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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
6章 ナルス帝国学院
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76話 学院入学?

更新は久しぶりですね。

もう一つの小説にかかりきりになってました。

完全に不定期更新状態です。


こちらもちょくちょく更新するつもりです!

一応は完結までのルートも出来ているので書き切りたいですね

 帝国学院の入学式当日。

 【ナルス帝国】の皇子であり、次期帝位継承者のアレックスは入学式会場まで来ていた。もちろんその日の朝まで嫌がっていたのだが、護衛騎士兼世話役のバフォメスが無理やり連れてきたのだ。



「アレックス殿下、ごきげんよう。殿下とご一緒に入学できて光栄ですわ」

「会場へはわたくしと共に参りましょう」

「いえいえ、わたくしと……」

「あら、少し図々しくなくて? 殿下、わたくしとご一緒に参りましょう!」

「ちょっとあんたこそ図々しいのよ!」

「殿下は私と行くのよ。邪魔しないでくださるかしら?」



 そして早速の如く貴族令嬢に囲まれており、両手どころか全身花だらけになっている。もちろんアレックスとしては嬉しさなど欠片もない。既に死んだ魚の目をしながらされるがままに振り回されており、御付きのバフォメスも思わず苦笑している。



(だから嫌だったんだよ……サリアは今頃なにしてるんだろうな……)



 サリアはアレックスの世話役のメイドだ。帝城に仕えているだけあって下級貴族の生まれなのだが、歳も近いことがあって昔から仲が良かった。彼女には密かな恋心を抱いているのだが、それを知っているのはバフォメスだけである……とアレックスは考えている。

 実際は父親である皇帝も把握しているので隠せてなどいないのだ。ちなみに現皇帝のアルヴァンスの正妻は平民の出なので気にしていなかったりする。そして平民が正妻であることに我慢できない貴族令嬢たちのプライドが邪魔してアルヴァンスは側室を迎えることがなかった。それが子宝に恵まれなかった皇帝の逸話となって一部の貴族たちの間で囁かれている。



(もう……どうにでもなれ……)



 麗しき? 貴族令嬢たちに囲まれながら会場へと引き込まれていくアレックスなのであった。

 ちなみに……普段からスタイルや御髪に気を遣っている貴族の美少女たちに囲まれているアレックスを見て舌打ちする男子たちが居たのだが、一部の貴族の子息たちからは気の毒そうな視線を送られていたという。












 この年度に入学予定の生徒たちは学院の体育館に集められている。体育館と言っているが、実質は室内実践場である。雨天時などに模擬戦などを行う空間であり、入学試験の際にも魔法試験などで使われたりする。アレックスも一応試験は受けているので、この空間に入るのは二度目だった。



「次は学院長の挨拶です。オリアナ・コラム学院長は壇上へ」


「うむ」



 入学式は粛々と進んでいき、いつの間にか学院長の挨拶へと移った。ちなみに学院長の挨拶はプログラムの真ん中あたりなので、新入生たちはあと半分を眠気と戦うことになる。

 学院長と呼ばれた人物はそんな新入生たちにチラリと目を向けながら壇上へと昇っていく。既に何百回も上った檀上だ。そこに登ることに緊張は無い。

 オリアナ・コラムはエルフの女性だ。御年300歳を超えていると噂されているが、実年齢を知るものはいないという。それでも見た目は20代とも言える若さであり、美しいブロンドの髪と揺れる胸部が無駄に目立っている。普段から眠たそうな目をしている彼女だが、それがまたおっとり系美女として人気を博している原因となっているのだ。エルフ特有の尖った長耳はブロンドの髪に隠れており、彼女をエルフと知らなければ見た目からはその特徴を見ることが出来ない。

 尤も学院長がエルフであることは有名なので知らない者は滅多にいないのだが……



(今年は皇子様もいるのよね……ああ、面倒だわ)



 彼女は優秀な魔法使いであり、歴史や算術、商学などにも精通したエリートエルフなのだが、極度の面倒臭がりなのだった。

 彼女は壇上に上がりつつもその優秀な頭脳で今からする挨拶文を考える。予め内容を準備するオリアナではないのだ。だがこれも毎年のこと。手抜きな挨拶だが、それを手抜きと悟らせないだけの能力が彼女にはあった。



「始めまして。私が栄えあるナルス帝国学院の学院長をしているオリアナ・コラムです。

 まずは入学おめでとう。

 このナルス帝国学院には魔法学科、将校学科、商学科、貴族学科の4つの大きな学科が存在しており、そこを卒業した者は帝国に大きな利を齎しています。柔軟で勤勉な生徒、優秀な教師が発表する論文には毎年目を見張るようなものが幾つか存在するほどなのです。私はこの学院を誇りに感じています。

