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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
1章 特別な存在
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19話 そして振り出しに戻る

「さて詳しく説明してもらおうじゃねぇか」

「霊素を固めて矢の形を形し結合エネルギーの一部を利用して重力と軌道に補正をかけさらに超加速で矢の速度を最大まで引き上げ着弾と同時に結合エネルギーを全開放して風霊術を発動させただけですが何か問題でも?」


 咬まずに言い切ってやった。この際開き直ってしまった方が楽だ。


「問題ありすぎるわ!なんだあの霊術は?あんな無茶苦茶なのは初めて見たぞ。しかも霊力の物質化マテリアライズなんて研究段階の超高等技術だぞ。嬢ちゃん一体何者だ?」


 お、おう。そうなのか。特に気にしなかったがアレ..ってこの世界にない技術だったのか。物質化マテリアライズね。うん、覚えておこう。【ハリスの街】の建築物を見る限り地球の中世ぐらいの石造りや木造のものばかりだ。魔法が発達しすぎて科学方面は進んでないのだろうな。

 でもまさか「異世界人です」などと言えるはずもないのでとりあえず村人Aってことにしておこう。


「ちょっと霊術が得意なだけの狐獣人です」

「なんて言って通じると思うのか?」

「ですよねー」


 うん、さすがに無理があったか。知ってた。


「嬢ちゃん、一体その術をどこで誰に教わった?」


 そうきたか。確かに高等霊術(笑)の物質化マテリアライズを10歳の少女が開発したなどとは夢にも思わないだろう。まぁ、でも今更隠す気も無くなったし、いっそ全部ゲロッてしまえばいいか。


「自分で創り上げましたが・・・?」

「・・・・・・・」

 

 唖然とするイザード。

 絶句している。勇者ともあろう者が言葉を失ってらっしゃる。沈黙の空気が場を気まずくさせる。もしかしなくても調子に乗りすぎたかもしれない。




「・・・・・・・」

「・・・・・・・」




「・・・・・・・」

「・・・・・あの・・」

「よし、決めたぞ」

「え?」

「お前ちょっと【ナルス帝国】に行ってこい」

「いきなり何言い出すんですか」



 【ナルス帝国】はたしか【イルズ騎士王国】の南西に位置する国だったはずだ。南にエルフの森があり、エルフたちとの親交が深いと記憶している。人族の国で唯一、魔族と和平の道を志していることで有名で、他国からの風当たりはよくない。だが、強大な軍事力を所有するため他国も強気に出られないのも事実だ。すっかり忘れてたが「異世界調停」を任されたものとしては注目しておくべき国なのだ。



「ナルス帝国総合学院という機関があってだな、そこの恩師が物質化マテリアライズを研究してんだ。ちょっとその人に会ってやってくれねぇか?もちろんそこまで連れて行ってやるし、なんなら学院に入学させてやる。」

 

 学園? ちょっと興味があるかも

 でも正直迷っている。異世界の学校というのは魅力的だし、自分の霊術も独学だから魔法も学んでみたい。だが、村の人たちがどうなったか心配でもある。

 ん?ルーク?

 あんなやつ知らん。


「まぁ、今すぐ決めなくてもいいぜ。どうせここの仕事が終わるまでは動けねぇしな」

「う~ん・・・ん?仕事?」

「ああ、魔王軍の退治」

「それって――――――」






「魔族軍が来たぞーーーーー!」





 誰かが叫んだ。たぶん見張の騎士の人だ。街の方も急に慌ただしくなり、森の反対側の門から我先にと逃げ出す人で渋滞している。


「ちっ、もう来たか。おい、嬢ちゃんは街で待ってろ。心配すんなよ。魔王は俺が倒してやるから安全だ」


 じゃ、仕事に言ってくるぜ。と言い残して走り去っていった。

 ロロさんも病院にいるはずだし、さっきの話のこともある。どちらにしろ、ここは危なそうだし街に戻ることにしよう。



――――――――――――――――――――――――――




 駐留騎士団隊長のルドルフの目の前で『焦熱竜砲ドラゴン・ブレス』が切り裂かれた。そしてその先には深紅の髪をなびかせた例の魔王が大剣を片手に立ちふさがる。まるで、これ以上の霊術は効かないと語るかのようにこちらを見つめている。


――魔王


 明らかに他の魔族とは別格と思わせる空気を漂わせている。一歩でも間合いに入れば、即切り殺されると思わせるその風格に、前衛の騎士たちは動けずにいる。参式クラスの大霊術を防がれた霊術部隊をはじめとして、他の騎士たちにも動揺が走っている。

 それでも素早く落ち着きを取り戻したルドルフはさすが隊長と言えるだろう。



「落ち着け、奴は情報(..)にあった魔王だ。前衛部隊は後退しろ。第一霊術部隊は霊力が限界だから下がらせて霊力を回復。その間は第二霊術部隊を2つに分けてローテーションで霊術を放ち、戦線を維持せよ。ただし『爆炎槍ブレイズ・ランス』のみを使用し敵軍に対して手数の多さで対応しろ。それと――――――」



「勇者を投入するっ!」




「呼んだか?」


 颯爽と登場し前衛の騎士たちのさらに前に立ちふさがるイザード。その視線はまっすぐに魔王ギラに向けられ、いつものフラフラとした雰囲気は殺気と緊張に変わっている。腰の剣に手をかけ、いつでも抜けるように構える。


