ鉱山を吹き飛ばしてたかもしれない。貴重なサンプルが取れる場所を吹き飛ばしたくはないけど、癒しが無かったらやりかねない。

 だけどそもそもこんなことになったのはのせいだ。

 さえ来なければわたしが一人で魔境を彷徨うことなんてなかったのだ。





――――――――――――――――――――





 例の鉱石について大体の解析と考察を終えたわたしは幾つかサンプルを採取して帰ることにした。もう少し探索してみたい気分にもなったけど、やはり魔境という場所は何が起こるか分からないし、どんな強力な魔物がいるかもわからないからだ。

 そう思って解析に集中させていた尻尾感知を周囲に展開させたのだが、その瞬間にわたしは悲鳴を上げてしまう。



「ひゃうっ!? 二人とも飛んで!」



 わたしは反射的にそう言いつつ行動の奥の方へと身を投げる。そして残念勇者とエレンさんもわたしの声と行動に反応して帰る方の道へと……つまりわたしとは反対方向へと飛びのいた。

 そして一秒と立たないうちに轟音が鳴り響き、先程までわたしたちが立っていた場所が崩壊する。そしてわたしはその崩壊の衝撃でさらに奥まで転がり落ちることになった。



「あぐ……」



 二十年も放置されていた場所だから地面もガタガタでかなり痛い。でもわたしはそのまま転がり続け、最後にはカーブの部分で壁にぶつかりそうになったところをギンちゃんがクッションのように受け止めてくれたことでようやく止まった。

 ギンちゃんイケメン。



「ありがとギンちゃん。あー、痛い」


 ぷるるん?

(大丈夫? 痛いの?)


「うん。大丈夫だよ。特注ローブのお陰で大きなけがはないし、多少の怪我なら開発した治癒魔法で直せるからね。これは残念勇者とエレンさんにも秘密だから今なら使い放題だよ」



 わたしはそう言いつつ治癒魔法を行使して傷を完全に治す。すると内部に響いていた痛みも引いて、あっという間に動けるようになった。治癒魔法さん流石です。



「それにしても飛びのく方向を間違えちゃったな。二人はちゃんと帰る方向に回避してたし、その辺りはやっぱりベテランなんだろうね」



 それにわたしの急な掛け声にも反応できていた。やっぱりランク特Sというのは人外なのだろう。普通はあんなの避けられないしね。まぁ、今は霊力を感知できないから安否の確認は出来ないけど、あの二人なら生きていることは間違いない。

 そしてわたしが思わず悲鳴を上げてしまい、さらに坑道を押しつぶした原因は魔物だった。

 ビックリするぐらい膨大な魔力を持っていたので驚いてしまったのである。わたしも成長して霊力や魔力の量が増えているんだけど、今のわたしが十人集まってもあの魔力量には勝てない。たぶん魔王でも有り得ない魔力量だと思う。

 とすればあの魔物の正体も分かってくる。



「原種ね……二年ぶりになるかな」



 種の原点であり頂点とも言われるのが『原種』と呼ばれる存在だ。かく言うわたしも狐獣人の原種だからよく知っているし、以前にオークの原種である暴喰災豚カタストロフとも戦った。だからその危険性とか強さとかは熟知している。

 この魔境はランクSSS級の魔物もいると言われているけど、さっき感知した様子では明らかにSSSoverの災害のような奴だと分かる。というか今も感知できるからガクブル状態だ。

 全身の毛が逆立つ感覚と言えばいいだろうか? とにかく獣としての本能がヤバいと告げている。こんなことは久しぶりだった。たぶん魔王とか暴喰災豚カタストロフにあって以来じゃないかな。こいつに関しては突然変異で現れたというより、昔から【魔の鉱山】を縄張りにしていた種なんだろうね。ずっと気づかれていなかったのは驚きだけど、わたしみたいに魔力を感知できる人は珍しい。だから仕方ないことなんだろう。



