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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
8章 獣王国
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136話 ザ・茶番会合

遅れて申し訳ないです


 遂に会議の日となった。場所は帝都にある冒険者ギルド本部の会議室だ。

 冒険者ギルド理事たちの予定と【レオンハルト連邦】の国王レオネスさんの予定をすり合わせた結果、以前の交渉から一か月後となっている。

 その間にわたしも【レオンハルト連邦】に幾つかの提案をして、最悪の場合における対処法もしっかり話し合っておいた。基本的に【レオンハルト連邦】は議会制によってトップを決めているので、この交渉も本当は国王じゃなくて首相がくるべきだった。でも、相手がギルドの老害ってこともあって、威圧感のあるレオネスさんにお願いしたというわけだ。

 それにギルド加盟は【レオンハルト連邦】にとって初の国際法加盟となる。

 記念の意味もあるってわけ。



「おい、大丈夫なのかルシア?」


「うん。いざってときはわたしが全部取り計らうよ。レオネスさんは予定通りにしてね」


「うむむ……緊張するな」



 小声で話しかけてきたレオネスさんは、どこか不安そうだ。

 以前は覇獅子レオンハルトのリーダーで交渉事をすることもあったハズなんだけど……まぁ、そのときも別の人に補佐を頼んでたんだろうね。それに、今回は国家の代表という立場だ。その重責は以前の比ではないはず。

 緊張しても仕方ないかもね。



「心配しないでレオネスさん」


「む? 何故だ?」


「一応、助っ人は呼んでるから」


「助っ人だと? アレのことか?」


「うん。もうすぐ入ってくるよ」



 これでもわたしの人脈は広いし質が高い。

 会議の場で助っ人になる人を呼ぶぐらい、造作もなってことよ。

 しばらくすると、会議室に向かってくる助っ人の気配がした。忙しいのに、時間を作って来てくれたらしいね。



「失礼する」



 そう一言だけ放って入ってきたのは、【ナルス帝国】の現皇帝アルヴァンス・タカハシ・ナルスさん。わたしが持つ最強の手札ともいえるお方にして友人だ。

 会議が帝都で行われるって話だから、呼んでみた。

 表向きは中立の立場として会議を見守る役って話だけど、実質わたしたちの味方だと思っていい。

 これには流石のギルド理事たちも恐縮していた。



「これは陛下! このようなところにようこそお越しくださいました」


「ああ、私の席は何処になる?」


「はっ! こちらでございます」



 理事の一人がめっちゃ腰を低くして対応していたのが面白すぎた。いや、まぁ、あれが普通の対応であって、わたしの付き合い方がおかしいんだけどさ。

 そしてアルさんは席に座ってからレオネスさんの方を見て、軽く挨拶をする。



「初めてになるか。私が皇帝アルヴァンス・タカハシ・ナルスだ。新興国ということもあり、色々話したいこともある。だが、それはまたいずれの機会としよう」


「うむ。レオネス・ハウトだ。新参者の国王だがよろしく頼む」



 これは茶番。

 事前に打ち合わせておいた牽制だ。

 これで理事にもアルさんとレオネスさんが友好的な関係を築こうとしていることを印象付けたはず。



「もう五年……いや六年になるか。あの事件で【ナルス帝国】へと亡命した獣人たちの中には、【レオンハルト連邦】へと帰りたがっている者もいる。いずれはそれについても会合を行うとしよう」


「それは有り難い。詳しい場所と日時は後で詰めることにして構わないか?」


「そうしよう……なら、【レオンハルト連邦】の最高相談役ルシア殿には、後で帝城へと来ていただきたい」


「頼めるかルシア?」


「はい、分かりましたレオネス陛下。アルヴァンス陛下につきましても、のちほど伺わせて頂きます」



 一応、公式の場所だからわたしも腰を低くして話すよ?

 実際は対等に付き合っているけど、アルさんもレオネスさんも立場が上の存在だからね。その分別ぐらいはしっかりしているさ。



「さて、両陛下ともご挨拶が済んだようですし、このあたりで会議を始めるとしましょう」



 ここでマリナさんが会議をスタートさせる。

 ちなみにこれも茶番の一つ。アルさんとレオネスさんが、挨拶と称して友好度をアピールするから、会議の開始タイミングを調整してと言ってあった。

 ふふふふふ。

 この場にいるマリナさんもアルさんもこちらの味方なのよ。

 理事もとい老害どもは既に孤立しているってわけ。

 わたしを敵に回す恐ろしさを思い知ると良いわ!



