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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
5章 つかの間の帝国生活
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67話 パズたちの依頼(前編)

続けて後編も投稿します。

最近は2つに分けることが多い……

 パズだ。

 俺は今、帝都ナルスの冒険者ギルド本部に来ている。もともとスラム民だった俺が何でこんな所にいるのかと言えばルシアのお陰だろう。イェーダ教団とかいう組織が俺たちスラム民の味方だと思ったら、ただ騙して使い捨ての戦力にしていただけだったと知って色々助けてくれたしな。

 ともあれルシアが実はランクAの冒険者(今はランクSだが)だったことに当時は驚いた。しかも事件解決後にルシアの開いたという孤児院でまた一緒に暮らすことになったしな。まぁ、俺はレナやジーナと離れ離れになることが無くて良かったと思っている。

 

 それで最初の話に戻すが、ルシアは俺たちに将来のことを考えるように言った。冒険者になったり、商人になったり、職人になったりと道は色々あるらしいが、文字や計算が苦手な俺は冒険者になることにした。まさか冒険者でも文字や計算が必要になるとは思わなかったが。






「わたしは今から依頼で少し遠くに出かけるから、皆の登録が終わったら受付のおねーさんの話をちゃんと聞いて勝手なことはしないでね。登録後は4人一組のパーティを作ってあっちの掲示板にある雑用系依頼を一つ選んで受けること。パーティの説明は後でして貰ってね」



 おっと、ルシアが何か言ってるな。

 4人一組のパーティってなんのことだ? 説明はしてくれるらしいが、分からなかったらレナかジーナにでも聞いておくか。あ、リオンでもいいな。ボーっとしている割に頭がいいしな。  




「では6時にギルドの外で集合してね。依頼が早く終わってたら貰った報酬で好きなものを買ってもいいよ。計算や文字はちゃんと教えたから、実際に使ってみて慣れていってほしいからね」



 それだけ言ってルシアはギルドから飛び出していった。ルシアはルシアで何か依頼を受けたらしいのだが、なんの依頼なのかは知らない。


 それにしても6時か……たしか鐘が鳴るんだったな。

 文字と計算は自信がないから非常に不安だ……。








「おいおい、なんだこのガキ共は? ここは遊び場じゃねぇぞ?」



 野太い声がして振り向くと、筋肉が膨れ上がった大男が立っていた。槍に斧をくっ付けたような謎の武器(後でハルバードだと知った)を背負って俺たちを睨んでいる。眼光が鋭く、レナが萎縮しているみたいだったので庇うようにして睨み返してやった。ジーナは案外度胸があるのらしく堂々としている。リオンの奴は……いつも通りだな。



「なんだ? 文句あるのか?」



 これでも俺たちはイェーダ教団に居たときに訓練をしている。ナイフや投擲武器は持っていないが、体術だってそれなりに仕えるつもりだ。俺以外のみんなも大男に気付いているし、いざとなればみんなで同時に飛びかかれば……




「はいはい、バレリスさんもその辺にしてください」



 緊張が高まる空気を割き、パンパンと手を打って俺たちを止めたのは受付の人だ。呆れたような、拍子抜けするその声を聞いて、俺たちも一気に緊張が解ける。大男の方も、滲みだす威圧のようなものを止めて受付の人の方へと視線を向けた。



「おい、リンダ。こんなガキ共をギルド登録するのか?」


「大丈夫です。ルシアさんの連れですよ」


「何!? 奴のか!」



 大男はルシアの名前を聞いて大きな反応を示した。ということは知り合いなのか?

 しかもなんだかガタガタ震えているような気がするんだがどうかしたのか? 疑問が増える中、大男は突然俺たちも方に振り向いて頭を下げた。



「わりぃ、まさかルシア姐さんのお連れ様だとは知らずに無礼を働いてしまって……」



 コロッと態度が変わった大男に唖然とする俺たちをよそに「このことは姐さんには内密に……」とか言い残して逃げるように去っていった。何だったんだ? しかもルシア姐さんって誰だよ!

 そんな反応の俺たちをみて受付の人が説明をしてくれた。




「クスクス……すみませんね。あの人はバレリスというランクB冒険者なのですが、以前にルシアさんに絡んで決闘を申し込み、気絶もさせられず降参も言わせないように2時間ほどいたぶられながらボコボコにされた過去をお持ちなんです。それからずっと『ルシア姐さん』と呼んで畏れているらしいですね」



 ルシアすげぇ。

 というか容赦ねぇな。

 イェーダ教団の訓練の時も全く本気を出してなかったんだと今ならよく分かるぜ。ランクB冒険者を遊びながらボコボコにするってどんなだよ。

 ルシアの規格外さにすっかり呆れかえっている間に俺たちの登録が終わったみたいだ。みんな出来たばかりのギルドカードを見せ合っているが、受付の人はまたさっきみたいに手を鳴らして注意を引いた。