「取りあえず逃げよう。そうしよう」


 ぷるーん

(わかったー)



 ギンちゃんがわたしのフードの中に入り、わたしも立ち上がる。

 あ、よく見たら魔境に入る前に創っておいた『霊刀』が無くなっている。弓はしっかり体に付けていたから大丈夫だったけど、『霊刀』の方は転がっているうちに失くしてしまったんだろう。戻って探す気にはなれないから無視でいいや。

 暴喰災豚カタストロフが可愛く思えるような原種とコンニチハなんてしたくない。こういうときは逃げるが勝ちだ。というわけで取りあえず奥を目指そう。そうすれば別ルートで外にも出られるかもしれないしね。





―――――――――――――――――





 そして今に至る。

 ええ、迷子になりましたとも。

 『残念勇者とエレンさんは迷子になっちゃたのか~。全くしょうがないな~』とかの定番ネタで一人コント(観客ギンちゃん)をするぐらいには寂しいのよ!

 そしてギンちゃんが慰めてくれて回復したのよ!



「いっそ魔法で道を作るか……でもどれだけ魔力を消費するか分からないしねー。魔力切れの時に魔物に襲われたら死んじゃうし」



 『荷電粒子開放プラズマ・バースト』とかで鉱山ごと吹き飛ばすのもアリだけど、貴重な鉱石が無くなる可能性がある上に狭い場所でそんな魔法を使ったらわたしもただでは済まない。それに下手したら崩落するだろうから選択肢としては除外だ。

 次に可能性があるのは土系統の魔術で掘り進めていく方法だけど、いくらわたしでもちょっとしんどい作業だからね。土魔法だけで岩盤もある鉱山をぶち抜くとか無理だし。そもそも、土魔法で物質を操る時はその物質を構成している原子の結合エネルギーによって労力が変化する。簡単に言えば硬い物質は操るのが難しいし、魔力も大きく消費するのだ。ちょっとした攻撃で岩の槍を出現させる程度なら問題ないけど、トンネルを掘るともなるとそうはいかないからね。

 食料とかはギンちゃんの亜空間に仕舞ってあるから気長に進んで行こう。



「あ、また鉱石発見」



 進んでいるうちにまた鉱石が見つかった。回収しておこう。

 わたしは土の魔法で鉱石を剥がしてギンちゃんに渡す。そしてギンちゃんはスライム体内の亜空間にその鉱石を仕舞ってくれる。やばいよ。わたしのパートナーが優秀すぎるよ。

 この鉱石に関しては誰にでも採掘できるわけじゃないからね。手に入る時に手に入れておかないと次はいつになるか分からない。研究用にも幾つあったって足りないぐらいだ。折角だから大量に確保しておかないといけないね。

 あ、でも後で一応アルさんに許可を貰っておこう。【魔の鉱山】は皇帝の持ち物だから、勝手に持って帰るのは良くないかもしれないしね。



「これでよし」



 適当な量を回収してわたしとギンちゃんはさらに先へと進んで行く。分岐点があれば目印を付けながら勘で道を選ぶ。意外と酸素が残っていたのは助かったけど、外に出られる気がしない。むしろ鉱山の奥へと進んでいるような気がするね。まぁ、まだ後ろには超巨大魔力が感知できるから戻りたくないけど。

 まったく……いくら解析に集中していたからって、あの魔力を感知できないなんてわたしも油断していたとしか言えないね。わたしだって万能じゃないんだから気を付けないといけない。今回は良い教訓になったと思っておこう。

