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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
2章 二人旅
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27話 ギンちゃん

(ぷにぷに)


ぷるんぷるんっ


(なでなで)


ぷるるんっ




 銀色のスライムを抱えて戯れている少女と若い男が【イルズ騎士王国】首都の【イリジア】へと続く道を歩いている。


 もちろんルシアと残念勇者ことイザードだ。


 本来魔物であるスライムを抱えた少女など、傍から見れば驚愕ものかもしれないが、見る人が見ればモンスターテイムだと気づくだろう。


 全力で戦っていたはずのルシアと銀スライムがなぜこうなっているのか?

 少し時間をさかのぼる。




―――――――――――――――――




ぽすっ



 わたしが魔力を与えたことで(?)復活したスライムが襲い掛かってきた、と思ったらわたしの腕の中でプルプル震えている。



 「説明求む、残念勇者」

 「お、おう」














 ふむふむ、なるほど。

 スライムって魔物は死んだときに自分より一回り小さい空の魔核を残すらしい。

 その小さな魔核に周囲にある魔素から魔力が補給されることで、新たなスライムが生まれるのだそうだ。


 つまり、無性生殖する微生物みたいなものらしい。

 今回はわたしが無理やり魔力を与えたせいで、一気に生まれたのだとか。

 本当は、少し魔力を与えて、それが吸収されたらスライムの魔核だと判明したらしい。


 そもそも魔核には周囲の魔力を吸収する能力はなく、魔核をエネルギーとして魔法道具に使用したとき、残った空の魔核にはエネルギーを再補給することはできないのだ。


 その点スライムは、魔核が魔力のコアであると同時にスライム本体でもあるので、そういった機能が備わっているそうだ。

 ただ、魔力を再補給するとスライムが復活してしまうので、スライム魔核は研究資料としての価値しかない。



 だが、聞いて驚いて欲しい。


 なんと!


 この異世界!


 スライムはランクA overの魔物なのだ!