「ルドルフ隊長!騎士共を下がらせろ。こいつは俺が相手するから手を出すなよ」


「聞いたな。前衛は後退し東門の防備を固めろ。第二霊術部隊は勇者イザード殿を援護できるように待機。第一霊術部隊は霊力を回復させたのち第二部隊に合流だ」


 暗に「邪魔だ」と言われていることに気づく騎士たちだが、『焦熱竜砲ドラゴン・ブレス』を一刀で消した魔王に立ち向かえるはずもなく、しぶしぶ後退する。第一霊術部隊の術者たちが霊力回復ポーションで回復する間に、第二部隊は霊術を発動待機状態で警戒する。

 魔王軍側もイザードが勇者と呼ばれていることと騎士団の様子を見て、突撃を中止し後退し始めている。そして暗黙の内に魔王ギラと勇者イザードの一騎打ちを両軍が見守るという様相を見せ始めた。



「ほー、一騎打ちかよ。魔王軍も空気が読めるんだな」

「ふん、俺の戦いに手を出す奴などおらぬ。・・・巻き込まれれば死ぬからな」

「ははっ、そりゃそうだ」


 短い会話を済ませ相対する勇者と魔王の空気に両軍ともに飲まれ、戦場は沈黙が支配している。イザードは腰の剣を抜き、右手で構える。ギラも《魔剣クリムゾン》を両手で構えなおし、お互いに睨みあう。一触即発のこの状況は常人ならば数秒と耐えられずに集中を切らしてしまったことだろう。動かぬ数秒を先に打ち破ったのはイザードだった。


「はあぁぁぁぁ!」


 人族とは思えない速度で飛び出したイザードはそのまま右手の剣を振り下ろす。当然、直線的な動きを捕らえられないギラではなく、両手に持つ大剣で受け止める。

 甲高い金属音から、とんでもない力で打ち込まれたと分かるが、両者とも涼しい顔をしている。一撃目が防がれたことを特に気にすることもなく、イザードは右からの薙ぎ払いを仕掛ける。その攻撃も難なく防ぐギラだが、上下左右と様々な斬撃を次々と繰り出すイザードの攻撃に防戦一方を強いられているように見える。

 だが、実際のところお互いにとっては小手調べのようなものだった。周囲の騎士たちや魔王軍の面々からすれば十分に高度な戦いをしているように見えたが、騎士団隊長のルドルフや魔王軍の幹部クラスと言った一部の者たちは、まだ戦いは様子見の段階であることに気づいていた。


(魔王はまだ魔剣の力を使っていない・・・・か)


 騎士団隊長のルドルフは戦いの様子を見て苦笑いしていた。すべてを切り裂くと言われる《魔剣クリムゾン》の持つ能力は「絶対切断」。物質の堅さに関係なく「切った」という事象を結果として残すというデタラメな能力だ。そしてその能力は当然魔法にも適応させる。それ故に、『爆炎竜巻フレアトルネード』や『焦熱竜砲ドラゴン・ブレス』が切り裂かれ、無効化されたのだ。

 純粋な剣術での打ち合いが本気の殺し合いに発展するのも時間の問題かと思われた。だが事態は急速に変化した。


 たった数分ではあったが、周囲の者たちにしてみれば無限とも思えた剣撃の応酬も終わりを迎え、両者は一時飛びのき間合いをとった。ここから先は全力の殺し合いが始まる。誰もがそう悟った戦場の静寂を打ち破ったのは、ギラでもイザードでもなく、魔王軍側から飛び出してきた一人の男だった。


「はぁ・・はぁ・・・ギラ様・・・報告です」


 その男の息は上がっており、ところどころ服が破れているが戦場というこの場においてはそう珍しい恰好とは言えない。伝令に来たと思われる男がきたタイミングが少しでもずれていれば人外の戦いのさなかに飛び込まなければならなかったと考えれば、幸運だったと言えるだろう。


「その報告は俺の戦いを中断するほどのものか?」


 視線はイザードに向けたままだが、その怒気は伝令の男に向かっている。戦闘狂というわけではないが、ギラはイザードとの戦いを少し楽しんでいた。これから全力でやろうとしていた時に水を差され、少し不機嫌になっていた。

―――――――その男の報告を聞くまでは



「き、緊急です。本国が・・・・落ちました・・・」


「なんだと!?」


「全身黒ずくめの男が一軍を率いて攻めてきました。防衛の者たちもまるで歯が立たず・・・・・そして、敵軍の中に・・・ゲル..とかいう男の姿も・・・」

「バカな・・・くそっ奴め」

「すぐに撤退し、本国に戻りましょう」


 進言したのは魔王軍の将軍を任されているアドラという男だった。


「本国が落ちたというのならここで無駄な時間を過ごす余裕などありません」

「くっ・・・・仕方ない。撤退し、そのまま本国を取り戻す」


 撤退し始めた魔王軍を見て、好機とみた騎士団たちが突撃の用意をしはじめる。


「待てっ!」

 

 だがそれを制止したのはイザードだった。騎士たちは困惑するが、勇者と呼ばれる者の指示であるためか素直に停止した。


「我らを逃がしてよいのか?」

「まあな、おとなしく撤退するなら止めたりしねぇさ。それにこちらの被害はゼロだしな」

「ふん、この場は貴様の好意に甘えさせてもらおう。名は?」

「イザードだ。平民出生だから姓はねぇよ」

「そうか、覚えておこう」



 【ハリスの街】で魔王軍の侵攻に目立った被害を出すことなく撃退したとのちの歴史家は勇者イザードを英雄扱いするのだが、それはまた別の話だ





20話で1章が終わりそうですね

なんとか予定どうり

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