Extra2 とある騎士の証言
俺の名はリック・セド・テンケル。
【イルズ騎士王国】のテンケル男爵家の次男だ。
3年前に正式な騎士に就任し、第二騎士団に所属となった。つまりは【第二都市クザス】を守護する部隊だな。基本的な仕事は街の警備や、街周辺のモンスターの間引きだ。この国随一の穀倉地帯である【イルズ】は食料を求めてオークやゴブリンがよくやって来る。自慢じゃないがオークぐらいなら2対1でも勝てる実力を持っているからな。大した仕事じゃない。
暇を見ては見習い騎士共の面倒を見ながら何事もなく毎日を過ごしてたんだ。
そんな平穏な日々は突然壊れた。
この【クザス】近辺に原種が現れたって報告が挙がってきたんだ。
原種自体は見たこともないけど、歴史でちゃんと学んでいるからよく知っている。大体10年ごとに出現して、そのたびに数万から数十万の人が犠牲になっているからな。どの年代にどの原種がどこで出たとか、よく試験に出た内容だったな。
一番最近でた、鬼系の原種 黒曜妖鬼のときも数万人規模で被害を出しながら、勇者イザードを中心になんとか討伐したらしい。まだ俺が14歳の時の話で、あの時は随分と興奮したのを覚えている。
そうだろう?
魔王にも匹敵する魔物を打ち取った勇者なんて憧れるじゃないか!
まだ子供だった俺は冒険者になろうとしたけど、生憎俺は貴族の次男。成人する来年から、見習い騎士になることが決まっていたから勝手なことはできない。未練はあったが大人しく諦めるしかなかったさ。
そんなこんなで俺も一人前の騎士になって、こうして第二騎士団に所属するようになり、婚約者もいる。だが、今回ばかりは俺も死ぬかもしれない。たった一匹現れただけで街丸ごと滅びるような災厄に相対して生き残れる自信なんてないね。
俺の婚約者には悪いが遺書でも書いておいた方がいいかもしれないな。よし、後で書こう!
ははは! やったぜ!
俺の任務は【クザス】防衛だとさ。
つまり討伐に行かなくてもいいんだぜ? 俺の配置を聞いた時は喜び過ぎて、書いた遺書も燃やして捨てちまったぐらいだ。討伐組の100人は第二騎士団のマルク・ミュラー・アールクリフ団長が率いた精鋭で構成されているそうだ。
・・・・・俺は精鋭と言われるほどは実力がないんだが、これは喜ぶべきことなのか?
まぁいいさ。
そういうわけで、討伐組と冒険者たちが原種を討伐している間をレイベル・ラザード・クリフォード副団長と共に守るのが俺の仕事だ。騎士たる者、仕事はしっかりこなさないとな! よし、今日も頑張ろう!
ありのまま、目の前で起こっていることを話すぜ。
原種がいる。
何を言ってるのか分からないかもしれないが、俺も理解できねぇから大丈夫だ。
え? なんでこうなったかって?
知るかよ。
城壁で見張りの任務をしていた。
なんか遠くの方に大群の影を発見。
そこに原種がいた。
な? わけ判らないだろ?
副団長を含めて全員が驚愕したさ。もしあそこに原種がいるとしたら、すでに団長たちが殺られたってことだろ?ありえないと思ったね。何故ならアールクリフ団長はこの【イルズ騎士王国】の中でも至高の強さを誇る4騎士の一人なんだぜ?ちなみにその4人は近衛騎士団長と第1~3騎士団の団長だ。その最高の騎士が簡単に負けるなんて想像もできない。
城壁を守護していた騎士たちはみんな困惑したさ。クリフォード副団長ですら指示も忘れて固まってたしな。
我に返った俺たちが遠距離霊術を連発しても一向に減る様子のないオーク軍団と黒いオーラを放つ原種。もう必死に得意の風霊術を撃ちまくったね。
だが、あいつにはまるで効いた様子がなかった。こっちに走ってきて、さらにジャンプで城壁の上まで昇ってきたときは死を覚悟した。遺書を燃やして捨てちまったことを後悔した。最後に婚約者に会いに行っておけばよかったって思った。
黒いオーラを纏って大斧を両手に持ち、裂けた口で不敵に嗤う姿を見て正気でいられただけでも褒めて欲しいね。あんなの絶望そのものだ。勝てないと一瞬で悟らされるほどにな。
終わった。
誰もがそう思ったとき、城壁の外でひときわ眩しく輝く何かが現れた。次は何なんだと諦めの表情のまま見ると、それはオークの軍団の中心へと落ちていき・・・・・・
失明するほどの閃光と共に1万を軽く超えるオークが消滅した。少し遅れて体に熱風が叩き付けられる。
はっ!?
