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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
3章 原初の魔物
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34話 風の極大魔法

「いよいよですね・・・」


「ああ、気を抜くなよ」


「あんたこそウッカリ死なないようにするんだね!」




 噂のオーク集落・・・

 誰だよ集落とか言ったやつ! あれ完全に都市だよ。


 偵察の結果知らされた予想外に大きすぎる集落に残念勇者さえも初めから戦闘モードになっている。いつもの調子からは考えられない集中具合を見れば、相手がどれだけヤバいのか理解できてしまう。原種はともかく取り巻きの雑魚が多すぎる。わたしの仕事は予想外に大変そうだ・・・




「じゃあ行くよ。作戦通り、あたしが初手を決める!」


 

 今回の作戦で鬼門となるのが、敵の圧倒的物量だ。それを削ぐためにエレンさんの極大魔法を使用することになっている。極大魔法とは戦略級広域殲滅術式のことで、弐式魔法とも呼ばれる。通常は高位霊術師が100人単位で使用してなんとか発動できるかどうか、という霊術を一人で扱えるエレンさんはまさに化け物だ。たった一人で戦争を終わらせることができるなんてチートすぎる。



 っと話が逸れた。

 で、エレンさんが弐式霊術でオークの数を減らすと同時に、挟み撃ちする形で待機している【イリジア】と【クザス】の冒険者たちの突撃の合図も兼ねている。

 いよいよだ・・・・




「『我に纏いし風、天を支配せよ。

  吹き荒れる暴威は叢雲むらくもを呼ぶ。

  地の力は偽なりて、真なる力は天に在り。

  裁きの光は地を貫き、天に輝く。

  罪人つみびとらはそのいかづちを見ることあたわず。

  雷嵐断罪領域テンペスト』!」



 圧倒的に長い詠唱のさなか、目標のオーク集落の周りで風が回転し始めた。その渦巻く風は塵を巻き上げ、灰色の竜巻を作り上げる。その風は遥か上空まで昇っていき、天空では積乱雲が形成されだした。


 オーク集落を囲む巨大竜巻は、内部の破壊よりも内部から脱出するものを妨げる役目のようだ。回転力を上げた竜巻は空気摩擦によって帯電し、紫色の放電現象を起こす。


 結界のように囲い込んだ内側を紫の雷の暴威が吹き荒れる風魔法最強にして最凶の『雷嵐断罪領域テンペスト』。


 オーク集落が大きすぎて全ては囲めないものの、1万体は撃破したと思われる。


 運よく原種も一緒に死んでいたらいいのにと思ったが、世の中そんなに都合のいいことは起こらない。エレンさんの霊術が終わった瞬間に突撃し、各個撃破していく!




 

 大自然の現象すら超越した極大魔法も次第に減衰していき、遂に最後の紫の閃光を散らした。


「行くぞ! 【イリジア】組の冒険者共! オークを殲滅しろ!」


『おおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!』


 バロンさんの最後の鼓舞とともにオークの大集落へと突撃する冒険者およそ200人。反対側からも同様に攻め入っている頃だろう。





「じゃ、俺たちも行くぞ! 遅れるな!」


「はい」


「こっちは大魔法を撃ったとこなんだから手加減して欲しいもんだね」


「そんなことを言っている暇はねーぞ。霊力回復ポーションを飲んどけ!」


「はいはい」



 そういって走りながらエレンさんはポーチからポーションを出して飲み干す。

 尻尾感知では、エレンさんの霊力はさっきの弐式霊術で9割ほど持っていかれている。普通の霊術と比べればとんでもない消費量だ。常人の100倍以上の霊力を保有するエレンさんだからこそ撃てる霊術なんだと改めて驚いた。



「エレンの霊力残量はどれくらいだ?」


「ポーション飲んだから30分もあれば3割ほどになるよ」


「今は?」


「1割」


「ちっ、しばらくは援護頼むぜルシアちゃん!」


「分かってます」



 やはりエレンさんの霊力は1割ほどみたいだ。たとえ1割でも普通の霊術師の全快量より多いのだが、原種討伐というこの場においては不安材料となる。しばらく回復に努めるエレンさんを護るように側を走りつつ、千本を投擲してオークを仕留めていく。

