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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
3章 原初の魔物
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35話 災害の始まり

 バロンは王都のギルドマスター兼現役ランクA冒険者である。

 ランクAでありながら強さランクはSSであり、両手剣を自在に振り回してオークたちを切り刻む。

 そんな彼も8年前の原種である黒曜妖鬼ハテンヤシャ討伐に参加しており、今回のオークたちの手応えのなさに疑問を感じていた。



(オークは推定5万匹だったはずだが、あまりに少ない・・・? それに上位種の個体数も原種が出現したとは思えないほどの少なさだ。原種の情報が間違い・・・? いやそんなハズは・・・)




戦闘開始からすでに1時間。初めこそ無限湧きのような感覚さえしたが、今では終わりが見え始めているように感じる。



 ザシュッ


 グオオォォォォ



 今のハイオークで見える範囲は殲滅した。

 ランク特Sの遊撃組はどうなった? もう原種を倒したのか?









「バロンさん!」



 噂をすれば・・・

 遊撃隊はイザードとエレン、そして例の女の子のルシアだ。あのような子がランク特Sとの戦いに付いて行っているとは驚きだ。




「なんだイザード? もう原種を倒したのか?」


「まだだ。それよりおかしいと思わないか?」


「・・・・この手応えのなさか?」


「ああ」


「そっちの二人も同じ感想か?」


「ええ」


「はい」


「ふむ・・・・」



 イザードたちもこの状況に疑問を持ったのか・・・

 原種討伐を知っている者だからこその違和感だろうな。そうでなくともこの規模の集落に対してオークの数が少なすぎ・・・・・




「!!」


「どうかしたのかバロンさん?」


「なぁお前ら、オークを何体ぐらい倒した?」


「? よく数えちゃいねーが100体以上は倒してる」


「1時間でそんなに倒したのか・・・まぁいい。この集落のオークは推定何体だったか覚えているか?」


「たしか5万じゃありませんでした?」


「ええ、あたしもそう聞いたから『雷嵐断罪領域テンペスト』を撃ったんだよ」


「そうだ。ルシアもよく覚えていたな。だがどうだ? これが5万匹もいたと思うか?」


「確かに少ないと思うぜ。この規模の戦力を投入して1時間で壊滅出来るのなら、多くて1万だ。初めのエレンの極大魔法で1万匹倒していたと仮定しても2万しかいない」


「【クザス】の出した報告書が間違いだったってことかい?」


「どうだろうな? あの調査をした冒険者はランクBだというから間違いではないと思うのだがな。それに実際この集落・・・というよりオークの都の大きさから考えて2万匹どころではないと思うぞ」


「ああ、俺も調査自体は間違いなかったと思う。原種の方はちょっと疑い始めてるけどな」


「じゃあ、この手応えのなさはどう説明するんだい?」






「囮・・・・」





「「「っ!!」」」



 ほう、ただの狐少女ではないと思ったが頭もまわるようだな。俺もこのオークたちは囮だと考えている。たとえば原種やほかの上位種が逃走するための時間稼ぎ。または集落を囮にして背後から奇襲をかけるつもりか?

 何にしてもオーク原種はとんでもなく知恵が回るようだ。もしかするとこちらの情報が抜けていたのかもしれない。


 ・・・所詮オークだと甘く見たか?






「・・・・・・・・・」


「どうしたバロンさん?」


「・・・・撤退だ」


「何?」


「ルシアの言う通りおそらくここは囮だ。何が目的化は分からんがな。だが本命がいない以上は再び情報を集めねばならん。今回は撤退――――「ギルドマスターーーーーー」――――なんだ?」



