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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
2章 二人旅
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23話  オークの集落

久しぶりの投稿!

 【イルズ騎士王国】の最東端の街【第四都市ハリス】から首都【イリジア】の方へ1週間ほど歩いたところにある大きめの集落。

 ここの住民は少し変わっていた。




 灰色と桃色を混ぜたような不健康そうな色の肌。厚い脂肪がたっぷりついた身体は2mにも及ぶ。身に着けている服はボロボロで、なかには腰布だけの者もいる。


 なにより変わっているのはその豚のような顔。




 オークだ。






 オークとは魔物の一種であり、雄の個体のみ見られる。人間含む他種族の雌個体と繁殖することができるため、一般的に「乙女の天敵」とも呼ばれ、嫌われている。

 冒険者ギルドも見つけ次第駆逐することを推奨しており、討伐すれば常時報酬がもらえるおいしい魔物という一面もある。


 そんなオークは単体ではランクDの魔物とされ、これを単騎討伐することが【イルズ騎士王国】の見習い騎士の卒業試験でもあったりする。

 

 ランクDの魔物といえば、一般人からすれば脅威そのものであるが、冒険者を1年以上続けている者や騎士たちからすれば、さほど気にする強さでもない。


 ところが中途半端に知能が高い、上位種のオーク・ジェネラルやオーク・ロードが現れ、オークの集団を統率し始めると、途端にランクCになる。集落の規模によってはランクBの依頼として、ギルドが緊急招集をかけることもあるので、ランクDの魔物だからと油断してはならないのだ。

 ちなみにオーク・ジェネラルとオーク・ロードはともにランクCである。





 その油断ならないオークの大集落を前にたたずむ2人の人がいた。


 一人は軽装に身を包んだ黒髪の男。腰に一本のロングソードを差しているが防具は籠手と脛当てしか見当たらない。駆け出し冒険者の装備と遜色ないように見えるが、彼の装備はかなり高度な魔法道具マジックアイテムなのだ。

 そして隣にはフードを被った黒いローブ姿の小さな子。身にあわない弓を背負っているものの、オークの大集落があるような危険地帯にいるのを見かけたなら、すぐに逃げるように声をかけることだろう。


 そんなアンバランスな2人がなぜこんなところにいるか。

 それは軽装の男が勇者と呼ばれる特Sランク冒険者イザードであり、旅の途中で偶然みかけたオークの集落を殲滅することにしたからだ。


 もちろんとなりの子供は九尾の神子ことルシアであり、完全にとばっちりをうけていたのだった。





「で、あんな大きな集落だなんて聞いてないんですけど、どういうことですかイザードさん」

「いやー、さすがにあれは俺も予想外だわ。俺が出るまでもないと思ったけど一応来てみて正解だったな」

「じゃあ、頑張ってくださいね」

「いやいや、ルシアちゃんもやるんだよ?」


「・・・・え?」


「え?」


「聞いてないですが?」

「今言ったし」






「・・・・・・・・・・・・」


「・・・・・・・・・・・・」





「はぁ、わかりましたよ」


 ルシアはあきらめたように背中手を伸ばして弓を構える。









 そう、そもそもの始まりは、オークの集団に襲われている商人の一団に出くわしたことが原因だ。

 護衛に雇っていたのだろう冒険者たちが苦戦していたので、イザードがサクッと助けたのだ。

 実際、オーク6体を5秒ぐらいで片づけたときはちょっとビビった。


 そしてその商人と冒険者たちから、ここ数日で10回以上もオークの襲撃を受けているという話を聞いて、イザードはオークの集落ができているのだろうと考えたのだ。


 あとはルシアの獣人としての嗅覚である程度匂いをたどったら、例の大集落が見つかったという話なのだ。








 ルシアは構えた弓を弾き絞りつつ、『物質化マテリアライズ』で弓を形成する。


 『物質化マテリアライズ』で創った物質は、距離が離れていても製作者の意思を反映して霊術を発動することができる。


 この性質によって、飛ばした矢を無理やり加速させたり、重力を無視して矢を飛ばしたりできるのだ。その応用として、着弾した瞬間に矢を構成する霊素同士の結合エネルギーを全開放して炎に変える爆撃の霊術





白戦弩バリスタ・焦滅・プロミネンス』 






 放たれた矢は一直線にオークの大集落へと進み、着弾と同時に白い光が半球状に広がる。


 効果範囲は半径5m程度ではあったが、超高温の白い熱の暴威は触れたオークたちの身体を焼滅させ、近くにいたオークたちにもダメージをあたえる。周囲の藁やオークたちの服も発火し、この突然の事態にオロオロとさまよう。


