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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
5章 つかの間の帝国生活
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69話 子供たちの装備

 

 ランクSS魔獣のグリフォンを討伐したわたしは銀竜モードのギンちゃんに乗って帝都へと急いでいた。元々6時集合ではギリギリの時間なのでサクッと討伐完了しても間に合うかは不安な部分がある。



「ギンちゃん、あの荒地で降りて銀狼モードになろう」


「ガァ」



 喉を鳴らして返事をすると、翼をを羽ばたかせてゆっくり地面へと降下した。わたしも一瞬だけ九尾化して尻尾感知で周囲に人がいないかだけ確認する。もし目撃者がいたら大変なことになりかねないからね。

 地上に降り立ったギンちゃんはウネウネと身体を変形させてシルバーウルフの姿へと変化していく。10mクラスだった銀竜から、およそ半分の大きさまで縮んでいき、徐々にフサフサの毛並みが感じられるようになる。10秒ほどで擬態を完了し、S級魔獣のシルバーウルフが現れた。



「じゃあ次は帝都の近くのまで行こうか」


「グルゥ!」



 元気よく返事して駆け出すギンちゃん。わたしはギンちゃんの首筋を撫でながら、しばらくは飛ぶように流れる景色を楽しんだ。ギンちゃんもわたしに気を遣っているのか揺れはかなり少なく、乗り心地は最高に良かったとだけ言っておこう。逆に堅いうろこを持つ銀竜モードの方がおしりが痛くなったぐらいだ。


 来た時と同じように帝都の南門側を目指して道なき道を駆け抜ける。たまに見かける魔物も今のギンちゃんとの格の差を知って逃げるように去っていった。ホントは街道に沿って行きたいんだけど、旅人とか行商人を驚かせたくないので遠慮している。モンスターテイム自体は珍しいわけではないが、ランクSを超えるような魔物を従えているなんて話はちょっと聞かない。下手したら魔物に狐幼女が誘拐されていると勘違いされる可能性もあるので、人には見られない方が賢明なのだ。



「ギンちゃん、帝都の壁が見えてきたよ」


「グルルゥ!」



 遠目からでも確認できる帝都の城壁が見えてきたので、ギンちゃんも速度を落としていく。もうすぐ南側の街道にぶつかるので、そろそろ降りて歩いた方がいいだろう。

 そんなわたしの心の内を察したのか、ギンちゃんは慣性を殺しながら徐々に速度を落として停止した。背中からわたしが飛び降りると、ギンちゃんも擬態を解除してスライム形態に戻り、わたしの腕に飛び込んでくる。



 ぷるーん

(つかれたー)


「うん、ありがとね。今日は休んでていいよ」



 スライムには筋肉などないので疲れるのかは知らないが、少なくとも精神的な疲れはあるのだろう。ゴソゴソとわたしのフードの中に入っていった。完全にギンちゃんの定位置なので逆にわたしも安心する。



「じゃあ、少し急ごうかな……」



 西側をみると、すでに日が落ちかけている。完全に暗くなってから少しすると城壁門を閉じられるので、一応急いだほうがいいだろう。魔力によって強化された身体をフルに使って走り出し、視界の半分を占める帝都の城壁の方へと足を進める。途中で帝都への道を急いでいる行商人を見かけたが、風のように走り去るわたしをみてギョッとしていた。まぁ、あの速度なら魔物と勘違いしても仕方ないしね。感覚的には時速20kmを超えているので、自転車よりも早い。文字通り人間卒業しているのだから諦めているけどね。


 南門へと近づくと、日が沈み切る前に帝都にたどり着いて安堵の表情を浮かべる旅人や行商人、中には依頼帰りの冒険者、出稼ぎにきたエルフ族の人たちが並んでいた。相変わらず長蛇の列を為している帝都の城壁門だが、このギリギリの時間帯ともなればまだ少ない方だ。それにどちらかと言えば商人よりも冒険者や旅人の方が多いので、身分証明書を見せるだけの簡単な作業で通らせてくれる。つまり冒険者ギルドカードを見せればスルーなのだ。ほぼ流れ作業の様に次々と人は門の中へと入っていき、あっという間にわたしの順番になる。



