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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
4章 イェーダ教団
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54話 パズの決意

ようやくテストが終盤になってきた。

あと2科目頑張れば投稿速度も速くなるはず!

「さて、余計なことは省いて本題だけ言おう」


 

 ゾアンに連れてこられた部屋は彼の執務室兼寝室の豪華な造りで、わたしもまだ潜入したことのない数少ない部屋の一つでもある。夜中に行動してもゾアンの寝室には部屋の主が常にいるので、入る機会が全くなかったのだった。黒幕につながる最重要書類はこの部屋にあると睨んでいるが、調査は不可能だ。仮にゾアンを始末したとしても、もし黒幕とつながりのある証拠がなければトカゲの尻尾切りになる可能性もあるので大胆な行動に出れないのだ。


 

 そういう訳で、そんな重要機密が眠ると思われるゾアンの部屋にどうやらわたしたち5班は秘密で呼び出されたらしい。部屋の中の気配を探ってもゾアン以外の覆面男たちの気配は全くない。今は尻尾感知が使えないので、巧妙に気配を隠されていたら気づかないが、それでもわたしの気配察知に引っかからないような実力者が隠れているのだとすれば、ゾアンからの信用の高い側近であると考えられる。

 どちらにせよ、それなりに秘密のお話しをしたいらしい。



「明日、同志リゲルの率いる1班を中心に他の同志たちを伴って、貴族のターゲットを暗殺する予定なのは知っているな?」



 知っている。

 わたしを含めた5人は頷き返す。



「そして最近の仕事の達成率が全くのゼロだというのは知っているかな?」



 これも知ってはいるが、あえて首を傾げた。

 この情報に関しては教団内で公になっていないので知らないふりをしなければおかしいと思われることになってしまう。他の4人も同様に首を振って顔を見合わせている。



「どうやらこちらの情報が漏れだしているらしくてね。ターゲットになった『悪』を襲撃すると、ことごとく警備が固くなっているのだよ。初めは偶然かと思ったが、ずっと同じようなことが続くものだから教団内に裏切者がいる可能性に行き当たったのだよ」


「なんですって?」

「ゆるせねぇな」



 白々しくも驚愕と怒りの表情を浮かべる。パズも同調して静かに声を荒げた。レナとジーナもコクコクと頷いているが、リオンは相変わらずぼーっとしている。リオンはともかく、これほどまで洗脳されているのなら、事件後の子供たちの処理が大変そうだ。



「当然イェーダ様を裏切るなど赦すことはできない。いや、もしくはその裏切者は初めからこちらの動きを探るために送り込まれた『悪』の手先なのかもしれないのだ。いったい誰が裏切者なのかはまだ分かってないのが悔しいところだな」



「コソコソと隠れて汚い」



 レナにバッサリと言われたが、わたしですねコソコソとしているのは。でも同じ部屋にいるのに気づいてないのは君達ですよ? 君達が寝静まった後にコッソリ起き上がって部屋を出ていることに気づかないのが悪いのです。わたしは悪くない。



「うむ。その教団内部の敵は私が個人で探しているが、なかなか尻尾を出さない。敵もかなりのやり手を送ってきたらしい。 どちらにせよ君達5班の手に負える相手ではないから私で対処する」


「でしたらわたしたちを何故ここに呼んだのですか?」


「明日の1班の仕事を監視して欲しいのだ。絶対に誰にも、敵にも味方にもバレないように秘密裏に観察して欲しいのだ」



 監視?

 援軍ではなくて?

 しかも味方にもバレてはダメということは、一切の手出しは無用で終始観察に徹底するということだ。とすると、味方の中に敵と接触する奴がいるかもしれないからそれを見つけろということか? そもそもゾアンはどうやって情報が流出しているか分かってないみたいだし、もしかして暗殺任務中に情報を受け渡していると考えたのか?


 首をかしげて「訳が分からない」といった顔をするわたしたちを見てゾアンが続ける。



「そう、援軍ではなく観察だ。教団内に潜入していると思われる敵は、アジト内では全く尻尾を出してないため、もしかすると仕事中に密かにこちらの情報を受け渡ししているのではないかと疑ったのだよ」



 やっぱりそういうことか。

 まぁ、侵入しているスパイはわたしだから無駄な努力だけどね。



「今回1班以外にこの仕事に向かうメンバーは5人だ。つまり丁度お前たちの班と同じ数。1人ずつ見張って怪しい行動をしないか観察して欲しい。それが君達の仕事になる。私が君達に期待しているのは暗殺の仕事ではなく諜報、つまり情報収集だ。子供たちの班の中でも随一の隠密能力を保有する5班の活動は基本はこれになる予定だ」



