13話 イルズ侵略(2)
見直しても誤字が目立ちます・・・
気づいたらそのときに直していきます。
ロロは焦っていた。
霊素の大移動を感知したため、村に戻るとルシアがいない。ルークの証言を元に森の中央に向かっている途中、爆発とともに霊域が消失。
これで焦らないはずがない。
一応武器は持ってきた。
っと言っても狩りに使う狩猟用の弓とまき割り用の鉈だ。
正直気休めぐらいにしかならないと後悔している。
まさか霊域が消えるなんて思いもよらなかったのだから仕方ないが・・・
ロロはこれでも狐族で最も強い戦士でもある。
かつては愛用する《刀》と呼ばれる特殊な剣を使って仕事をしていた。
いわゆる「冒険者」と呼ばれるある種の何でも屋だ。
それなりの実力者だったが、ある時里帰りして今の妻と結婚。ルークが生まれた。
それ以来、その実力から村の警備や狩猟を担当していたが、神子が生まれたことで祠の管理者という名目のもと、ルシアの護衛をしていた。
(刀を家に置いてきたのは失敗だった)
いまさら村に戻るわけにもいかず、後悔しつつも森の中央に向けて走る。
だいぶ近づいてきたのか、木々がなぎ倒されている。爆発の規模を物語る光景に不安がつのる。
(もしも神子様がこれに巻き込まれていたら・・・・)
だがそれは杞憂に終わった。
爆心地と思われる場所にルシアが倒れていたのを見つけたときは慌てたが、気を失っているだけとわかり安堵した。特に傷もないように見えるが、気絶している理由は不明だ。
このままにしておくわけにはいかないのでひとまず身体を揺らしてみる。
「神子様、神子様。大丈夫ですか」
起きる気配がないので何度か揺らしていると、わずかに反応があった。
「・・・・んー」
「神子様っ!」
「ん・・・ん?」
「私がわかりますか?ロロです」
「・・・・・あ、えーと、とりあえず降ろしてくれるかな」
目覚めたらロロさんに抱えられて顔を覗き込まれていた。
一瞬、白馬の王子さまでも来たのかと思ったが違った。
だが今はそれどころではないとすぐに気づく。
「この音は・・・?」
ドドドドドという地響きと共に迫ってくる声。
それは10人や20人程度のものではなく、数万規模だとわかる。
森全体に響きわたる声のせいで、ルシアは聞き取りにくさを感じている。
「霊域が・・・れ・・魔王・・・・はやく・・・い」
「え?なんて?」
「逃げて・・・い・・・時間を・・・から」
そう言って、ルシアに背を向け地響きと声のする方に向き弓を構えるロロ。
事態を把握し切れてなかったがおおよそ理解はできた。
(ええと、霊域が消えた→魔王が来た→時間を稼ぐから逃げろってかんじなのかな)
だがルシアそんなことはできなかった。
これでもロロさんにはお世話になってる。このまま一人で足止めすれば確実に助からない。それは納得できなことだった。それにすでに母親を亡くしているルークはどうなるのか。
そう考えると、逃げる選択肢などありえなかった。
「―――――っ!!」
向こうから何百という黒い塊を感知できた。
いつも感じる霊力とは真逆の色に戸惑うが、すぐに理解した。
(これが魔力か)
霊力と対をなす魔族がもつ魂の力、「魔力」
知識はあったが感じるのははじめてだ。しかもその数は数百にものぼる。
それがルシアの感知範囲である180m以内まで迫ってきていた。
このままだと1分もせずに鉢合せになる。
まだ逃げていないルシアに気づいたロロは弓を構えつつこちらを向いて何か言っているが、もう何を言っているのか聞こえない。たぶん「はやく行け」みたいなことをいってる。
ルシアは魔力が迫ってくる方を見やる。
そして目を閉じて集中する。
あわてる必要はない。魔力の動きは感知している。タイミングをあわせて霊術を放つ!
今から使う霊術は集中しなければ成功しない。
『操炎』と『操空』を右手と左手に・・・
イメージは渦
回転する業火の流れと天空まで貫く竜巻
普段のルークとの組手とは比べ物にならない霊力を込める。
狙いは100m先
大量の魔力がそこを通過するときに放つ!
―――――今っ!
「業火竜巻」
その瞬間指定した地点に巨大な回る火の玉が出現する。
直径10mはある高熱の球体は回転を速め、地上から天へと伸びていく。
風の力で周囲の空気を取り込み続け、巨大化していく炎の竜巻。
その熱と炎で周囲の魔族を容赦なく焼き尽くす。
これほどの熱量では100m離れていてもただでは済まないはずだが、そこはしっかり『操空』で熱風を避けていた。
熱による上昇気流で竜巻はさらに天へと近づく。こうなったら、再び魔法で解除するまですぐには止まらない。
となりのロロさんに目を向けた。
構えていた弓を降ろして固まっている。「神子様がこれを・・・いやしかし霊術なんて誰が教えた?」とブツブツつぶやいている。
初めて全力で魔法を使ってみたけど、とんでもない威力だった。
だけどさすがに『業火竜巻』を回り込まれたらどうしようもない。
今のうちにロロさんと一緒に逃げた方がいいかもしれない。
村も心配だけどきっと避難ぐらいしてると思う。
「ロロさん、今のうちに――――――」
―――――炎の竜巻が縦に切れた
「えっ?」
「何!」
ロロさんは何が起きたかわかってないみたいだ。もちろんわたしにもわからなかった。
『業火竜巻』はかき消され、その向こうから大剣で切り上げた態勢の男が見える。
深紅の髪をなびかせ、漆黒の鎧を着込む姿は見た目だけでも只者ではないとわかる。
そして何より、そいつの魔力量は格が違った。
正直言ってわたしの霊力の1.5倍はある。
というかあの炎の竜巻を切った?なんだそれ。
そいつはゆっくりと大剣を構えなおす。
「今の霊術・・・・どちらが使った?」
その静かな口調に冷や汗が流れる。油断したら即殺されるんじゃないかという空気に押され無意識に後ずさる。感知できる限りだと、あの男の化け物みたいな魔力の後ろには大量の魔力の塊。
逃げなきゃ・・・死ぬ・・。
素直にそう思った。
「・・・さい」
「え・・?」
「お逃げくださいっ!」
ロロさんは強く言い放って弓と矢筒を置き、腰に差した鉈を引き抜く。
そしてあの男に向かって走り出した。