「まず、冒険者ギルド理事より、ギルドの承認を」


「うむ」



 マリナに目を向けられた理事の一人が頷きつつ、今日の本題を告げる。



「まず、ギルド承認について説明しよう。新しいギルド支部が創設される場合、その動きには大きく分けて二種類ある。

 まずは既に国がギルド支部を保有している場合だ。この場合、国内の街や都市にギルド支部を新設するためには、国内のギルド支部をまとめるギルドマスターたちが三分の二以上賛同すればよい。

 しかし、新しい国に新しいギルド支部を創設する場合は話が変わる。この場合は、我ら理事によってギルド創設の承認をするのだ」



 まぁ、それは知ってる。

 だからこの会議開いているんだよ! って言いたい。言わないけど。



「結論から言えば、承認はする」



 当然でしょ。

 そもそも、ギルド創設を拒否する場合、それは創設する国家がよほど荒れている時だ。【レオンハルト連邦】は新興国といっても、獣人たちの結束もあって順調に建国が進んでいる。わたしが冒険者として稼いできたお金を大放出したのも要因の一つだね。

 だから、断られる理由はない。

 問題はここからだ。



「では、承認されましたのでギルド加盟に基づく条約の制定へと移ります」



 議長役のマリナさんがそう言うと、別の理事が条約の書かれた紙を渡してきた。わたしとレオネスさん用に二枚あったので、遠慮なく内容を確認させて貰う。

 えーっと……

 税率とか基本的な規則は問題ないかな。特に悪くない。

 が、それは基本的な内容までだ。

 最後の条文に大問題がある。



「発言、よろしいですか?」


「許可しますルシアさん」



 マリナさんの許可をもらったので、問題点を指摘する。



「最後にある『ランクS冒険者ルシアをランク特Sへと昇進し、同時に特別任務を与える』とありますよね? それで、その特別任務の内容が『魔族討伐』ってどういうことですか?」



 破格の戦闘能力を持つわたしを特Sランクにするのは理解できなくもない。だが、それを利用してギルド本部からの強制任務に就かせるとは考えやがった。

 勇者とも呼ばれる特Sランクは、さまざまな便宜を図って貰える代わりに本部から強制的な依頼を受けさせられることがある。それを利用して、わたしに魔族を倒せと言ってきた。

 これは指摘しないと拙い。



「ああ、それですかな。なに、問題はないだろう? ルシア殿の戦闘力ならば、魔族如きに後れを取らないと確信しているのだから」


「これを【レオンハルト連邦】でのギルド設置条件として使う理由は?」


「【レオンハルト連邦】は魔族の国と隣接していると聞く。魔族討伐は国家事業になるのだろう? なら、構わないではないか」



 何言ってんだコイツら……?

 と大量の疑問符を浮かべかけたけど、ここで事実を思い出した。そう言えば、人族と魔族は敵対していましたね。わすれてました、はい。

 アザートスさんと知り合いになったこともあって、すっかり頭から抜けてたわ。

 まぁ、魔族討伐についてはそういう事情だろう。

 ここでもう一つの問題があるんだけど、それを指摘しないとね。



「わたし一人でやれと?」


「ルシア殿だけでなく、【レオンハルト連邦】の軍隊でも国境を守るはずだ。その冒険者代表として、新たなる勇者を選出したに過ぎぬ」


「これは【マナス神国】からの強い要望でもある」


「魔族……いや、魔王の討伐は必要なことだからな」


「【レオンハルト連邦】の建国経緯からしても、魔族討伐を行うのは不自然ではないだろう?」



 うーん……勘違いというか擦れ違いが激しい。

 そもそも、【レオンハルト連邦】建国のきっかけとなったのは、スライム原種が出現したことにある。それによって魔族領の西半分が壊滅し、土地が余った。それを獣人が貰うことで【レオンハルト連邦】建国に繋がっている。

