138話 あ……
帝国のギルドなんて久しぶりだね。
夜だから人は少ないけど、冒険者ギルド本部だけあって大きい。
「空いているならいいか」
わたしはこれでもSランク冒険者だ。そして強さランクはSSS。つまり、掲示板で張り出されている依頼に興味はない。受付の人から斡旋されるSランク以上の依頼を求めている。
受付が空いているのは大歓迎ってわけだね。
「こんばんはー。何か依頼あります?」
「はい。あら、ルシアさんじゃないですか。お久しぶりですね」
「最近は来てなかったですからねー」
「ふふ。依頼ですね。えっと……これなんかどうですか?」
受付のおねーさんが出したのはSSSランクの依頼。
しかも極秘だね。
依頼主と依頼内容の情報が伏せられている。これは依頼を受けたら、後日の面談でそれらの情報が貰えるタイプだ。まぁ、今すぐ依頼を受けたいから、わたしはパスで。
「やめときます」
「まぁ、怪しいですからね。ではこちらはどうでしょう」
次はSSランクか。調査依頼?
「帝国の北にある大都市トルハ。その更に北西にあるロギ山で魔物が発生しているようですね。元々はトルハで発注されていた依頼ですが、調査に向かった冒険者が一度も戻らず、ランクはどんどん吊り上がり、こうして帝都にまでやってきたというわけです」
「強い魔物が出てくるのかな?」
「これまでに向かった冒険者の中にはAランクパーティもありました。逃げるだけの力は備えているハズですし、引き際を間違えるとも思えません。よほど不意打ちに優れた魔物なのか……それとも別の理由があるのか。それも含めての調査依頼ですね」
ふむ。依頼書を読む限り、魔物が増え始めたのは4か月前みたいだ。ロギ山の近くには村や街道もあるみたいで、魔物がそこに現れ始めたのが全てのきっかけらしい。
いろいろと絞り込んで、ロギ山が怪しいと分かったわけだ。
ただし、ロギ山に冒険者を送り込んでも一人として帰ってこない。
わたしにお鉢が回ってきたってわけね。
「わかりました。わたしなら移動もすぐだから、受けます」
「ありがとうございます。ではお気を付けて。『魔女』ルシア様」
「はいはいー」
まずは北に行って大都市トルハに入ろう。
そこのギルドで情報を貰う。まぁ、そもそもロギ山なんてどこにあるのか知らないしね。
行こうかギンちゃん。
ぷるん
(はーい)
まずは転移で適当な場所に行って、そこから銀竜モードで北を目指す。
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風が気持ちいい。
なんてレベルじゃないけどね。霊術で風の結界を作らないと軽く吹き飛ばされる風圧だわ。流石は銀竜モードのギンちゃん。速さが違う。
そう、速さが違うのだよ!
心なしか、ギンちゃんもドヤ顔になっている気がする。まぁ、わたしの相棒だからね。頼りになるよホントというかマジで。
「時間的にそろそろトルハだね。一度降りようか」
「グルルルル……」
わたしが竜を操ることは、一部の界隈で有名な話だ。けど、わざわざ街の近くにドラゴンの姿で向かって混乱を招くようなことはしない。ちゃんと遠くで降りるよ。
ギンちゃんは着地しやすい平地を探すと、そこへ向かってゆっくりと降りた。
ズズンと音を響かせながら着地する。
ここは街道からも離れているし、迷惑をかけた人はいないはずだ。何より夜だからね。街道近くで野宿している人がいたら迷惑極まりない。
「ギンちゃん。銀狼モード」
元はスライムのギンちゃん。捕食して取り込んだ姿に変化できる。あっという間に銀狼の姿になり、軽くだけ吼えた。
「ウォン!」
「うん。あとは陸路でトルハに向かうよ。お願いね」
「ウゥ……ウォン!」
駆けだすギンちゃん速い速い。
障害物なんて軽く飛び越えて一直線にトルハへと向かっている。遠見の霊術を使うと、トルハの城壁が見えてくるぐらいだね。
さて、とりあえずトルハの城壁門が解放されるまでは、城門前で野宿だね。
まぁ、城壁を飛び越えられないこともないけど、正式な方法で入った方がいいし!
夜にトルハのギルドを訪れたところで、情報を知ってそうなギルドマスターに面会できないだろうって予想もあるけどね。
気分転換の依頼なわけだし、気持ちよく済ませますか!