 RPGなんかだと、雑魚として認識されているスライムだが、この世界では凶悪な魔物なのだという。


 理由はスライムの能力がとんでもないからだ。


 再生

 捕食

 擬態



 再生と擬態は確認した。

 昨晩の戦いで、銀色のウルフに擬態し、とんでもない再生力も持っていたのを確認している。



 そして捕食だが、

 食べたものの情報、魔力を取り込むのだそうだ。



 つまり、スライムがブラックウルフを捕食すると、その情報と魔力を奪い取り、擬態でブラックウルフになることができる。

 ちなみに体毛の色は、スライムの色に依存するみたいだ。

 そして魔力を奪い取ることで、魔核が成長するらしい。

 成長すると魔物のランクが上がる。

 ランクA overとはそういう意味だ。



 スライムの倒し方だが、魔核を損傷させることだそうだ。

 昨晩の戦いで、スライムを滅多切りしたにもかかわらず魔核を捉えることが出来なかったのは、スライムが自身の魔核を体内で移動させて、攻撃を避けていたからだそうだ。



 この能力のせいで、スライムを見つけるのも倒すのも難しく、詳しい生態はよく分かっていない。






 で、話を戻そう。


 ようするに、わたしがスライムの空魔核に魔力を補給したことで、親みたいに認識された。

 そういうことらしい。





「なるほど、理解しました。じゃぁこの子に名前を付けなければいけませんね」

「えっ?」

「わたしが親なのでしょう? なら名前を付けてあげるのは当然です」

「あ、あぁ。そうだな・・・」

「う~ん。何にしましょう・・・」




「スライムのスラでどうだ?」

「却下です」



「じゃあ、ライム」

「却下」



「プルルンとかは?」

「ちょっと黙ってください。うるさいですよ残念勇者」

「うぐっ・・・(ルシアちゃんに罵られたハァハァ)」




 残念勇者が気持ち悪いことを考えてた気がしたので、冷たい目線を投げておいた。


 名前か・・・

 シンプルでかわいい名前がいいなー




「決めた。この子の名前は『ギンちゃん』で」


「どういう意味だ?」


「えっと、ギンというのは古い言葉で銀色セイルバという意味です」


「へー。博識じゃねーか」


「それほどでも」




 もちろん嘘だ

 古代語なんて知らない。

 日本語である。



「で、当のお前はその名前でいいのか?」


ぷるるんうれしいよ


「嬉しいそうですよ?」


「いや、そんなん分からねーだろ。プルプル震えてるだけじゃねーか」


「うーん。なんとなくギンちゃんの言ってることが分かるんですよね」


「そうなのか? それも魔力を与えたからなのか?」


「わかりませんけど、たぶん間違いないかと」



 ギンちゃんかわいい。

 見た目は銀色のお餅みたいな形だけど、プルプル震えて愛嬌があるし、触り心地も最高だ。

 何となく言いたいことが分かるので話相手にもなってくれると思う。

 いい加減、残念勇者の相手も面倒だったのだ。




 






 こうしてひと段落したわたしたちは、首都【イリジア】へ向かう道を歩き始め、冒頭にいたる。




「(なでなで)」


ぷるるん

(ルシア、なでるの、上手)


「なぁ・・・」


「(ぷにぷに)」


ぷるんぷるん

(ルシア、くすぐったい)


「なぁ・・・ルシアちゃん」


「ふふ、ギンちゃん可愛いわね」 


ぷるんぷるるるんっ

(ルシアもかわいい)


「まぁ、ありがとね」


「なぁルシアty」


「さっきからうるさいですよ役立たず勇者。あと前方にオークが2体いるのでよろしくです。ちょっとぐらい役に立って見せてください」


「くっ・・・傷口が・・・」




 ちょっといじめ過ぎただろうか。

 ギンちゃんが可愛すぎたので、ついつい残念勇者をぞんざいに扱っていた。

 まぁ、あの勇者(笑)はアホだから、いじりがいがある。


 このままわたしのおもty・・・ゲフンゲフン

 わたしの護衛としてこきつk・・・ゴホン

 

 仲間としてともに【ナルス帝国】までともに行こうと思う。




「残念勇者、地面に這いつくばっていないで、オークを倒してきてください。わたしは遠くから罵倒・・・・じゃなくて応援してます」


「今、罵倒するって言わなかったか?」


「気のせいです」


ぷるん

(気のせい)


「最近なんか俺の扱い酷くない? ねぇちょっと・・・」


「あー、やっぱもういいです。オークが10mぐらいまで迫っているのでこっちでやりますから、役立たずは下がっていてください」


「役立たず・・・ルシアちゃんに言われるといい響きだ」





 この人の残念さはもう二度と治らないかもしれない。






「ギンちゃん、オークお願い」


ぷるん

(わかった)



 わたしの手から離れたギンちゃんは銀の毛並みのウルフの姿になってオーク2匹を瞬殺した。

 戻ってきたギンちゃんは口に魔核を加えている。

 一回教えただけなのに学習が速い。



「グルゥ、グルルル?」

(どう?すごい?)


「うん、よくできたねギンちゃん。えらいえらい」


 ギンちゃんを優しく撫でてあげると、嬉しそうに鳴く。

 やばい、かわいすぎる。



 ちなみになぜ生まれたばかりのギンちゃんがウルフの姿になれるのかというと、昨晩倒したブラックウルフの死体をいくつか食べさせたからだ。


 完全に体が残った死体がなかったので、何匹か食べさせなければ擬態できなかった。


 おかげで、あの銀狼のように立派な姿に擬態できるようになったのだ。

 綺麗な銀色の毛並みをもつ、体長2mのウルフは、強さのランクでいうとCぐらいだと思う。

 再生能力を加味してランクAだ。


 強そうな魔物にであったら、ギンちゃんに捕食させていこうと思う。






「うん、よし、ギンちゃん元に戻って」


 擬態を解いてスライムの姿になったギンちゃんを抱えて歩き出す。

 

 ああ、この触り心地・・・






 え? 残念勇者?


 どうでもいいかな?


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