16話 ハリス会戦
全体を一気に改稿しました。
ただし、読みやすくカッコを付けたり、行間を工夫しただけで、内容に変化はありません。
すこし【イルズ騎士王国】について話をしよう。
この国は騎士王が治める【首都イリジア】を中心に3つの都市を持っている。
《第一の騎士》が治める東の都市【アルザス】
《第二の騎士》が治める南の都市【クザス】
《第三の騎士》が治める西の都市【ロタ】
そして【アルザス】のさらに東に【イルズの森】がある。
森の南には巨大な湖【ラースアドン湖】があり、森と共に魔族領と人族領を隔てる壁になっていた。
ちなみに【ラースアドン湖】には【イルズ騎士王国】を流れるイリジア川が流れ込んでおり、イルズはこの川から生活水を得ている。
とにかくこの壁のおかげで人族と魔族が本格的に争うことはなく、種族内での争いが900年ほど続いていた。
だが今、森の霊域は消失し、その壁は無くなった――――――――
「ふん、森を抜けたか」
「ええ、それよりお怪我はよろしいので?」
「貴様が気にすることではない」
【イルズの森】を難なく突破し、人族領へと出た魔王軍。その先頭に立って会話をしている深紅の髪の大男とローブを被った水色の髪の男―――――
魔王ギラ・ファランとその側近ゲルだ。
ゲルに関しては【霊域】の効果を消したことで、先ほど魔王の右腕となった。
「まぁ、兵士たちも十分休息を取りましたし、いつでも【アリオス】に攻め込めますが・・・」
「すぐに攻撃をかけるつもりだ。森に入る前に宣戦布告したからな。今頃慌てて歓迎の準備をしてくれていることだろうな」
ギラは《魔剣クリムゾン》を抜き、掲げる。
そしてゆっくりと息を吸い込み――――――
『これより攻撃を開始する。目標は第一の都市【アリオス】だ。途中の村や町は貴様らの好きにして構わん。進軍しろっ!!』
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ
ギラの鼓舞と共に、魔王軍は少し遠くに見える街に向けて進軍する。
自由な略奪を許可された兵士たちは、我先にと駆け出す。
それを見たギラもゆっくりと街に向けて歩き始めた。その斜め後ろにゲルが付き添う。
「ククク、まるで死体に群がる魔物ですねぇ。あの街も可哀想に・・・クク」
「ふん、獣人に対しては向こうから手を出されない限り手を出さぬように命令してたからな。押さえていた衝動が解き放たれたのだ。仕方なかろう」
「そういえば、獣人には恨みはないのですかね?元はと言えば【霊域】は獣人のせいでできたものでしょう?」
「人族と違って、霊域を俺の国を攻撃することに利用しなかったからな。何もせずに通らせてくれるなら、こちらも何もしない。それだけのことだ」
「ククク、霊域を消された恨みで攻撃してくると思ってましたが大人しかったですねぇ。初戦は臆病な獣なのですかねぇ・・・クククク」
「そんなことはどうでもいい。さっさと街を占領して【アリオス】に――――――」
ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン
爆発と共に吹き飛ぶ魔王軍の兵士たちが見える。
「なんだっ?」
「どうやら思わぬ反撃でも受けたようですねぇ」
「ちっ、油断するからそうなる」
ギラは《魔剣クリムゾン》を右手に握り、走り出した。
魔力の性質として「動」というのがある。
逆に霊力は「静」の性質をもつ。
魔力を持つものは「動」の性質によって身体能力が通常より高い。
それによって、身体の構造が同じ人族と魔族を比べると、魔族の方が能力が高く寿命も長い。魔法に関しても、霊術より魔術の方が威力は高い。
その代わり、凶暴性が高まり知力が劣るという欠点もある。
個々の高い身体能力と魔術で圧倒する魔族と、集団による戦術と工夫した霊術で翻弄する人族は対局的な戦いをする。
900年ぶりの人族と魔族の戦争は【ハリスの街】を舞台に開幕した。
魔族の兵たちは身体能力に物を言わせて疾走し、街へと突撃する。
街に近づくと街を守護する騎士たちが、長槍を構えているのが見えた。
「ハハハァッ、テメェら皆殺しだァァァァ」
「クソ騎士共は殺せ、金目のものは奪えぇぇぇ!!」
「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」」」
魔族兵が各々武器を振りかざす。
だが騎士団の対応は早かった。
「前衛は槍を前に突き出せ。第一霊術部隊は六式霊術『爆炎槍』の詠唱開始。第二霊術部隊は待機し第一部隊の霊術発動と同時に詠唱開始せよ」
騎士団の隊長の指示が下ると同時に人族側も動き出す。
『我が手に満ちる熱、炎を纏う槍と成りて其を貫き暴れろ。爆炎槍』
霊術部隊が杖を掲げると、現れた炎が槍の穂先のような塊となって魔族兵に殺到する。
数十もの炎の槍は直撃と同時に爆発し、魔王軍を吹き飛ばす。
ドガアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァン
『ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』
「第一霊術部隊は後退し、第二霊術部隊が前へ」
騎士団の隊長の指示を聞き、人族側は機能的に動いているが、魔族側は『爆炎槍』に焼かれた者を無視して突撃する。
『爆炎槍!!』
ドゴォォォォォォォォォォォォォォォォ
「いけるぞ、魔族共は単調な突撃しかしていない。第一霊術部隊は参式霊術『焦熱竜砲』で敵を焼き払え!」
第一霊術部隊が詠唱をはじめる。
『我が手に満ちる熱、我らの怒りを一つに。
荒ぶる灼熱は大地を焦がす。
竜の吐息に慈悲は見えない。
焦熱が牙をむく――――――――――』
詠唱と共に第一霊術部隊の上空に巨大な熱の塊が膨れ上がる。
膨大な熱量を見て魔族兵すらも足を止め、逃げ出そうとするがすでに遅い。
『焦熱竜砲!!』
白熱の閃光が閃く――――――――
だが、それは一瞬でかき消された。
魔族兵に焼かれた者はなく、光が消えたところには大剣を持つ深紅の髪の大男が立っていた。
イルズ騎士王国の霊術部隊が放った大霊術が防がれたことに動揺する騎士たちに隊長が指示をだす。
「落ち着け、奴は情報にあった魔王だ。前衛部隊は後退しろ。第一霊術部隊は霊力が限界だから下がらせて霊力を回復。その間は第二霊術部隊を2つに分けてローテーションで霊術を放ち、戦線を維持せよ。ただし『爆炎槍』のみを使用し敵軍に対して手数の多さで対応しろ。それと――――――」
「勇者を投入するっ!」