何が起きた? オークが消えた? ありえないだろ!
俺はもちろん他の仲間の騎士も全員混乱していた。
見ると原種も驚愕の表情、そして次の瞬間には憎々しげにどこか一点を見つめ、城壁から飛び降りた。
俺は助かったのか?
今の光は? まさか援軍が? あれは多分だが霊術だ。そしてあんな規模の魔法が扱える方と言えば、勇者イザードとも並ぶ冒険者ランク特Sの『極大魔法師』のエレン様だ。
討伐隊に参加されていると聞いていたが・・・・本当に助かった。
周りに仲間たちも安堵して、飛び降りた原種を見守る。そういえばさっきの術者は見えないがどこにいるのだろう。原種がどこかを睨んでいたようだから、そこに術者がいると思うのだが・・・
だが、気になる術者探しも中断せざるをえなくなった。
飛び降りた原種が再び味方のオークを捕食し始めた。しかも生み出されたのは見たこともない巨人。姿はオークに似ているが、腕は4本だし頭も2つある。他の騎士たちも全く知らないようだ。
クリフォード副団長を除いて・・・・
「まさか・・・あれは・・・・」
「知っておられるのですか副団長!?」
「ああ、あれは恐らくジャイアント・キメラオーク。ランクSSのオーク上位種だ。私も資料でしか見たことのない・・・」
「なんですと・・・」
「ランクSSだって!?」
ランクSSだと!? なんだよその化け物は・・・
堅牢な【クザス】の城壁の半分ぐらいの大きさの巨人は地響きを鳴らしてこちらへ迫る。どうやらまだこちらを狙っているらしい。あんな巨人に攻め込まれたら、この街はあっという間に崩壊するだろう。
我に返った騎士たちが魔法や魔力砲で迎撃するが、ほとんど効き目がない。元々オーク種は防御力が高いのが特徴だが、俺たち騎士が放つ魔法なら簡単に攻撃が通るはずだ。やはりランクSSは別格なのか・・・
だが、そこで突然ジャイアント・キメラオークがバランスを崩して倒れた。見ると右足を失っている。何があったのか気になったが、さっきの閃光もあったし、どこかに援軍がいるのだろう。ピンチにはちがいないが、少し希望が見えた。
「おい見ろ!」
「なんだと・・・」
「そんな・・・」
声が聴こえたので、仲間の騎士が指す方をみると、なんと2体目のジャイアント・キメラオークが現れた。
前言撤回
どうやってこんな奴に勝つんだ・・・?
俺たちも必死で魔法を撃つが、ジャイアント・キメラオークの進軍は止まらず、3体目のジャイアント・キメラオークが現れる。僅かに残っているオーク共は原種の捕食で大きく数を減らしているみたいだが、このペースなら、あと5体以上はジャイアント・キメラオークを生み出すだろう。
そうこうしている間に遂に4体目が現れた。2体目にいたっては城壁に到着して壁に攻撃をし始めている。一撃ごとに城壁が揺れ、霊術も狙いが定まらない。まさに悪循環だ。このままではいずれ他のジャイアント・キメラオークもたどり着くだろう。そうなればこの城壁もあっという間に崩される。
もうダメだ・・・・
俺を含め、クリフォード副団長も他の仲間たちも皆が諦めのため息を吐き、目を閉じた
「終わった―――――――――」
突如揺れが止まり、城壁を殴る音も地面を鳴らす音も聞こえなくなる。
そっと目を開けると・・・・茶色い鎖で縛られた4体のジャイアント・キメラオークがいた。
「え・・・?」
気の抜けた声が出たが、次の瞬間にはもう声も出せなくなったさ。
「『――――――空力天駆』!」
アレは・・・エレン様!
