62話 皇帝との謁見(後編)
続けての投稿です
確かランドリス公爵は【マナス神国】の光の教団と繋がって帝国転覆を謀った貴族一派の頭だったと記憶している。とすると没落して彼の邸宅は空っぽということだ。それを再利用するのか?
「えっと・・・それっていいんですか?」
「ああ、いいとも。ランドリス公爵以外にも多くの貴族邸宅が空き家となってしまったからね。元々どれかを孤児院に変えてしまおうと思ってたから問題ない。既に議会の了解も得ていることだ。形としては僕自らが支援した君の孤児院ということになっているから、土地も屋敷も君の物だよ」
ま、まじですか
「かなり大きな屋敷だから、18人が暮らす程度では有り余ってしまうほどだよ。多分200人は住めるんじゃないかな? 雇ってもらうメイドや執事たちも住み込みになるから、子供ばかりじゃないけどね」
「でも、貴族のお屋敷ってことは貴族街ですよね? 他の貴族に煙たがられたりしないんですか?」
「この国の貴族街は、要は裕福な市民層のためにある区画であって、決して貴族だけの区画じゃないんだ。ボクの国では1等区と呼んでいるね。店も一流ばかりが揃った自慢の街並みさ」
「それなら大丈夫そうですね。わたしもランクS冒険者ですから地位もありますし」
「うん、そうだよ。どの国においてもランクS冒険者は市民以上の扱いだからね」
ランクSと言えば、残念勇者やエレンさんのようなランク特Sに次ぐ最強の冒険者たちだ。一応世界にはわたしを含めて9人だけの存在らしい。強さSSSのわたしはそのなかでもトップクラスなのだ。
「そういう訳でよろしくね、ルシア君」
「ええ、分かりました」
最上級の土地に、大きなお屋敷も手に入れた。一応わたしの家でもあるので少し興奮する。メイドや執事を手配してくれるみたいなので、後で給料の相場でも調べておこう。いろいろやることが出来た。
「あと、最後にもう一つ」
やる気に満ち溢れていたわたしはまだ何かあるのかと、皇帝を見つめ返す。
「僕と盟約を結んでほしい」
「はい?」
「陛下っ!」
ゾアンにとっても予想外の言葉だったらしく、わたしと同時に奇声をあげる。
ナルスの皇帝と盟約? つまり公式にお友達になれと・・・・?
「畏れながら陛下。いくら何でも今日会ったばかりのルシアと盟約を結ぶと言うのは・・・」
「ふふふ、ゾアン。このルシア君は冒険者ランクSであり、戦闘が苦手な狐族にも関わらず謎の魔法を使いこなして君を追い込んだと聞く。まるでおとぎ話にある九尾の原種のようじゃないか。それに帝国の危機にも手を貸してくれた。僕は個人的に彼女と友人になりたいと考えている」
鋭い。
確かにわたしは原種の九尾妖狐だしね。
しかし皇帝と友人になって困ることってあったっけ・・・?
「そういう訳だ。いいかな、ルシア君?」
皇帝の揺るぎそうにない意思を見て、ゾアンも諦めたらしい。もう少しごねるかと思ったが、意外とすんなり引き下がった。
それに皇帝と友人関係なら、主従じゃないから命令とかを聞く必要もないし大丈夫かな?
「はい、いいですよ」
「そうか! それは良かった。ではこれを受け取ってくれ」
そう言って皇帝はデスクの引き出しから何かを取り出し、ひょいとこちらに投げてきた。まさか投げ渡すとは思わなかったので、慌ててソレをキャッチする。
みるとソレはどうやらペンダントらしい。翡翠のような綺麗な緑色の宝石がはめ込まれており、その周囲には何やら魔法陣のようなものが刻み込まれている。
「それはこの帝城の入城許可証だよ。君の霊力を通して登録すれば君以外には使えなくなるというスグレモノなのさ。気に入ったかい?」
ふぅ・・・
取りあえず落ち着こうか。
帝城の入城許可って・・・そりゃゾアンもああいう反応するわけだ。まぁ、あって困るものじゃないし、貰えるなら頂いておけばいいかな。
早速ペンダントを首にかけて霊力を通す。宝石部分が一瞬だけ少し光ったので登録が完了したのだろう。
「それで登録は出来たよ。次からは帝城の正面から入ってくるといい。帝城には結界が張ってあるんだけど、そのペンダントは結界を中和する効果があるから自由に出入りできるよ。門番に呼び止められてもそえれさえ見せれば通してくれるはずだ」
「そんなのわたしに渡しても大丈夫ですか? 暗殺し放題じゃないですか」
「君はそういうことをしないと思ったからね」
余裕の笑みを浮かべる皇帝。信用されているのは悪くないけど、こんな簡単に信じて皇帝が務まるものなのかは疑問だ。それとも何か企んでいるのか・・・?