 そしてわたしは魔王アザートスさんに協力したことで、既に【レオンハルト連邦】と【魔国エンデュミオン】は殆ど同盟関係にあるといっていい。

 ギルドの理事たちは、それを知らない。

 だから、わたしたちが魔族領の西半分で大規模な魔族討伐を行ったと勘違いしている。【イルズの森】解放も、その一つだと思われているだろうね。



「おい、ルシア……」


「分かってる。拒否して」



 こそっとレオネスさんとも話し合い、取りあえず国王のレオネスさんから拒否の言葉を言ってもらうことに決めた。



「ルシアをランク特Sにする件については本人と交渉してくれ。だが、魔族を討伐する件については国王として承認しかねるな。すでに【魔国エンデュミオン】とは条約を結び、国境を取り決めた。故に侵略など許さん」


「な、なんだと!?」


「馬鹿な! 魔族だぞ相手は!」


「何を考えているレオネス国王!」



 おー、おー。

 荒れてるね。

 まぁ、こうなるとは思っていたけど。

 【魔国エンデュミオン】と条約を交わしているってなれば、当然かな。理事の中には【マナス神国】が国教としている光の教団を指示する人もいる。あれの教義は極端な人間主義だから、大抵の人は魔族や獣人やエルフは滅ぶべしとか思ってる。

 特に、その人たちからは激しい憎悪のような感情が読み取れるね。



「説明して頂こうかレオネス国王。よもや魔族と通じているのではあるまいな」


「通じている? 彼らは同盟国の者たちだ。通じているも何もない。最強にして最古の魔王アザートス・ルナティクス・シファー・ドラゴンロード殿は、快く魔族領の西側を譲ってくれたぞ?」


「魔族と交渉など……これだから獣人は!」


「我らが獣人ならば問題があるのか?」



 おぉ。なんだかんだ言って、レオネスさんもノリノリだ。

 元からリーダーとして素質はあったし、彼自身が相当な武人だ。交渉事の上手い下手はともなく、胆力は備わっている。



「撤回だ! ギルドの設置は認めん!」



 理事の一人が叫んだ。

 ま、そうなるよね。知ってた。でも、こっちだって対策はしている。一瞬だけレオネスさんとアルさんに視線を向けると、二人とも目で頷いた。

 そして、まずはレオネスさんがその場で立ち上がって宣言する。



「そちらの意向は理解した。ならば、【レオンハルト連邦】は冒険者ギルド設置を諦めよう。代わりに、【魔国エンデュミオン】の自由組合へと加入する。もとから魔王殿から提案されていたのでな。そちらがそのように言うならば、こちらからお断りさせて貰おう」


『なっ……』



 理事たちが驚愕で目を見開く。

 これですよこれ。

 老害たちが仰天する、その姿を見たかった。ざまぁみろっての。

 同時にアルさんもフォローに走る。



「なるほど。ならば仕方ないな。【ナルス帝国】としては冒険者ギルドに加盟して欲しかったのだが……そちらがそういうならば仕方ない」


「馬鹿な! これは仕方ないで済ませる問題ではありませんぞ陛下! 人族に対する大きな反逆なのです。今すぐ、この者たちを打ち倒さなければなりません!」


「そう思うのか?」


「当然です」


「つまり、君たちは全ての獣人と魔族……そして最強最古の魔王を全て敵に回す覚悟があると?」


『っ!?』


「それに、魔族と大きな戦争をしていたのはいつの話だと思っている? 平和的に解決できるならば、それで良いと思わないのか?」



 アルさんが言っているのは理想論で、魔族が信頼できないとかの問題もある。けど、正論であることは確かだね。

 戦争はお金がかかるし人は死ぬしで、酷く国家が疲弊する。

 可能ならば避けたいと思うのが普通だ。

 わたしだって戦争は嫌だし。

 つまり、今回の件は【レオンハルト連邦】と【魔国エンデュミオン】が同盟関係になりつつ、【レオンハルト連邦】と【ナルス帝国】も同盟関係になることで、【ナルス帝国】と【魔国エンデュミオン】の距離を表向きに近づけようとしたって訳。

 元から【ナルス帝国】は魔族融和派だし、アルさんとアザートスさんも親交がある。今回を機に、表の同盟へと結びつけようとした。ま、こういった利益もあるから、アルさんは今回の件に協力してくれたんだよね。



「元は【レオンハルト連邦】の冒険者ギルド加盟を見届けようと思っていたのだが……思わぬ平和的・・・解決・・の鍵を見つけてしまったようだ。やはり、後で色々と話し合いたいと考えているのだが、どうかなレオネス殿」


「是非ともお願いしたいアルヴァンス殿」



 計画通り!








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