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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
4章 イェーダ教団
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53話 小隊長就任

テストばっかりで投稿が遅れます

もう少しで春休み!

「両者構えて・・・・」



 土で出来た地面の訓練場で向かい合う2人。

 お互いにまだ武器は抜かず、緊張した面持ちで佇む。2人を囲むように観戦する黒ずくめの者たちの中には子供ぐらいの背をしている者が多くいる。全員が口元を隠す覆面を着けているが、審判役と思しき男のみがそれを外している。



「これより同志パズと同志ルシアの模擬戦を行う。では始め!」



 始まりと同時に駆け出すパズ。対するルシアはその場から動かずに受けの構えのみとった。

 初動の小さいジャブのような牽制の左手をルシアは軽くいなし、本命である右手のパンチを的確に避けていく。たまに繰り出される足払いもスルリと躱しながら、タイミングを計るように黙々と攻撃を捌く。



(今っ!)



 何度目かの右ストレートを紙一重で躱し、そのまま伸びきったパズの右手を掴み、一本背負いの要領で背後に投げ飛ばす。

 だが、パズも空中で態勢を整えつつ受け身を取りながら綺麗に着地した。しかし、その瞬間に隙が出来たことは変わらず、ルシアが投擲した2本のナイフで服の端を地面に縫いとめられた。

 立ち上がろうとしたパズは、縫い止められた服によってバランスを崩し少しの間動きを止める。それを逃がさずに近づいたルシアが素早く駆け寄って側頭部に蹴りを放った。



「うっ、くっ!」



 ギリギリでガードするが大きく吹き飛ばされて地面に転がるパズ。

 ルシアが首元にナイフを突きつけて、同時にパズの口元を抑えた。







「そこまで! 勝者は同志ルシアだ」



 おおおおぉ!


 少しどよめく様な歓声があがり、ルシアはパズからナイフを除けて手を差し伸べた。パズもその手をとって軽やかに起き上がる。



「ちっ、負けちまったか」

「パズのパンチは本命が必ず右手だからね。動きが読みやすいよ」

「その通りだ。もう少し身体を柔軟に使えば自然な蹴りも放てる。相手にパターンを読ませない動きを心がければ一流になれるぞ」

「はい、ゾアン様」



 審判をしていたゾアンは表情を変えずに大きく頷く。



「ではルシアを第5班の隊長にする。依存はないな?」

「「はい!」」

「では今日は新たな小隊の誕生を祝うことにしよう。ルシアは夕食のときに何か一言貰うつもりだから、一応考えておくように」

「わかりました」


「あとは各自で好きにしていろ」



 そう言い残して訓練場を去っていくゾアン。

 模擬戦を見ていた他の覆面や子供たちも思い思いに模擬戦や武器の練習を始めた。



――――――――――――――――――





「ふう・・・」



 イェーダ教団に潜入して2か月。

 とうとうわたしたちも実践投入されることになった。

 それで同時に教団に入ることになったパズ、レナ、ジーナ、リオンと班を組んで1つの小隊として活動するため、小隊長を決める模擬戦をすることになったのだ。

 とは言ってもゾアンが5人の中でも実力の高いわたしとパズの勝った方に隊長を任せると言っただけなので、実際のところレナとジーナとリオンは戦ってない。


 暗殺訓練もナイフの振り方から始まり、今では歩法や体術や投擲術も皆が習得している。もちろん熟練度に差はあるが、普通の子供と比べれば戦闘力は十分に高い。ちなみにわたしはトップクラスだ。





「第5班の隊長になったんだね。おめでとう同志ルシア」


 

 不意に後ろから声をかけられ、振り返るとリゲルがいた。リゲルは第1班の小隊長であり、子供たちの中では最強ということになっている。当然本気を出せば、わたしが一番強いけどね!



「ありがとう同志リゲル。これから頑張らないとね」

「そうさ。イェーダ様のためにも悪い奴らを滅ぼさないとね」

「う、うん。まぁね・・・」

「じゃあ僕はここで。明日は久しぶりに仕事があるからね」

「そう。頑張って」

「ああ、もちろんさ」



 手を振って1班のメンバーの元に向かうリゲル。

 彼の言う仕事とは明日行われるとある貴族の娘の誕生日パーティに現れる人物を暗殺することだ。一昨日の夜にコッソリ調べさせてもらったので間違いない。依頼書と共にターゲットの情報がまとめられた資料があったので書き写してギンちゃんに届けさせた。恐らく秘密裏に護衛が手配されているハズなので問題ないだろう。


 ここ最近はわたしが情報を流しているので暗殺は全て失敗している。子供たちが寝静まった後で苛立ちを見せながら愚痴る覆面たちの会話を聞いたので間違いない。やはり後ろ盾がいるらしく、「信用が下がった」「支援金が減った」などと言っていた。

 さすがに情報の洩れを疑っているみたいだが、その疑いの目は覆面たちの間だけで交わされるため、わたしを疑う者は一人もいない。もっとも、まさか子供の中にスパイがいるなどと予想できるとは思わないけどね。


 暗殺組織としての情報は粗方調べ上げたので、既に確定している。アジト内の構造もほとんど把握しているので、後はアジトの位置と後ろ盾についてさえ調べれば完璧だ。この組織を支援していると思われる存在についてはギルドでも調べているみたいだが、結果は芳しくないらしい。それもこっちで調査した方がいいだろう。


 そうは言っても黒幕とのつながりを示すような書類は見当たらないので、別の場所に保管してあるのか、もしくは直接会って取引しているのかもしれない。こちらとしてもそろそろ手詰まりなのだ。