槍を携え、空を駆ける影が次々と縛られたジャイアント・キメラオークの二つの頭に槍を振るい、仕留めていく。身動きのできないジャイアント・キメラオーク4体は為す術もなく絶命した。まさに開いた口がふさがらない状態だったぜ。
「見ろ! 誰かが原種と戦っているぞ!」
「何!?」
「それに周りのオークを次々と仕留めている奴もいる!」
「なんだって!?」
なんだと!?
俺はジャイアント・キメラオークから目を離した。
見ると原種とまともに打ち合い、攻撃をかわし、隙あらば傷をつける誰かが・・・・いや、アレは冒険者ランク特Sの勇者イザード! かの英雄が援軍として来てくれるなんて・・・
助かった。
だが、その周囲のオークをゴミを片付けるように仕留めていく、2つの影があるんだが・・・・いやいや、勇者の仲間なんだからそれぐらい出来るんだろう。
それにしてもあの剣捌き、洗練された詠唱破棄の霊術、さすがは双術と謳われたイザードだ。憧れの存在が今まさに戦っているなんて・・・
ッ!!
原種が何かの魔法で動きを止めた!
原種の上空に大岩が!? アレは参式土霊術の『大隕石』じゃないか! あんな霊術たった一人で起こせるなんて騎士団長クラスじゃないと無理だ。さすがは勇者!
ズガアァァァァァアアアン!
大岩が落とされ、ここまで地響きが聴こえてくる。すごい! 原種を仕留めた!
俺だけじゃなく、周りの騎士たちも惜しみない歓声を上げた。近くで見ただけで死を予感させられたあの原種をあっという間に倒すなんて、さすがは・・・・・
「グボォォオオォォォオオォォォオォォオ!」
そんな・・・
怨嗟の絶叫と共に『大隕石』の残骸から原種が飛び出してきた! アレを喰らってまだ生きているなんて・・・
歓声から一気に絶望の空気が流れた城壁。だがそんなことしている暇などなかった。原種がエレン様に倒されたジャイアント・キメラオークを捕食し始める。
また捕食して何かを生み出す気か!
いつものように奴の身体か何かが膨れ・・・いや、原種の身体そのものが膨らんでいる!
勇者イザードがそれを止めようと走り寄って・・・そんな!
イザード様は吹き飛ばされて倒れ、動く気配がない。
死体を貪り、原種はあっという間に巨大化した。そして喰い終われば次の死体に手を付け、その巨大化は留まることを知らない。このまま大きくなり続ければあっという間に城壁の高さすら超えるだろう。そうなれば俺たちの負けだ。
巨大化した原種は凶悪な黒いオーラを纏ってゆっくりとこちらを向く。
ゾッとするほどの殺気を向けられた時のように足が竦んだ。やっぱり遺書・・・燃やさなければよかったな・・・・
俺も周りの仲間たちも、皆が死を覚悟したとき、あの光が再び輝いた。
オークの大群を有無を言わさず消し飛ばした、謎の光。直視することもできないほどの光量を放つ5つのそれは、ゆっくりと原種へと落ちていき・・・・
動きが鈍くなった原種の四肢を消し飛ばし、倒れたところで不気味な頭を消滅させた。まさに神の裁きとも言える、強烈な魔法に誰もが目を奪われた。
強烈な発光が止み、目を開けると誰かが、首を失って倒れた原種へ向けて歩き出した。そしてその身体へと昇り、胸を切り裂いて魔核を散りだし、精一杯掲げた。
『うおおおおおおおおおおおおおおおお!』
俺も皆も大歓声を上げて手をたたき、抱き合って喜びを分かち合った。
「やりやがったぞあの少女!」
「救世主だ・・・・」
「見ろ。尻尾が9本ある!」
「なんだと! 伝説の九尾か?」
誰かがそう叫ぶ。九尾と言えばかつて獣人族を救った伝説の偉人の姿。現在では彼女は狐獣人の原種だったと言われている。俺もそれを見ようと城壁から乗り出すように魔核を掲げる少女を見つめた。
靡く黒髪に、揺れる尻尾。
まさかあんな少女があの光も・・・・?
とにかく、俺たちはあの少女に助けられたらしい。
まだまだ精進しなければならないとヒシヒシと感じさせられた。
今は大けがをした騎士団長の代理を務めるクリフォード副団長とともに鍛え直しをする毎日だ。
いつか俺も勇者のように――――――
次は1週間後になるかと・・・・
レポートヤバいです(泣)
次回から新章!
お楽しみに!