18話 ちょっとやりすぎたかもしれない
魔王の宣戦布告もあって、【ハリスの街】が慌ただしくなっている。
住人は避難の用意をし、騎士たちは配置について警戒している様子は、まさに臨戦態勢といえる。そんな街道を歩く二人組・・・・ルシアとイザードは傍から見れば異様に見えるのも仕方ないだろう。
帯剣した軽装の若い男と狐族の少女だ。
イザードの方はまだいい。剣を差しているため、冒険者か傭兵だと考えられる。まぁ実は勇者なのだが。だが隣のルシアは明らかに一般人だ。少しでも早く、遠くに逃げようとする他の者たちとは逆に、一番森に近い東門へと歩いていくなど普通ならありえないことだろう。
「で、魔王ってどんなやつだった?」
「すごい大剣を振り回してました。黒い鎧を着た大男です」
「ふんふん。外見は情報通りだな」
「古い情報しかないって言ってましたけど、どれぐらい古いんですか?」
「あー、たぶん500年以上前かな」
「はぁっ?!」
「まったく、平和なせいでそんな情報も更新されないままだったから――――――」
「いやいや待ってください。魔王ってそんなに長生きなんですか?」
「ん?知らねぇのか?魔族は人族よりも長生きなんだぜ。なんでも魔力ってのは身体能力を底上げする効果があって、そのおかげで寿命も延びる・・・・・とかだっけか?難しい話は忘れたが、要はかなり長生きってことだな」
「へぇ~」
「なぁ、さっき知り合いが魔王に切られたとか言ったよな。そいつはどこにいるんだ?」
「えっと、すぐそこの病院です」
「ああ、兎の獣人のとこか?」
「はい」
「よし、行くぞ」
この人ほんとに勇者か?というぐらい軽い男だが、見る人が見ればその何気ない仕草からも実力がみとれる。歩き方や口調にも隙がない。また膨大な霊力を保有しているのだが、ルシアのように霊力を感知できなければ、この男の恐ろしさは理解できないだろう。
ちなみに霊力を感知できるというのはかなり希少な能力だ。特殊な霊具を使えば可能だがかなり高価で、先天的に霊力感知ができる者はとても重用される。国家クラスでいえば、スパイなどの諜報員として抜擢されることもあるぐらいだ。そうでなくとも、冒険者間では斥候要員として引っ張りだこになる。
それ故に、勇者イザードの霊力量のすごさを理解できているのはこの場ではルシアのみなのだ。人は見かけによらないものである。
そうこう言っているうちに病院についた。ロロの怪我は深かったが処置が適切にできていたおかげで、一命はとりとめた。ルシアが領主と会っているうちに治療は終えたらしく、面会も可能だという。
「ロロさーん」
「ん?・・・あ、ルシア様!」
「傷は大丈夫ですか?」
「私のことは気になさらずに。それよりもそちらの方は?」
「あ、勇者らしいです」
「おう、勇者イザードだ」
「は・・・?なぜ勇者がこんなところに?」
「そりゃ魔王が来るからだな」
「いや、そうではなく・・・」
困り顔のロロに何を言ってるんだという表情のイザード。
勇者とは冒険者ギルドに所属するものの中で最高ランクの「特Sランク」の冒険者の俗称である。
勇者と呼ばれる者たちは基本的に国に属さず、人類共通の対魔物・魔族戦力としてあつかわれる。現在は3人の勇者が公的に存在しており、冒険者ギルドが仲介役として各国からの要請を勇者に指示することで勇者を動かすことができる。これは、勇者を私的な理由や戦争時の戦力として使用されないための措置だ。特に指令のないときは自由に活動することができるが、その代わり滞在する街の冒険者ギルドに行動予定と行動の申告をしなければならない。縛られているようだが、宿代が無料になったり毎月一定額が支払われたりと、特典も多い。
そしてこの【ハリスの街】はつい先日宣戦布告されたばかりで、勇者を派遣する時間の余裕などなかったはずだ。ということは偶然この人族領最東端の辺境地に訪れていたことになる。いささか都合が良すぎるのではないかとロロは考えたのだ。
「まぁ細かいことは気にすんな。とりあえず魔王の情報を教えてくれ」
「は、はぁ・・」
どこか納得しないロロをよそに次々と質問するイザード
――――――どんな剣技だったか?
――――――――相手は本気だった?
――動きは早いか?
―――――――――――――《魔剣クリムゾン》以外の武器は?