 


(もうじき潜入も切り上げる方がいいかもね。今夜あたりに連絡入れておこうかしらね)





 カンカンカンカンカーン



 けたましく金属音が鳴り響き、思わず耳を塞ぐ。

 毎日何度も聞いてはいるものの、なかなか慣れないものだ。いつ鳴るのか分からないため、とんでもなく心臓に悪い。潜入当初は「空襲警報かよ!」ってツッコみを入れそうになったほどだ。



「鐘が鳴ったってことは夕食ね。ゾアンが何かコメントしろって言ってたな。ちょっと・・・いや、ものすごくメンドクサイ」



 少しばかり肩を落としながら食堂へと足を運んだ。















「先ほど、同志ルシアが第5班の小隊長になった。そこで今日の食事は少しだけ豪華だぞ?」


 食堂に集まった子供たちや覆面の男たちを前にして仰々しく声を張り上げるゾアン。

 確かに今日は、いつもの小さなパンと草のスープの他に串焼きの肉が1人1本ずつ用意されていた。ここでの食事はほとんど肉が出ないので、少しばかり嬉しい。普段はスープに豆が入っていることが偶にある程度なので、子供たちは食事を前に待ちきれないと言った顔をしている。



「では今回の主役の同志ルシアから一言貰おうか」

「はい」



 来たか。

 模擬戦後にゾアンから聞いていたので、ちゃんと考えたから大丈夫だ。

 その場で立ち上がって周囲を見渡し、深呼吸する。



「第5班の小隊長になったルシアよ。まだ任務をしたことはないけれど、第1班みたいにイェーダ様のために悪人をたくさん討伐するつもり。活躍してイェーダ様に認められるように頑張るわ」



 考えておいた文章を一気に言い切って座る。先ほどから子供たちの視線が肉から離れないので、短めにした方がいいだろうという配慮だ。わたしは空気が読める元ジャパニーズピーポーなんです。



「ククク・・・良い心がけだ。きっとイェーダ様も見ていてくださる。では今日の食前の祈りは俺がやるとしようか。では祈ろう。

 我らが救い主、イェーダ様。

 今宵はあなた様のための新たな部隊が誕生しました。小隊長の同志ルシアはもちろん、第5班の者にあなたの祝福が与えられるように。

 そして祝いの食事を存分に感謝します。どうか我らにさらなる力が与えられるように。

 あなたの敵を滅ぼすと誓って祈ります」


『祈ります!』




 ふぅ・・・

 相変わらず嫌なお祈りだ。

 わたしはこの教団が子供たちを洗脳するための茶番だと知っているので、正直言って胸糞悪い思いで頭がいっぱいだ。一回わたしの当番になったときは、軽く黒歴史になったぐらいだ。2度とやりたくない。


 一方で子供たちは、食事が始まるやいなや肉に齧り付いている。よほどおいしいのだろう。微笑ましい限りである。リオンも笑顔でいっぱいだ。この仕事が終わったら好きなだけ食べさせてあげよう。


 串に付いた肉は小さめにカットした物が4つほど付いているだけ。すぐに食べ尽くしてしまった子は、まだ食べている子を見て羨ましそうにしている。わたしはおいしくない草のスープの口直しに食べようと思ったので、羨みの視線を存分に浴びることになった。



(((同志ルシアはまだ残してる・・・)))

(ふ・・・上げないよ)

(((ちっ・・・)))



 こんな無言のやり取りもあったけど気にしたら負けだ。どうせこの後「ありがたーいお言葉」と言う名の催眠魔h・・・じゃなくて無駄話・・・でもなくて茶番が待っているので英気を養うためにも肉を渡すことは出来ないのだ。
















「では今日はここまでだ。各自の部屋に入って寝ることだな」



 ようやく・・・ようやく終わった。

 この『眠りを誘うシアター・オブ・底なしの茶番スリーピングスパイラル』をなんとか乗り切ったよ。もう夜中に抜け出して調査なんかやりたくないぐらいには疲れた。

 まぁ、やりますけどね。




「今日も疲れたなー」

「うん・・・」

「ふぁあぁぁあ。眠たいーい」


 パズ、レナ、ジーナもすっかりお疲れのようだ。

 ちなみにリオンは例のごとく居眠りしていた。マイペースは健在である。

 寝ぼけたままのリオンの手を引っ張りながらなんとか部屋まで連れていくのは、すっかり日課になってしまった。もちろんわたしの仕事だけどね。


 取りあえずわたしたちの部屋に戻ってリオンをベッドに転がし、わたしも横になる。もしリオンが上のベッドだったら面倒だっただろうな、などと考えていると扉を開けてゾアンが入ってきた。



「第5班、全員いるな?」


「あ、はい」

「え? ゾアン様?」

「・・・はい」

「・・・ZZZ」

「全員います。一人寝ていますが」


「そうか・・・まぁいい。今から俺についてこい。寝ているソイツも連れてくるんだ」



 どうやらいつもの如く、扉の鍵を閉めに来たわけではないらしい。

 ゾアンは一応この組織のトップだ。わざわざ呼ばれるということは何か重大なことがあると考えられる。とすると第5班の件か? それともわたしのスパイがバレたのか? いや、それならわたしだけ呼び寄せるわね。それに確実とは言わないけど、高確率でまだ気づかれてないはずだし大丈夫か。



 なにはともあれ、付いて行くしかないみたいね。






 

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