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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
1章 特別な存在
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3話 神子は特別?

ネタが浮かぶ内はちょくちょく更新できそう

ホグは不安でいっぱいだった。


「う~っ、いったーーい」


痛みに耐える妻のミア。

こんなにつらそうな姿は初めて見る。


「もう少しですよ。頭は出ました。」


助産婦のアンさんがはげましてくれている。

俺はといえば、ミアの手を握って「頑張れ!」ということしかできない。

こういうときは本当に情けないとおもう。

普段偉そうにしているが、肝心な時に役に立ってない。

よし、生まれたら妻をねぎらってやろう。そして今度から優しくしよう。

ひそかに心に誓う。


「おぎゃあ、ふぎゃあ」


生まれた。

ミアの手を握り安堵しながらアンさんの方を向く。

だが、そこで違和感を覚えた。

普通なら、生まれた子をすぐに俺とミアに見せてくれそうなものだが、アンさんは動かない。

むしろ、茫然としているようにみえる。

俺の中に不安が渦巻く。

もしかして異常でもあるのか?


ゆっくりとアンさんがこちらを向いた。

何か言おうとするアンさんを前に、思わず背筋を伸ばしてしまう。


「あの・・・この子・・・」


ああ、やはり何かあるのか。


覚悟を決める。

「抱かせてください。ミアにも見せてやらないと。」

不穏な空気を察したのか、ミアも暗い顔をしている。


だが、アンさんから子供を受け取った俺は別の意味で衝撃を受けた。


「この子は・・・九尾なのか?」

「え? 伝説の神子の?」


俺たち狐獣人は獣人の中ではかなり弱い部族だ。

尻尾の先から暖房程度の炎魔法「狐火」を出すことができるぐらいで、攻撃する力はほぼない。

尻尾による霊力感知でほかの獣人や人間との交流をなるべく避けることで、生き延びている。

加えて「人化」によって耳と尻尾を隠す術を持っているので、最悪は人族と言い張れる。

そのため、人族の間では狐獣人はレアとされているらしい。

そんな弱小部族に救いをもたらすとされる「神子」。

莫大な霊力と強力な魔法を行使できる存在だという。

その神子の特徴は尻尾が複数あることだ。

尻尾の数は最大9本で尻尾が多いほど強大な力を持つらしい。

親父・・・いや族長が子供のとき二尾の神子がいたらしいが、九尾なんて本当におとぎ話みたいな存在だ。

まさに伝説中の伝説

きっとこの子は狐族を変えてくれる・・・・






九尾の神子が生まれたという知らせは、すぐに集落に広がった。

村中のやつが一目見たいと押し寄せてくる。


「なぁ ホグさん。伝説の神子様に会わせてくれよ」

「しかも九尾の神子様なんだろ?」

「たのむよ。1度でいいからその御姿を拝ましてくれ」


「ま、まて。俺とミアも動揺しているんだ。とりあえず、ミアの体力が回復するまで待ってくれ」


というのは建前だ。

ほんとは生まれた我が子を独り占めしたいだけだ。

神子とはいえ、俺の子だ。

それぐらいの権利があってもいいはずだ。

ちなみに、名前は決めてある。

ルシアだ。

前の神子様がルシアという名前だったらしいので、そのまま付けさせてもらった。

自分の娘を毎日のように拝んでいる。

ミアにも感謝でいっぱいだ。

体力が回復したら、おいしいものをたべさせてやろう。



----------------------------------------


ミアは動揺していた。


なんとか産まれた我が子を早く見たい。

そう思って、夫のホグに目を向けると、不安そうな目でアンさんを見ている。

アンさんも何も言わないし、動く気配もない。


「えっ・・・?」


いやな予感がこころでざわめく。


「あの・・・この子・・・」


アンさんが次の言葉はなんなのか。

不安で胸が張り裂けそうだ。


「この子は・・・九尾なのか?」

「え?伝説の神子の?」


え? 九尾? 夫はなにを言っている?

だって、存在すら疑われている九尾の神子が? 私の子供?


思考が真っ白になっていいく私の前に夫は子供を抱いて見せてくれた。


「---! 本当に・・・この子が・・・」




この子の名前は前の神子の名前からとってルシアと名付けた。

新しい家族が増えて、生活が落ち着くまでは自宅でゆっくりしていたが、夫はルシアを見たいという村人たちを抑えるのに頭を悩ませていた。

亭主関白だった夫もルシアが生まれて、とても優しくなった。

この前も、とてもおいしいお料理をごちそうしてくれたのだ。

ルシアのおかげで夫との距離が縮まった気がする。


だけど、この後しばらくは忙しかった。

神子をお披露目しないわけにはいかない。毎日族長の家に通い、ルシアをフカフカの台座に寝かせる。

あとは、ずっとルシアの隣に座ってお世話するだけだが、村中の人たちが押し掛けてくるのだ。

それでも、とくに泣き出すこともなかったこの子には驚いた。

やはり神子は特別なのだろう。



ルシアは成長も早かった。

あっという間に「とうさま」「かあさま」と言ってくれるようになった。

半年もすると拙いながらも、しゃべれるようになった。

危なげだが、歩き回る姿をみると嬉しくなる。

普通はもっと遅いらしいのだが、きっと神子だから特別なのだ。



「とうさま。文字をおしえてください」



一瞬耳を疑った。

1歳にも満たない幼児が文字を習いたいと言ったのだ。

夫の驚愕の表情が目にとまる。


「えっと、ルシア?なんで文字を習いたいの?」

「あ・・・えーと・・・ほんをよみたいの!」


何を言ってるのかしらこの子は

本?

そんなのうちにはない。

族長はいくつか持ってたはずだけど・・・


「うちには本はないからなー。そもそも俺は文字が読めん。どうしてもってなら、文字を読める人に教えてくれるように頼んでみようか?」

「うん。たのんで」

「よーし、わかった。まかせとけ」

「とうさま、ありがとー」


2人の笑い声が遠く感じる。


そう。神子だから特別なのよ。

きっとそうなのよ。

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