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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
5章 つかの間の帝国生活
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75話 残念皇子?

「アレックス様……本当に心配しましたよ」


「うるさいな。俺は大丈夫だよ!」


「ですが盗賊に捕まったのでしょう? 下手をすれば命を失っていたのです。それに毎回毎回あの手この手を使って脱走されてはこちらも困ります。せっかく学園に受かったのですから慎ましさというモノも覚えてください。もちろんアレックス様は男の子ですから活発さも必要です。ですがそれにも限度というものがあり、他人に迷惑をかけてはいけないのです。あなたの母上だけでなく他の護衛にも心配を掛けていました。それにもしもあなたに何かあったらその責任で護衛の者たちの首が物理的に飛ぶことだってありえるのですよ? もう少し――――」



 長々と説教をし始めたバフォメスさんとやら。

 気配を消してわたしの後ろに立ったのだから、それなりの使い手だとは思う。まぁ、尻尾感知には引っかかるからわたしには奇襲出来ないけどね。

 それにしても、バフォメスさんの口調から判断するにアレックス君は高貴なる方らしい。しかもかなり上の立場だと判断できる。



「―――ですから明日からはアレックス様の退屈にならないように剣と魔法と勉強の時間を倍にしても良いと言われておりますので覚悟しておいてください。もちろん春から通う学園に入れば減らしますからご安心を。ああ、当然ですが学園に通わないという選択肢はありませんよ。多少の剣や魔法が出来たところで未熟なのには変わりありません。それに学園では勉強以上のものを学ぶことができるでしょう。確かにアレックス様が学園に通えば面倒が付きまといますが、これも試練なのです。今は我慢してください。そもそも勝手に冒険者ギルドの登録するなんて馬鹿なのですか? しかもいきなりギルドのルールを破るなどという暴挙に出るなどありえませんよ。帰ってからしっかりと常識の勉強を叩き込みますから覚悟を―――」



 長い! 

 バフォメスさんの話長いよ!

 ほら、アレックス君もうんざりしてるよ。

 息を吐く間もなく言葉を発し続けるバフォメスさん。もはやある意味兵器と化している。あのアレックス君に絶大なダメージを負わせているようだ。



「―――というわけですから今日の一連の事態は父君であられる陛下・・にしっかりとお伝えさせていただきますからね」



 ようやく話を締めくくるバフォメスさん。

 それよりも何か不穏な言葉が聞こえた気がする。

 「父君であられる陛下」……だと? 陛下と言えば、この国ではただ一人のことを指している。

 アルヴァンス・タカハシ・ナルス皇帝陛下……つまりはアルさんだ。

 え? てことはアレックス君はアルさんの息子さんなのか? つまり皇子なのか!? というかこれで皇子なの!? 粋がってランクB依頼の盗賊討伐をやろうとして返り討ちに会うようなマヌケが次世代の帝国を担うのだと思うと頭が痛い。バフォメスさんも手を焼いているのだろう。そりゃ精神攻撃の100や200ぐらいはしたくなるというものだ。



「げ、げぇっ!?」


「そんな声を上げてもダメです」



 アレックス君はアルさんが苦手なのかな? すごく嫌そうな顔をしている。

 だが命にかかわる事態になるところだったんだ。反省したまえ。



「そう言えば何でアレックス君はあんな無謀なことをしようとしたの?」



 少し落ち着いてきたところでわたしも会話に参戦する。というか皇帝の息子たる者がなんで冒険者ギルドにいたのか理解できない。助けてあげたんだから聞かせてくれてもいいと思う。

 だがわたしがそう声を掛けると、アレックス君はプイッと顔を背けた。

 おのれ生意気な奴。

 バフォメスさんも苦笑している。



「……粋がって盗賊に挑んでいきながら情けないほどアッサリと捕まり、その上酔っ払った盗賊たちの目の前で大道芸をやらされていたポンコツだって言いふらすよ?」


「罵り方が容赦ねぇっ!?」



 いえいえ、事実です。



「本当ですか?」


「本当ですよ。わたしの目の前で起こったことなので」



 バフォメスさんも呆れかえっている。

 そりゃそうだろう。一国の皇子がそんなマヌケな姿を晒していいはずがない。

 むむむ……と頭を抱えて唸るアレックス君。そんなに喋りたくないのか。まぁ、それならそれで、こっちにも考えがある。



「マヌケ皇子が喋らないなら皇帝陛下に直接聞くしかないかな……?」


「おい、誰がマヌケ皇子だ……というか親父に直接聞くだと!? お前みたいな貧相な獣人のガキに親父が取りあうわけないだろ!」



 ほほう。

 貧相とな。

 余程このマヌケは死にたいらしい。

 いや、物理的には何もしないけどね。基本的に街の中で武器を振ったり魔法を使ったら犯罪になるし。取りあえず、マヌケ皇子の今日の逸話を後世に語り継がせるための根回しでもしてやろうじゃないの。精神的に死ねばいい。

 そう考えつつわたしは服の内側からアルさんに貰ったペンダントを出す。帝城にフリーパスで入れるという便利アイテムだ。孤児院の件の打ち合わせとか相談とかで何度か帝城を訪れたため何度か使っている。



「このペンダントが目に入らぬか!」


「「こ、これはっ!」」



 目を見開いてペンダントを凝視する二人。

 ふふふ……驚いているようだね。



「なんだそのペンダントは?」

「皇帝陛下の盟友である証ではありませんか!?」


 

