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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
3章 原初の魔物
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41話 ランク特Sの戦い

 

 ルシアの駆る銀色スライムことギンちゃんの擬態したシルバーウルフから飛び降りた『極大魔法師ウィザード』のエレンは1本の槍を携えてジャイアント・キメラオークに向けて走り出した。ランクSSの魔物であるジャイアント・キメラオークは全部で4体。1体目はルシアのおかげで右足を負傷しているが、他の3体は無傷のままだ。



(やるとは言ったけど、どうするかね・・・)



 南部の林のオーク大集落に放った『雷嵐断罪領域テンペスト』のせいで霊力を9割も消費してしまってる。今は回復して半分ほどになっているがランクSSを4体も仕留め切るのはギリギリだろう。



「まずは城壁を殴っているやつからだよ!

 『大地鎖縛アース・バインド』」



 城壁を4本の腕で破壊しようとする2体目のジャイアント・キメラオークの足元から大量の鎖が飛び出した。不意を打たれたジャイアント・キメラオークは為す術もなく地魔法の鎖で縛られ、地面に縫い付けられる。



「オオォオッォォオォオオ・・・・・」


「ちっ、デカ物だけに四式霊術の割に結構霊力喰うじゃないの!」


 攻撃能力はないが、強力な束縛力を持つ四式霊術『大地鎖縛アース・バインド』は対象の足元から土を固めた強固な鎖が飛び出て縛り付ける。地味だが上位の霊術に分類され、特徴として追加で霊力を加えることで、鎖の強度と束縛力が跳ね上がる。高ランクの巨大魔物を相手にするときにはかなり重宝する魔法なのだ。ちなみにルシアの『物質化マテリアライズ鎖縛バインド』はこの霊術を参考にしている。



「まだまだ! 『大地鎖縛アース・バインド』!」


 エレンは4体のジャイアント・キメラオークを次々と縛り上げた。1体目の右足を損傷した個体は地に這いつくばったまま、城壁をまさに攻撃しようとしていた3体目は腕を振り上げたまま、創られたばかりでこちらに向かって来ようとしていた4体目は片膝をついて動きを止められた。



「ウルォォォォォオオォォオッォオ・・・」

「グウウウゥゥゥゥウウゥゥゥウゥ」

「オオォォッォオォォォ・・・・」

「ヴォオオオォッォォオォォォ!」


 4体のジャイアント・キメラオークは土の鎖を壊そうと唸り声をあげるが、膨大な霊力をつぎ込んで作られたエレンの『大地鎖縛アース・バインド』は破れない。

 荒ぶる巨人たちを止めたエレンは次の詠唱を始める。



「『我に纏いし風、我が翼となれ。

  地をせ、天をける加護よ。

  今しばし力を与えたまえ!

  四式霊術 空力天駆エア・フォース』」



 エレンの身体が風を纏い始める。薄く纏った風の力を維持している間、空を駆けることができる四式霊術の『空力天駆エア・フォース』で、空中に浮かび上がる。空中移動だけでなく、地面を走るときも加速してくれる便利な魔法ではあるが、使用中は常時霊力を消費し続ける。だが、エレンほどの霊力量ならばそれも問題ない。


 

「はああああああ!」



 エレンは空を駆けながら右手の槍を一番近い4体目のジャイアント・キメラオークの右の頭に突き出す。



「グギャアアアァァァァァアァ!」



 片方の頭を貫かれ、激痛に怨嗟の声をあげながらも『大地鎖縛アース・バインド』のせいで、のたうち回ることすらできない。ガチャガチャと鎖を揺らしながらも片膝をついた態勢のまま呻く。

 そんなジャイアント・キメラオークの構う様子もなくエレンはもう一方の頭に槍を叩き込んだ。



「グウウウゥゥゥゥ・・・グゥ」



 2つの頭を槍で貫かれ、あっという間に絶命したジャイアント・キメラオークだが、本来はこれほど簡単に貫けるような皮膚をしていない。にもかかわらず、あっさりと槍が通ったのはエレンの使う槍が飛竜の牙を使ったとんでもスペックの業物だからだ。本来霊術師であるエレンにとって、槍はサブウェポンにも関わらずこの性能を持っているのは一重にランク特Sだからだ。




「さて、残りを仕留めるよ! 『空力天駆エア・フォース』は消費が激しいからね!」




 4体のジャイアント・キメラオークは為す術もなく2つの頭を貫かれて倒された。







――――――――――――――――――――――



「さて、原種こいつをどう料理してやろーかねー」


 呑気な口調ながらも一寸の隙も無い構えをとるイザード。当初の予定通り原種と1対1の状況を作り上げることに成功したが、やはり原種と単独で対峙するこの状況では少しも気が抜けない。


