66話 グリフォン討伐
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グリフォンは約3か月前に初めて目撃されたらしい。
南西部の酪農地域で牛やヤギを養っている農家の青年が、群れを率いて水場に行こうとした道中で襲われたそうだ。幸いグリフォンは群れの中の1匹を捕らえて去っていったため、その青年は無事だったという。
その後近くの街のギルドで調査隊が組まれた結果、周辺近くにある岩山の山頂部にその住処があることが分かったということらしい。
「この岩山までの簡単な地図とかある?」
「はい、そのレポートの最終頁にあります」
「ああ、これね」
どうやら目的地は徒歩で1か月、馬車で1週間ほどの場所にあるらしい。普通なら今日行けば帰って来られるのは最低でも2、3週間後になる。まぁ、わたしにはギンちゃんがいるから大丈夫でしょう。恐らく今から急げば夜までには帰ってこれると思う。
「ということは子供たちとも集合場所と集合時間を決めておかないといけないかな」
何人かは既に登録が終わったらしいのだが、ギルドの説明もあるのでまだ時間がかかると思う。まぁ、あの子たちもスラムで生き残ってきた強者なんだから多少の放置は問題ない……と思う。後のことは受付のおねーさんズにお任せしてグリフォン討伐に行こうかしらね。
そう決めて子供たちの方へと近寄る。登録が終わった子は、自分のギルドカードを見せ合ったりどんな依頼を受けたいかを話し合ったりしている。まだ受付に並んで待っている子は羨ましそうにそれを見ていた。
「はいはい皆ちょっといいかな?」
わたしが近寄って声をかけると一斉にこちらを向いてくれる。
「わたしは今から依頼で少し遠くに出かけるから、皆の登録が終わったら受付のおねーさんの話をちゃんと聞いて勝手なことはしないでね。登録後は4人一組のパーティを作ってあっちの掲示板にある雑用系依頼を一つ選んで受けること。パーティの説明は後でして貰ってね」
確認するように見回すと、子供たちはコクコクと頷く。受付のおねーさんも「任せて」と言わんばかりにアイコンタクトを送ってきてくれたので問題ないでしょう。
「では6時にギルドの外で集合してね。依頼が早く終わってたら貰った報酬で好きなものを買ってもいいよ。計算や文字はちゃんと教えたから、実際に使ってみて慣れていってほしいからね」
そこまで言ったわたしは、ギンちゃんをローブのフードに入れてギルドを飛び出した。時間的に、6時集合というのはかなりギリギリといえるので急がないと遅刻してしまう。急いで目的地の岩山まで行ってグリフォンを瞬殺して帰らないと拙い。素材とかは剥ぎ取る時間もないし、ギンちゃんの亜空間に収納してもらうことにしよう。
帝都を貫く大通りを走り抜けて、南の大門まで向かう。帝都は東西南北に大門があって、通りが碁盤目状に配置されている。歴史であった平安京とかみたいな感じだ。これも初代皇帝が転生者だということが関わっているんだろう。街並みや人は洋風だけどね。
「こんにちは~」
「ん? ああルシアちゃんじゃないか。今日は依頼かい?」
「うん。まあね」
南門を警備している騎士の人とは何度か話したことがあるのですっかり顔見知りだ。もちろんわたしがこの世界に9人しかいないSランク冒険者であることも知っている。初めてギルドカードを見せたときは目玉が飛び出るんじゃないかってぐらい目を見開いて驚いていたけどね。
「規則だから一応カード見せてくれるかな?」
「あ、はいはい」
ギルドカードはギンちゃん亜空間に仕舞ってあるのでフードに手を入れてギンちゃんをツンツンする。するとギンちゃんはわたしのカードを吐き出してくれるのでそれを騎士の人に見せた。
「はい、確認しました。ではお気をつけて」
「そちらもお仕事頑張ってね」
ささっと門を通り抜けて帝都の外に出る。南側はエルフの森と面しているので、そのエルフたちから仕入れた商品を持ってきた商人の馬車が多い。どう見ても子供で、しかも戦闘力がほとんど皆無とされている狐獣人のわたしが帝都から飛び出してきたことに驚く人たちもいたが、面倒なので無視だ。魔力が体内を循環することで身体能力が底上げされたわたしの足で少し離れたところまで駆け抜ける。
帝都の門が少し小さくなってきたところで南の街道から少し外れたところに行く。街道のように整備されていないので、草陰や岩陰に魔物が隠れていることもあるので、冒険者でもあまり街道を外れたがらないのだが、わたしの今からやることは人にあまり見られたくないので仕方ない。
「ギンちゃん、銀狼モードでお願い」
ぷるるん!
(まかせて!)
