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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
5章 つかの間の帝国生活
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73話 アサシン=ルシア

暗殺ミッション!

 全身黒ずくめの男に首筋を打撃されて意識を失うアレックス君。やはりこうなると思って密かに追跡してたけど……



「盗賊団の方にも出来る人材がいるみたいね」



 アレックス君から40mほど離れたところから観察をしていると、いきなり黒服が現れた。わたしの嗅覚や聴覚も誤魔化されていたことから、かなりの使い手だとわかる。まぁ、わたしの場合は尻尾で霊力を感知できるからどうせ気づくんだけどね。



「まぁ、アレックス君も即殺されなかっただけ運がよかったみたいね。捕獲した女や子供は奴隷として売り飛ばすみたいだし、彼もそのつもりで捕まえられたんだろうね……」



 不正に奴隷として捕まえられた子供たちはわたしが経営している孤児院が買い取っている。ちなみにその買取資金はわたしが一回働けば3人は買える程度だしね。まぁ、子供の奴隷は価値が低めだし、売ってる側も後ろ暗い部分があるから、そこを突けば融通してくれる。

 そもそも通常は奴隷は一人当たり金貨50枚~100枚ほどなのだ。本来の奴隷制度は借金が返せない人たちが身を売って帳消しにする自己破産みたいなシステムだし、こうやって不正に奴隷化することは禁止されている。だって奴隷ってかなりの値段で売れるから一商人が強大な権力をもちかねないしね。

 あと犯罪者は犯罪奴隷として鉱山とかプランテーションで強制労働をさせられる。



「今回は犯罪組織撲滅と盗賊討伐を兼ねて頑張りましょうかね」



 盗賊団の幹部やリーダーは捕獲して奴隷販売のルートをお聞かせ願おう。やさしく尋……じゃなくてお話しすれば簡単にゲロッてくれるから殺さないようにだけしないとね。それに捕まっている人も何人かいるだろうから人質にされないように気を付けて行動しないと……



「取りあえず尻尾感知は全開で」



 『人化』を解除して九尾状態になる。このモードなら半径180mほどにある魔力と霊力を感知することができるから隠れることは不可能だ。

 ……前に帝都の地下水道で出会った白ローブの男は感知できなかったから過信はできないけどね。多分あれは隠蔽系の効果がついて魔道具のローブだったんだろうね。



「さすがに盗賊団がそんなのを持っているとは思わないけどね……ギンちゃん出て来て」


 ぷるるん

(はーい)



 わたしのフードが特等席のギンちゃんが飛び出してわたしの腕の中にスッポリ収まる。プ二プ二のスライム形態ギンちゃんはわたしの癒しの一つだ。銀狼モードのモフモフもたまらないが、わたしはこっちのほうが可愛くて好きだ。



「ギンちゃんは先に洞窟に入っていって捕まえられた人たちを見つけてね。姿を見られたら驚かれると思うから天井に張り付いて見つからないように気を付けてね。もし戦闘になったら適当に倒してもいいよ」


 ぷるーん

(わかったー)



 ギンちゃんはわたしの腕から飛び降りてプルプルと震えながら盗賊団のいる洞窟へと向かっていく。これで捕まった人が人質にされる心配はないでしょう。普通はこういう依頼は6人以上のメンバーで偵察一人、襲撃3人以上、捕まった人の確保2人でやるものだ。贅沢を言えば、秘密の脱出路を潰すために何人かでアジト周辺の警戒をしたいところだ。



「戦力的には十分なんだけど、一般人がいたら保護する人がいないと落ち着いて戦えないしねー。まずは裏口とかがないかチェックしますか」



 ギンちゃんが仕事を終えるにももう少し時間がかかるはずだ。尻尾感知で索敵しながら洞窟に脱出路がないか確認しよう。












「ん……? 今何かがぁっ!?」


「ふっ……遅いわね」



 アジトの周囲を警戒している下っ端その6を始末した。既にその1からその5までは『千本』で額を貫いて瞬殺しておいた。ランクSの冒険者ともなれば人を殺すぐらいは慣れたものだ。もちろん好きでしているわけではないが、殺さなければならないときは殺す覚悟も出来ている。残念勇者やエレンさんと旅をしているときに通過してきた道だ。

 それにここで盗賊を見逃せば別の人達が襲われる可能性だってあるのだ。後腐れないように消してしまった方が世のためになる。稀に「更生する!」「足を洗う!」と言い張ってその場を逃れようとする者たちもいるのだが、そういった人たちは『白鎖縛バインド』で捕まえて犯罪奴隷にしている。足を洗ったのなら労働力として世のために貢献して欲しいものだ。



「あとは……あの黒服を含めて3人ほどいるみたいね」



 死体を草陰に隠しながら感知に集中する。

 尻尾感知で捕らえた霊力は3つだが、嗅覚や聴覚から感じ取れるのは2人分だけだ。やはり洞窟の正面入り口をを守っている黒服だけは別格らしい。もしかしたら盗賊団の取引先が提供している傭兵的な戦力なのかもしれない。

 普通はこういった予定外の敵がいた場合、一旦ギルドに報告して容姿や戦闘スタイルから裏の人間リストで人物を特定して相応の戦力を送り直すんだけど、わたしはランクS冒険者だしその必要はない。見敵必殺の勢いでサクサクやってしまえばいいのだ。

 


「という訳でアイツ以外の雑魚2名はお先にあの世に行ってしまえばいい」



 木の上に登って弓を構え、『物質化マテリアライズ白戦弩バリスタ』で矢を創りだして狙いを定める。


 ヒュッ!


