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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
1章 特別な存在
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8話 水遊び

毎日彼に会いに行くようになった。

「彼」と言っても恋人じゃない。泣き虫でヘタレでいつも一人でいるような情けない奴はさすがに願い下げだ。ルークに対する想いは「弟」に向けるような感情だ。決して他意はない。

それに、わたしにとっては初めてのお友達でもある。自分と同い年だと聞いたときは正直驚いた。

ルークも神子の存在を知らなかったし、もしかしたらそれなりに秘匿されていたのかもしれない。

いじめっ子3人組からわたしの脱走がばれるかもしれないと危惧したが、どうやら杞憂に終わりそうだ。

ルークに会いに行くようになってから、わたしの生活は大きく変わった。


まず午前中はおじいちゃんの家でお勉強だ。最近は【霊域イルズ】の外について教えてもらっている。とは言っても、森の外とは交流を断っているのであまり多くの情報はないため、歴史の延長みたいな授業に地理を交えているぐらいだ。

森の西側には人族の国が、東側には魔族の国が広がっているらしい。魔族とは、霊力とは異なる力である「魔力」を使うらしく、今まで何度か戦争も起きた。いわゆる「勇者」と「魔王」の戦いだ。

異世界のファンタジー要素は底なしで逆に怖い。



話が逸れた。

午後になると祠に連れていかれる前に脱走する。いつもの逃走中だ。たしかに祠から脱出する手段はあるが、急におとなしく清めの儀に行くというのは、いささか怪しいと思われる。だから「いつも通り」村の大人を相手に逃げ回る恒例行事は欠かさない。適度な運動にもなるので特にやめるつもりもない。

まぁ結局捕まって祠に放り込まれる。

あとは、抜け道を通っていけば村の外に脱走完了だ。





「ルーク。待った?」

「ううん。今来たところ」


デートの待ち合わせをしている恋人同士みたいな会話だが、こいつはただの友達だ。


「じゃあ今日は約束通り、川に連れて行ってよ」

「うん」


そう。村から少し離れたところに川があるらしい。村の水は井戸で賄っているので、大人たちと鉢合せになる心配もない。


少し走ったら、すぐについた。本当に近い。川と言ってもどうやら沢程度のものみたいだ。だが、水遊びには十分といえる。なぜなら5歳だから。

さっそく足を入れてみる。

「おぉ、冷たい」

些細なことに感動するのは窮屈な生活をしていたからだろう。童心にかえってルークに水をかけてやる。


「うわぁっ、冷たいよルシアちゃん」

「それそれ~」

「ひゃあっ」

「ほら、ルークもこっちに来て」

「だったら水かけるのやめてよ!」


調子に乗って水をかけすぎてルークはびしょ濡れだ。これ以上やると泣いてしまいそうなのでこの辺で水かけはやめといてやろう。


「はいはい、おねーさんが悪かったわよ」

「おねーさんって・・・・歳は一緒じゃないか」

「うふふ~。対等になりたかったら水の一つでもかけてみなさい」

 