「次、身分証明sy……子供……?」


「はい、ギルドカードでいいよね」


「はぁ……し、失礼しましたっ! どうぞお通り下さいっ!」


「うん、ありがとね」



 どうやらわたしの顔を知らない騎士さんだったらしく、ギルドカードを見て驚愕していた。意外とあっさり信じてくれたけど、恐らく別の騎士さんからわたしの話を聞いていたのだろう。初めの頃は偽物だとか言われたこともあったしね。あの頃は残念勇者やエレンさんが同伴だったから結局信じてくれたけど……

 コロッと180度も態度を変えた騎士さんを見て後ろに並んでいた冒険者さんが、信じられないものを見た目を向けてきたけどそれも慣れた。どうやら騎士さんに「さっきの少女は何者?」的なことを聞いてるみたいだが、今は時間が惜しいので冒険者ギルドへ急ぐことにしよう。


 帝都の冒険者ギルドは本部だけあって大きい。だが、その分冒険者人口も多いので、依頼を終えて報告に来る人たちで溢れかえっていた。毎回これに並ぶだけで少しげんなりする。



「ルシアー」

「あ、ルシアがいる」

「おーい、こっちこっち!」

「依頼頑張ったよー」



 声が聞こえた方を見ると、子供たちがギルドの端っこの方で固まって待っていた。やっぱり雑用系の依頼だけあって簡単に終わったみたいね。ちゃんと12人揃っているみたいだし、大丈夫そうだ。ちょっと恥ずかしかったけど、軽く手を振り返して「少し待っててね」とジェスチャーを伝える。

 列の先を見ると、まだ15人は並んでるようなので時間がかかりそうだ。











「次の方」


「はい、ギルドカード」


 

 ようやくわたしの順番が来た。

 顔見知りの受付嬢なので、特に驚かれるようなことはない。



「グリフォンの討伐依頼ですか。確かここからかなりの距離のある場所に住み着いているという話だったと思うのですが……。相変わらず強さSSS級の人は意味が分からないですね」


「ま、まぁわたしもランク特Sの人外に鍛えて貰ったしね……」


「はい、確かにギルドカードに討伐記録が付いていますしね。素材はどうしますか?」



 グリフォンの身体はギンちゃんが捕食したので素材などない。珍しい素材だから売ってあげたいけど、わたしも欲しかったから仕方ない。素材に関しては討伐した冒険者に一任されているので、ここで売らなかったとしても責められ事はないしね。



「素材はこっちで使ったから売らない」


「わかりました。できれば売って欲しかったのですが仕方ないです。今回の依頼報酬は金貨250枚になりますが、ギルドカードに追加でよろしいですか?」


「うん、全額それで」


「分かりました。処理を行いますので少しお待ちください」



 受付嬢さんは奥に行ってカードを何かの機械に通していた。

 今回だけで金貨250枚稼いだから1か月は依頼をこなさなくても過ごせるね。まぁ、今日は頑張ったしいいでしょう。ギンちゃんもいっぱい働いたから、今日はちょっと豪華な食事にしてもいいかも。



「ギルドカードに記録しておきました。確認を」



 考え事をしていたら受付嬢さんが戻ってきていた。

 受け取ったギルドカードに金貨250枚分、つまり2500000ゲルドが追加されているかを確認して頷き返した。



「あと、この辺で信頼できる武器屋さんと防具屋さんを教えて欲しいんだけど?」


「それならギルドの丁度向かい側にある武器屋と防具屋を兼ねた店がお勧めです。ギルドとも提携してるので、初心者用から上級者用まで揃っています。ですが、さすがにルシアさんのランクになるとオーダーメイドをしてくれる鍛冶職人に頼んだ方が……」


「あ、わたしじゃなくてあっちにいる子供たちに買ってあげるの」



 今日の依頼が終わったら装備を買ってあげる約束は忘れてないのだ。



「なるほど、そういうことでしたら。お勧めしたお店で十分ですね」


「わかった。ありがとう」


「いえ、またお越しください」



 素材の売却はないので後は用はない。待っている子供たちの方へと向かった。



「ルシア遅いよ」


「ごめんごめん。思ったより時間かかっちゃって」



 いつも冷静なリゲルが目をキラキラさせて待っていた。

 分かっているよ。このあと装備を買いに行く約束は忘れていないから。



「じゃあ、皆行こうか」


『はーい』



 12人の子たちをぞろぞろと引き連れて教えて貰ったギルド向かいの装備屋さんへと向かう。今まで何度もギルドを利用しているのに全く気付かなかったのは不思議だ。まぁ、わたし自身が装備に興味がなかったからだろうけどね。基本的にわたしには常に優秀な前衛がいたおかげでダメージを負うことが無かったし、必要性を感じなかった。今でもギンちゃんが前衛をこなしてくれるので、わたしは後ろから弓とか魔法を撃ちまくるだけでいいのだから楽なものである。

