2話 思ってたのと違う
今日2つ目です。
気が付いたとき、まわりは真っ暗だった。
先ほどとは真逆の光景に一瞬戸惑う。
しかし、すぐに明るくなった。
暗い場所からいきなり明るみに出たのだろう。目に光がささるような痛みがある。
・・・・・ん? 痛覚がある?
そして、次の瞬間、いきなり鼻と口に空気が流れ込む。
急なことでビックリしたわたしは本能的に泣き出してしまった。
「おぎゃぁ、ふぎゃぁ・・」
そうか、わたし今生まれたのか。
一通り泣いた後、産湯らしきものを浴び、布にくるまれて寝かされた。
しかし、はっきりと前世の記憶があるってのは不思議な感覚だ。
生まれて1週間ほどたったが、うまく体が動かせず、もどかしい思いをしている。
目と耳は機能しているので、音をひろったり、見える範囲を観察したりと情報収集に努めた。
しかし、言語が違うため、親らしき人物の会話は理解不能だ。
なぜか、父親とおぼしき人物に涙ながら拝み倒されるのは見ていて気味が悪い。
もうひとつ気づいたことがある。
というか、生まれて目が見えるようになってから、ずっと気になってることだ。
なんと、わたしの親に獣耳と尻尾がついている。
はじめはたちの悪いコスプレだと思ったが、どうやら獣人とやらみたいだ。
あの神も『剣と魔法があふれるファンタジー世界』とか言ってたから、きっとファンタジー要素の一つに違いない。
いやー なかなか冷静な分析だね。
耳と尻尾の色と形状から考えて、たぶん「狐獣人」だろう。
あれ? じゃあ、わたしも狐獣人なの・・・?
てっきり、人間になれると思ってただけに結構動揺してしまった。
神が言ってた能力ってこれのこと?
なんか思ってたのと違う感がハンパない。
もっと 「生まれたときから魔力が使える」とか、ありきたりなことイメージしてた。
これは、転生して失敗だったね。言っても仕方ないけど。
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転生して1か月ぐらいたった。
言葉は相変わらず分からないままだが、寝返りを習得した。
寝ころびながら移動できる便利な技だ。
ちなみに今の食事は母乳なのだが、精神年齢17歳のわたしからすれば、かなり恥ずかしい。
動けないため、トイレもいけないのもつらい。
おしめを変えてもらっていると、情けない気持ちになる。
早く、歩行スキルがないと、恥ずかしすぎて悶絶しそう。
そうだ、最近不可解なことがある。
毎日、両親に連れ出されて大きな建物に通っている。
そしてそこで、台座のようなベビーベッドらしきものにのせられて、いろんなひとに拝まれるのだ。
狐獣人の文化なの?
子供を大切にして祀りあげる風習でもあるの?
いまだ自在に動けないわたしはされるがままに毎日を過ごすだけだ。
正直、今すぐ言語を習得したい。
この狐獣人たちが何を言ってるか理解できれば、状況がわかるはずだし。
最優先事項は「歩行」と「言語」ね。
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とりあえず、歩けるようになったし、言葉も日常会話なら問題なくなった。
しかし、ここまでくるのに半年・・・・
いや、半年で言語を習得したんだ。さすが赤子は頭がやわらかい。
それと、同時に自分の姿を確認した。
鏡はないので、水面に映る自分の姿を見ただけだ。
判ってはいたが、自分にも耳と尻尾がついてる。
髪と瞳は黒色で日本人らしい顔つきだが、肌は白色だ。
しかし、そんなことはどうでもいい。
なんか知らんが・・・・・
尻尾が9本もある
あれか? 九尾の妖狐とかいうやつか?
これじゃ、ほんとに妖怪だよ。
白い肌が余計に妖しさを引き立てる。
ほかの人は尻尾が1本だけなことを考えると、わたしは突然変異なのかな。
いろんな人に拝み倒された理由がわかった気がする。
わたしはルシアと名付けられたが、基本的に「神子様」と呼ばれる。
名前で呼ばれるのは家族団らんのときだけだ。
父親と母親はそれぞれホグとミアという名前らしいが、わたしは「とうさま」「かあさま」と呼ぶので、知ったところで使わない単語だ。
まあ 第一目標は達成したから、次は魔法でも見てみたい。
魔法の教科書でもあれば自分で調べるのだが、あいにく我が家にそんなものはない。
そもそも、文字が読めないだろうから、まずは文字を勉強しないといけないんだけどね。
だが、そこは問題ない。
真っ白な髪に威厳を感じさせる髭を持つ老人。杖をつき優しい目をした、いかにも長老という風格のおじいさんに教育させられてる。
文字と計算を教えてくれるが、ほんとは17歳のわたしにとって、計算などお手の物だ。
あとで聞いたが、この人は狐獣人の長であり、わたしの祖父でもあるらしい。
とにかく、文字は早めに習得して損はない。
生まれて半年で文字と計算を理解するさまは天才幼女というべき異常なことだが、そこは「神子様」だから特別だと納得してもらおう。
だが、やはり言わせてほしい
思ってたのと違う