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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
4章 イェーダ教団
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48話 ランクS依頼

 


「イェーダ教団ですか。知ってます?」

「いや、初耳だな」

「あたしも聞いたことないね」


 教団というぐらいだから何かの宗教だと思うけど、生憎聞いたことがなかった。この世界で有名な宗教といえば【マナス神国】の光の教団だ。地球で言うところの3大宗教みたいなもので、これ以外の宗教となると一部の民族のみに信仰されているマイナーなものか、新興宗教となる。ランク特Sの残念勇者とエレンさんが知らないとなると、たぶん新興宗教だ。



「イェーダ教団を知らなくても無理はないわ。この帝国でもごく最近騒がれるようになったばかりだし、知っているのも国の上層部やギルドの高ランク冒険者、それに情報屋ぐらいですもの」

「なるほど。極秘とまではいかねーが、機密に近い情報ということか」

「そうとも言えるわ。それにイェーダ教団についての情報があまりに少なくて、安易に公開できないという面もあるの」

「間違った情報で国民が混乱する可能性があるからですね?」

「そうよ。11歳とは思えない賢さね」

「いえいえ」



 ま、中身は11歳じゃないからね。



「で、そのイェーダ教団のどこが問題なんだい?」

「さぁ? よく知らないわ」


「「「はっ?」」」



 ここまで引っ張っておいて「知らない」ですか。

 残念勇者とエレンさんも訳が分からないといった表情をする。



「知らないって言い方は語弊があるわね。正確には怪しい部分が多々あるけど、全く証拠がないの。さっきも言ったけどイェーダ教団自体の情報も少ないし、どこを本部にしているとか、どういった教義なのかとか信者の数、入信方法に至るまで分かってないの」

「なんだそれは? まるで暗殺組織とかテロ組織みたいな秘匿ぶりじゃねーか。普通の宗教ならその辺の情報はばら撒くものだろう?」

「確かにそうだね。そこまで情報がなかったら信者が増えない。そうなると教団の維持もできないしね」

「怪しさの塊ですね」



 マリナさんはイザードに向かって静かに頷いて言葉を続ける。

 

「それよ。暗殺組織!」

「・・・・何?」


「これもここ最近の話だけど帝都で貴族の暗殺や暗殺未遂が頻発しているの。すでに1人が暗殺され、5人が未遂を受けたわ」

「だが貴族の暗殺ぐらい起こるものだろ。必ずしも例の教団とは限らないんじゃないか?」

「ええ、でももう1つ情報があるの」

「まだあるのか・・・」

「これも最近なんだけど、スラムで誘拐が多発していてね。特に小さな子供・・・それこそルシアぐらいの子供がたくさん攫われているみたいなのよ」

「それがどう関係あるんだい?」

「その誘拐の瞬間を見たり聞いたりしていたスラムの住人が多くいてね。まぁ、スラムでは誘拐されて奴隷になる孤児も多いから誰も気に留めないのよ。なんとか聞き込み調査をしたところ、イェーダ教団の情報が出て来た、というわけ。それから、さっきの貴族の暗殺の話に戻すけど、暗殺者の中に明らかに背が低い子供みたいなのが混じっていたって報告があるのよ」

「それって・・・そういうことですか?」

「そうよ。イェーダ教団なる組織がスラムの子供を攫って、暗殺技術を覚えさせ、貴族の暗殺をさせている可能性が高いということよ」



 マジですか。

 要するに子供攫って、洗脳して組織の手先に仕立て上げるってことだよね。


「そんなことになっているなんて知らなかったよ」

「ああ、俺もだ」

「当然よ。ここ数か月で判明したことですもの」


 マリナさんも肩をすくめてため息を吐く。相当お疲れのようだ。








「それでイェーダ教団のことは分かりましたけど結局のところ、試験になる依頼ってどんなのですか?」


 このままだとマリナさんの愚痴に付き合わされそうな雰囲気になってきたので話を逸らす。まぁ、依頼の内容も大体予想してるけど、一応ちゃんと説明を受けておきたいしね。



「そうだったわね。ルシアに課す依頼は調査依頼。それもイェーダ教団に潜入して情報を集める極秘ミッションよ!」



 やっぱりね。怪しい動きとか状況証拠はあるけど、イェーダ教団に関する決定的な物証がない。となると下手に国やギルドが公に粛清するのはマズイ。逆に暗殺に関わっている決定的証拠があればテロ組織として処理する理由ができる。