 ギンちゃんとの戦闘以来、弓以外の攻撃方法を練習したのが役に立った。メインは弓矢だが、接近戦用に刀術と投擲術を習得した。


 そしてその練習相手になった残念勇者ことイザードだが、すれ違うたびに瞬殺していく。迫ってくるオークに速度を落とさず近づき、右手がブレたと思ったらオークの首が落ちているのだ。なんどもイザードの戦闘を見てきたが、この人の強さは速さだ。本気を出されたらわたしも追いつけないほどの剣技を放ってくる。



 しばらくオークを仕留めていると徐々に上位種が混じり始めた。



「前方にオーク・ジェネラル2体とオークたくさん、側方にハイオークいっぱいです」


「アバウトすぎだろ!」


「戦闘と感知を同時にこなしてるんですから我慢してください!」


「イザードは余計なこと言う暇あるんなら一体でも多く仕留めちまいな!」


「いやなんか君たち二人の俺に対する扱い酷くない!?」


「「気のせいよ(です)」」


「ちくしょおおおおおおお!」



 と言いつつサクサクっとオーク・ジェネラルを仕留めた残念勇者。やるじゃん。

 残りのオークを切り刻んでいる間に、わたしは側面のハイオークに魔術・・を撃った。



「『大気圧殺アトム・プレッシャー』!」




 ぐしゃぁああ



 大気圧1013hPaを10倍ほどに上げて押しつぶす魔術だ。霊術でも再現できるが、威力がまるで足りない。開発したときは1.5倍がせいぜいだったので魔術で発動することにしたのだ。

 細かい操作や制御がしにくい魔力も単純な魔法を撃つことに関しては優れている。この使い分けがわたしの強みだ。



「何よ今の魔法!?」


 突然ハイオークが押しつぶされた魔法にエレンさんも目を見開いている。そりゃ大気圧の概念がないのだから訳が分からなくて当然だろう。


 1~2体なら『物質化マテリアライズ・千本』、それ以上は『大気圧殺アトム・プレッシャー』で仕留めながら次々湧いてくるオーク大集落を走り回った。

 ランクC程度の冒険者ならすでに体力が尽きているが未だ戦い続けられるのはランク特Sと大量の魔力を宿す獣人のルシアだからだ。とはいっても体力も無限ではない。原種に万全に近い状態で挑むためにも早く目標を見つけなければならない。





(九尾化できたら楽なんだろうけどなー)


 できるだけ騒ぎを起こしたくないので、本来の姿になることは控えている。だが、そのおかげで尻尾感知の範囲が9分の1になってしまっている。そもそも集落が大きすぎるのもある。推定5万匹のオークが住む集落なのだから、【王都イリジア】に匹敵する広さがあるのだ。



 何度か他の冒険者たちともすれ違いながらもオークを殲滅していくが、一向に原種が見つからない。走り回るうちに集落の中心部ほど上位種が多いと分かったので、そのあたりにいるはずなのだが、居たのはランクBのオーク・キングが最高だった。





「おかしいな・・・」


「そうだね」


「上位種もかなり少ないですね・・・」



 原種が見つからないばかりか、上位種の数も極端に少ないように思える。以前原種討伐を経験しているイザードとエレンは原種の存在を疑いはじめた。




「原種が確認されたって情報が嘘なのかもしれねーな」


「ええ、あまりに手ごたえがなさすぎるもの・・・・」


「一度バロンさんに報告した方がいいんじゃねーか?」


「そうしましょう。ルシア、匂いたどれる?」


「ん~、はい見つけました。こっちです」



 なんとなく嫌な予感がする。

 エレンさんの弐式霊術ですでに仕留めてしまった・・・なんてことはないはずだ。

 オーク原種がいないとして何故そんな誤報が出た?冒険者ギルドの情報能力はその程度なのか?


 とにかく情報整理を早めにしたほうがいいな・・・・


 【王都イリジア】で覚えた匂いを頼りにバロンさんのもとに走った。

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