 走り寄って来た冒険者は・・・・たしか【クザス】組の奴だったはずだ。疲労困憊した様子から見てずっと私を探して走り回ったのだろう。



「なんだ? どうした? 取りあえず落ち着いてゆっくりと―――――」


「それどころでは―――ゲホッ―――それどころではありません! ゴホッ・・・ハァ・・ハァ」


「!! 大丈夫か? これを飲め」


 このままではまともに話せないだろうと思い、水を差しだした。

 手に力が入らないのかまともに飲めそうになかったので支えてやる。



「んぐっ、ん・・・ぷはぁ・・・はぁ、助かりました」


「気にするな。それより何があった?」


「はっ! そうでした! クザス支部のギルドマスターからの伝言です――――」







 近衛騎士団及び冒険者クザス組の一部が原種と接触



 ――――――壊滅した





 まさに最悪の報告だった。





―――――――――――――――――――――――――――




 1時間ほど時を遡る。


 近衛騎士団団長のマルク・ミュラー・アールクリフは近衛騎士を2人一組にして例のオークの集落の周りに配置した。逃げ出してきたオークを逃さず仕留めることのできるよい布陣だと自画自賛できる出来栄えだ。


 戦闘が始まってからちょくちょくオークが飛び出してきたが、問題なく撃破している。もともと冒険者ランクB相当の実力をもつ近衛騎士団にとって、オーク如きに遅れをとるようなことは恥だ。ペアを組ませた効果もあって索敵も効率的でかなり順調と言えた。








――――――そいつが現れるまでは



 





「敵影確認! ・・・・なんだあの数は!?」


「マルク団長! 集落の外から・・・オークの大軍団が接近中です」


「なんだと!?」


「ですがこちらに向かっている様子は・・・いや、あの方角は・・・」





「大変です! オークの大軍団は【クザス】へ向けて進行中です!」






「バカな! オーク共は林の集落に・・・・」


 いやまさか・・・集落が囮・・・? クソッ!



「誰か冒険者に救援を求めろ! 奴らの目的は【第二都市クザス】だ。援軍が到着するまでは我らで足止めする。それからルーカスはいるか!」



「はっ、ここに!」


「お前は【クザス】へ向かい、緊急事態だと伝えろ。そして【クザス】に残っている第二騎士団に籠城戦の準備をさせるんだ! 急げ!」


「はっ!」



 ルーカスは今いる騎士たちの中では一番足が速い。奴らの目的が【クザス】である以上最悪の場合も想定して、先手を打っておくべきだ。あとは出来るだけ奴らを足止めしなければ・・・・





「よく聞け近衛騎士団! 敵オークの大軍団は数未知数、戦力不明の脅威だ! 近衛騎士団としてこのまま【クザス】へと行かせるな! 冒険者たちの援軍が来るまでは無理をせず足止めに徹しろ! 行くぞ!」



『うおおおおおおおおおおおおお!』



「私にに続けえええええええええ!」



『おおおおおおおおおおおおお!』




 こちらの目的は奴らの足止め。

 まずは私たちを敵に認識させなければならない。


「各員、霊術を撃てーーーーーー!」


 騎士たちが一斉に詠唱を始める。




「『我が手に満ちる熱、炎を纏う槍と成りて其を貫き暴れろ。

  爆炎槍ブレイズ・ランス』!」

「『この身に満ちる潤い、形を成して其を散らせ。

  水玉弾アクア・バレット』」

「『この身を創りし土よ、我が前に集え。

  散らし、吹き荒れ、降り注げ。

  群土砲撃アース・ショット』」

「『我が手に満ちる熱、我が前に顕現せよ。

  吹き上がる炎にて敵を焼き尽くせ。

  昇滅炎フレア・サークル』」



 炎の槍がオークを貫き、水弾が吹き飛ばし、土の弾丸が敵を血だらけにする。

 火柱が上がったと思ったらオーク数体が燃え尽きた。


 オークたちもこちらの攻撃を受けて反撃しようと、進路を変える。

 ここからが正念場だ。




「『我が手に満ちる熱、我らの怒りを一つに。

  荒ぶる灼熱は大地を焦がす。

  竜の吐息に慈悲は見えない。

  焦熱が牙をむく。

  焦熱竜砲ドラゴン・ブレス』!」




 ゴアッッ!!



