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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
1章 特別な存在
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7話 舞い降りた妖女

殴られた――――


右の頬がズキズキする。

いつものことだ。モスと取り巻きのエルとキンは毎日のようにいじめてくる。

特に理由もなく、ただボクが気も弱くて喧嘩もできないから殴ってくる。

別に本人に確認したわけじゃないが、聞かなくてもわかる。


今日もいつもどおり一通り殴ったり蹴ったりして去っていくのだ。

「親にばらしたら・・・わかってるよな」

と言い残して。

モスもエルもキンも3歳年上だし逆らえるわけがない。

村の中にボクと同じ5歳の子がいるなんて聞いたことがない。だから友達もいないし、味方もいない。

母さんはボクが生まれたときに死んでしまったらしいし、父さんは仕事でほとんど家にいない。

親にばらそうにも、ほとんど一緒にいないのだ。


涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔にもう一発殴ろうと構えているモス。

すでに歯を喰いしばる気力もない。

殴られると思ったとき、天使が舞い降りた。

いや別にボクが死んじゃったわけじゃない。天使のような可愛い娘が飛び降りてきた――――




「ちょっとそこの3人。なに寄ってたかってその子をいじめてるの?」




いきなり木の上から飛び降りてきた女の子に驚いたのか、思わずしりもちをつくモス、エル、キン。

それが小さな女の子とわかって威勢を取り戻したモスが喚く。


「おい、なんだぁ?お前みたいなチビに用はないからあっちにいけ。」

「ならあなたがあっちにいって。わたしはこの泣き虫君に用があるからあっちには行かないわ」

「ちっ、おい、キン。こいつをどっかに連れてけ」

「はいよ」


キンが女の子に近づく。

だが、女の子は腕を掴もうとしたキンをスルリと抜けてこっちにくる。


「おわっ、避けんな」

「おい、キン。なにしてる」


再び女の子を捕まえようとするキンをスイスイ躱していく。

それを見かねたモスが苛立ちを隠せないように声を張る。

「おい、エル。お前も行け」

「わかってるよ」


エルが参戦して2対1になった。

この女の子はボクに何の用があって、こんなことをするのだろう。

ふとそんなことが頭をよぎったとき、勝負が決まっていた。

女の子は尻尾で2人同時・・に殴りつけ、ふっとばした。


そこでようやく気付いた。

(この子の尻尾・・・9本もある)

よくよく考えてみれば、村でこんな女の子を見たことがない。一体何者なんだろう。


取り巻きを一瞬で殴り飛ばされたモスは唖然としている。だがすぐに敵対心が垣間見える目を向けて叫びながら突進する。

さっき取り巻き2人を軽くいなした姿を見たからだろうか?この女の子がモスの体当たりをくらうイメージがまるでなかった。

そして予想どおり少し体をずらしてモスの突進を回避し、尻尾で後頭部を殴る。勢いのついた状態で後頭部を殴られたモスは、そのまま地面に激突して気絶した。それを見た取り巻き2人が慌ててモスの体を引きずって連れて行ってしまった。まさに嵐のような出来事だった。


モスが連れていかれるさまを見届けた女の子はボクのほうに向いてこういったのだ。

「あなた大丈夫?」

9本の尻尾をフリフリしながら笑顔でこっちに向かってくるその子に、思わずこう言ってしまった。


「けっ、結婚してくださいっ!」






笑顔で殴られそのまま意識を失った。






---------------------------------------------


いや、つい反射的に殴り飛ばしてしまった。

でもわたしは悪くないと思う。この泣き虫男が「結婚してください」とか口走ったのが悪いのだ。

尻尾で殴ったからそんなにダメージはないはずだ。すぐに目覚めるだろう。


しかし、いじめっ子3人組はみごとな咬ませ犬っぷりだった。普段から村の大人たち相手に逃走中を繰り広げているわたしの回避スキルにかかれば、児戯のようなものだ。

・・・・・いや、文字通りあの3人組は子供だったから仕方ない。

だが、相変わらず獣人の身体能力には驚かされる。

木の上から飛び降りても膝のバネで難なく衝撃を吸収。尻尾で遠心力をつけたりバランス調整すれば、バク宙だってお手の物。9本ある尻尾は手足のように動かせるので、木の幹に張り付いて立体起動することもできる。フサフサだから、手加減して殴ることもできるというなんでもありな逸品だ。

ちなみに毎日手入れは欠かさない。

かあさま曰く「尻尾の手入れはレディのたしなみ」だそうだ。


「ん・・・んぁ」

そうこうしてるうちに泣き虫男が目覚めたみたいだ。


「・・・・あ」

さっきのやり取りを思い出したのか、顔が赤くなってる。なんだか目も潤んでいるし、服は土で汚れているしでなんだかいけないものを見ている気がしてしまう。


「目が覚めた?泣き虫君」

「うっ・・・・」

「冗談よ・・・・そんなに目をそらさないでよ」

「えっと・・・」

「あなたの名前は?」

「へっ?」

「だから名前。それとも『泣き虫君』と呼ばれたいの?」

「あっ、いやっ・・・・ルーク・・・です」

「ルークはいつもあいつらにいじめられてるの?」

「あ・・うん・・・ボク弱いから」

「お母さんかお父さんにこのことを話したの?」


ルークは首を横に振る。


「母さんはボクが生まれたときに死んじゃったし、父さんは仕事でほとんど家にいないから」

「そう・・・悪いこと聞いたわね」

「別に・・・」

「お父さんはどんな人なの?こんなちっちゃい子を放っておくなんてだめじゃない」

「なんか村の大切なお仕事してるって・・・名前はロロっていうんだけど」

「えっ?」


あれ?もしやこの子はロロさんの子供なのか?いや待て、だとすればルークのお父さんが家に帰れない理由って・・・・


「どうか・・・したの?」

「えっ?いいいや別に?」

「家にいても誰もいないからずっと外にいるんだ。1人よりはいいから・・・」

「うん・・・なんかごめん」

「はい?」

そう、正直に話そう。絶対わたしが原因だと思うし。









「そう・・なんだ・・・」

「うん・・ごめん」

「いや・・別に・・・」

「ルークはいつも一人でいるって言ったよね?」

「うん」

「じゃあ、わたしが毎日ここに来てあげるわ」

「へ?」

「いや?」


ルークはブンブン首を振って否定する。


「うん、また明日くるね」

わたしのことは誰にも言っちゃだめだよーと去り際に言い残して帰っていった



少女が去っていったあと、しばらくルークはぼーっとしていた。

いじめられていたところに颯爽と現れて助けてくれた少女。

また、明日くると言っていた。

(明日・・・楽しみだな)



「あ・・・名前聞くの忘れた」

ルークは少し抜けていた。


ルークは友達を手に入れた

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