表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
2章 二人旅
27/142

25話 不死の銀狼

  ブス ズブ



 ブチャッ ドチャッ



 ズズ   シュゥゥゥゥゥゥ




 千本を刺して、爆発して、再生する。


 さっきからこの繰り返しだ。


 霊力と精神力だけが、無駄に削り取られていく。



 高速再生する魔物なんて聞いてない。

 正直そう叫びたかったが、そろそろ余計なことをする体力も尽きてきた。


 ボスウルフの動きはかなり素早い。

 常人の目からすれば、とても追いきれる速さではないのだ。


 獣人であり、魔力で運動性能が上昇しているルシアだからこそ、長時間戦い続けていられる。


 体力的にはまだ大丈夫だが、このままでは先に霊力が尽きると半ば確信していた。



「仕方ないな」


 このまま千本を創り続けてもジリ貧になるだけだ。

 10本中2,3本しか当たらないもので霊力を消費するぐらいなら、近接武器を創って直接倒す。




(近接武器といえば刀かな。切るにも刺すにも使える万能武器だし)




 右手に霊力を集中して刀の形にしていく。

 刀身は身長にあわせて50cmでいいか。あんまり長いと振り回せないし。



「『物質化マテリアライズ・霊刀』」



 刀身から柄まで真っ白の刀を両手に握り、ボスウルフを正面に見据える。

 再生の終わったボスウルフは、すこし腰を落としていつでも飛びかかれる態勢で構えた。





「・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・」




 感覚的には数十秒。

 実際には数秒の睨みあいを破ったのはボスウルフだ。



 真正面から飛びかかり、喉元に牙を突き立てようと口を大きく開く。


 だが極限の集中状態にあるルシアが直線的な動きを見切れないはずもなく、身体を半歩ずらしてかがみ、攻撃を避ける。そしてそのまま手に持った刀をボスウルフの右わき腹に当てる。


 刀の切れ味なら、ボスウルフの突進速度のせいで勝手に自爆して・・・・




「!!」




 ボスウルフには傷一つ付かず、突進の勢いで刀ごと身体を持っていかれそうになった。


 あわてて、力の流れに逆らわずに受け流すように刀をすべらし、踏みとどまる。


 ボスウルフも少し態勢を崩したが、うまく着地してこちらに向きなおる。




 この刀

 まったく切れない。

 ナマクラもいいところだ。


 と思ったが、よくよく考えれば当然だった。

 本来、刀身の材質は鋼だ。

 今創った『物質化マテリアライズ・霊刀』は、ただ霊素を固めただけであるため、刃物としての機能はなかった。

 つまるところ、堅いこん棒と同じだった。



 まぁ、組成や結晶構造をを鉄と同じにして鋼を再現してもいいけど、一から創り直さなければいけない。

 残念ながら現在の霊力では、もう一本創るのは正直難しい。

 魔力を使えばいいと思うかもしれないが、魔素は制御が極端に難しい。


 例えるなら、動き回る100匹の兎を捕らえて整列させるようなものだ。

 対して、霊素は落ちている小石を並べる程度の労力で済む。


 よほど集中しても失敗するような魔力の『物質化マテリアライズ』を戦闘中にできるはずないのだ。





 というわけで、今持っているこの刀を少し工夫して使う。

 

 別に難しいことはしない。

 結合エネルギーを少し消費して、刀身を超振動させるだけだ。


 振動数は・・・・10万Hzでいいか。






キィィィィィィィィィィィィィィィィン





 超高音が鳴り響き、警戒するボスウルフが一瞬隙を見せた。


 




 刹那


 全身全霊の縮地で、間合いを詰めて刀を振り下ろす。


 わずかに反応して回避しようとしたが、すでに遅い。

 分子カッターと化したルシアの刀は抵抗もなくボスウルフの身体をを切り裂く。



 そして続けざま刀を振りぬいていく。




 一閃


 また一閃



 四肢を切断し、動きを止めることを優先する。

 そして再生しようとしているボスウルフを容赦なく切り刻む。


 千本による『爆破エクスプロージョン』と違い、切り傷は縫い合わされたかのように高速再生していく。


 だが、この高速再生も魔力を消費しているはず。

 つまり、魔力が尽きるまでダメージを与えることができれば、必ず倒せる。


 ボスウルフの魔力が尽きるか、ルシアの体力が尽きるかの勝負だ。






「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」



 

 振り下ろし斜めに切り上げ横なぎ一閃返し袈裟切りまた切り上げて振り下ろし横なぎ二連・・・・・・・




 切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る切る








「はぁ・・・・はぁぁぁ!」



 まだ再生する



 まだ倒れない



 何回切っただろう



 何分戦っているだろう



 優先的に四肢を切り飛ばし、動けないようにする。

 切った端から生えてくるが何度も切り落とす。


 隙あらば首を切断するが、それさえも再生してしまう。



 なんだこの化け物は?

 本当にウルフ種か?



 ほかにも不可解なことがある。

 これだけ切り刻んでも魔核に傷一つ付けられていないことだ。


 通常、体内魔力の容器である魔核に傷が入ると魔力が漏れ出して、すぐに魔力が尽きてしまう。

 もちろん、生半可な攻撃では傷一つ付かないが、この高周波霊刀ならば楽々切り裂いてしまうはずだ。


 だが、このボスウルフ?は魔力が尽きる様子がない。





そして何より、血が一滴も流れていない・・・・・・・・・


 脚を切断しても胴体を切り裂いても首を落としても、まったく血を流さず、切り落とされた部位は霧散して消えてしまう。



 どこまでも化け物みたいな魔物だ。






(まったく・・・アホ勇者を気絶させたのは間違いだったかも)


 後悔先に立たずとはまさにこのこと。


 正直こんなに苦戦を強いられるとは思わなかった。



 だが、後悔ばかりしていても人間成長しないものだ。


 さすがに体力も限界になりかけている。

 ここは勝負にでたほうがいいかもしれない。





「はぁっ!」


 ボスウルフの四肢と頭を切り落とし、胴体に霊刀を突きさす。



 全力で飛びのきつつ、霊刀の結合エネルギーを変換した。



「『爆発エクスプロージョン』!!」





ズガァァァァァァァァァァァァァァァン






 千本とは比べ物にならない爆発が起きた。



 爆風ですこし吹き飛ばされそうになったのを踏ん張り、舞い上がった土煙を『操空エリアル』で消していく。







 残っていたのはボロボロになった巨大な魔核だった。


 



 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