 そんなことを考えながら次の分岐点を見つけたとき、わたしは強い魔力の流れを感知した。



「これって……右の方から魔素が流れている? 魔力も密度が高い方から低い方に流れるし、もしかしたらこの先に高密度の魔力でもあるのかな?」



 魔力が流れるというのは実は簡単ではない。

 魔素だけでなく霊素も風の流れとは独立して挙動をとるからだ。魔術や霊術を発動させるために願いを込めて動かすか、魔素と霊素の密度差があれば流れが生じる。

 そしてこの規模で、さらに一定の魔素の流れを作れるとすれば密度差による自然現象と予想できる。

 この魔境という場所で魔素が高密度に溜まっている場所……それはもしかすると魔境に魔素が満ちている理由なのかもしれない。霊素が動きを停止させるほどの魔素を生み出す源泉がこの先に? と思うと興味がそそられる。

 わたしはその方向へと尻尾感知を伸ばしてみた。



「ランクSS級の魔力が六体、ランクSSS級の魔力が八体か。それ以外にもランクS以下の魔物が大量に居るっぽいね。普通に死ねるわ」



 右の道には一都市を滅ぼせるレベルの魔物がいっぱいいた。というかランクSSS級に関しては国ごと滅ぼせるレベルの魔物だから、それが八体とかちょっとおかしい。わたしの冒険者強さランクはSSSだけど、これは万全の準備をして一対一の状態で対等であるというものだ。つまりまともにこの先にいる魔物と戦ったら勝てるはずがない。

 だからまともには戦わない。



「いくよ『狂乱鎮魂歌ベルセルク・レクイエム』」



 わたしは魔法発動と同時に『真空結界』を張り、音を遮断する。一応は座標指定で十四体の高ランク魔物たちの真ん中あたりを発動地点にしているけど、下手したらわたしにも被害が及ぶからね。

 そして魔法が発動した瞬間に魔物たちは動きを止め、そして一瞬だけ周囲を感知するような挙動をしてから『狂乱鎮魂歌ベルセルク・レクイエム』の発動地点へと動き出す。動く速度に違いはあったけど、全ての魔物が動き出した。ランクSS、ランクSSSの魔物だけじゃなく、『狂乱鎮魂歌ベルセルク・レクイエム』の範囲に捉われたすべての魔物が……だ。



「よし、高ランクの魔物にも通じるね!」



 わたしは思わずガッツポーズをとる。ギンちゃんもそれに合わせて飛び跳ねてくれた。ポヨンポヨンとしてて可愛すぎる。

 この『狂乱鎮魂歌ベルセルク・レクイエム』は複雑に多彩な周波数の音を組み合わせて常に乱数変化させながら一点から発生させるだけの魔法だ。人間には聞こえないレベルの音も組み込んである。全部計算で制御しているから面倒だけど、効果としては一対多において最高の結果を出してくれる。

 原理としては簡単だ。

 例えば黒板を爪で引っ掻いた音を聞かされると人間は不快に感じるだろう。魔物も同様で、非常に不快感を感じる音が存在しているのだ。そういった音を不規則に聞かせるのがこの魔法である。そして凶暴性の高い魔物という生き物は、不快感を煽られると攻撃されたと考える。そしてこの魔法の発動地点へと進んで行こうとするのだ。あくまで不快感を煽る魔法であり、肉体は傷ついていないので逃げるという選択肢はないらしい。このことは実験して分かった事実だ。

 で、そういう思考で『狂乱鎮魂歌ベルセルク・レクイエム』の発動地点に集まるのは一体だけではなく、範囲に捉われた全ての魔物が集合する。すると魔物たちは『自分に攻撃してきたのはこいつらだ』という風に解釈をし、互いに戦いを始めるのだ。

 そうしてわたしに操られ、最後の一体になるまで戦わされる。

 まさに狂乱を呼ぶ鎮魂歌。

 それがこの魔法の正体だ。



「さて、結構片付いたね」



 ランクSSS級の混じっていたからね。

 かなり簡単に片が付いたようだ。そしてわたしは消耗した最後の一体を仕留めるだけでいい。

 わたしは『狂乱鎮魂歌ベルセルク・レクイエム』と『真空結界』を解除し、奥へと足を進めた。







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