 ルシアの撃った矢は100m以上離れた岩陰から放たれており、当然気づくはずもない。

 さらに2発『白戦弩バリスタ・焦滅・プロミネンス』を放ち、オークの村を半壊させる。藁でできた簡易的な家は簡単に燃え上がり、白い熱の塊に降れたオークは一瞬で燃え尽きる。


 オークだけでなく、上位種のオーク・ロードさえも音速を超えた矢を見ることなどできない。オークからしてみれば、「突然白い光が現れたと思ったら仲間が燃え尽きていた」という世にも恐ろしい現象に見えたのだ。


 恐慌状態になって慌てふためくオークなど上位種のオーク・ロードも含めて敵ではなく、イザードが次々と残りを刈り取って終了。

 10分もかからなかった。





「はっはっは。簡単だったな」

「あの数のオークをあんな簡単に全滅させるなんて離れ業ができるのはイザードさんだからですよ」

「まぁ、オーク共も混乱してたからな。ランクAの実力があれば、似たようなことはできるだろ」

「ランクA以上は化け物ばっかりなんですね」

「あんな矢を撃つルシアちゃんに言われたくないなぁ」



 苦笑いをするイザードではあるが、30体以上のオークを剣一本で倒している時点で相当な化け物だ。一般の冒険者からすれば、3体同時に相手にできれば十分ベテランの域であることを考慮すれば、その異常性はよくわかる。

 そんな規格外を基準に考えているルシアは徐々に一般常識からかけ離れていくのだが、そのことに気づくのはずっとあとだ。




「じゃ、魔核をはぎ取るから手伝ってくれ」

「はいはい」



 ルシアとイザードはナイフを取り出し、オークの死体の心臓部の少し下を切り開く。

 心臓の下にくっつくように存在する真っ黒な魔核を取り出す作業だ。


 この魔核は全ての魔物の体内に存在する、魂のエネルギータンクのようなものだ。エネルギーの塊である魔核は、地球でいうところの石油に位置する資源でもある。家庭用の魔法道具マジックアイテムを起動させるための必需品であり、冒険者ギルドがそれなりの値で買い取ってくれる。

  

 ちなみに、家畜のような動物も霊核と呼ばれる白い石を体内に持っているが、同様にエネルギー資源として扱われる。もちろん人族も霊核は持っているが、遺族が形見として持っていたりお墓に埋めてしまうことのほうが多い。





 同族のは大切にするけど、魔物や動物のは燃料にするって勝手な話だなぁ と思いつつオークから魔核をはぎ取るルシア。オークの脂肪に阻まれてなかなか取り出せない。

 一方でイザードは慣れた手つきで次々と魔核を取り出していく。

 チャラチャラした人だがさすがはランク特Sと言える。  





「おわったーーー!」



 50匹を超えるオークから魔核を取り出すのは時間がかかった。

 結局夕方になり、その日はこのまま野宿することになる。








 野宿の準備は日が沈む前にしなければならない。

 暗くなってから寝床を探して準備をするようでは冒険者として基礎が疑われる。


 ルシアは別に冒険者ではない(まだ登録していない)が、ここしばらくで、野宿のノウハウはしっかり身についた。

 火の準備をするために薪を探して、『狐火』で火をおこし夕食の準備をする。

 今日はオークの肉を焼いて少し豪勢な食事だ。


 オーク肉は人型であることを無視すれば豚肉と同じで十分おいしいのだが、はじめて食べるルシアは少しためらった。


 この世界ではオークは食料として扱われているが、依然日本人の感覚が残るルシアにとって、人型はどうも嫌悪してしまうのだ。




「どうした? 食べないのか?」


「・・・・いえ、別に」




 これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉これは豚肉



 

 自己暗示をかけて恐る恐るオーク肉を口に運ぶ。




 パクリ





「っ!!」




 なんというか・・・・まんま豚肉だった。


 この世界では豚や牛が食用に飼育されていないそうだが、その理由がわかった気がした。


 肉が確保できて、なおかつオークが減らせるのならわざわざ豚を飼育しようとは思わない。


 ひとつこの世界について納得したルシアだった。








 あと塩コショウが恋しくなったのでなんとか確保しようと決意するのだった。



                             





この世界では家畜は羊毛のための羊がほとんどです

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