 わざわざスパイのわたしを諜報部にするとは・・・。知らないこととはいえど、滑稽を通り越してもはや哀れとすら感じる。まさか子供の中に侵入者が隠れているなんて夢にも思ってないんだろうな。


 そうは言っても、暗殺の仕事をしなくていいのならこちらとしてはありがたい。どうやって暗殺の仕事を誤魔化しながらこなそうかと考えていたから好都合と言える。

 わたしたち5班はパズを除いて全員が隠密行動に優れている。とくにリオンが音もなく滑らかに動いていたのは驚きだった。パズは足音はともかく呼吸と身体の動きを上手く合わせるのが下手で、どうしても気配が漏れ出している。中途半端な隠密なので、逆に囮としては優秀だけどね。



「ともかく5班はしばらく他の者の仕事を観察して裏切者を探し出して欲しい。もちろんこれは極秘なので誰にも話すな。明日、彼らが仕事に出かけた後を追跡するように出かけてもらう。直前に私が呼びに行くから、常に準備しておけ」


『はいっ』


「よろしい。では下がっていいぞ。よく寝ておけ」




 

 ゾアンの部屋を出てわたしたちの部屋に帰る途中、皆は終始無言だった。

 初仕事に緊張しているのか、裏切者がいることに驚いているのか、思い思いに考え込んでいるような顔をしながら足音だけが石造りの通路に響いた。























(裏切者か・・・・)


 部屋のベッドに寝転がって考え込むパズ。


 思えば数か月前まではスラムを放浪するただの孤児だった。共に行動していたレナとジーナも合わせた3人で毎日ゴミを漁ったり、日雇いの仕事をしたりして何とか生き延びてきた。

 何故自分がスラムにいるのかというと、スラムで娼婦をやっていた母親のせいだ。誰の子かも分からない自分を何だかんだで育ててくれた。


 何かの流行り病にかかって母親が死んでしまったため、孤児として生きていくことになった。その頃に出会ったのがレナとジーナだった。

 自分と同じで娼婦の子供であり、母親を奪った流行り病で親を亡くしたという。境遇が同じ者どうしで何となく行動を共にするようになった。


 スラム特有の縄張りに引っかかって追い回されたり、奴隷商人に捕まりそうになったり、雨を防げずに3人同時に風邪をひいたりと苦労の連続だった。


 そんなある時だ。

 眠っている間に黒い恰好をした男たちに攫われて馬車に乗せられた。抵抗しようにも縛られて口も塞がれてしまい、どうしようもない状況。




 ―――とうとう奴隷にされるのか




 そんな諦めの感情が湧いたが、どうやら黒服の男たちは奴隷商人の手先ではなかったらしい。

 地下に連れていかれ、服と食事と寝る場所をくれた。


 スラムで育ったパズはイェーダ教団の噂やこの教団の歪な教義がおかしいとは全く考えない。ただ家族とも言えるレナとジーナを守ることだけが全てだった。


 されるがままに教義を受け入れ、暗殺訓練をこなしてきたパズにとって、家族を守ってくれるイェーダ教団を害する者は敵でしかない。幼く、スラムで育ってきた故にある意味純粋な信仰心を植え付けられてしまっていたのだった。



(教団の中に『悪』が潜んでいるのなら・・・俺が見つけて消してやる。レナとジーナ・・・それにルシアとリオンにも手はださせねぇ)



 教団内の子供たちは皆、スラムで育った見捨てられた者たちばかりだ。

 それ故に感じてしまう。

 ひたすらに虐げられた自分の同類も、教団ここでは笑って、安全に過ごしているという安心感。そして『悪』を滅ぼす組織と言う優越感を。



 胸に秘めた決意を熱く燃やしつつも、意識は沈み夢現へと移ろってゆく。

 微睡む意識の中、何かの気配を感じてうっすらと目を開くと、何かの黒い影が見えた。



 大量の尻尾を生やし、頭には獣耳を付けたルシアの顔だと気づいたパズは思考を巡らせる。



(ルシア!? あの姿はなんだ? それとも夢・・・?)



 ルシアが扉の前に立つと、音もなく扉が開くのが見えた。

 鍵は閉まっているはずの扉が音もなく静かに開く光景をみたパズはそのまま意識を闇へと沈める。



(な・・んだ・・・やっぱり・・・ゆ・・め・・・・)








 深夜を徘徊する侵入者を知る者は誰もいない。









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