 新たに入学するあなた方にも期待をしていますので、帝国一の……世界最高峰の教育機関にいることを自覚した行動を意識してください。

 そしてこの学院に努める教師たちは帝国最高の頭脳を有する学者たちや、技術を持つ者たちです。是非とも彼らを超えてください。努力を惜しまず、知や技術を追求する者には必ず真理の扉は開くのです」



 ここまで言ってオリアナは一旦言葉を切る。

 ゆったりとした印象の言葉遣いで始め、徐々に熱を入れた話し方へと移行させた彼女のスピーチは聞く者の心を熱くさせる。そしてそれが最高潮になったところで流れをプッツリと切るのだ。そうすることで余韻が残り、生徒たち一同は完全にペースを奪われる。

 そしてその余韻が無くなってしまわない内に、もう一度静かに口を開いた。



「この学院には平民も、貴族も……そして今年は皇族もいます。ですがそれを気にしてはいけません。この世の真理に至りたい者は身分を気にしてはいけません。真理は身分を選ばないからです。

 この学院に身分差別はありません。種族差別もありません。知を放ち、知を受け入れ、力を継承し、力を受け継ぐ者を学院は拒みません。そのことを覚えておいてください。

 私からはこれで終わります」



 オリアナ学院長は美しくも流れるような礼をして壇上を降りた。

 ポツリ、ポツリと拍手が聞こえ始め、それはやがて巨大な拍手の嵐となる。引き込まれるようなオリアナのスピーチは、新入生たちを大きく引き付けていた。



(サリナも学院に来れば堂々と仲良く出来たかもな……)



 そんなことを考えながらアレックスも惜しみない拍手を送る。皇帝のアルヴァンスの教育方針もあって、アレックスには種族差別や身分差別の意識はない。

 森のエルフたちとの取引の有用性は理解しているし、獣人たちの労働能力の高さにも目を見張るものがあることを知っている。そして平民あってこその貴族であり皇族なのだと学んできたのだ。

 帝都民から税金を徴収し、その代わりの義務として帝国を治め、平民たちの生活を保障しなくてはならないのだ。それが我慢できなかったランドリス公爵を初めとした貴族至上派、人族至上派の貴族たちが反乱を起こそうとしたことは記憶に新しい。次期皇帝としてそれぐらいは知らされていた。



「ま、さすがは親父の国の学院だな」



 帝国学院は帝国が出来た当初から存在する。

 つまり帝国の建国者であるルード・コウタ・タカハシ・ナルスのポリシーが元になっている。その代々の後継者であるアルヴァンスにもその意思は受け継がれていたので間違いではない。



「次に学院の生徒会長より挨拶です」


「はい!」



 元気の良い返事が聞こえて爽やかな青髪の少年が壇上へと昇っていく。生徒とは思えないほど堂々とした態度の彼こそが生徒会長ノブリス。

 彼は将校学科の超新星とも呼ばれており、平民出身でありながら栄えある帝国学院の生徒会長にまでなった男だ。彼の存在が学院における身分差別の無さを象徴している。一部それに不満を感じる者もいるのだが、学院という場所の性質上は強く物申せないので問題は起きていない。



「新入生の皆さん。まずは入学おめでとう。学院の試験を突破して入学してきた君達は間違いなくこれからの帝国を背負っていくことになるでしょう。ですが気負う必要はありません。頼もしい先輩や優秀な先生が道を開く手伝いをしてくれます。

 はじめから何でも出来る人はいません。ですがこの学院で精一杯学んで、未来を創る人材になってください。

 言うべきことは学院長が言ってくれたので、僕はこれくらいで挨拶を終わらせていただきます」



 ノブリスはそう言ってキリキリと歩いて壇上から降りていく。眠そうな顔をしている学院長と違って、彼はハキハキとした印象の良い生徒というイメージだ。生徒会長に選ばれるだけはある。未来の将校としても期待できるだろう。

 そんなイケメン爽やか系男子のノブリスはかなりのモテモテであり、特に後輩女子からは凄まじいアプローチを受けているのだが、鈍感な彼は普通に好意を持たれているだけだと勘違いしているので恋人はいなかったりする。

 ノブリスが挨拶を終えた後は、学院に出資している貴族たちの挨拶や、各学科の学科長からの挨拶および学科の軽い説明がなされて入学式はつつがなく終了したのだった。



「さて……急いでクラスに行―――」


「アレックス様~!」

「殿下、私と一緒に行きましょう?」

「いえいえ私と」

「私ですわ!」

「ちょっとあなたどきなさい! アレックス様の御顔が拝見できないでしょう!」



 急いでクラスに逃げようとしたアレックスだが、あっという間に貴族令嬢たちに捕獲されてしまった。会場の一部だけ令嬢たちが団子状に固まっており、そこは一種のカオスを醸し出している。

