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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
6章 ナルス帝国学院
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91話 魔の鉱山①

 

 学院は夏休みになった。

 冬休みや春休みが無い代わりに夏休みが三か月もあるのが学院の特徴であり、わたしたち教師もお休みの期間となる。当然ながら給料も入らないので副業とかで稼がないといけないけどね。

 わたしの場合は学者でもあるから普通に給料が貰えるし、冒険者として仕事すれば幾らでも稼ぐことが出来るだろう。それに貯金も山ほどあるから働かずとも遊んで暮らせる。

 だがわたしには夏休み中にしておきたい調査があったので【帝都】の外にまで出ていた。

 そう、あれだ。

 謎の鉱石の調査だ。



「着いたよルシア。あれが【魔の鉱山】さ」


「見た目は普通ですね。すごい魔力を放っている以外は」


「やっぱり凄いのかい?」


「そりゃもう」



 わたしが目的地としていたのは【魔の鉱山】。例の鉱石が見つかった場所であり、最近はランク特S冒険者である残念勇者イザードとエレンさんが調査をしていた場所でもある。調査を経験しており、さらにあの鉱石の第一発見者でもある二人にはわたしから協力を要請したのだ。

 本来はランク特S冒険者を私用で使うことは出来ない。

 だが特Sの方から個人的に頼みを聞いてくれた場合は認められるのである。

 ギルドも個人も特Sの冒険者に依頼することは出来ても、強制することは認められないのだ。まぁ、彼らを武力で強制できる人なんていないけどね。

 まぁ、そういうわけで一時期はパーティも組んでいた縁もあって手伝ってくれることになったのだ。



「それであの鉱石はどのあたりから見つかったんです?」


「あれはイザードがいつの間にか拾っていた鉱石だったからねぇ。あたしは知らないよ」


「あれはどこだったかの坑道を歩いている時だったな。正確な場所は忘れたが」


「役に立ちませんね残念勇者」


「うぐっ……」



 まぁ、イザードが役立たずなのは既知の事実だ。今更嘆いたところで意味はない。

 


「わたしの感知で調べられるので適当に坑道を歩きましょう」


「それがいいね。ルシアの護衛はあたしに任せな」


「も、もちろん俺も守ってやるぞ」


「じゃあお願いしますねエレンさん、肉盾イザード


「なんか酷いことを言われた気がした!?」


「気のせいです」


「気のせいさ」



 イザードなどこれぐらいの扱いで十分だ。

 それよりも早く【魔の鉱山】を調べないとね。

 霊素を吸収して魔素に変換するなんて聞いたこともないし、ちょっと有り得ない。霊素と魔素は別物の粒子なハズだから、それが変換されるとしたらリアル錬金術ということになる。

 一応は仮説も立ててきたけど、それを立証するためにはやはり現地調査が必要だからね。



「じゃあ行きましょうか」


「そうだね」


「……ああ」



 イザードだけ納得がいかなそうな表情をしているけど、もう見慣れた光景だ。彼自身も諦めたように大人しくわたしたちに付いてきた。

 まだ少し遠くに見える【魔の鉱山】は山というよりも小さな山脈に近い。

 二十年ほど前は【ナルス帝国】の重要な鉄鉱石産出地として盛んに採掘をしていたそうだが、あるとき魔境化してしまってからは手付かずらしい。これまではまともに調査もしなかったのだが、こうして二人のランク特S冒険者が【ナルス帝国】に集結したことで調査を依頼してみたようだ。

 ギルドとしても魔境の調査には思うところがあったため簡単にランク特Sを動かすことが出来たそうだ。やはり【イルズの森】の魔境化が響いているのだろうね。



「そういえば出現する魔物は強かったですか?」


「そうだねぇ……あたしは魔境の効果で霊術が使えなかったからね」


「そうでしたね。残念勇者はどう感じました?」


「ん? 普通よりかは強かったが、それでもAランク程度だったな」



 なるほど。

 それなら雑魚だし問題ないか。(※そんなことありません)



「わたしは魔術も使えるので大丈夫ですね」


「便利だねぇ。あたしは羨ましいよ」


「魔力って扱いにくいから制御が大変ですよ?」


「それでも霊域でも魔境でも好きに魔法が使えるのは羨ましいのさ」



 確かにそれを考えればチートだね。

 でもそんなチートも使えなきゃ意味がない。やっぱり残念勇者とエレンさんにはわたしが九尾だってことを言っておいてよかった。霊力も魔力も自由自在に扱えるなんて普通じゃ有り得ないからね。

 獣人は確かに二つの力を持っているけど、魔力に関しては微々たる量でしかない。普通は魔術なんて使えない程度だ。精々が魔力の自然強化による恩恵を受けられるぐらいでしかないからね。

 でもだからこそ今回見つかった鉱石は危険なのだ。

 自分の霊素を魔素に変換してくれるとすれば、人族でも魔術を使うことが出来るようになるかもしれないのである。体内で変換しているわけではないから肉体強化は難しいかもしれないけどね。



「あ、魔物の反応ですね。もしかして領域に入りました?」



 会話をしながら歩き続けていると、ついにわたしの感知範囲に魔物が引っかかった。断続的に指向性感知をしていたので、かなり遠くまで知ることが出来るのである。

 それにわたしの鼻にも嫌な臭いが届いていた。



「オークかな……凄く臭いです」


「あー、あいつらは匂いが酷いからな。獣人には最悪の魔物だろう」


「焼却します。『白戦弩バリスタ焦滅プロミネンス』」



 すぐさま霊力で矢を形成し、感知で捕らえたオークと思しきターゲットに放った。まだ視覚では捉えられない場所にいたオークでも逃れることは出来ない。音速の矢がオークを貫き、炸裂して焼き尽くした。