「―――――じゃあ、最後に。この嬢ちゃんが魔王軍に攻撃したって本当か?」
この質問にロロは少し顔を顰めたがすぐに表情を戻して答えた。
「ああ、そうだ。ルシア様も無茶しすぎです。確かに魔王を撃退したのは驚きましたが、あまり褒められた行動ではありま―――――」
「ちょっと待て、今聞き捨てならねぇことが聴こえた気がしたぞ。魔王を撃退したとか」
「ロロさん口がすべってます!」
くるりとルシアの方に向きなおるイザード。その顔は笑っていない。割と笑顔を絶やさないイザードが真顔になることは珍しいので、妙に真剣味が出ている。
「ちょっと詳しい話を聞かせてもらおうじゃねぇか」
「え、いや、遠慮させていただき―――――」
「そうかそうか。じゃあ行こうか」
「わっ、ちょっと、引っ張らないで。誘拐ですよ。勇者様が誘拐してもいいんですか!」
手を引っ張られて連行されるルシアは必死にロロに助けてアピールをする。
―――――――スッ
「あ、ロロさん目をそらさないでぇぇぇぇぇ。わぁぁぁぁぁぁぁぁ」
2人は病室の出口から消えていった。
1人残されたロロはつぶやく。
「すみません神子様・・・・・」
―――――――――――――――――――――――――
どうもルシアです。
初めに一言言わせてほしい。
どうしてこうなった・・・とね。
イザードに強制連行させられて冒険者ギルドの専用訓練場にきている。訓練場といっても街の外にあるギルド専用区画なわけだが、いまはどうでもいい
そして目の前には目が笑っていない勇者イザード。
もとはと言えばロロさんのせいだ。面倒だから魔王に傷を負わせたことは伏せてたのにばらされてしまった。その上、助けての視線を送ったのに目を逸らされた。10歳の幼気な少女を見捨てるなんて男の風上にも置けない所業だよ。直訴してやる。まぁ裁判なんてないんだけどね。
だけど一番の問題は目の前の勇者殿ですよ。なんか座った眼で見てくるので怖い。なんだ?何されるんだ?確かに魔王のわき腹を射抜いたけど別に悪いことはしてない。そうわたしは悪くない(ドヤァ)
「さて・・・」
「は、ひゃいっ!」
―――――――― 沈黙が流れる
「なに緊張してんだ。ちょっとやってもらいてぇことがあるんだが?」
「小さい女の子をこんな人気のないところに連れてきて何させようっていうんですか」
「てめっ・・・・まぁいいか、お前ほんとに10歳か?」
「正真正銘この世に生まれて10年ですが」
うん、嘘は言ってない。
「ほら、これ使え」
と言ってイザードが弓を投げ渡してきた。まぁ、素直に受け取ってやるつもりはないので避ける。無情にも地面に転がる弓に再び沈黙が流れる。
「なんで避けるんだっ」
「受け取ったら面倒な気がしたので」
「じゃあ、拾えよ」
「なんですか」
「向こうに見える木に向かって全力で矢を撃ってみろ。矢はここに用意してある」
イザードの右手にはいつの間にか矢が2本握られていた。
はぁ、面倒だ。アレを見せたら絶対面倒なことになるに決まってる。自分でいうのもなんだが、アレは弓矢の威力じゃない。ライフルかなんかだ。どこの世界に音速で飛来する矢があるというのだ。
まぁ、断っても断れないだろうから、いっそ全力でやってみるか。
「じゃあ、全力でやりますよ。いいんですね?」
「ああ」
言われなくても全力の霊力であんな木なんか消し飛ばしてやるし。
さて、集中集中
右手に霊力を集めて放出し霊素化。ダイヤモンドの結晶構造を思い浮かべて矢の形に構築していく。結合エネルギーを込めて硬化する。ふむ、5秒ぐらいか。できれば1秒以内にできるようにしたいな。
イザードは突然現れた白い矢に目を丸くしているが気にしない。
矢をつがえて木に狙いを定める。
(重力補正、軌道補正、加速――――――)
そうだ、試しに着弾時に霊術を炸裂させてみよう。炎を使ったら火事になりそうだし、風かな・・・・・うん、術の構成は決まったしついでに実験してみよう。
「白戦弩・風塵!」
放つとほぼ同時に着弾し、球状の暴風域が広がる。直径10mぐらいか。その領域の物体は風の刃で切り刻まれ塵と化していく。たった5秒ほどの効果だったが威力は文句なしだ。
というか威力がありすぎて逆に怖いぐらいだ。隣のイザードは言葉を失っている。なんせ、着弾した木は消滅し地面すらも抉り取って地形を変化させてしまっている。・・・やばい、やりすぎたか?
ちらっとイザードを見る。
「なんだありゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」
イザードの声が響いた
風遁・螺旋〇裏剣みたなかんじだと思ってください




