37話 間に合った?
時を遡ること2時間。
近衛騎士団および【クザス】組冒険者の壊滅を知った遊撃部隊のイザード、エレン、ルシアは情報を探るべく、原種との遭遇地点を目指した。
「まったく面倒だね」
「予想以上に知恵が回るみたいですからね」
「おかげでこっちは走りまわされてるけどな」
遊撃と言うだけあって状況に合わせて動き回ることが仕事だ。とは言っても元々は原種を効率的に発見するために遊撃のスタイルをとったのであって、奔走させられるとは思っていなかった。それ故に文句の3つや4つも言いたくなるのだ。
「お、あそこじゃないか?」
「そうみたいだね。死屍累々の冒険者が見える」
例の地点には大けがを負った冒険者、近衛騎士、そして物言わぬ者ばかりだった。
何とか動ける者を中心に応急処置をしたり、生存者を探したりとバタバタしている。そんな彼らを指揮しているのが冒険者ギルドクザス支部のギルドマスターであるバーツだった。
「怪我した者はあっちで治療を受けろ! 動けるようになった者は生存者を探せ! 手が空いている奴は死んだ冒険者のギルドカードを回収し―――「バーツさん!」―――なんだ? ああ、イザードにエレン・・・・と嬢ちゃんは誰だ?」
バーツはハルバードを背負ったスキンヘッドの大男だ。現役のランクA冒険者でもあり、顔や頭に付いた傷から激戦を潜り抜けた猛者だと分かる。
「原種の情報をもらいに来た。どうでもいいがこの子は俺のパーティメンバーのルシアちゃんだ」
「誰がどうでもいいですか!」
「痛い! なんでエレンのババァが殴るん・・・あ、すんませんエレン姐さん」
「エレンさんナイスです」
「(グッ!)」
「で、茶番はそこまででいいか?」
緊張感のないやり取りに呆れつつバーツは話を戻す。
「原種は【クザス】に向かったようだ。オークの大軍団を引き連れてな」
「おいおい・・・悠長にしてていいのか?」
「こっちは怪我人死人だらけだ。どうしろというんだ? 近衛騎士団長のマルク殿の話によれば、【クザス】に籠城戦の用意をするように伝令を送ったそうだ。しばらくは大丈夫だろう」
「わかった。俺たちだけでも向かおう」
「待ちなよ。原種はともかく周囲の雑魚はどうするんだい?」
「原種は俺一人でやるさ。雑魚共はエレンとルシアちゃんに任せる」
「さすがに極大魔法は使えないよ?」
「あ、じゃあわたしがやります。大規模殲滅魔法は持っているので」
「え? そうなのかい?」
「一週間前に創ったやつですけど」
「いや、そんな簡単に創ったって・・・」
「まぁ1発しか撃てませんけど」
「十分だよ・・・ルシアも大概規格外だね」
「確かにそうだな」
「ランク特Sに言われたくありません」
「お、おい、こんな子にやらせていいのか?」
「「大丈夫だろ(ね)!」」
「そうなのか? まぁお前たちが言うのなら大丈夫だろう」
(ランク特Sって説得力すごい)
だんだん自重しなくなったルシアだった。
「じゃ、先に向かうぜ!」
「はいよ」
「わかりました」
「頼んだぞ3人とも!」
原種を近くで目撃してしまったバーツは【クザス】に今すぐにでも飛んでいきたい思いではあった。だが自分その力がないことも自分がいまやるべきことも理解しているため、彼らに託す。自分たちの街を護ってくれると信じて―――
「急ぐぞ!」
「ちょっとイザード! ルシアに合わせて走りなさい!」
「あ、わたしはギンちゃんに乗って行くので気を使わなくていいですよ。銀狼モード!」
「(ぶるる)・・・グルゥ・・・」
「あ、ルシアずるい!」
「よしよし、バァさんに合わせて走ってやろう(笑)」
「黙りな小僧!」
「調子に乗りました許してくださ・・・ちょ、それ参式はやめろ!」
「じゃあ、巻き込まれたくないわたしは先行して様子見してきます」
「え、ルシアちゃん助けてくれないの?」
「残念勇者を助ける義理はないので(キリッ)」
「そんなキメ顔で言うんじゃねぇぇぇぇぇ・・・って危ない!」
「ちっ・・・覚悟しなイザードの小僧!」
「おい待て、後ろから霊術を乱射するのは止めろ!」
「良かったですね。必死に逃げてスピードアップ出来そうですよ」
「そんなスピードアップいらねーよ!」
「おいコラ避けてんじゃないよ小僧!」
「お前は霊力温存しろ!」
「ギンちゃん、行こうか」
「グルルゥ!」
その日、美女に魔法を乱射されながら追い回される青年の姿が目撃されたとかされなかったとか。
――――――――――――――――――――
銀狼モードになったギンちゃんは時速50キロぐらいで走り続けることができる。オーク大集落と【クザス】の距離は10kmほどだから12分以内に追いつくはず・・・
「って全然追いつかないな・・・」
わたしたちがバーツさんの所に行ったとき、原種と遭遇して2時間以上経っていたらしい。普通の人が歩く速度が時速3kmぐらい。オークは体躯が大きいから歩幅も大きくなるし、行軍速度も結構早いみたいだから時速5kmって思った方がいいかな? だとしたらすでに【クザス】に到達している可能性がある。
急がないと・・・・
「急ぐよギンちゃん!」
「グルッ!」
【クザス】の城壁が見え始めた。と同時に驚愕の光景が視界に映る。
「うわぁ・・・気持ち悪・・・・」
城壁に押し寄せるオークの波。上位種のオーク・ジェネラルやオーク・キング、カイザーオークがゴロゴロいる。通常種に至っては数えきれない。
これはアカンわ・・・
その時、不意にオークの大軍団から何かが飛び上がって城門に着地した。
「なっ!」
ここから500m以上離れてるハズなのにそれの放つ威圧を感じた。
あれが原種・・・
遠目でも理解できる次元の違いを近くで見ることになった城壁の上の騎士たちは大丈夫だろうか? というかアレって今すごくピンチだよね。
500m以上あるけど当たるか・・・? 九尾状態なら200mほどなら尻尾感知を併用することで楽に当てることが出来るが、それ以上の距離は難しい。いや、目視できるから大丈夫か?
ギンちゃんから飛び降り弓を構える。右手に白い矢を形成し弓を引いた。
これだけ距離があれば軽く音速を突破する。そうすれば衝撃波で近くを通過するだけでダメージを受けるはずだ。ダメージに期待はしないが気を引くことぐらいは出来る。
当たった場合、近くに騎士がいるし城壁もあるから焦滅よりも風塵の方がいいだろう。
「『白戦弩・ 風塵 』!」
白い音速の矢は重力に逆らって真っすぐ加速する。矢は距離を越えてルシアの意思を反映して、軌道修正しながら原種 暴喰災豚の頭部を目指す。
音速を超えた矢によって生じた衝撃波によってよろめいた原種の右肩に白の矢が突き刺さる。風塵の効果で高速回転する風と圧力で原種にダメージを与えた。
「アレ? 当たっちゃった」
あまりダメージを与えた気がしないが・・・・
あ、ヤバい。絶対気づかれた。
次回、無双する