 灰色とピンク色を合わせた不健康そうな肌に普通のオークにはない灰色の長髪。両手に持った2本の大斧をダラリと構えている。隙だらけに見えるが、赤黒く光る両目からは殺気とも威圧ともいえる覇気を放っている。たとえ一流の冒険者でも足が竦むほどの覇気を至近距離で受けてなお平然とするイザードはさすがランク特Sと言える。


 イザードは愛用の剣を右手に持ち、右足を前に出すようにして自然体をとる。原種の動きがよく分からない以上、どんなことをしてきても対応できるようにしなければならない。力まず、力を抜いていながらも油断はない。



 お互いに相手の動きを探るような無言の牽制をする様子は、達人同士の一騎打ちのような様相を見せている。そんな沈黙を先に破ったのはイザードだった。



「はっ!」


 右手の剣で鋭い突きを放つが暴喰災豚カタストロフは左手の大斧を盾のようにして防ぐ。鈍い金属音と共に攻撃を弾かれて僅かに無防備になったイザードの左側を原種の右の斧が薙ぎ払う。が、とっさにしゃがんでギリギリで躱すイザード。大斧の風圧でよろけそうになるが、なんとか耐えた。


「まったく! あぶねーなっ!」


 バックステップで距離をとったイザードは再び鋭い突きを放つ。大斧を振り切った直後で硬直している暴喰災豚カタストロフは無理やり身体を捻って避けたが、躱しきれずに右肩を掠った。赤黒い目をたぎらせて大斧を薙ぐが、すでにイザードは身を引いていた。


 突きを繰り出しては下がる一撃離脱の攻撃に原種は怒り狂って両手の大斧を振るう。力任せに大斧を扱っている風に見えるが、その力が異常なため、下手に受ける選択肢はなく逃げの一択をとるイザード。仕方なく剣で受けるときも、受け流すようにして大斧を捌いていく。



(ちっ、大斧の二刀流のくせに動作の隙がない・・・バカ力め!)



 暴喰災豚カタストロフが振り下ろした左の大斧を避けてバックステップしたとき、背後にいた取り巻きのオーク・ジェネラルが丁度剣を振り下ろそうとしていた。バックステップのせいで足が浮いている今、避ける術はない。


「なっ、いつの間に!」


 ちらっと暴喰災豚カタストロフを見ると、頬まで裂けた口がニヤリと嗤っているのが見えた。


「クソッ!」


 ダメージ覚悟で左手を犠牲にオーク・ジェネラルの剣を受けようと体を捻ると、突然オーク・ジェネラルが純白の鎖に縛られて動きを止めた。



「ブフォ!?」


「隙ありっ!」

 

 攻撃を受けるつもりで捻った体の回転を利用して回転切りをするイザード。鎖を巻かれたまま、オーク・ジェネラルは真っ二つになった。イザードはそのまま一回転して再び暴喰災豚カタストロフを正面に見据える。暴喰災豚カタストロフは驚愕の表情でこちらを見つめた後、憎々しげに周囲を見渡した。


 対峙するイザードと暴喰災豚カタストロフの周りには白い鎖で動きを封じられたオークたちが転がっており、さらにこちらに近づこうとするオークたちも次々と縛られ、またバラバラに食いちぎられていた。



(ルシアちゃんもスライムもちゃんと仕事してるじゃねーか)



 何百体ものオークの集団を一人と1匹で蹂躙し、自分と原種の戦いに近づかせない暴れっぷりにイザードも思わず笑みがこぼれる。


 悔しそうに唸る暴喰災豚カタストロフは赤黒く光る眼をさらに光らせて大斧を振りかぶって迫って来たが、身を低くして側を通り抜け背後をとる。


「隙だらけだぜ!」


「グオォッ!」


 すれ違いざまにわき腹を切りつけたが、ほとんど傷がつかなかった。背後を取られた暴喰災豚カタストロフも左足を軸にして右の大斧を振り切った慣性力を利用して振り向いた。



「オークのくせにかてーな・・・さすがは原種ってとこだな!」



 そのとき、ふと視界の端に白い霧のようなものが漂っているのが見えた。その霧はオークに触れるとその身体を血だらけにしていく。

 もちろんルシアの『天叢雲剣あまのむらくものつるぎ』だ。


 疾走する銀色の影は次々とオークを屠り、バラバラの死体に変えていく。ルシアの白い霧がオークを切り刻み、イザードと暴喰災豚カタストロフに近づけることなく血だらけにしていく。見たこともないオリジナルの魔法に驚愕するイザードだが、それと同時にニヤリと口を吊り上げる。



「ルシアちゃんは相変わらず不思議な魔法を使うな・・・お前も体感したんだっけか? 原種」


「グウゥゥゥ・・・」








「今度は俺が『双術』と呼ばれる所以ゆえんを見せてやるよ!」


 勇者は愉しそうに嗤った。

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