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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
5章 つかの間の帝国生活
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70話 獅子の客人

 書類仕事が落ち着き、無駄に豪華な孤児院にも新しい子供たちが入ってきた。元スラムの子供や、不正に攫われて奴隷にされようとしていた子たちを帝国が保護してきたので、当初の契約通り預かっている。初期の18人の子たちは先輩として新しい子たちに孤児院のルールを教えてくれたりしているので、わたしの仕事はかなり少ない。

 パズたち冒険者志望組も依頼に慣れてきたらしく、中にはランクEに昇格している子もいる。ランクEともなれば黒い害虫並みに増殖するゴブリンの駆除なんかの依頼も入ってくる。大丈夫だとは思うけど、命を大事に! で頑張って欲しいものだ。


 ちなみにわたしは暇なときに冒険者として活動して5か月分ぐらいは稼いだので、しばらくは働かなくても生活できる。せっかく新規の子供たちも入ってきたので、これまた無駄に広い庭で遊んでいるところだ。



「ルシア魔法見せてー」

「炎のやつがいい」

「白いので人形作ってよー」


「はいはい、ちょっと待って」



 遊ぶと言ってもわたしは火の魔法と風の魔法、それから『物質化マテリアライズ』しか使えないからバリエーションは少ないんだよね。風の魔法なんか目に見えないから分かりにくいし、火の魔法は危ないから派手には出来ないしで、結局『物質化マテリアライズ』に落ち着くことになる。


 というわけで、人形でも作ってあげようか。

 せっかくなので動いた方がいいから、等身大で関節ごとにパーツを作っていく。そして万能の球根関節でパーツを連結して完了だ。顔は適当に女の子風にしておけばいいが服はどうしようもないので、ギンちゃんの亜空間に入っているわたしのを取り出して着せてあげた。

 基本的に尻尾が邪魔で着れる服が少ないわたしが持っている私服はワンピースばかりだ。いや、特注すればいいんだけど、なんだかんだで冒険者だから着る機会少ないし「後でいいかな~」ってなるんです。尻尾は自慢の一品ですけどこういう時は邪魔なんです。しかも服が破けるから九尾化できなくなるしね。

 


「あ、『人化』すればいいじゃん」



 最近はすっかり忘れていたけど、人の姿になれば服着れた。

 まぁ、今度でいいでしょう。今は子供たちと遊ぶことが優先だし。

 装備品に私服……欲しいものがどんどん増えていくなぁ。



「はい、出来たよ」


「お~、人形さんだ」

「女の子だね~」

「お、俺より背が高いだと……」



 ちょっと不格好だけど、女の子に見えないことはない。服で隠れている部分以外は全身真っ白だから少し気味が悪いけど、カラーリングできないから仕方ない。

 あ、でも光の色ってたしか波長で決まるんだったな。魔法で調整してしまえばできる……? いやいや、絶対わたしの集中が持たないから無理ね。でも、光の魔法は今度練習してみよう!


 ま、今はこの目の前の人形さんを動かさないとね。

 パーツを操作してまずは歩くように足を動かしてみる。意外と難しい上に、両手と尻尾1本では操作の手が足りないみたいだ。普段自分の体を動かしているときは気づきにくいけど、ただ歩くだけでもいろんなところに力が掛かっているからだろうね。

 妥協策として、人形の身体を浮かしつつ両足をパタパタ動かして歩いている風にしてみた。うん、ギクシャクしてるし気持ち悪い。強いて言うならば学校の七不思議でありそうな動くマネキンみたいだ。夜にこれを見せられたら即逃げるか、魔法で消し飛ばすね。



「うわー、気持ち悪ー」

「逃げろー」

「きゃー」


「ほらほら、そっちに行くよ~」


『わーっ』



 何この子たち可愛い!