 風を切るような音と共に50mほど先で警戒をしつつ談笑している2人の雑魚を同時に射抜く。射線上に2人の頭が重なるような位置からの狙撃なので、貫通力を高めた『白戦弩バリスタ』を使えば一瞬で倒すことができた。

 黒服みたいに隠れて見張ろうともしないアホだから仕方ない。

 頭部を綺麗に貫いて即死させた2人は声も上げることなく地面に倒れる。血もほとんど流れていないから、黒服に匂いが察知される心配もないはずだ。



「後は奴だけね」



 もし裏の人間だったら死亡したという事実を報告したほうがいいので、死体も残さずに周囲を消し飛ばすような魔法は止めた方がいいだろう。本当は回避不可能の『熱荷電粒子開放プラズマ・バースト』で瞬殺するのが楽なんだけどね。

 近接戦闘は得意じゃないからここは弓で……と言いたいところだけど、生憎あいつは隠れているから正確な狙いをつけるのが難しい。



「仕方ないか……『物質化マテリアライズ白戦弩バリスタ』」



 ともかく遠距離から倒すのは確定なので創り上げた白い矢を弓につがえる。



「おびき寄せるにはこれかな? 『天叢雲剣あまのむらくものつるぎ』」



 白い煙のようなものがわたしの周囲の出現し、木の上に隠れている黒服のもとへと移動させていく。久しぶりに使う魔法だが、これは目に見えない極小の刃物を大量に操り、触れた存在を切り刻むという中々に恐ろしい魔法だ。粒子状なので少しの隙間からでも侵入させることができるというスグレモノだ。実際にこの魔法でとある街の経済を牛耳っていたマフィアみたいな犯罪組織のボスを暗殺したことがある。



「ぐっ……なんだ!?」



 白い煙に触れた瞬間に体を斬られたような痛みが走り、木から転がり落ちる黒服。実際に右腕を切り刻まれているので、すでに結構な出血だ。



「まさか敵か……がっ!?」



 姿を見せたところでわたしの『白戦弩バリスタ』が黒服の額を貫く。囮代わりにした『天叢雲剣あまのむらくものつるぎ』のお陰で簡単に仕留めることが出来た。応援を呼ばれるかと思ったが、未知の攻撃に混乱していたようだ。

 まぁ、煙だと思ったら腕が切られたんだから混乱して当然か。



「さてと、洞窟内に侵入しようかしらね」



 黒服の死体を隠し、『人化』で尻尾を1本に戻して弓を背中に背負う。右手に『霊刀』を創り、左手には『千本』を指に挟んで近接戦闘の用意をした。

 洞窟内で戦うならば弓は多分使えない。崩落する危険性があるから爆発系や圧力系魔法も使用しない方がいいだろう。酸素が無くなる可能性を考えれば火魔法自体使わない方がいい。とすれば『物質化マテリアライズ』や風の魔法がメインになる。

 わたしは準備を整えて洞窟へと足を踏み入れた。











「がっ……ごはっ!」


 サクッと見回りの盗賊の一人を喉の一突きで殺害する。

 隠密行動からの暗殺ミッションだ。出来るだけ流血を少なくして匂いを充満させないようにしないといけない。

 この洞窟には裏口のようなものは無いらしく、入り口を固めてしまえば簡単に殲滅できるかと思ったのだが、どうやら売り飛ばす予定の女子供は数人ごとにバラバラに捕まえているらしい。戦力を分散させつつ侵入者の行動を誘導する上手い方法だとは思うが、それなら先に盗賊を全員殺ってしまえばいいのよ。



「ごはぁっ」



 また一人血祭完了っと。

 ギンちゃんとも既に合流して暗殺を頼んできた。これで15分もあれば全滅させられるでしょう。ギンちゃんの場合は天井に張り付いて移動し、死角から一撃で仕留めるから回避は難しい。わたしも尻尾感知で相手の行動を先読みしているから不意打ちが楽だ。

 盗賊からしてみれば絶望的な組み合わせね。



「ん? 血の匂いがしぴゃっ」



 少し鼻がいい奴が混じっていたようだ。手早く『千本』を投げて始末する。



「すごく面倒ね。人質さえいなければ『雷降星プラズマスター』で消滅させられるのに……」



 おっと、我ながら物騒なことを考えるようになったものだ。

 12歳にして殺しへの嫌忌がないってのはちょっと異常だと思い始めた。少し自重しよう。こう見えても孤児院の院長先生だからね。

 まぁ、どっちにしても今回の盗賊は皆殺しだけどね。

 何せ一人と一匹しか人員がいないから捕獲と言う選択肢が取れない。捕まっている人たちも帝都まで連れて行かないといけないのに、そのうえ危険人物を何十人も連れて歩くとか不可能だから仕方ないのだ。



「ふっ!」


「あべっ!?」



 不用意に近寄ってきた盗賊の一人の頭を狙って『千本』を投擲。貫通させて即死を狙う。

 既に半分ぐらいは殺しつくしたと思うんだけど、案外気づかれないものね。それとも襲撃後で油断して宴会でもやっているのかな? すこし奥が騒がしいしね……



”くそっ、離せ!”


”ぎゃはははっ。ほら、頑張ってロープから抜け出してみろよ”


”いいぞ! 将来は曲芸のできる奴隷になれるな!”


”ぷはははははははっ”


”くそーーっ!”




 ……なんか聞き覚えのある声が聞こえてきたわね。

 まぁ、わかっている。たぶんアレックス君だね。



「仕方ない。助けてあげるか……」


 

 もはや溜息しかでなかった。

  


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