4話 窮屈な毎日
少しでも読んでくれる人がいるのはうれしいですね
1000年以上前になる。
かつて獣人たちは、人族に奴隷のように扱われていた。
獅子族
熊族
猫族
兎族
鳥族
そして狐族
6つの部族のみ現在は残っているとされているが、当時はもっと多くの部族がいた。
なぜこの6つのみ残ったのか?
運の要素もあるが、大きな理由はこれらの部族の特徴による。
基本喧嘩っ早く、実力主義な考え方の獣人のなかで、猫族と兎族と狐族は力が弱いゆえに隠密を好んだ。
奴隷狩りにあった仲間を助けに行ったために滅ぼされた部族は数知れない。
だが、この3部族はひたすらに隠れ続けた。
人族に見つかっても、立ち向かわずに逃げた。
だからこそ、滅ぼされずに生き残った。
その様から、この3部族は獣人のなかの腰抜けと蔑まれている。
その腰抜け部族が3つも生き延びているというのは皮肉な話だが。
獅子族と熊族は単純に強かった。
大量の霊力を宿し、身体を強化して戦い、生存を勝ち取った誇れる部族なのだ。
だが、人族の使う魔法を前に勝つことはできなかった。
彼らとて、生き残るだけで精一杯だった。
鳥族とは本来は有翼人という。
元は燕族や鷹族、白鳥族などがいたが、獣人と同じく人族に追われたいた。
とらえられた有翼人は翼をむしり取られ、貴族たちの衣服に用いられた。
翼を失った有翼人は奴隷にされた。
数を大きく減らした彼らは、1つにまとまり鳥族と名乗った。
狐、猫、兎の3部族に倣って、空に逃げることを覚えたため、最後まで生き残った。
1000年以上前では、彼らのところまで届く魔法がなかったことが幸いした。
そして900年前
狐族に九尾の神子が誕生した。
圧倒的な霊力で人族の魔法を退け、狐族の集落に強力な結界を施した。
だが、その九尾の神子は獣人すべてを救いたいと願った。
各地をまわり、人族を退けたが、神子といえども体は一つ。
すべてを救うことは叶わなかった。
それどころか、獣人は危険な生き物だとみなされ、討伐軍がたちあげられた。
九尾の神子はたった一人で討伐軍と戦おうとした。
だが、それを知った各地の獣人たちは、神子のもとに集まり、ともに戦いたいと願った。
神子の行動は獣人たちに勇気を与えたのだった。
このとき、はじめて獣人たちは団結した。
生き残るために・・・
九尾の神子は討伐軍を破り、人族と平和条約を結んだ。
獣人の領土として【イルズの森】を手に入れた。
人族との戦いで霊力を使い果たした神子は最期に魂の力をつかい、森全体に加護を施した。
ゆえに、今では【霊域イルズ】と呼ばれ獣人たちを護っている―――――
「――――というのが、獣人の歴史なのじゃよ」
「おぉぉ」
パチパチと拍手する。
今なにしてるかだって?
歴史の授業だよ。
5歳になった今は族長であるおじいちゃんのところで外の世界や歴史について勉強している。
このおじいちゃん・・・じゃなくて族長はハウル・フークスという名前なのだが、みんな「族長」としか呼ばないので、1年前まで知らなかった。
ちなみに姓は族長とその実子のみ名乗ることができるので、わたしは族長の孫であるため姓がない。
親に至っては、とうさまはホグ・フークスだが、かあさまはただのミアだ。
いきなり神子とか言われてはじめはよくわからなかったけど、すごい力を持っているらしい。
尻尾で霊力を感知できるのだが、わたしに比べるとほかの人たちの霊力は米粒みたいに反応が小さい。
転生して失敗したとか思ってたけど、実はそんなことなかった。
まぁ、わたしの寿命を使って能力を付加するとか神が言ってたから、相応だと思っておこう。
結構な霊力持ってるし神子だから大切に扱われるしで、なかなかいい生活をしているのだが、1つ不満がある。
それは、ほとんど自由がないことだ。
午前中はおじいちゃんもとい族長のところでお勉強だ。
これはまだいい。わたしも結構楽しんでるからな。それに異世界のことをまるで知らないから、情報収集は大切だ。
だが、午後になると巫女服みたいな神子服を着せられて祠みたいなところに閉じ込められる。
禊のようなものらしいが、何時間も閉じ込められるので結構泣きたくなる。
初めてしたときはもう出してもらえないんじゃないかと思って大泣きした。
そりゃわたしは女の子ですから、説明もなしに閉じ込められたら不安になりますよ。
「神子様、これは清めの儀式なのです」
と事後説明を受けたが、わたしには意味があるのかよくわからない。
どうせあの神はこの世界に干渉しないんだし、清めるとかってただの自己満足にしかならないと思う。
なんて言えるはずもないので、なすがままにされてる。
なんとか現状打破しないと、一生こんな生活をさせられそうだ。
だけど、まだ5歳だ。時間はたっぷりある。
清めの儀式の間は誰にも会うことができないので、せっかくだから霊力を使う練習でもしよう。
まず、魔法ってのは霊力を使って一定の事象を引き起こす術のことらしい。
「狐火」「人化」も霊力をによって発動していると教えられた。
尻尾の霊力感知は五感と同じく備わった能力みたいだ。
感知能力は人によって差があるみたいだから、これはある意味才能に左右されるものだ。
だが、この尻尾感知は意識しないと働かない。
感知が発動していると、白いもやもやしたものが感じ取れる。
見えるわけじゃないので本当に白色かはわからないが、わたしの頭は白ととらえているようだ。
感知距離は半径30mが一般的。
わたしに関しては1本あたり半径20mぐらいだ。
感知に使う尻尾を増やせば、距離が加算されるみたいだ。神子の特権だね。
「さてと」
祠に放り込まれたわたしはさっそく霊力を動かす実験をしてみる。
体の中に何か力の塊があるのはわかるのだが、簡単に動かせそうなものでもない。
手や足に動かそうとしているが、どうもうまくいかない。
なにか、流れを阻害するようなものすら感じる。
「う~ん。霊力を動かすのは無理なのかな?」
かあさまが普段使ってる「狐火」を見た感じだと、結構普通に動かしてる気がする。
単純に才能がないか、練習が必要なのか。
「そういえば、『狐火』はみんな尻尾で発動させてた気がする」
試しに尻尾に霊力を送ってみた。
「あ、なんだ簡単じゃない」
尻尾に関しては自在に霊力を送ることができた。
「そうだ、このまま霊力を熱エネルギーに変換するイメージで『狐火』になるんじゃないかな」
たしか炎はプラズマの一種だったか。
揺らめく熱の塊を意識して・・・・・・
祠に爆発音が響きわたった。
あわてて中に入ってきた祠の管理者のロロさんにすごい怒られて、その日はずっと落ち込んでいた。
なんせ祠の壁に大穴開けちゃったからね。
できた炎の塊を飛ばさずにその場で炸裂させてたら、大やけどするところだった。
この魔法は『火球』と名付けよう。