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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
4章 イェーダ教団
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50話 同志

 謎の男の前に立たされた私たちは後ろ手に縛られたまま、猿轡のみ外された。ここで騒いだとしても対処できる自信でもあるのか? まぁ、マズイ行動はしないつもりだけど。なぜってこの覆面たちは帝都に入る前の【ナル・ミリの森】で遭遇した暗殺者と同じ格好だ。いよいよイェーダ教団が怪しいだけに慎重に行動しないといけない。『人化』してるから大丈夫だと思うけど、顔が割れてるかもしれないしね。


 それにしても”感謝しますイェーダ様”かぁ。

 取りあえず第一段階はクリアかな。無事(?)誘拐されたから、次は内部調査しないといけないんだけど、リオンを含めてわたし以外の被害者が4人。恐らくもっといるハズだから、その子たちの脱出も考えないといけないんだよね。

 うわー、改めてメンドクサイ仕事だわー。






 なんて考えていると覆面を外した男が話し始めた。


「ふむ、少々怯えているようだ。安心したまえ、君たちに危害を加えるつもりはない。寧ろ、私たちは救済を与えに来たのだ。

 そう! 君たちは選ばれた! 偉大なる我らの神、イェーダ様に!」



 怪しさ満天ですね、はい。

 


「君たちスラムの子供は、毎日穢れた大人たちのせいで酷い生活をしているだろう? 彷徨えど仕事もなく、運よく働くことが出来ても扱使われるだけで報酬などほとんどない。僅かに手に入れた食料も大人たちに奪われる。そんな経験をしてきたはずだ!」



 その通りだ。

 わたしもスラムで2、3週間ほど過ごしただけだが、そのことを身に染みて体験している。何度魔法を使おうとして自制心が歯止めをかけたことか・・・



「だが、もう安心だ。子供たちよ!

 イェーダ様は君達を見捨てない! 我らは穢れた大人たちを排除し、恵まれない君たちのような者に手を差し伸べる。もう食べるものを心配する必要はない。着るものも寝る場所も!」



 ほー。なるほどね。

 不自由な生活をしているスラムの子供たちを篭絡するってことか。いよいよ洗脳臭がしてきたな。最悪薬品が使われることも考慮してたけど、思考誘導ぐらいなら放置でいいか。



「ほ、ほんとに食べるものがあるの?」

「バカ! 嘘に決まってる! もう騙されないぞ!」

「え? 嘘なの?」



 わたしとリオン以外の3人もバカではないみたいだ。あまりに簡単に鵜呑みにしたらどうしようかと思ったけどね。そう考えるとリオンはお人よし過ぎる。ちゃんと後で注意しないとね。



「ふふふ。まぁ、そう考えるのも当然だろう。だが、私の言葉に嘘偽りはない。

 ついてきたまえ。食事の用意は整っている。それに君たちのように、我らが保護した子供たちはたくさんいるのだ。そんなに警戒する必要はない」



 そう言って男は踵を返し、ボロ小屋へと入っていく。両腕を後ろで縛られたわたしたちは背後に控えた覆面たちに腕を支えられながら、というか引っ張られながら小屋へと連れて行かされた。



「痛っ! 離せよ!」

「あうぅ・・・」

「くっ・・・」


 わたしとリオンは無言で大人しく付いて行くが、他の3人は少し暴れているようだ。いやでも、普通はこんな風に攫われたら暴れるよな。リオンは素直だからすぐに人の言うこと信じちゃうし、とりあえずは大丈夫だろう。少なくとも逆らうとかはしないと思う。わたしも落ち着くまでは行動しないつもりだしね。



 男が入っていった小屋に入ると、そこはシンプルな造りの内装が並んでおり、とてもではないが何人もくつろげるような場所ではなかった。床は石畳でできており、木の丸机と椅子が2脚に何も並んでいない棚が一つだけ。広さも8畳ほどしかないので、せいぜい2人が住める程度だろう。



 っと思っていると、男が突然しゃがんで床に何かをした。すると「カチッ」という音がする。何かの鍵が開いたような音だったので、恐らく隠し扉でも付いているのだろう。その予想通り、男は石畳の一つに手をかけると、パカッと持ち上がり、地下に降りる螺旋階段が現れた。

 なるほど、本拠地は地下にあったのか。しかもこんなに巧妙に隠されたら見つからないのも仕方ない。わたしもこの小屋の位置を把握してないから、入り口の場所は全くの不明のままなんだけどね。いずれこの情報も持ち帰るとしよう。



「この階段を下りる。ついてきたまえ」



 どうしようもないと分かったのか、あの3人も大人しくなって階段を降りていく。側面にロウソクの火があるけど、足元は暗いから気を付けないと転びそうだ。両手を縛られてるから階段で転ぼうものなら大惨事は免れない。