 まぁ、そろそろわたしの専用装備を作ってもいいかもしれないけどね……。


 ギルドと提携しているだけあって、かなり大きな装備屋さんらしい。解体用のナイフや、木剣なんかも売ってある。報酬を受け取った冒険者が消耗した装備品を買いに来ているので、意外と人も多いみたいだ。


 なんとか暇そうな店員さんを見つけて声を掛ける。



「すみませーん。装備を見繕って欲しいのですが?」


「はい、わかりました」



 緑色の髪をさっぱり短髪で整えた男の店員さんが対応してくれた。

 総勢12人、わたしを入れて13人の子供がズラリと並んでいるのを見て、一瞬顔を引き攣らせるが、すぐに戻して笑顔で口を開く。



「えーと……君たち全員分でいいのかな?」


「わたしは取りあえずローブと弓があるからいいかな……。こっちの子供たちの分をお願いします」



 子供たちは様々な武器が並べられた棚を見ながら興味津々といった様子でキョロキョロしている。おそらくどんな武器がいいかと思いを馳せているのだろう。既にある程度決めている子もいるみたいだけど。



「とにかく希望の武器を言ったらこの店員さんが見繕ってくれる……と思うから好きに選んでね」



 そう言うと、話半分と言った様子で生返事が返ってきた。既にあの子たちは自分たちの世界に入ってしまったらしい。一応わたしが保護者なのに……

 ともかくわたしは緑髪の店員さんにコソッと近寄って「初心者用の装備でお願い」とだけ言っておいた。店員さんは苦笑していたが、まだまだ冒険者初心者のあの子たちにはそれで充分です。



 子供たちが武器防具を選んでいる間は、わたしも店を周りながら装備について考えていた。

 正直言ってわたしは武器を使いこなしているとは言えない。どちらかと言えば魔法でアシストしながら使っているので、かなり力押しの使い方と言える。『白戦弩バリスタ』は半分魔法で飛ばしているので、弓は初速をつけるためのカタパルトでしかない。『霊刀』も切れ味に任せた戦いかただと言える。確かに残念勇者にある程度は鍛えて貰ったけど、純粋な腕はランクC上位ぐらいだと思う。それも身体能力のお陰というお墨付きで。

 そもそもわたしはあまり近接戦闘が好きじゃないしね。なんか……直接切りつけるのは若干気持ち悪いというか、なんというか。魔法はバンバン撃ちまくれるけど。


 考え事をしていたら、肩をチョンチョンと突かれた。それで振り返るとさっきの緑髪店員さんが立っており、子供たちの方を指さしながら口を開いた。



「皆さん装備を決められましたよ」


「意外と早かったのね。ありがとう」



 見ると、パズは長剣で、レナはわたしと同じく弓を使うみたいだ。ジーナとリオンは2人共ナイフを腰に差していた。リオンは隠密とか得意だったし優秀な盗賊シーフになれるだろう。リゲルも使い慣れたナイフを武器として選んでいたが、中には槍を選ぶチャレンジャーもいた。防具はウルフ素材のレザーアーマーか布のローブをであり、見た目通り初心者の姿だ。

 新装備に身を包まれて、感想を言い合っているのが微笑ましい。



「あれでいくらになった?」


「御一人あたり金貨2枚で合計金貨24枚ですが、たくさんお買い上げになられたのでサービスして金貨22枚の220000ゲルドでどうでしょうか?」


「ギルドと提携しているし、ギルドカードで大丈夫だよね?」


「はい」



 冒険者ギルドと提携している店ではギルドカードをクレジットカードの様に利用できる。大きな買い物をする時などは重宝するのだが、ここでわたしはすっかり忘れていた。わたしのランクがとんでもなかったことを……




「え……Sランクぅぅぅぅうううっ!?」


「ちょっ! 声が大きいって!」



 このあと店の中で握手会じみたものをさせられるのだった……





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