 恐怖の人体模型鬼ごっこで子供たちと遊んでいると、尻尾感知に2つの反応があった。どう考えても子供たちではない大きさの霊力、そしてよく知っているこの感じは……



「残念勇者とエレンさんか」


「正解」


「ルシア、久しぶりだね」



 大体1か月ぶりぐらいだろうか?

 前会った時はギルドで偶然出くわして、久しぶりに3人で依頼を受けたのだ。確かその時の依頼は、洞窟にアンデッドが大量発生したから殲滅するとかだった気がする。

 洞窟に付く→尻尾感知で生存者がいないか確認→エレンさん一緒に魔法を撃ちこむ→終了、という簡単すぎる依頼だった。ちなみにわたしが炎魔法で、エレンさんが風魔法を使いましたよ。要は残念勇者役立たずってことです。久しぶりの涙目いただきました。



「それで今日はどうしたんです?」


「ああ、ランク特Sとしての依頼が落ち着いたからルシアちゃんのところに遊びに来ただけさ。ここは庭も広いし、宿屋よりも設備が充実しているしで寛げるからな」


「はぁ……それだったら使用料金として、あっちで訓練している子たちに戦い方でも教えてあげてくださいよ?」


「いいぜ」



 そう言ってわたしが指さした方へと行こうとする残念勇者をエレンさんが杖でポコリと叩いた。



「痛いだろ!」


「何やってんだよ。さっき頼まれたことをしないといけないだろ?」


「…………おう、忘れてないぞ?」


「その間が気になるね……まぁ、いいさ」



 そう言って杖を黒い魔女の三角帽子の中へとしまうエレンさん。そう言えばその帽子は時空間魔法が付与された魔法道具でしたね。

 肩口で切りそろえた薄緑の髪が綺麗な大人美人エルフのエレンさんは実は194歳だ。ご高齢なようだが、エルフは長寿の種族であるため人間換算して19歳ぐらい。エルフは人の10倍ほど生きるらしいから、まだまだ若輩に属する人だったりする。それでも3代前のご先祖様クラスで歳が離れている彼女とは、文字通り年季が違うのだ。残念勇者が役立たずでも仕方ないと言うものだろう。



「それで結局どうしたんです?」


「ああ、あたしたちが遊びに来たのは間違いないよ。ただ、この屋敷の手前でウロウロしている怪しい奴が2人ほどいたから気になって声を掛けたんだけど、どうやらルシアに用があるらしくてね。あまりに豪華な屋敷なのに門番もいないから入っていいのか分からずにいたそうだよ。それであたしたちがルシアを呼んできてあげることにしたんだけど……」



 わたしに用……か。

 ギルドや皇帝のアルさんからの使いとかなら、ここが孤児院だって知ってるから問題なく入ってくるだろうし、誰だろう? わたしもランクSになるまで冒険者やってるわけだから、それなりに恨みも買ってる可能性もあるしその関係かな? エレンさんも分かっているだろうから適当に追い返してくれれば良かったのに。



「そんな顔をしないでおくれよ。あたしだってそれは考えたさ。だけど本当にそうだとは限らないだろう?」



 おっと、顔に出ていたのか。

 まぁ、確かに普通にわたしのお客さんだったら追い返すのも失礼だよね……



「それに、ルシアと同じ獣人だったからね……」


「あの2人の尻尾と耳は獅子族だったな。屋敷にビビってた割に無駄にプライドが高そうな奴だったが、取りあえず会ってきたらどうだ?」



 うーん、あんまり変な人を中に入れたくないし、わたしが直接出向いた方がいいか。

 それにしても獣人、そして獅子族か……まさか……ね。



「まぁ、一応ですけど会ってきますね。2人共、子供たちをしばらく見てあげてください」


「ああ」


「かまわないよ」



 世界でたった3人のランク特S冒険者をこうやって扱えるのも、わたしぐらいなものだろうな。すっかり慣れきってしまったけど、普通の反応としては緊張でガチガチになったり、崇めたりビビられたりするのが一般的だしね。