「君は何故僕が簡単に信用すると言ったか疑問に思っているみたいだね」
「あ、顔に出てました?」
「出てたよ。それに僕もだてに皇帝をしているわけじゃないさ」
皇帝は少しの間だけ目を閉じ、ゾアンに顔を向けた。
「ゾアン、ルシア君と少し込み入った話をするから離れてくれるかな?」
「ダメです陛下。さすがに外部の者と2人きりにさせる訳にはいきません」
「彼女は僕の友人だよ」
「それでもです」
「まぁ落ち着けゾアン。仮に彼女が僕に何かしようするなら、ゾアンが居ても居なくても変わらないさ。君は強さランクSSSの冒険者の本気を一瞬でも止められる自信があるのかな?」
「そ・・・それは・・・」
「彼女をここに呼んだ時点でそのような杞憂は無駄なんだよ」
「わ、わかりました」
そう言い残してゾアンは部屋から消えた。
まぁ確かにここで皇帝を殺すのならば『大気圧殺』で一瞬だ。文字通りあっという間に終わらせることが出来る。それを理解していてわたしと謁見するとは中々に度胸のある人だ。
「さてと、さっきの君の疑問に答えようか」
再び皇帝がこっちに向きなおって話し始める。
さっきの疑問というと、何故そんな簡単にわたしを信用したかって話だな。
「話し始めると長くなるね。まずはこの国の建国からだ。
この国は初代勇者と呼ばれる者が建てた国なのだよ。彼は魔王を討伐しに魔族領へ行き、初代魔王と出会ってきたそうだ。だが彼らは戦いにはならず、話し合いで和解し、盟約を結んだと聞く。それ以来、歴代の皇帝とその魔王との間には代々続く繋がりがあるんだ」
まさかの勇者と魔王が和解だと・・・
そうか、それでこの国は魔族と親交を持とうとしているのか。
「初代勇者、つまり初代皇帝はこの国を建国するときに種族差別を廃止し、言論や宗教の自由を認めた。そして国は帝国民の最低限の生活を保障すると宣言したんだ。だからこそ僕はスラムのことを問題視していた。
そして初代皇帝は冒険者ギルドを設立し、学院を建てて教育の場を整えたのさ。たったの一代でこの帝国の基盤をほとんど作り上げた天才、それが初代皇帝なんだよ」
なんだか日本国憲法の内容と似ているなぁ。
やっぱりタカハシってのは高橋のことなのかもしれない。
「そして初代はルード・コウタ・タカハシ・ナルスを名乗ってある言葉を残した」
はい、確定。
初代はわたしと同じ日本人の転生者ですね。
「『次代の皇帝はタカハシの名を名乗れ。これが皇帝の名である。そしてもしタカハシの名を聞いて何か反応を見せる者が現れたら盟約を結ぶといいだろう』とね。君は僕の名を聞いて、一瞬だけ眉が動いた。僕には何のことかは分からないけど、何か通じるものがあったのだろう?」
「・・・・・」
「これが君と盟約を結んだ訳だ。それとこの話は代々の皇帝が口伝で伝える秘密だから、無闇に他言してはいけないよ?」
わたし以外の転生者か。
もしかして和解を結んだ初代魔王も転生者なのか?
知りたいことが結構出てきたな・・・・。
「あの、質問ですけど、帝国って噂通り魔王と親交があるんですか?」
「あるよ」
「魔王って複数いますよね。全ての魔王と仲がいいってことですか?」
「ああ、それは違うよ。親交があるのは初代魔王であり、現最強最古の彼だけさ。というより人族と共存することを好まない魔族たちが集まって彼以外の魔王が誕生したらしいよ」
そういうことか。
わたしは神? から種族間の争いを無くして欲しいと頼まれたけど、他の転生者も同様に頼みごとをされたのだろうな。だから勇者と魔王が和解して、今も帝国と魔王の国が友好関係にあるんだろう。
「事情は把握しました。そういうことなら是非とも皇帝陛下と友人関係になりたいと思います」
「そうか。よかったよ」
まぁ、それを抜きにしても一国の主と繋がりがあるというのは強みになる。無用に他言するつもりはないけど必要になるときがくるだろう。
「これで話は終わりだよ。子供たちのことや屋敷のこと、それから雇うことになる人員の件は追って連絡することになると思うよ」
「はい、わかりました」
「ああ、それと友人関係なんだから敬語は使わなくていいよ。呼び方も・・・そうだね、アルとでも呼んでくれたらいい」
「いいんですか? それ?」
「僕が許すから問題ないよ」
「年上に敬語は癖なので勘弁してください。呼び方についてはアルさんと呼ばせて貰いますので」
「まぁ・・・いいか。強要するものでもないしね。帰りは普通に正面から帰るといい。ペンダントがあるからね。侍女を呼んで案内させよう」
アルさんが机の上に置かれたボタンみたいなのを推すと、ドアがノックされて侍女さんが入ってきた。どうやらファミレスとかにある呼び出しボタンみたいなものらしい。
侍女さんはわたしがいることに少し驚いていたが、さすがはプロなのか、すぐに顔を戻していた。
「彼女は私の友人のルシアだ。今帰るところだから外まで案内しろ」
「かしこまりました」
さすがのアルさんも侍女の前では皇帝モードで口を開いていた。先ほどの柔らかな物腰とは打って変わって覇気のある威厳の籠った声だったことに少し驚いたけどね。
侍女さんに案内されて長い通路を歩き回り、階段を何度か降りて、広い中庭を通過し、ようやく正門までたどり着くことが出来た。お城広すぎでしょ・・・。
「ではルシア様。私はこれで失礼します。お気を付けてお帰りください」
「あ、うん、ありがとね」
庶民なわたしには大袈裟すぎるVIP待遇に若干引きながらも帝城を後にした。
あと、ペンダントは面倒の元になりかねないので服の内側に隠すことにした。




