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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
3章 原初の魔物
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32話 決闘をしよう

 【王都イリジア】が誇る鉄壁の大門の前に整列する集団が2つ。


 一つは薄い金色の輝くフルメタルメイルを纏った者たちで、その数50。統一された片手剣を腰に差し、磨き上げられた盾が朝日を反射している。王都と騎士王を守護する直轄部隊の近衛騎士団だ。


 もう一つの集団は、装備もバラバラで列も乱れ、なんとか集合している様相を見せている。斧を背負った者やローブを着こんで杖を握る者、槍や剣を身に着けた者など多種多様である。もちろん、ギルドマスターであるバロンの命令で強制招集されたランクD以上の冒険者たちだ。


 整然と立ち並ぶ近衛騎士団に対して、あちこち移動したり大声で騒いだりと落ち着きのない冒険者たちに、思わず青筋を浮かべるバロンだが、下手に叱れば余計に面倒になることが分かっているので、グッと抑える。



 数度の深呼吸で落ち着いたバロンは、協調性のない冒険者たちに口を開いた。




「注目っ!」



 バロンが張り上げた声で幾分か静かになった。何人かは未だにバカ騒ぎをしているものの、ほとんどがバロンへと注目する。




「これより【第二都市クザス】へと出発する。再度確認するがこれはランクSSS overの超高難度の討伐依頼だ。舐めてかかるとあっという間に死ぬぞ。報酬は一人あたり金貨1枚だ。討伐功績によってさらに増額されるから各自死力を尽くすことだな。いいか? 死ぬなよ」




『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』



 200人ほど集まった冒険者たちが雄たけびをあげ、奮起する。


 ランクSSS overの依頼で金貨1枚は正直言ってぼったくりもいいところのブラック依頼だ。だが報告によればオークは推定5万匹。王都からの援軍で250人だから、【クザス】で合流すれば500人ほど。つまり一人当たり100体だ。もちろん誰もが100体も倒せるとは思わないが、実力によってよりたくさんの報酬がもらえると分かってるので、誰も文句は言わない。




「これから1週間の旅になる。くれぐれも近衛騎士団と揉めるんじゃないぞ!」




「「「「お、おう」」」」



「おい、ほとんどの奴が今返事しなかっただろ! いいか、面倒ごとは起こすな!」



『おう・・・』



 こんなので大丈夫なのかと頭を抱えるバロンに近衛騎士団の方から一人近づいてきた。







「バロン殿も大変ですな」


「ああ、まったくだ」


 近衛騎士団の甲冑と白のマントを纏った近衛騎士団の団長であるマルク・ミュラー・アールクリフがバロンの肩にポンと手を置く。




「騎士たちはいつでも出発できる。そちらはどうだ?」


「こっちも大丈夫だ。少し予定の時間から遅れている。すぐに【クザス】に向かおう」


「心得た。では騎士団が先行する」


「了解」




 オーク原種討伐のため編成された250人の者たちが【イリジア】の大門を背にした。いったい何人がこの門を再びくぐることが出来るのだろうか?








――――――――――――――――――――


 【イリジア】を出発して4日目の夕食時のこと。







「おい、なんでここにこんな小さな女の子がいるんだよ?」




 またか・・・・

 もう何回目だろう。いちいち説明するのが面倒だ。


 軽くため息をついて冒険者の男を見上げる。

 レザーアーマーと片手剣を装備した前衛タイプの若い男だった。装備の質や雰囲気から見てランクDと言ったところか。男の背後にはパーティメンバーと思しき霊術師の男と大剣を背負った大男が同様にわたしを見て戸惑っている。


 周囲の連中の反応は様々だ。

 わたしのランクを知っている人は面白そうに傍観し、知らない人は不思議そうな顔をしている。


 仕方なくわたしのギルドカードを見せた。




「な・・・ランクBって・・・嘘だろ」


「しかも(A)だぞ・・・」


「・・・・・・まじで?」




「わたしはこれでもランクBですから、問題ありませんよ。人を見かけで判断しないことをお勧めします」


 ギルドカードをしまって、周りにも聞こえるように言った。


 お腹も空いたので残念勇者に夕食をもらいに行こうとした矢先に面倒なことだ。ちなみにアホ勇者はアイテム袋という時空間魔法によって拡張された空間に物をしまうことが出来る魔法道具を持っているので、わたしたちの食糧管理を任せている。この袋内は時間が停止しており、食料の保存にはもってこいなのだ。


 さっさとイザードのところに行こうとしたが、さっきの男が立ちふさがった。



「まだ何か用ですか?」


「こんなひ弱なガキが俺よりランクが上だなんて認められねぇ」


「いや知りませんよ。事実を受け止めてください」


「うるせぇ。こいつがランクBなら、俺はランクAでもいいはずだ!」


「おいジェフ、あんまり無茶苦茶言うな!」


「そうですよ。この少女もギルドが認めた高ランカーなんです。嫉妬する気持ちは分かりますがね」




 パーティメンバーに諫められるジェフ君はどうやらわたしが自分よりランクが高いことに納得いかないみたいだ。今までもわたしのランクに驚く連中はいたが、突っかかられることはなかった。多分ジェフ君も、理解はしていても納得したくないのだろう。




「うるせぇっつってんだよ! 俺がこんなガキより下だなんでありえねぇ。金を積んで手に入れたに決まっている。どうせどっかのボンボンなんだろ」


「おい、いくら何でも言い過ぎだ。失礼だぞ!」


「じゃあ、お前は納得できるのかよ?」


「そ、そりゃ納得したわけじゃないが・・・・」


「だろ? だから言ってるんだよ。こんな奴にランクBはふさわしくない。俺と模擬戦しろ! 俺が勝ったら冒険者止めて今すぐここを立ち去れ!」



 は? 何言ってるんだコイツ? バカなのか?