 ともかく入り口まで行ってみることにした。











「……遅い、ルシアとやらはこの俺をいつまで待たせるつもりだ?」


「いえ、どうやら来たみたいです。こっちに向かって走ってきてますね。狐獣人とは思えないぐらいに早いです」


「ふん、さすがは逃げ足の速い狐だな」



 遠目に見えるのは冒険者として仕事するときのローブ姿ではなく、休日用のゆったりした私服を着たルシア。相変わらず尻尾の関係でスカートを装備しているのだが……

 丁寧な物言いの獅子獣人はルシアの足の速さに驚く。魔力を微量に宿していることと、元からの肉体性能のお陰で身体能力の高い獣人族だが、ルシアの歳と狐族であるということを鑑みると、驚くべき速度だったからだ。



(さすがは噂に聞いた期待の冒険者というべきですね)











「お待たせしました、ルシアです。何か御用ですか?」


「ほう、お前がか? 確かに用はあるが、それよりもこの俺を客室に案内もしないのか?」



 ほう、なかなか小癪な物言いね。

 この上から目線で自分中心天動説な人は今までも見てきたけど、こいつも中々にアレな人みたいね。イザードが言ってたプライドが高そうってこういうことか。

 それに比べて後ろに控えているもう一人はマシなようね。申し訳なさそうに頭下げているし。まぁ、この人に免じて赦してあげよう。……追い出すのは。



「へ~、わたしはあなたとは初対面ですので誰だか分かりませんし、そもそもアポなしで訪ねてきた人を客室に案内する義理はないです。急に来たくせにわざわざこの家の主人たるわたしが直々に出て来てあげたんだから感謝して欲しいですね」


「なにッ!」


「……」



 顔を真っ赤にしてプルプルと震えるが、どうやらわたしに言い返せないらしい。ククク……これでもわたしは修羅場を潜って生きているのだよ。

 そのまま暴力沙汰になったら適当にあしらって追い出そうかと思ったけど、意外に我慢強いらしく何とか震えを抑えて深呼吸して落ち着いたようだ。プライドが高いだけに、言い負かされたままではいられないのだろうね。



「ククク……そうだったな。俺はまだ名乗ってもいなかったのだった。いいか? その大層よく聞こえそうな狐耳でよく聞け! 俺はイルズ大森林最強の種族である獅子族の長、レオネス・ハウトの長子であるレオニー・ハウト様だ! どうだ? 驚いただろう、この俺がわざわざ出向いて「ああ、ごめん。知らないわ」……なんだと!?」



 バッサリ切り裂く言葉の刃。

 いやだって、ホントに知らないし。だって、狐族は基本的に外部と不干渉な上に、わたしは祠と言うか洞窟みたいなところに1日のほとんどを閉じ込められる生活をしていたからね。

 冒険者になってからも獣人とはあまり会ったことなかったから知らなくても当然ですよ。


 茫然とするレオニー君を見かねて、後ろのもう一人が口を開いた。



「レオニー、さっきは耐えたみたいだけど君は高慢すぎる上にすぐに熱くなりやすい。こっちは事前連絡も無しに訪ねてきたんだ。これ以上はさすがに失礼だよ」


「……ちっ、アシュレイが言うなら仕方ない」



 ふむ、アシュレイ君とやらはレオニー君のストッパーみたいな役目のようだね。それにかなり仲のいい間柄みたいだ。長の息子だと名乗ったレオニー君に怖気づくことなく接しているしね。

 それに少しは落ち着いたみたいだし、そろそろ用件を聞かせてもらうとしましょうか。



「それで何か用ですか?」


「そうですね、先ずは僕も名乗っておきましょうか。僕はアシュレイ、レオニーの護衛兼ストッパー兼友人をやっている者です。そして僕たちが所属する組織は『覇獅子レオンハルト』といいます。僕たちはあなたをスカウトに来ました」



 あー

 そんな組織もあったね……

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