「はいはい、嬉しいのは分かったからギルドの説明するわよ」



 ルシアも説明を受けるように言っていたからちゃんと聞いておかないとな。

 みんなが受付の人の方に目を向けたのを見計らって説明がはじまる。


「はい、ではみなさんは晴れて冒険者になりました。

 まず冒険者とは寄せられた様々な依頼を受けて達成することで報酬を得るという完全実力主義の仕事です。依頼はランクFからランクSSSまでありますが、冒険者のランクはFからランクSまでしかありません。さらに上のランク特Sというのはありますが、そのレベルは魔王クラスを単騎で倒せる実力がなければならないので今は置いておきましょう。冒険者のランクは強さだけではなく、ギルドに対する貢献度が関わっているので、単純に強いだけではランクアップできません。地道に依頼をこなして頑張りましょう。そしてそれとは別に強さのランクというのがあります。冒険者ランクのとなりに(F)と書いてあると思います。それが強さのランクであり、たとえ冒険者ランクFだったとしてもランクDの魔物を倒す実力を持っていれば(D)と表示されるようになっています。そして討伐系依頼に限り、強さのランクに対応するものを受けることができるのです。逆にランクS冒険者だったとしても(S)ならば、SSS級の討伐依頼は受けることができません」



 説明が長くて混乱しそうだ。

 ともかくランクの話だったよな。今はランクFだから俺はほとんどの依頼を受けられないってことか? ルシアの強さランクってどれぐらいなんだろな。Sぐらいなのか?



「そして次はパーティの説明をしますね。

 パーティとは複数の冒険者でチームを組むことですね。そしてパーティを組めば、複数人で同じ依頼を受けることが出来るようになります。依頼の達成率も高くなるのでほとんどの冒険者が2人から6人ほどのパーティを組んでいますね。ルシアさんは今でこそソロで活動していることが多いですが、ついこの前まではパーティを組んでいましたよ。

 そしてパーティのデメリットは依頼の達成報酬が減ることですね。報酬が銀貨1枚の依頼をパーティで受けてもソロで受けても、達成後に貰えるのは銀貨1枚です。ソロなら独占できますが、パーティだと一人ずつ割ることになるので結果として減ります。分配の内容はパーティごとに決めていただくことになるのでギルドは関与いたしません。自己責任でお願いします」



 パーティは要するに小隊みたいな感じだな。4人パーティってのは4人集まった小隊のことか。それなら元5班のメンバーで丁度4人になるな。



「簡単な説明は以上ですので、皆さんで4人一組のパーティを組んでみてください」



 そう言われて皆は初めから決まっていたように動き出す。以前の小隊のメンバーで組む奴がほとんどだ。6人ほどは冒険者にならない奴もいたから、その分の穴は適当に別の奴が入っているみたいだが、俺たちの場合は悩む必要がない。



「おい、レナ、ジーナ、リオンで組むぞ」


「うん」


「……分かった」


「………………(ボーッ……)」



 元々メンバーなんて決まっていたようなものなので、3つのパーティはすぐに組み終わった。



「ではパーティごとにこっちに来てくださいね。パーティ登録を行いますので。それが終わったところから雑用系依頼をあちらの掲示板から持ってきてください。文字は読めますよね?」



 俺以外はコクコクと頷いている。

 いや、俺だって時間をかければ読めるし。



 パーティ登録自体はそんなに時間がかからなかったが、どうやらパーティリーダーを決める必要があるらしく、それで少し揉めていた。リゲルのいるパーティは奴がリーダーをすることにすぐ決まったし、俺のところもリーダーは俺がすることになったが、もう一つのパーティが結構揉めていたようだ。

 まぁ、そんなことは気にせず、依頼の紙が貼りつけられた掲示板へと向かう。



「えーっと……ラン……ク…え……」


「ランクF依頼です」


「そう、それだ。で、く……さむ……し」


「……草むしり」


「お、おう。わかってるぞ? ほう……し………し……」


「報酬銅貨5枚だよ」


「うっ……」


「「「…………」」」



 3人からの……正確にはリオン以外の2人からの視線が痛い。

 仕方ないだろ。文字はまだ苦手なんだよ。



「とにかくこれを受けるぞ」



 視線を振り払うようにして依頼書を剥がし、受付に持っていく。レナとジーナはやれやれといった様子で付いて来ている。くっ、いつか見返してやるからなっ!




「これを受ける」


「はい……あ、リーサおばあさんの家の草むしりですか。場所はわか……るわけないですよね。簡単な地図を描きますので少し待ってくださいね」



 受付の人は紙を取り出してサラサラと地図を描き始める。地図なんか渡されても帝都を歩き回るなんて初めてだからたどり着けるか分からないけどな。こういうのは俺は苦手だから他の3人に任せることにしよう、そうしよう。



「はい、できました。帝都は広いので迷子にならないでくださいね?」



 そう言いながら書いてもらった地図を渡されたが、正直迷わない自信がない。

 初依頼の緊張よりも迷子にならないかの心配が上回っているのだが、優秀な仲間もいることだし大丈夫だと信じたい。


 ともかくレナ、ジーナ、リオンを引き連れてギルドを出た。




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