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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
2章 二人旅
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28話 イリジア

 

「わー、大きいですね」

 

「ははは、そうだろうそうだろう。なんたってこの国の首都だからな」


 わたしは今【イリジア】の前まで来ている。

 

 【イルズ騎士王国】最大の都市であり、騎士王の住まう王城もここにあるだけあって、外壁は立派の一言だ。某巨人アニメの人類の希望と渡り合えるほどの高さはないものの、目測で20mはある。また、正面の正門もかなり大きい。装飾こそないものの、堅牢さと実用性を兼ね備えた首都を護る防壁を破るにはどれほどの戦力が必要だろう。


 そもそもこの世界の技術水準で、この外壁を建設するにはどれほど時間と労力がかかるのか気になるところだ。



(ま、科学のかわりに魔法が発達してるから、建設に使う魔法もあるんでしょうけどね・・・)



 正面の大門の前にはかなりの数の人が並んでいた。

 大門と言っても開いている様子はなく、馬車がなんとか通れる程度の小さな一般用の出入り口があるだけだ。




「てかなんでこんなに並んでいるんでしょう?」


「まぁ、首都だし警備もしっかりしないといけねーからな。自然と検問も時間がかかるようになるのさ」


「大門は閉まっているみたいですが?」


「あの大門は軍事用だ。戦時か魔物の大規模討伐に騎士団を動かすときに使うんだ。それ以外なら、他国の重要人物が来るときかな」


「じゃあ、時間がかかりそうですね」


「ああ、夕方になるかもしれんな」



 えー

 今は昼過ぎだから、あと3、4時間か。



 暇だ



 ギンちゃんをぷにぷにして遊んでおこう。


 ちなみにギンちゃんは普段わたしのローブのフードに入っている。

 遊ぶときだけ腕に抱えてぷにぷにするのだ。

 プルプル震えて喜んでくれるので楽しい。





 ギンちゃんと戯れているうちにわたしたちの番が来たようだ。

 フルメタルプレートの騎士の一人が職務質問する。



「よし、次。身分証を見せてくれ。あと【イリジア】に来た目的は?」


「ほら、冒険者カードだ。こっちの女の子は身分証を持っていないが、俺が保証する。ここに来た目的は宿に泊まりたいからだ。他にも予定はあるが、基本的にただ立ち寄っただけだな」


「はい確認しまっ・・・、ランク特S冒険者! し、失礼しました」


「ははっ、畏まらなくてもいいぜ。じゃ、通らせてもらうからな」


「はい、本来ならこちらのお嬢さんの通行料金銀貨1枚が必要ですが、ランク特S冒険者様のお連れ様ということで免除になります。ようこそ【イリジア】へ!」



 ほう、残念勇者のおかげで通行料を払わなくてもいいらしい。

 たまには役に立つじゃないか。

 さすがは勇者(笑)




「じゃ、宿に行くぞ」


「わかった」



 残念勇者に連れられて門をくぐり抜けると、白い街並みが広がっていた。


 全体的に白を基調とした壁の家が立ち並んでいて、ギリシャの風景を思い出す。

 正面の通りは市場になっているらしく、都会らしい喧騒と食べ物のいい匂いが出迎えてくれた。




「あんまりキョロキョロすんなよ? 田舎者だって思われるぜ?」


「田舎の何が悪いんですか? 田舎出身なので間違ってないですし」


「お、おう」




 どうやら勇者殿はわたしに大人ぶってみたかったようだ。

 残念だったな。わたしは田舎が好きだ。前世では田舎のおじいちゃんの家に行くのが楽しみだったのだ。



 この世界では田舎出身=程度が低いというイメージがあるらしいが、とんだ偏見だと思う。


 だが、情報速度が遅いこの世界において、田舎は一足も二足も遅れているのが現状だ。ということは、あながち間違いではないのかもしれないが。




「ところでどこに向かってるんですか?」


「さっき大門で言ったろ? 宿だ」


「あ、適当な言い訳じゃなかったんですね」


「ルシアちゃんは俺を一体なんだと思ってるんだ?」


「残念勇者、勇者(仮)、勇者(笑)、アホ勇s・・・・・」


「わかった! わかったからそれ以上はやめて」



 そう言いつつ嬉しそうな顔してるじゃないか変態

 ドMに目覚めて残念さが増幅してしまったらしい。



「で、どんな宿です?」



 ここらで話を戻さないと勇者(笑)を喜ばせてしまう。それだけは断固阻止だ。



「ああ、俺が【イリジア】に来るたびに使ってるとこでな、飯がうまくて部屋も綺麗だ。なんといっても風呂つきってのがポイントだ」


「風呂があるんですか?」



 お風呂!