 新入生の退場にも邪魔になる位置であったため、見かねた学院関係者が注意を促した。



「そこ! 急いで自分のクラスに移動しなさい。そう言うのは今日の帰りにでも存分にやるといい。今は移動に集中してくれ」



 相手を貴族と皇族だと分かっていてこの口ぶりなのだが、学院では幹部>教師(学者など)>スタッフ>生徒となっているので問題は無い。むしろ目上の立場の人間に舐めた態度を取った生徒は厳罰処分になるほどだ。これは貴族平民に関わらず、最低限の礼儀を身に付けさせるために実施している制度だ。また特に教える側を敬わせることで、学習の効率化も図っている。

 彼の口ぶりに眉を顰める者もいたのだが、学院内でのルールを思い出して文句は言わない。こういった貴族肌の生徒たちも卒業するころには民想いの帝国貴族へと成長しているのだ。もちろんそうならない者もいるのだが、こういった制度が帝国を清く正しく保っていた。



「ほら、迷惑になるから取りあえず教室に行こう」



 アレックスもここぞとばかりに後押しして、貴族令嬢たちも仕方なく離れていく。貴族のほとんどは貴族学科に行くのだ。貴族だけの一クラスの学科なので、後ででも存分にアレックスと話す機会があると考えたのだろう。

 だが……



(生憎だけど俺は魔法学科なんだよな)



 そういった面倒ごとを避けたかったアレックスは、受験の際に貴族学科ではなく魔法学科を希望していた。もとから家庭教師によって鍛えられていたために簡単に合格し、ちゃっかり主席を取っていたりするのだ。

 したり顔で優雅な彼女たちと分かれたアレックスはそそくさと魔法学科の校舎へ向かう。魔法学科は研究分野が多種多様に分かれているため、最も大きな校舎を有している。入学したてのアレックスたちは基礎段階であるため使う施設は限定されているのだが、それでも迷ってしまいそうな程に広かった。



「えーと……俺のクラスは……ここか」



 アレックスは目的のクラスを見つけてガラリと戸を開ける。貴族令嬢たちの相手をしていた分だけ遅れたらしく、既にアレックス以外の生徒はクラス内に集合していた。

 アレックスは入った途端にクラスのメンバー全員の注目を浴びることになったのだが、皇族だけあってその程度で動揺することはない。何ともない風に残った席へと歩いて行って着座した。



「なぁ……あれって貴族の女たちに囲われていた奴だよな?」

「ああ、貴族学科と間違えて……いる訳ないよな。校舎が違いすぎるし」

「……殿下……だと!?」

「おい、今なんて言った?」

「ははは、まさか帝国の皇子が魔法学科なんかに来るわけないじゃないか」



 コソコソと話し合っているつもりなのかもしれないが、アレックスには全て聞こえていた。皇族のアレックスが魔法学科に来れば目立つのは必至。しかもここは魔法学科合格者の中でも優秀な者を集めたSクラスと呼ばれる特待生組なのだ。中には貴族の家の者もいる。当然そういった者たちはアレックスが何者なのか理解していた。

 人の噂に戸口はつけられないと言うが、この場合もまさにその通りで、アレックスが皇子であることは一瞬の内に広まったのだった。

 入学僅か1日目にして孤立するアレックスにはもはや憐みしかないだろう。



(くっ……覚悟はしていたがこれほどとは……)



 身分差別を禁止していても、さすがに皇族には気を遣わざるを得ない。これはルール云々ではなく心理的な要素だった。貴族たちが高圧的に平民を虐げているのならば注意も出来るのだが、平民側や貴族側から皇子を敬遠している分には注意しにくい。

 そんな過ごしにくい空気に晒されている中、ガラリと扉が開いて誰かが入ってきた。

 アレックスに集中していたクラス全員がそちらの方へと視線を向ける。



(ようやく視線から解放されたか……)



 そう思いつつアレックスも同様にクラスの扉の方へと目を向けて……目を逸らしてからもう一度見直した。

 黒髪を腰元まで伸ばした少女であり、頭のうえでピコピコと動く狐耳とユラユラと揺れる尻尾が特徴的な彼女は少し前に会ったばかりだ。

 アレックスが無謀にも盗賊に挑んで逆に捕まったところ助けてくれたランクS冒険者の少女、ルシアだ。



(まさかこんなところで再開するとは……あいつも魔法学科に合格していたんだな。確かに学院に通うことになっていると言ってたな。でもクラスの席は俺で最後だったハズだよな……?)



 よく見るとルシアは箱のようなものを抱えており、そのまま教室前方の教卓へと進んでいく。そして箱を置いてその上に乗り、教卓から顔を出して口を開いた。



「わたしが魔法学科Sクラスの担任のルシアよ。担当科目は算術と魔法実践だからよろしく!」


『えっ……?』



 嘘だろう? この狐族の少女が担任?

 クラス全員の気持ちが初めて一致した瞬間だった。



「てか学院に通うって……そっちなのかよ!」



 アレックスも思わず叫び声を上げた。




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