 国家に関わるかなり機密度が高い依頼だけに難易度が異様だと言える。



「そもそもどうやってイェーダ教団を見つけるんですか? 入信するとしてもその方法も不明と聞きましたし、まさかその方法から考えるのが依頼だとか言わないですよね?」



 もしそうだとしたらかなり厄介だと思ったが、それに反してマリナさんはスッと微笑んで答えた。



「さすがに昇格試験でそこまで求めないわ。もしそれができれば冒険者なんか止めて、帝国の諜報機関に就職することを勧めるもの」


 そ、ソウデスヨネー。


「わざわざ潜入方法を見つけなくても、とっても楽に潜入できるわ。ただし、この方法はルシアにしかできないけどね」

「わたしにしかできない?」

「そうよ。まだ11歳でランクA冒険者。強さに関してはランクSSSの規格外。それに帝国にも来たばかりで、知名度も低いし顔も知られていない。こんな好条件を満たしているのはあなたぐらいよ!」

「まさか――――」



 マリナさんがニヤリと嗤う。美人さんがすると小悪魔的な微笑みとなって男を瞬殺させる効果でもありそうだが、今のわたしにとっては文字通り悪魔の微笑みに見えた。
















「あなたちょっとスラムに行って攫われなさい」









「マジですか」

「大マジよ」


 ドヤ顔で頷くマリナさん。

 残念勇者も「あちゃー」と言ってこめかみを右手で押さえている。エレンさんに至っては可哀想なものを見る目になっていた。


 本部のギルドマスターは伊達じゃなかった。こんな大胆不敵というかアホな作戦を考えるとは思いもよらなかった。昇格試験を受けると言ったときのマリナさんの顔はこういう意味だったのかと今更気づいた。まぁ、予想しろというのが無理な話ではあるけどね。



 つまり、スラムで子供たちが攫われているという現象を利用して潜入するわけだ。小さな子供という点ではわたしは条件を満たしているし、何よりランクA冒険者でもある。それに高ランクにも関わらず、帝都にはさっき来たばかりでまだ顔が割れていない。潜入にはうってつけだ。




「・・・・ちなみに依頼の達成条件は?」

「イェーダ教団と暗殺組織のつながりを示す証拠を持ってくること。もしくは確証が得られた場合に一人で壊滅させてもいいわ」

「恐ろしいことをサラリと言うんですね。かなりの長期任務になりそうです」

「無理だと思ったら中断して脱出してもいいわ。もともとこんなの昇格試験にできるほど簡単じゃないし」

「その難易度が高い依頼をマリナさんは受けさせようとしているんですけどね」



 マリナさんはバツが悪そうにするが、反省した様子はない。アレだ、反省も後悔もしていない、とかいうやつだよ。



「しかしこのレベルの潜入調査となると、本当に国の諜報機関クラスの仕事だぞ? 普通は一介の冒険者の手に負えるような依頼じゃないのは確かだ」

「確かにルシアは強いけど、11歳って年齢を考えると不安だね」

「そうね、でも逆にルシアにしかできないというのもあるわ。ぶっちゃけて言うと、私たちの調査はすでに限界なのよね・・・」

「またぶっちゃけましたね・・・」


 まぁ、しばらく暇だし別にいいかな。

 あとは報酬も聞いとかないとね。



「この依頼の成功報酬は?」

「そうね・・・お金なら金貨50枚かしら。なにか希望はある? できるだけ叶えてあげるわよ?」




 希望ね・・・・

 実際特に欲しいものとかないかもしれない。武器は『物質化マテリアライズ』で創れるし、宝石や装飾品にも興味はない。となると・・・・




「・・・無難にお金ですかね」

「分かったわ。他に質問はないかしら?」

「はい、残念勇者とエレンさんは?」

「ないな」

「あたしもないよ」

「そう・・・では宜しくね、ルシア」





 取りあえずわたしのお仕事は決まった。

 しばらくは潜入生活だな・・・よし、頑張ろう。














「ところで残念勇者ってのは何かしら?」

「それはカクカクシカジカで・・・・」

「それは・・・・ダメダメねイザード」

「まったくだね」

「その話はいい加減止めてくれ! 反省してるから!」

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