 グルグルと螺旋階段を降り続けて3分ほどたっただろうか。ようやく一番下に着いたらしく、鉄でできた丈夫そうな扉が現れた。特に装飾もない取っ手がついただけのシンプルな造りで、鍵だけ一応ついている。もしかするとこの扉は侵入だけでなく、脱出も防ぐ役割があるのかもしれない。


 ギギギと嫌な音を立てながら開いた扉を潜り抜けると、そこは窓のない通路のような空間だった。明かりはロウソクの灯だけで、相変わらず足元が薄暗い。まぁ、地下だから当然だろうけどね。

 男が行くままに、通路を進み扉を潜っていくと、突然ある扉の前で男が立ち止まった。そしてクルリとこちらに向きなおって後ろの覆面たちに目配せした。


 するとすぐさま覆面たちはわたしたちの両手を縛るロープを解きだす。どうやらやっと自由にしてくれるらしい。ずっと後ろ手で縛られていたせいで肩がすごく痛い。ぼんやりした明かりで手首を見てみると、薄っすら痣になっていた。結構長い時間縛られていたらしい。

 わたしたちの縄が解かれたのを見て、男が口を開いた。



「さて、この先には我らがイェーダ様の名のもとに保護した君たちと同じ境遇の子供たちが朝の食事をしている。これから挨拶と自己紹介をしてもらうが・・・自分の名前はあるかね?」


 

 わたしとリオンを含めた5人は静かに頷く。あの3人も名前はあるようだ。男の口ぶりから察するにリオンみたいな自分の名前がない子もいるのだろう。

 それに大勢の前で自己紹介するなんて、まるで転校生のようなノリだ。


 頷くわたしたちを見て、男は扉に手をかけた。扉を開くと、明るい光と共にカチャカチャガヤガヤと騒がしい音が聞こえてきた。男に続いて部屋に入っていくわたしたちをが見た光景は10人以上の子供たちが覆面や男と同じ黒い服を着てパンを食べている様子だった。

 パンパンと男が手を叩くと、さっきまでしていた物音はピタリと止んで一斉にこちらを注目した。軍隊のように整った動きでグルリと首を向けてくる光景はちょっとしたホラーだと感じたのはわたしだけではないハズ。



「子供たちよ。今日もイェーダ様は新たな同志を与えられた。君たちと同じく救済を与えられた5人を紹介しよう。順番に名前を」

 

 順番ってことはわたしからか? この沈黙の空気で自己紹介とか何の罰ゲームだよ。

 それより自己紹介だよね? 名前とかよろしくとかでいいのかな?



「ルシア・・・よろしく」


 スラムの出身っぽく素っ気ない感じで言ってみた。敬語とか使うと疑われそうだから気を付けないとね。あと文字も読めないふりしないとダメかな。


「ボクはリオン。ルシアの仲間だよ」


 おおおぉい! リオン! 余計な情報ばら撒くんじゃないよ!

 覆面共に利用されたりしたらどうするのよ!

 まぁ、言ってしまったものは仕方ない。せいぜい気を付けよう。



「私はレナです」

「・・・・ジーナ」

「俺はパズだ。レナとジーナには手ぇ出すんじゃねぇぞ!」


 レナはふんわりした短めの薄紫の髪をした女の子だ。対してジーナは栄養の行渡っていない痛んだ栗色の長髪をしている。パズは赤い短髪が特徴的で、レナとジーナを守るように振舞っている。わたしとリオンみたいな関係なんだろう。



「ふはははは。元気なことは良いことだパズ君。さて、これから君たち5人はすでにここにいる14人の子供たちと共に生活を送ってもらう。献身的にイェーダ様のために働くことで食べるものや着る物の心配をする必要はなくなる。その子たちを護りたいなら懸命になることだ」



 イェーダ様のために働く・・・ねぇ。一体何をさせられるのやら・・・



「ここに来た時点で私たちは同志だ。互いに助け合い、共に神であるイェーダ様に仕える。特に君たち5人は部屋も共にすることになるから仲良くしたまえ」



 おい! 男女別々じゃないのかよ!

 テレビじゃ放映できないあんなことやこんなことが起こったらどうするんだ! いやまぁ、わたしは撃退できるけどさ・・・



「そして14人の同志たちよ! 新たに加えられた同志を歓迎し、ここでの生活を教えてあげなさい。ルシア、リオン、レナ、ジーナ、パズも困ったことがあれば彼らに聞くといい。まずは朝食と感謝の祈りについて教えよう。さぁ、あそこの空いている席にいきなさい」



 怪しさと胡散臭さ満天の中、わたしとリオンと愉快な同志たちの信仰生活が始まった。







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