「ジェフ! いい加減にしてください! 今は依頼中です」


「今は夕食時だ。それに他にも模擬戦している奴だっているじゃないか」



 ジェフ君はわざとらしく周りを見渡して同意を求める。

 

 確かに休憩時間に模擬戦をしている人たちは結構いる。腹ごなしを兼ねて、普段触れ合いのない冒険者たちと交流という名の戦いかたりあいをしている。


 模擬戦というのなら理に適っている。




「お断りします」



 だが面倒なので断った。




「なんだと!?」


 ジェフ君は挑んだ戦いをサラッと流されて真っ赤になっている。



「その模擬戦にわたしが負けた場合、わたしは冒険者をやめてここを立ち去るんでしたっけ?」



「ああ、そうだ。だから戦いを受けろ。やはり金で買ったランクなんだろ!」



「では聞きますが、もしジェフさんが負けたらわたしに何してくれるんですか?わたしがランクB冒険者の地位をかけるのと同等の物を提示できますか?」



「うぐっ・・・それは・・・・そんなの関係ねぇんだよ!」



 はぁ、やはりバカなのかコイツは?



「ジェフ! 彼女の言う通りですよ!」


「あまりに身勝手だ! とりあえず落ち着け」



 さすがにジェフ君のお仲間さんたちも彼の身勝手さに声を荒げだした。周囲の野次馬共もいい加減鬱陶しいし、これ以上は迷惑だ。模擬戦を受けてあげるのもいいかもしれない。




「わかった。模擬戦してあげる。ただしそっちが負けたら、全財産と今回の依頼報酬をすべてもらうから」


「「なっ!」」


「はぁ? ふざけんな!」


 ジェフ君、何もふざけてないよ。お仲間さんたちは絶望の表情を浮かべてるけどね。



「なんでこの俺がそんな金を払わなければならないんだ!」


「これは模擬戦・・・というかもはや決闘ですよね?わたしはランクをかけるのですからあなたも相応に対価を見せてください。それとも負けるのが怖いのですか?」



 とどめに余裕の笑みを浮かべ、挑発する。ジェフ君は無駄にプライドが高いみたいだし、乗ってくれると思う。



「ぐぬぬ・・・いいだろう。貴様を叩きのめして俺をコケにしたことを後悔させてやる!」


「ジェフ! やめなさい! 今なら間に合います!」


「全財産を賭けるんだぞ? わかってるのか? お前は・・・」


「うるせぇんだよ。俺が負けるはずねぇ!」



 大剣を背負った大男が何か言いかけたが、ジェフ君がさえぎって最後まで聞き取れなかった。



「はぁ、わかりました。ジェフには一度痛い目に合う必要があるみたいですね・・・」



 そう言った霊術師の男が懐から紙を取り出した。



「お互いに賭け事をするので、その誓約書です。ジェフは全財産と今回の依頼報酬。この子「ルシアです」・・・ルシアさんはランクBの地位。よろしいですね?」



「はい」

「ああ、早く始めろ」



「では、サインしてください」




 誓約書にサインすると紙が青く光った。たぶん魔法がかかっているのだろう。



「はい、確認しました。もしこの制約を破れば罪人として奴隷紋が浮かび上がるので気を付けてください」



 ふーん。なかなかエグイ霊術だ。これで条件を踏み倒すことができなくなるのか。多分、その奴隷紋が浮かんだら奴隷の所有者はもう一人の誓約者になるんだろう。








「では、この決闘の審判は僕がしましょう。ルールは先にダウンした方が負けです。また、明らかに勝負が決まった場合は僕が止めます。もちろん殺傷行為は禁止です。では、構えて」



 ジェフ君は腰の片手剣を抜いて剣先をわたしに向ける。さっきまでと違い、落ち着いた構え方をするジェフ君に驚いたが、特別強者の気配はしない。尻尾感知でも霊力量は普通ぐらいを示している。まさにランクD~Cのたたずまいだ。


 この決闘は一対一なので、弓は不利だ。霊術は殺傷力が高いから牽制に使うしかない。というわけで、使い魔のギンちゃんと霊刀を使うことにした。


 実は霊刀は使い勝手がいいので、ローブの中で帯刀しているのだ。旅の合間に残念勇者にも鍛えてもらったので、剣術もそこそこ使える。相手が一応ランク特Sだったので相手にならなかったが、これは自分の実力を知るいい機会だ。もちろん模擬戦なので超振動は使わないよ。




「ギンちゃん、銀狼モード!」


 わたしのフードから飛び出したスライムのギンちゃんがかつて戦った銀狼の姿に擬態する。わたしも霊刀を抜いて、準備完了だ。





「「「「「「なっ!」」」」」



 ジェフ君を含め、わたしのギンちゃんに驚いているみたいだ。今の銀狼の姿はランクSのシルバーウルフと同じだ。3mの巨体を前にジェフ君はガタガタ震えている。



 ・・・・・勝負になるのかなコレ 





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