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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
1章 特別な存在
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14話 一矢報いられない

非常にまずい


ロロは目の前の化け物を見据えて鉈を構えた。







ルシアが無傷なのを見て安心したのものの、危機は迫ってきていた。

魔王が侵略してきていることはわかっている。

先ほどの宣戦布告のおかげで村の方でも早急な避難がなされているはず。

だが目の前のこの状況はよくない。

だからこそ効果があるかわからないが、自分が足止めしている間にルシアに逃げてもらおうと思った。

だが・・・・




(く・・・神子様は足が竦んでおられるのかもしれない)

逃げろと言っても動き出さないルシアに焦りを感じていた。


霊域を消失させた原因と思われる爆発の影響で周囲は更地にされ、魔王の軍隊も目視できるまで迫っている。いっそルシアを抱えて全力で逃げたほうがいいかもしれないと考えたとき、異変を感じた。



(神子様の霊力が・・・・)


何をしようとしているかわからなかったが、ルシアが意図的に霊力を動かしているのは感知できる。


「神子様、一体なにを―――――」



業火竜巻フレアトルネード



ロロの言葉はかき消され、それと同時に魔王軍のいるあたりに巨大な竜巻が起きた。しかもただの竜巻ではなく、爆炎が吹き荒れる大災害と化している。


(バカな、こんな霊術は見たことがない。しかもこれは神子様が・・・?いやだが詠唱..もなしにこんな・・・そもそも誰がこんなのを教えた?)


あまりのことに弓を降ろしてブツブツつぶやく。

神子とはいえ10歳の少女が大魔法で魔王軍を圧倒するなど誰が想像できるだろう。

疑問は絶えなかったが、思考の海に沈んでいる暇などなかった。



いきなり炎の竜巻が縦に切れ、そのまま消えてしまった。

明らかに魔法の解除とは違う。強制的に魔法を潰された。

その犯人は割れた炎の間から姿を現す。


「――――――なっ!」


圧倒的威圧感を放つその男の風格はまさに魔王。


(魔王・・・いやそんなまさか)


ロロの尻尾感知の範囲外ではあるが、格の違いは十分に理解できる。

ちらりとルシアを見ると、手が震えていた。


(そうか、神子様の感知範囲内なのか)


魔力を測らずとも見える絶対的実力差。加えて魔力量も感知できてしまうルシアが震えているのも無理はなかった。

覚悟を決めて鉈を抜く―――――





――――――そして構える

弓は邪魔だ。接近戦では役に立たないし置いておこう。


「お逃げください」

声に力が入らない。額の汗が流れ落ちる。


「え?」

「お逃げください!」


後ろは振り返らない。神子様は賢い。きっと理解できているはずだ。

せめて10分時間を稼げばかなりの距離が稼げる。

子供とはいえ獣人なのだから身体能力は一般的な魔族の比ではない。


一気に詰め寄り赤い髪の男に切りかかる。

右手に持つ大剣を構える様子もなく悠然と待ち構えているが、油断はしていない。


(大剣を持っていない左側から・・・切る!)


「はぁっ!!」


右手に持った鉈を相手の左わき腹を狙って横なぎの一閃―――――




だが鉈は振るわれることがなく、後ろに吹き飛ばされる。

すぐに激しい痛みが右肩から左わき腹にかけて走った。目の前を血が舞う。

それが自分のものと理解するのは、背中から地面に倒れた時だった。


まさか、何も構えてない状態からあんなカウンターができるとは思わなかった。あったとしても鉈を受け止めるぐらいだと甘く見ていた。

痛みは激しく、血がとめどなく溢れているのがわかる。

10分どころか10秒の足止めさえできなかった。

神子様は逃げてくれただろうか・・・

動かない体をなんとかずらして後ろを見る。


だがルシアは逃げてなどいなかった――――――











ロロさんがあっさり切られた。

素人目で見てもかなりの一撃だった。それを構えなしの状態で簡単に切り伏せた。

切られた勢いで血を振りまきながら吹き飛ばされるロロさんを見て、手が動いた。

それは反射的なことで何故そうしたのか説明はできない。


前世を含めて初めて人を殺した。あの大規模霊術で焼き尽くされた魔族は10や20では済まない。

その焼けた匂いも罪悪感を引き立てていたが、その瞬間にすべてが吹っ切れた。


ロロさんの置いていった弓と矢を手に取り、構える。

使ったことはないが使い方は知ってる。

10歳のルシアには少し大きかったが扱えないほどではない。

矢筒から矢を取り出して弓をつがえる。


「・・・・重い」


村で狩りに使う弓だ。生半可な力では引くことすら叶わない。


(引け・・・引け・・・・)


全力を出すが半分も引けない。


逃げた方がいいの?

ロロさんは逃げろと言った。

たぶんわたしは足手まとい。

だけど・・・・





引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引け引けぇぇぇぇぇぇ




内側から黒いものがあふれ出た。

いや、そう感じた。魂の奥からとめどなく溢れる黒い力の奔流は体を駆け巡り、力を増す。


引きかけの弓を引き絞り、狙いをすます。


当たるかはわからない。でもせめて文字通り一矢報いないと気が済まない。

だから当たれ――――――



少し上を狙って放たれた矢は魔王に向けて飛来する。

だが、当たらない。ルシアの腕が良くないことに加えて風の影響もある。

100m近く離れた1人を打ち抜くなど不可能に近い。

ルシアは弓をつがえては放つが一向に当たらない。

今は魔王軍が進軍を止めているが、もしも突撃が再開されれば為す術はないだろう。

魔王自身は面白い見世物でも見ているような顔で観察しているが、ルシアは必死だった。




―――――――そして空しく矢筒は空になる。

なんで当たらないの?

いやそれはそうだ。素人が使った弓が100m先の的に当たるなんて奇跡みたいなものだ。突然あふれだした魔力には驚いた。魔力を流していると身体能力が向上するが、どうも細かい操作がしにくい。そもそも獣人が霊力と魔力を同時に宿していることは歴史の授業で聞いたことはあったが、こんなにたくさんあるなんて聞いてない。いや・・・


『あなたはとてもおもしろい力を持っているようですね。あなたなら・・・魔族とも・・・・』


とかみたいなことをネテルが言っていた。

面白い力ってこれのことなのかな・・・?


いやでも魔力が多いからって特にこの場で役には立たない。

魔法を使ってもさっきみたいに消される。

弓は矢がすでにない。


残った選択肢は逃げることぐらい。

身体に力がみなぎる今ならかなりの速度で逃げられると思う。

だけど、ロロさんは置いていくことになる。


ちらりとロロさんを見た。

こっちを睨んで「逃げろ」と目で語ってくる。


・・・銃とかミサイルとかの近代兵器でもあればいいのに。

その手の小説は10年前に読んだことがある。友達に薦められて読んだが、あの手の話の主人公は職業が錬金術師か鍛冶職人だ。神子のわたしにそんな技量はない。



いや・・・・・


ちょっといいことを思いついた。



次回はたぶん無双する・・・?

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