 うん。バフォメスさんは正解。アレックス君は勉強し直して来い。

 バフォメスさんもジト目でアレックス君を見つめる。堪らず目を逸らしたアレックス君だが、やはりこの子は心底アホだったようだ。逸らした目が泳いでる。



「はぁ……いいですか? そのペンダントは―――」



 その場で講義を始めるバフォメスさん。マメな人である。

 アレックス君も今度こそ理解できているといいね。そのツルツルの脳みそによく刻み込んでおくといいさ。

 サクッと5分ほどの説明を終えてこちらに向きなおるバフォメスさん。少し晴れ晴れとした顔つきでわたしに話しかけてきた。



「それでアレックス様のことですね? どうせ陛下と繋がりがあるのでしたら私の方から話しましょう。陛下に余計なことで時間を取らせるわけにはいきませんからね」



 ごめん。

 わたしはたまに茶菓子を持ってアルさんのところに遊びに行っているよ。

 政務の愚痴とかをひたすら聞かされるだけなんだけどね。

 内心でそんなことを思いつつ、表情にはださないようにしてわたしは頷く。



「まず、アレックス様が今年から学院に入ることになっているのが大元の原因です」


「学院が?」


「ええ、アレックス様はこの国唯一の皇子なのです。陛下が子宝には恵まれず、また側室を御娶りにならなかったので。そこで現在ではアレックス様は必然的に次期皇帝という立場に立っていることになります」



 わお。

 ただのマヌケ皇子じゃなかった。

 自分の立場を理解していない迷惑マヌケ残念皇子だった。



「今、すごく貶された気がする」


「気のせいよ」



 アレックス君はわたしの心の声に気付いたようだが、ここは必殺気のせいで対応。アホだから疑いもしない。

 バフォメスさんはそんなアレックス君を無視して話を続ける。



「そして次期皇帝たるアレックス様に取り入って家の力を上げようとする貴族は山ほどいます。具体的には娘を使った色仕掛けで篭絡することですね。それで将来的に皇帝一家の外縁貴族として帝国の中枢に関わろうとしているのですよ。まぁ、そのあたりの難しい話は置いておくとして、要は学院に行くとアレックス様は学院に通っている貴族令嬢の方々から熱烈なアプローチを受ける訳です」



 なるほど。

 つまりモテすぎて面倒だから学園に行きたくないと?

 どんな贅沢だよ。全国のモテない男子に土下座して謝れ。



「それでも学院に行かないという選択肢はない。何故なら学院を通して魔法や武術、算術に歴史などの基本的な事柄を習得するからです。もちろん帝国の皇子に相応しい教養を身に付けていただくために、ある程度のことは家庭教師に教えて貰っています。それで十分だと証明するためにギルドで高ランクの依頼を受けていたといったところでしょうね」



 冒険者ギルドは荒くれ者たちばかりだというイメージを持つ者もいるが、実際は結構繊細なことをする職業だ。戦闘技術、護衛法、素材知識、交渉能力、計算能力、料理、簡易治療などなど……まさに例を挙げればきりが無くなる程には色んな技術が必要となる。パーティを組んでいれば誰かが出来れば問題ないのだが、ソロ活動ではオールマイティに何でも出来なくてはいけない。わたしのような存在は稀なのだ。

 つまりソロで高ランクの依頼をこなすことが出来れば、かなりの教養と戦闘関連技術を身に付けているとう証明になる訳だ。つまり学院にも行く意味がなくなる=行かなくてもいい。

 こういう図式か。



「そうですね? アレックス様?」


「…………」



 アレックス君は黙り込んで視線を逸らす。

 反応が分かりやす過ぎ。それでいいのか次期皇帝。



「はぁ……つまりは考えているようで何も考えていないアホだったということですか」


「そう言うことです」


「おい!」



 バフォメスさんの清々しいまでの肯定に、さすがのアレックス君もツッコミを入れる。だがそんなものは無視だ。



「で、結局アレックス君は学院に強制入学すると?」


「そうですね。これも皇室の宿命ですので」


「お、俺は嫌だぞ!」



 駄々を捏ねるな。それでもこの国皇子か。

 もう少しアルさんみたいな包容力とカリスマを見せて欲しいものだ。



「俺にはサリナという心に決めた相手が……」



 ん?

 何か話が変な方向にねじれてきたぞ?

 つまりアレックス君は好きな娘がいる。その子以外は却下。学院に行って熱烈なアプローチという名の拷問を受けるのは耐えがたい、とな。

 中々に殊勝なことだ。それなら少しは助けてあげてもいいかもしれない。



「さて、残念皇子」


「誰が残念皇子だ!」


「君のことだよ。そんなことよりも君を少し助けてあげよう」


「はぁっ!? 助ける」



 アレックス君は疑いの目を向けているがわたしは本気だ。バフォメスさんは興味深げにしているので、わたしの本気度にも気づいているのだろう。

 まぁ、問題はどうやってアレックス君のアシスタントをするのかということだが、それに関しては問題ないのだ。



「わたしも今期から学院にお世話になるからね。困ったことがあれば相談しに来るといいよ」


「……えぇ……」



 うむ。

 学院の生活も面白くなりそうね。




もうすぐ学園シリーズに入れるかな……?

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