フードから飛び出たギンちゃんが、スライムの特性である擬態を駆使してランクS級のシルバーウルフへと変貌する。かなり高位の魔獣なので人に見られるのは拙いのだ。下手したらギルドに討伐依頼が寄せられることになる。
「じゃあ……もっと人気の少ないところまで行こうか」
5mほどもある銀狼モードのギンちゃんの首筋にしがみついて、より人気のないところへと向かう。銀狼モードでもかなりの速度が出るのだが、例のグリフォンの住処まで行くにはもう少し早い方がいい。そのために別のモードを使うのだが、銀狼よりも目立つので街道からもかなり離れないといけないのだ。
「んー。この辺りでいいかな」
「ウォン!」
わたしの声を聞き取ってギンちゃんが徐々に速度を落としながら停止する。周囲は開拓もされてない完全な荒地で、尻尾感知にも嗅覚聴覚感知にも人の気配は感じ取れない。多少の魔物はいるみたいだが、それは別に構わないだろう。
「じゃあギンちゃん、久しぶりに銀竜モード!」
「ウオォォォォォォオオン!」
遠吠えと共に、フサフサの毛並みがスライムのようなプヨプヨの感触に変化し、それと同時に姿かたちも大きく変わっていく。まず体長が10mほどまで巨大化し、手足がより強靭になって鋭い爪が生えてきた。背中からは1対2枚の翼が伸びて、徐々に体表が固くなっていく。
「グルアァァアァアアアアアッ!!」
銀色に輝く鱗と琥珀色の瞳を持った竜種がそこに顕現した。
飛竜や地竜のような下位竜種ではなく、真竜というドラゴン上位種。その中でも銀色の輝きを放つSSS級のシルバードラゴンだ。現在のギンちゃんの擬態の中では最強最速のモードであり、かつてワイバーン狩りをしたときの素材や魔核の余りを捕食させたら上位互換擬態できるようになっていた。
正直言って、すでにギンちゃんのランクはSSを超えており、その辺の魔物では相手にならない。状況に応じて様々な姿をとれるギンちゃんが相手なら、わたしでも無事に勝てるかは疑問だ。……というか勝てるかな?
ともかくこのモードならグリフォンの住処まで一直線に飛んでいける。大体2時間もすればたどり着くだろうから、サクッと倒してさっさと帰ろうと思う。サーチ&デストロイだ。
「ギンちゃんお願いね」
「グルァ」
小さく唸って翼を広げ、一気に上空まで飛び上がる。普通はこんなに高速で移動したり急に高度を上げると身体に負担がかかるんだけど、そこはわたしの『粒子魔法』で風とか気圧を調整しておいた。魔法便利すぎである。
ほぼ音速で飛行する銀竜モードのギンちゃんの上から地上を見下ろすと、景色が飛ぶように流れていく。そのまましばらくは空の旅を楽しみながら目的地を目指した。
「あれっぽいね」
「グルゥ……」
遥か上空から見下ろした先にある岩山の頂上には、何か生物らしきものがうずくまっているように見える。アレが恐らく例のグリフォンだろう。どうやら今は休んでいるらしい。
「ちょっとズルい気がずるけど、奇襲させてもらうのが一番ね」
背負った弓を左手に持って構える。
距離は大体500mと少し。この距離なら『白戦弩』を放てば音速を超えるまで加速できる。そうなれば音による感知など出来ない。何故なら音よりも早く矢が届くから。
「まぁ、この距離だと尻尾感知の範囲外だから外すかもしれないんだけどね」
銀竜モードのギンちゃんから少しだけ身を乗り出して『物質化』で真っ白な矢を形成していく。何度も使って慣れたので、今では1秒かからずに装填できるようになった。キリキリと弦を張りつめさせていき、目標物を見据えて集中する。
「当たって……『白戦弩・焦滅』!」
わたしの霊力を結合エネルギーとして蓄えられた白い矢は、加速をしながら寝そべるグリフォンへと一直線に飛んでいく。あっという間に音速を突破して3秒とかからずに標的へと炸裂した。
カッ!!
遥か下方で真っ白な熱の放射が球状に広がって周囲を焼き尽くす。『白戦弩』に込められた霊力を全て熱エネルギーに変換する霊術だ。光が収まった岩山の頂上付近では、周囲の瓦礫が赤熱して溶けかかっている。グリフォンの身体は大丈夫だろうか……?
「ギギャァァァァァ―――――!!」
金切声のような咆哮が聞こえてそちらを向くと、例のグリフォンが山頂から少し離れたところにいた。どうやら矢の直撃からは逃れたらしい。察知もできない速度だったはずだけどなぁ。
ともかく野生の勘のようなものでも働いたのだろう。熱の被害も最小限で済んだらしい。
「はぁ、仕方ない。ギンちゃん降りるよ」
「グルゥ」
グリフォンも既にわたしたちを察知しているみたいだが、自分よりも格上といえるシルバードラゴンがいることに気付いて近寄ってこないみたいだ。このまま逃げられるのは困るのでこちらから近づくことにする。
「誰も見てないし九尾化しておいたほうがよさそうね」
九尾化しておいた方が魔法の同時発動数が増えるので、念のため『人化』を解除する。さらにこの状態なら霊力や魔力の操作能力も向上するので魔法発動が楽になるという利点もある。
「さてと……逃がさないよ?」
「ギィィィィィイイッ!?」
銀竜モードのギンちゃんに乗って近寄るわたしを見て、グリフォンは少し後ずさる。もちろん逃がすつもりなどないので『白鎖縛』を6本出していつでも捕縛できるように周囲を取り囲んだ。白い檻のようにわたしたちとグリフォンを囲い込み、例え翼を使われてもすぐに反応できるようにしておく。
グリフォンも逃亡は無意味だと悟ったのだろう。覚悟を決めたようにわたしたちへと鋭い視線を向けて威嚇する。
「さぁ、かかってきなさいな!」
「グルオォォォォッ!」
「キギィッ!」
5分ほどの戦闘音の後、岩山周辺は静かになった。
とある目撃者によると、風を切る音や爆発音が鳴り響き、目を向けられないほどの謎の発光も観測できたという。そしてそれが収まると、山頂から銀色に煌めく竜が飛び立っていったそうだ。