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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
6章 ナルス帝国学院
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88話 キャンプ⑥

 わたしの目の前には冒険者のような格好の男が二人。どうやらいきなりわたしが飛び出してきたことに驚いているようだ。まぁ、気配で気付いていたかもしれないけど、わたしの移動速度が凄いからね。気づいていても対処は難しいよ。

 二人は少し慌てたみたいだけど、すぐに持ち直してわたしに問いかける。



「どうしたんだ? たしか先生だったよな?」


「何を聞きたいんだ?」



 二人の反応が微妙だね。ちょっと怪しい。

 この二人は冒険者の恰好をしているけど、冒険者じゃないのかもしれない。近くに護衛対象がいないってことも理由にある。でも一応わたしはランクS冒険者として有名だし、この護衛依頼に参加している冒険者ならわたしを知っているハズだ。わたしは絡まれるたびに相手を無慈悲にボコボコにしてきたから、女性たちからは『狐幼女ちゃん』、男共からは『ルシア姐さん』と呼ばれているのだ。

 それは貴族に仕官している冒険者も変わりない。

 だからわたしは少し直接的に質問してみた。



「あなたたちって本当に冒険者?」



 この質問に一瞬だけ空気が凍り付く。二人は表情を変えなかったけど、明らかに空気が変わっていたのだから怪しい。そして怪しいだけではなく、人工精霊(AS)のアウルムたちからも悪意の感知が飛んできた。



『どうする……まさかバレているのか? ならば殺すしか……いや……』


『怪しまれているなら始末するしかないな。こんな弱そうなら魔物に殺されてもおかしくないだろう』



 思考がダダ漏れですよおじさんたち……

 まぁ、アウルムたちに感知させているから当然だけどね。しかしやっぱりわたしのことは知らないようだ。これでこいつらは刺客で確定だろう。しかも達人級の刺客ならわたしの情報も仕入れているハズだし、たぶんだけど護衛に紛れて侵入してきた雑魚なのだろう。

 護衛として参加している冒険者はしっかり書類でまとめているはずだけど、完全に不審者を排除することは出来なかったようだ。



「死ねっ」



 やはりわたしを始末するらしい。わたしを弱そうだとか考えていた馬鹿が小さな予備動作でナイフを投げてきた。毒が塗ってあるらしく、刃が僅かに濡れている。雑魚は雑魚なりに戦い方を工夫しているらしく、わたしを弱いと言いつつも油断のないことをしてくれる。

 だがわたしがなぜ悠長にそんなことを考えていられるかといえば、わたしは魔力の自然強化のお陰で動体視力が凄まじいからだ。投げられたナイフを見てから回避をするだけの反射神経と肉体能力を有しているから余裕なのである。



「甘いね。『大気圧殺アトム・プレッシャー』」



 わたしは最小限の動きで回避し、右手を二人の刺客に向けてクイッと指を振り下ろす。詠唱に変わる儀式という形式の魔法発動技術だ。わたしが開発したのだけど、結構使える。

 言葉の代わりに一定の動作を用いて魔法発動ための願いを補助してやるのだ。今回は圧力を増大させる霊術だから、上から下に力を降ろす感覚だね。



「ぐふ……」


「ごはっ!」



 急激に増えた気圧で二人は地面に叩き付けられ、情けない声を上げている。まぁいきなり数倍もの気圧が押しつぶしてきたんだから当然だろうね。



「取りあえず縛っとくね『白鎖縛バインド』」



 霊力を使って真っ白な鎖を創りだし、二人をあっという間に拘束する。わたしでも『物質化マテリアライズ』を解除するしか拘束を解く方法がないぐらいに複雑な結び方をしてやった。たとえ関節を外しても抜け出せない。

 そして同時に気圧も元に戻す。これで話が出来るだろう。



「さてと……どういうことかな?」


「くっ、殺せ!」


「男の『くっ殺』は需要無いからサッサと話せ。どうしても言いたかったら女騎士になってから出直してくるんだね」



 お約束をこんなおっさんに言われたら気分も下がる。早く話せという意味で鎖をギリギリと縛り上げてやった。するとやっぱり雑魚なのか、想像以上に口が軽い。



「ぎゃあああっ!? 俺たちは暗殺の依頼でここに来たんだぁああああっ!?」


「おい、簡単に口を割るぎゃああぁぁあっ!? 話す! 話すからっ!」


「うんうん♪ それで?」


「冒険者に紛れてえぇえっ! 適当に誰かを殺すように……うぎゃああああああ!」


「適当だって?」


「ぐあああぁあっ! そうだよ! そう命じられたぎゃあああっ!?」



 あらあらうふふ。

 ちょっとイラッとして締め付けを強めてしまったみたいね。アホのアレックス君はともかく関係ない子まで巻き込むなんてケンカを売っているのかな? ねぇ、そうなのかな?