 白熱の光線がオーク共を消し飛ばした。

 通常10人以上で放つ参式霊術も騎士団長たる私ならば単独で撃てる。ランク特Sのエレン殿ほどではないが、霊力量には自信がある。

 そして騎士団の真骨頂は霊術などではなく、統率された連携だ。




「フォルン、ジェンダ、左翼へ霊術を! グルーシスとボーランは左翼への攻撃後に突撃! カレブ、ニア、アーノルドは前方のオークを足止めしろ!」



 オーク共も上位種によって統率され、拙いながらも連携をしてくる。

 だが霊術によって敵の隊列を崩し、その隙に一撃離脱を繰り替えす近衛騎士団の常套手段によって次々と瓦解させていく。

 物量に差はあるものの、このままなら足止めぐらいは犠牲を出すことなく出来ると思えた。





 そして奴が現れる―――――――








 グオオオオオオオオオォッ!




 群がるオークの集団がが突然割れ、奥から黒いオーラを纏った何か・・が姿を現した。それは見るだけでこう悟らせてしまう。




 絶望



 私でも思わず足が竦んでしまうほどの威圧。

 他の騎士団員たちも声すら出せずにいる。


 近くまで出て来たそいつの姿はまさに異形。裂けた口に赤黒く光るその瞳、顔は豚のようではあるが本来オークにない灰色の長髪が垂れている。肌はオークと同じ灰と桃色を合わせたような色だ。普通のオークと違うところは、その引き締まった筋肉質の巨体。だらりと下げた両手には大斧が握られている。




 原種――――




 オーク原種 暴喰災豚カタストロフ




 こいつはダメだ。勝てない。騎士団では時間稼ぎすらも怪しい。

 一目でそう悟らされた。




「おい・・・あれって・・・」

「原種!? 集落にいるはずじゃ・・・?」

「気を付けろ! オーク・キングにカイザーオークがゴロゴロいるぞ!」

「ははは・・・終わったな俺たち・・・」


 近衛騎士たちの士気も急降下してしまった。指揮官である私だけでもしっかりせねばという使命感で自分の身体に鞭を打つことで、何とか声をだせた。



「そ・・・総員、撤退戦だ! 奴の注意を分散させつつ後退しながら霊術を撃て! 奴もオーク種なら動きは遅いハズだ!」



「「「りょ、了解」」」



 ほとんどの奴が返事もできない様子だったが、無事に動き出してくれた。原種はまだ動く様子はないが、援軍の冒険者が来るまでに出来るだけダメージを与えておきたい。



「原種め・・・行くぞ!

 『我が手に満ちる――――』ぐはぁっ!?」




 突如体に浮遊感を感じて周りの景色がスローモーションになる。グルグルと回転する視界の端にニヤリと嗤う原種が居た。

 地面にぶつかり、感覚が元の速さに戻る。何度も体を打ちつけながら転がる内に停止した。

 体中の骨が折れたのか、全身に激痛が走る。


 一瞬のことで何が起きたか理解できなかった。

 オーク種は遅い?

 原種にそんな常識が当てはまるハズがなかった。


 団長である自分が何もできずにやられたことで、騎士たちは慄いてしまったようだ。私に興味を失った原種が近衛騎士たちを蹂躙していく景色を薄目で見ていることしかできなかった。



 


 ドドドドドドドドドドドドドドドドッ




 地面が揺れ、骨が折れた体に痛みが走る。

 冒険者の援軍が来たようだが・・・・アレは・・・ダメだ。


 ランクSSSとすら隔絶された原種は強さランクS冒険者が何人集まろうが関係ない。




 原種あいつを倒せるのは原種だけだ。



 そこで私の意識は途絶えた。


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