一瞬ためらったルークも水に入ってきた。そして水中に手を入れて――――


「それっ」

「甘いわ」

「へっ?」


ルークのかけた水を難なく回避する。

「ほら、やってみなさいよ」

尻尾をフリフリして笑顔のルシアは余裕なのだ。


「えいっ、そりゃっ」


何度も何度も何度も何度も――――

一向に当たらないルシア、必死に水をかけるルーク。

結局その日は1度もかけられることはなかった。


「はい、今日はここまで」

「はぁ・・はぁ」

「明日こそはかけられるように頑張りなさい」

「うん・・・」

「ほら、服乾かしてあげるからこっちに来て」


ルシアは霊力を尻尾の先に集中させ、小さな炎をイメージする。


「狐火」


出した炎をルークの近くまで操作する。

「ルシアちゃん『狐火』使えるの?」

驚いたように目を開くルークに思わず得意になる。

「ふふん。すごいでしょ」

「うん、うん!」

「じゃあ、おねーさんが『狐火』を教えてあげるわ」

「ほんとに?!」

「うん、明日からね」

「約束だよ!」


目をキラキラさせてるルークはほんとにかわいい。弟をもつ姉の気分ってこんな感じなのだろうか。前の世界は一人っ子だったからちょっと新鮮な気分だ。


「じゃあ、明日ね」

「うん」


ルシアは抜け道を通って祠にもどる。

ルークも村の方に帰っていった。





翌日もルシアとルークは川に行って水をかけあう。といってもルシアにはまるで当たらない。一方的に水をかけられ、ずぶ濡れのルークを乾かしてやったあと『狐火』を教える。


その翌日も、またその次の日も。

約束というのは小さな子供にとって、絆を深くするものとなる。ルシアとルークはあっという間に心を開く仲になった。


1か月もすれば、ルークは『狐火』を使えるようになったが、1年たっても2年たってもルシアに水を浴びせることはできなかった。



――――――そして5年

「今日こそルシアちゃんに水をかけてやる」

「ふふ、やってみなさいよ」


ルークが足元の水を蹴り上げる。と同時に霊力を使って水をルシアに殺到させる。実は水遊びをしているうちにルークは水魔法を覚えてしまったみたいだ。だが、水を生み出すほどの霊力量はないので川の水を利用している。『狐火』の練習でルークの霊力量はかなり伸びたのだが、それでも元の保有量が少ないので、霊力を水に変換するには至ってない。


「はぁっ!」


横に飛びのきつつ、風魔法で水の軌道を逆側にそらす。

この5年で風魔法『操空エリアル』を身に着けた。空気の流れをつくって気流を生む魔法だ。操る気体の量や風速など結構自由度が高い。


「今のはフェイントだよ」

「なっ」


ルークの背後から2つの『水弾』が飛び出しルシアに迫る。ルシアはよく観察する。


(手前の『水弾』はわたしを左に避けさせるためのフェイント。本命は奥のやつね)


ルシアは手前の『水弾』を『操空エリアル』で左にそらして右に避ける。


「よく気づいたね」

「当然よ」


ルシアは『操空エリアル』をつかって川の水をすくい上げ、風に乗せてルークに向かわせる。

ルークは身をよじって回避し、こっちに走ってくる。

再び風で水をすくい上げようとしたが、ルークのほうが速かった。走りながら水を蹴り上げて『水弾』を飛ばす。これは避けきれない。

「くっ・・・『操炎フレイム』!」

炎の壁で『水弾』と相殺させる。『操炎フレイム』は『操空エリアル』と同じく炎を操作する『火球ファイヤーボール』の進化版だ。だが炎は熱エネルギーが大きいので長時間操ろうとするとかなりの霊力を消費するうえ、霊力を炎に変換する必要もあるので、かなり燃費が悪い。

熱で『水弾』は蒸発したが、炎も消えた。まわりが真っ白になる。

『水弾』を防いだルシアは『操空エリアル』で目の前に水の壁をつくる。効果は一瞬だが、走ってきていたルークは見事に水壁に突っ込んだ。

「あわっ?!」

全力で水壁に激突したルークはそのまま突き抜け―――――


「きゃぁぁ」

「うわぁっ」


2人はぶつかってそのまま川の中に倒れた。

ルークがルシアを押し倒す形で――――――――





まさか水壁があるとは思いもしなかったルークはそのまま突き抜けてルシアとぶつかった。

(先に水を被ったからボクの負けだな)

目を開けるとすぐ前にルシアの顔があった。それこそキスでもしてるんじゃないかという至近距離にルシアの顔が―――――


(あ・・あれ?)


なんだか唇にやわらかい感触がある。もしかしてこれはやってしまったんじゃないだろうか。


ルシアが目を開ける。超絶至近距離で目が合う。状況を理解したルシアの顔が赤くなっていき・・・・

次の瞬間に蹴り飛ばされた。

「うぐはぁっ?!」

体が宙を舞い、着水する。再びルシアをみると、耳まで赤くなってる。

「お、おちつ、・・・・落ち着いてルシアちゃんっ」

ルシアの背後には妖しく動く9本の尻尾と巨大な『火球ファイヤーボール』。


(や、やばい)


「いやいやいやいや、あれは、事故で、だから、その、えっと・・・」


「すいませんでしたーーーーーーーー」

必死の土下座。


「・・・・・・・」

ちらりとルシアを見る。


顔を真っ赤にして泣きそうな目をして睨んでいる。背後にはさっきよりも大きな『火球ファイヤーボール』。


(こ、これは死んだかもしれない)



その日、森の一角に火柱が上がった。


ルークは熱い(物理)キッスをもらった

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