「あぎゃあああああぁぇええええっ!?」


「あばばばばばば」



 どうやらこいつは囮のようね。おそらく本命であるアレックス君を殺すために、下準備として混乱を引き起こさせるつもりのようだ。だから情報も持っていなさそうな雑魚を起用したのだろう。捕まることが前提のような奴らだしね。だってペラペラ喋るもん。

 まぁ、アレックス君は諜報工作部隊に任せるとして、わたしは雑魚暗殺者狩りをしないといけないから大変ね。



「―――ルシア様」



 っと、どうやら雑魚の叫び声を聞いて諜報工作部隊の人が来たようだ。状況の説明とかをした方がいいだろうし、念のためこいつらは引き渡そうかな。



「こいつらは無差別に暗殺するように命令された雑魚よ。大した情報は持っていないと思うけど、必要ならば引き渡すわ。それとこいつらを引き渡したら、わたしは残りの雑魚共を狩りつくすから」


「御意。ではその二人は引き取りましょう」


「わかった」



 わたしはサッと手を振って『白鎖縛バインド』を霊素に分解する。それと同時に二人の雑魚は気を失ってばたりと倒れた。まぁ、絞めすぎて体中の骨をバキバキにしちゃったからね。おそらくもう自由には動けないハズだ。

 諜報工作部隊の人は手早く縄を取り出して二人を縛り、軽くわたしに礼をしてどこかへ行ってしまった。



「さてと……アウルムたちの話を聞かないとね」



 ガサリと音を立てて出てきた銀狼モード小型のギンちゃんを撫でながらそう呟く。今もリアルタイムで悪意を送ってきてくれるので、誰がわたしの獲物なのか丸分かりだ。本命と思しき暗殺者も察知してるけど、無差別に仕掛けてくる奴は危ない。

 アレックス君は護衛達に任せてわたしは雑魚狩りだ。



『よし、あいつだ。あいつを殺す』


『ああ、いくぞ』



 感知した。五百メートル先ね。

 速攻で『人化』を解除して九尾化し、尻尾感知を指向性に変えて一キロ先まで把握する。そして奴とわたしの間には誰もいないことを確認して弓を構えた。

 わたしの身長よりも長い和弓風の新装備は左手に馴染んでいる。オーダーメイドだから当然だね。右手に霊力を集中させて物質を形成し、キリキリと弦を引いた。



「行け『白戦弩バリスタ風塵エアロダスト』」



 ギュンと音を立てて放たれた矢は一直線にターゲットに向けて飛んでいく。重力とつり合わせ、さらに徐々に加速していくようにしたから五百メートルも進めば音速を超えているだろう。尻尾感知でロックオンしているので外す要素はないし、急所に着弾しなくても『風塵エアロダスト』の効果で体を塵になるまで切り刻まれているだろう。二人が固まっていたみたいだし、一撃で仕留めれてラッキーだ。



「着弾確認……ターゲット同時消滅っと」



 矢が進んだ場所が衝撃波で酷いことになっているけど、まぁ大丈夫でしょう。気になる程じゃない。それにそんなことを気にしている暇など無いのだ。さっさと次の獲物を見つけて潰さないとね。



「ギンちゃん、わたしを乗せれる大きさになって。アウルムたちは感知を続行!」


「ウォン!」



 ギンちゃんは早速とばかりに大きくなって三メートル弱サイズになる。さっきは一メートルサイズだったから結構な巨大化だ。まぁ、本来はもっと大きいけどね。

 わたしはギンちゃんの背中に飛び乗り、弓を持ったまま次のターゲットを探す。アウルムたちが常に送ってくる情報を基にして、流鏑馬やぶさめのように仕留める算段だ。



『あの女どもを尾行するぞ』


『隙を見て殺すか?』


『ああ当然だ』



 いたな。

 何が『当然だ』だ。どうやら余程死にたいらしいな。わたしも普段は殺しなんてしないけど、冒険者モードの時は容赦ないからね。あの世でランクSを敵にしたことを後悔すればいい。



「ギンちゃん。あっちに一キロ」


「ウォオン!」



 ギンちゃんはわたしの指した方へと移動を開始する。弓を構えるわたしが出来る限り揺れないように配慮してくれる辺りがイケメン過ぎだ。将来はギンちゃんが旦那でいいかもしれない。

 ……スライムとあんな事やこんな事をするのか。破廉恥だな。ギンちゃんは永遠にわたしの癒し要員として君臨してもらうことにしよう、そうしよう。

 それはともかく次は二人だったね。



「『白戦弩バリスタ風塵エアロダスト』二連射」



 手早く射撃してまた二人ほど撃破する。『精霊創造』を使ったから霊力が心もとないけど、本命の暗殺者と戦うことも考慮して魔力は温存したいしね。出来る限りは弓矢で倒したいところだ。それにテイムされていると思しき魔物も感知している。霊力と魔力の管理はしっかりしないとね。



「さぁギンちゃん! 次はあっちだよ!」


「ウォーンッ!」



 雑魚はあと十四人ね。

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