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「おお! あんたが依頼を受けてくれた冒険者! しかもSランクじゃないか! はっはっは!」
わたしの前で豪快に笑うおっさん。
この人がトルハのギルドマスターだ。これでも元はAランク冒険者だったらしい。ちなみに頭部はハgゲフンゲフン、輝いていらっしゃる。
「なにか変なことは考えなかったかね?」
「変なことですか? なんのことです?」
「ふむ。まぁ、よいのだが」
意外に勘がいいようですね。気を付けよう。
「さて、君に受けて貰ったロギ山の調査。これについて既に分かっていることを伝えよう」
「お願いします」
ギルドマスターさんはウキウキだ。
まぁ、わたしって『魔女』の二つ名で知られている世界最高峰の冒険者だからね。流石に特Sランクのイザードとかエレンさんには名前負けするけど。
「事の始まりはロギ山の麓にある村で行方不明者が続出したことです。正確には、ロギ山で狩りを行っていた村人たちが行方不明になったのですが」
「まぁ、よくあることですね」
「うむ。ちょっと強力な魔物が現れたのかと思い、ギルドからDランクのパーティが派遣されたのだ。しかし彼らは戻ってこなくてね。同様にCランク、Bランク、更にはAランクのパーティまで戻ってこなかったものだから困ったのだよ」
「こまめに冒険者を送るわけにはいかないから、Sランクのわたしにお鉢が回ってきたのね」
「送り込んだ冒険者は全て行方不明。何の情報もない。そうこうしている内に村や街道に結構な数の魔物が現れ始めたんだ。今はそちらの対処に冒険者パーティを幾つか派遣している。だが、対処法にしかなっていない。解決法として君を派遣したいのだ」
確かにそれは困るよね。
魔物じゃなくて、実は有毒ガスが原因でした……なんてこともあり得るし。魔物はガスで住めなくなったロギ山から逃げてきたってこともあり得る。強い魔物が現れたってのが一番の有力仮説だけどさ。
まぁ、いいんだけど。それならそれで対処方法はあるから。
「では真っ白な状態からの調査なんですね?」
「そうだ。頼めるか? 報酬は依頼書通り弾むが」
わたしの場合はお金なんて有り余ってるし、報酬事態に魅力はないのよね。タダの暇つぶしだから。
だから、今更拒否するつもりなんてない。
「わかりましたよ。すぐに行ってきます」
「本当か! いや、助かる。本当に。いや本当に」
どんだけよ
まぁ、行ってきますか。
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とりあえずギンちゃんに乗ってロギ山にやってきた。
「あれかー」
「グルルルル!」
「なんか急に不気味よね」
そう。超不気味。
なんか深い霧に覆われて山頂が見えない。麓には冒険者が駐屯しているからか、明かりも見える。ちゃんと彼らを怖がらせないように、光学操作でギンちゃんの姿は消しているよ。
流石に真竜が飛んでたら腰抜かすもんね。
「とりあえず魔術で霧を晴らせばいいのかな?」
これだけの規模だと霊術じゃむりだからね。
周囲の温度を魔術で強制的に上げて、霧を晴らす。それが一番楽っぽい。
ただ、それだと麓にいる冒険者も異常に気づくからね。調子に乗って山を調査するとかやりかねない。ある程度のランクを持った冒険者って、やっぱり冒険好きなんだよね。不思議な場所とか未知の場所とかに進んでいきたがる。
この世界は開拓の進んでいない場所もあるし、そう言った場所の調査も冒険者の仕事だからね。
今回はその調査がわたしに回って来たわけだけどさ。
「やっぱり、このまま乗り込もう」
「グル!」
まずは山頂だね。空を飛べるって便利。
ギンちゃんに指示を出すと、旋回しながら速度を落としてロギ山の山頂に近づいた。ロギ山は標高が2千メートルぐらいある。これを空飛んですっ飛ばせるんだからチートよね。
あ、『ズル』って意味のチートね。
「着地したら山が崩れるかもしれないし、このまま飛び降りるよ。ギンちゃんはスライムに戻ってついて来てね!」
「グルルッ」
重力を操作すれば落下してもダイジョブダイジョブ。
ってなんか大量の魔力が流れてる!? 半分魔鏡じゃんこれ!? うわ、霊力乱されて重力操作が上手くできないし!?
あ――――――
大きな物音がロギ山で響いた。
タイトルはこういう意味でした