 転生してから、一回も入っていない。

 え? 不潔?

 ちゃんと水浴びしてます。女の子にそんなこと言っちゃいけません。


 だが、温かいお湯に浸かれるのはありがたい。

 今夜は気持ちよく眠れそうだ。








「もうすぐ着くぞ。ほら、あの看板だ」


 あれか。

 『盾屋』




・・・・・・・・・・・・・・・・・・



「『盾屋』と書いてありますか?」


「書いてあるな。というか字が読めるんだな」


「バカにしないでください。字ぐらい読めます。というか盾屋さんですよねアレ?」



 立派な看板には騎士がつかうようなカッコイイ盾のマークと『盾屋』の文字。

 どうみても宿ではない。



「ま、入ってみれば分かるさ」



 残念勇者に連れられて入ってみると・・・確かに宿屋だった。

 1階は食堂になってるらしく、カウンターと奥に調理場があるみたいだ。

 大量にある椅子と丸机に座って夕食を食べたり、談笑したりとにぎやかである。




「よぉ、ミリーちゃん。久しぶり」


「あ、イザードさん。こっちに戻って来たんですね?」


「ああ、1週間朝食と夕食つきで2部屋だ」


「はい、あの、それでそちらの狐獣人の子は?」


「俺の子だ」


「「はっ?」」


「はははっ、冗談d・・・」



 イラッときたので『物質化マテリアライズ』を使ってナイフを形成し、アホ勇者の首筋に当てた。




「冗談だからな? そんな危ないものは降ろそうね? え? なんでそんな冷たい目でみるのかな? そんなルシアちゃんも可愛・・・ぐへっ」



 こいつは学習能力ないのか?

 もしや本物のドM・・・・?


 ちょっと(かなり)引いた。



「あ・・・あの・・・」


 カウンターの娘さん・・・ミリーさんだっけ?が心配そうに声をかけてきた。


「ああ、大丈夫です。この変態も一応ランク特Sなのでわたしの蹴りぐらいではものともしませんから」


「ぐふ・・・うおぉぉ・・・」


「いや・・・あの・・・蹴ったところに問題があるかと・・・」



 ん?

 わたしは男の急所を全力で蹴っただけだ。問題ない。(大ありだ)

 ミリーさんはオロオロしているが、ここは泣く子も黙る美少女の笑顔で対応だ。




「じゃあ、部屋まで連れていきますんで」


「えっと・・・はい、205号室と206号室です。夕食は18時から21時の鐘までで、朝食は6時から9時までです。大浴場はいつでも利用できますが、利用するときは私に一言かけてください。鍵をどうぞ」


「はい、ありがとうございます」



 笑顔はいいね。

 サービス業界の進んだ日本では笑顔はプライスレスの標準装備だったよ。


 悶絶している残念勇者の足を持って引きずりながら階段を上って部屋をめざした。



「痛い痛い、わざとだよな? 絶対わざとだよな? あがっ、痛っ。ちょっと待て。さっきは悪かったから落ち着k痛い痛い」



 残念勇者が何か喚いていた気がしたが幻聴だ。

 そう。幻聴だ。Are you OK?


 とりあえずアホ勇者を205号室に放り込んで、わたしは206号室を使うことにした。

 夕食まで時間もあるし、休憩することにしよう。


 装備品を外して、ベッドに転がった。

ギンちゃんを抱き枕にするのは忘れない。


(あ、ふかふか)


 疲れていたのか、すぐに意識を手放した。






~その後の食堂兼ロビー~


「なぁ、今の可哀想な男だれだ? ここの宿使うってことはそこそこのランクの冒険者か有名な商人だろ?」


「俺も見たことねぇな。ミリーちゃんと知り合いっぽかったし、彼女ならしってるんじゃね?」


「ええ、知ってますよ」


「うおっ、ミリーちゃんいつの間に背後に?! てかあいつ一体だれだ?」


「えっと・・その・・・『双術』さんです」


「なんだと! あの『双術』か!」


「誰だそりゃ?」


「バッカ、なんで知らねぇんだよ! ランク特S様のイザードだよ」


「げっ、あの勇者の?」


「ああ、だがそれよりもあの狐獣人の少女だ」


「ランク特Sを変態呼ばわりしてたな・・・」


「急所をためらいなく蹴り上げてましたね・・・」


「首筋にナイフを当てたあの動き・・・・」



「「「「あの子こそ何者だ?」」」」




 その後、勇者が謎の少女に尻を敷かれているという噂が【イリジア】で流れた。


飲みすぎた。

しんどー

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