 霊術が使えたし、どうやらまだ魔境には入ってなかったみたいだ。



「まだ魔境じゃないみたいだね。そろそろだとは思うけど」



 わたしが霊術を使ったことでエレンさんも同じ答えに辿り着いたらしい。わたしも咄嗟に霊術を使おうとしてしまったけど、これが敵の目の前で魔境の領域内だったら拙かったね。次からは気を付けないと。



「そうだな。木が増え始めたからもうすぐ麓だろう。魔境の境界がどこからなのかは俺にも分からないから何とも言えないがな」


「じゃあ今のうちに霊刀を作っとかないと」



 近接戦闘用に霊刀を形成して腰に差す。魔境に入れば超振動は使えないから初めから切れ味のある刀を形成しておいた。そうじゃなかったら丈夫な白いこん棒だからね。



「便利だねぇ。今度あたしにも教えておくれよ」


「いいですよ。というか今更ですね」


「帰ったら頼むよ」



 サマル教授にも教えてあげたから別にいいか。それほど秘術ってわけでもないし。

 それに今は『物質化マテリアライズ』の魔法陣化も進めているから秘術にしたところでもう手遅れだろう。少なくとも【ナルス帝国】には公開しているからね。しばらくは軍事機密みたいに扱われるんじゃないかな?



「これでよし。そろそろ行きましょう」


「そうだね」


「おう」



 改めて準備が整い、わたしたちは【魔の鉱山】の領域に踏み入る。

 わたしは【魔境イルズ】に入ったことがないから、魔境の探索はこれが初めてだ。やはりわたしの尻尾感知は異様な反応を見せている。気持ち悪さはないが、不思議な感覚だった。



「やっぱり霊力は動かせないかぁ……九尾化」



 念のため九尾化をしておく。

 まぁ、正確には九尾化というよりは制限解除だけどね。

 この状態ならいつもよりも霊力や魔力を上手く扱えるからね。それに魔法の同時発動数も増加するからまさに本気の戦闘モードってやつだ。

 まぁ、霊力が使えないだけでも普段の半分しか実力が出せないってことだからね。気を付けないと。

 わたしが感知に気を遣っていると、イザードが口を開いた。



「坑道はもう少し山を登った中腹辺りにあったはずだ。まずはそこを目指すぞ。魔物は上位種ばかりだから油断はするな」


「当然さ」


「大丈……いえ、さっそく来たみたいです」



 わたしの聴覚と嗅覚に何かが引っかかった。空を飛んでいるみたいだから鳥系の魔物だろうね。

 空を見上げながらそう言うと、二人も戦闘モードに意識を移した。イザードは剣を抜き、エレンさんは時空間魔法が付与された帽子から槍を取り出す。



「キィィィィィイッ!」

「キギャァァァッ!」

「キィンギィィ」



 バサバサと羽ばたくような音がして大量のデスコンドルが現れた。初めに絶叫を上げた三羽はリーダー的な立場らしく一回り大きい。

 このデスコンドルという魔物は群れで狩りをする魔物であり、たしかランクA程度だったはずだ。爪に毒があるので、少しでも引っ掻き傷を付けられたら死に至る。そして空を飛ぶので非常に仕留めるのが面倒という相手だ。



「わたしが魔術で落します。トドメはよろしくです」


「任せな」


「いつでもいいよ」



 準備は出来ているようなのでわたしも魔術を発動させた。



「『電磁波エレクトロ・ショック』」



 わたしは右手を翳して強力な電磁波を放射した。

 電子を操ることを意識すれば雷も簡単に扱うことが出来る。そして強力な電磁波攻撃を食らったデスコンドルは方向感覚を失い、次々と墜落する。



「そらよ!」


「これは楽だねぇ!」



 そして墜落したデスコンドルを次々と葬り去っていくイザードとエレンさん。さすがはランク特Sの人外たちだね。Aランク魔物がゴミのようだ。

 わたしも手伝いとして魔術を使用する。



「『鉄牙乱舞ミリオン・スパーダ』」



 地面から鉄の剣が飛び出てピクピクと痙攣しながら横たわっていたデスコンドルを貫いた。リーダー格の一回り大きな奴も問答無用である。

 血が飛び散って周囲の木々が赤く染められるけど、わたしにとっては最早見慣れた光景。今更気持ち悪いとか思ったりはしない。

 殺さなければ殺されるのだから……



「魔境もこんなものですか……」


「いや、今のはルシアちゃんがいたから楽だったな。本当なら一体ずつ引き付けながら倒すことになるから時間が掛かる」


「そうだね。魔法があるだけで本当に楽になったもんさ。今度の調査は一緒にいかないかい?」


「うーん。暇があれば」



 やっぱり魔法のあるなしで戦術の幅が大きく変わって来るね。

 わたしはチート。

 Sランクの魔物も軽く倒せるわたしにとっては魔境でも余裕だね!



「ま、今度の調査の件はともかく、もう少しで坑道の一つに辿り着く。それにデスコンドルの血に新しい魔物が寄って来るからすぐに移動するぞ」


「そうだね」



 イザードがそう言って再び先に進み始める。

 魔境では魔物なんていくらでもいるから一か所に留まっているのは拙い。わたしもそれは理解しているから大人しくイザードに付き従った。普段こそ残念だけど、一応はベテランの最強冒険者だからねぇ。

 そうして魔物を潰しながら進むこと三十分。

 ようやくわたしたちは坑道の一つを見つけたのだった。





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