33話 Let's 最前線
結果から言うと、勝負にならなかった。
銀狼モードのギンちゃんがサクッとやってくれましたよ。わたしの刀術を披露できなくてザンネンダナー。
あと、ギンちゃんの擬態したシルバーウルフだけど、別にシルバーウルフを捕食させたわけではない。シルバーウルフはブラックウルフの上位種でランクSの魔物なんだけど、ギンちゃんの保有する魔力量のおかげで上位種として擬態したみたいだ。一応ギンちゃんもシルバー系の魔物なので、格としてはシルバーウルフと同じだから当然なのかもしれないけどね。
ジェフ君はギンちゃんを使ったことを「汚い」「卑怯だ」と言ってたが、冒険者にとって使い魔は武器と同じあつかいだ。問題にならない。
この事件のせいでわたしには『黒の銀狼使い』とかいう恥ずかしい二つ名がついてしまった。これが地球なら恥ずかしさで悶絶しそうなものだがこの世界だと一種のステータスになる。二つ名がつくってことはイコール実力者という考え方らしい。
それにこの事件のあと、噂が広まったのか絡んでくる連中はいなくなった。
いやーよかったよかった。
とくに事件もなかったので、ギンちゃんを愛でながら歩いてたら【クザス】に着きました。
で、1日宿泊して今日はとうとう原種討伐の日だ。現在【クザス】の門の前で集合して、最後のブリーフィングを行っている。取り仕切っているのはバロンさんと近衛騎士団長さん、あとは知らない人が2人居る。
「これより最終ブリーフィングを行う」
バロンさんの言葉で、ざわついていた冒険者たちは黙る。騎士団は相変わらず寡黙だ。良い言い方をすれば品がある。
「これより原種討伐のため、南部の林へ向かう。近くに林業で成り立つ村があったが、生存者はいないだろう。全力で潰すぞ!」
『うおおおおおおおおおおお!』
「これから部隊を4つに分ける。【イリジア】の冒険者、【クザス】の冒険者、近衛騎士団、第二騎士団だ。【イリジア】冒険者と【クザス】冒険者は挟み撃ちでオークの集落を襲撃する。騎士団は周囲に展開して、打ち漏らしたオーク共の対処だ。また原種はランク特Sのエレンとイザードにやってもらう」
『うおおおおおおおおおおおお!』
「冒険者たちは各ギルドのギルドマスター・・・【イリジア】組は俺だな・・・が率いる。騎士団は各騎士団長に従え! ランク特Sは好きな者を連れて遊撃しつつ、原種を探して討伐しろ。以上だ」
『おおおおおおおおおおおお!』
なるほど、じゃあわたしはバロンさんについていけばいいのか。残念勇者は別行動みたいだし、ギンちゃんにも出てきてもらおう。
「じゃ、ルシアちゃんは俺と原種討伐な!」
「えっ?」
いきなり現れたアホ勇者にビックリして思わず飛びのいてしまった。
「な、なぁ、そんなに警戒しなくても・・・」
「いやいや、今すごい不吉なこと聞こえましたよ? わたしも残念勇者と一緒に行くんですか!?」
「おう、頑張れ」
「聞いてないです」
「今・・「予め言えと言いましたよね」・・・いや、悪かった」
ランクSSS overの原種を討伐とか無理だ。一応わたしは(A)だが、ランクSSS overはさすがに格が違うと思う。しかも今回は九尾状態になれない。なおさら無理だ。
「ま、原種と戦えとは言わねーよ。原種との戦闘中に邪魔が入らねーように周りの雑魚を片付けてほしいだけだ」
なるほど、そういうことか
「それならいいです」
「よし、じゃあ、雑魚は任せたァ痛い!」
「何が任せたよポンコツ」
誰かと思えばエレンさんだ。ランク特Sの『極大魔法師』さんだ。今回特Sたちは遊撃隊という扱いなので、この人とも一緒に行動することになる。
「あんたが原種であたしが周囲の雑魚って昨日決めたじゃないの!」
「いや、予想外に原種が強かったらお前にも手伝ってもらうだろうと思って・・・」
「だからってルシアを最前線に出すことはないだろう? いくら周囲の雑魚を倒すだけでも下手すればランクAのカイザーオークがいるかもしれないんだよ? 分かってんの?」
「はははっ、ルシアちゃんなら大丈夫だって」
「いいから黙れポンコツ勇者!」
「痛いっ!」
改めて残念勇者ってエレンさんに頭が上がらないんだなぁ。昔何かあったのだろうか?
「はぁ、ルシア」
「・・・ん? 何ですかエレンさん」
唐突に呼ばれて一瞬反応できなかった。
「無理強いはしないけど確かにあたしたちの援護をしてくれたらとても助かる。ランクA以上の奴らはみんな原種の怖さを知ってるだけに遊撃隊に来たがらないしね。もう一度言うけど無理強いはしないよ?」
う~ん。ランクAやSの人たちが怖がるほどの奴なのか原種って・・・。
正直嫌だけどエレンさんの頼みは聞いてあげたいと思う。理由は簡単だ。残念勇者を手玉にとれる人だからだ。出会って少ししか経ってないけど、エレンさんはいい人だと思うし信頼できる。
それにランク特Sの人が最前線に誘っているのだって、実力があってこそだと思う。わたしにその実力があるのならやってもいいかもしれない。
「分かりました。エレンさんの頼みですし、援護ぐらいならやります。多分遠くから弓で狙い撃つだけですけどね」
「ホントかい? 助かるよ。ありがとう」
エレンさんもいい笑顔だ。エルフの人って美人が多いらしいけど、この人はホントに綺麗だな。
「ははは、いやーよかった。これで俺も原種に集中できそうだ。さすがは俺のルシアちゃん」
「誰があなたのですか残念勇者」
「ぷっ・・・ふはははは。残念勇者って・・・くふはははは」
「なっ・・・冗談だよ。って笑うなよエレンのババァ!」
「誰がババァだって?」
「すんません調子に乗りました」
いやー、アホ勇者がいるだけでネタが尽きないね。芸人の素質があるよきっと。
「じゃ、あたしたちもそろそろ出発しよう。他の部隊はもう向かってるみたいだしね」
「ああ」
「はい」
原種か・・・・わたしの同類なんだよね。
原種を倒せるのは原種だけって話を聞いたりしたけど・・・フラグじゃないよね・・・
シルバーウルフのランクをA→Sにしました