表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
8章 獣王国
135/142

132話 獣人の結束


 マキナ討伐に成功したわたしは、取りあえず上空に飛んでギンちゃんを迎えに行く。竜形態だったギンちゃんはすぐに見つかったので、元のスライム形態に戻って貰ってわたしのフードに収まった。

 うん、これぞ定位置。

 するとそこへアザートスさんも着いてくる。



「ルシアはこれからどうするのだ?」


「取りあえずは【ハリス】に戻ろうかと。捕らえられていた獣人はそこに移したので」


「分かった。私は国に帰ることにする。長く留守にするわけにはいかんのでな」



 一国を預かるアザートスさんは忙しい。

 それは理解しているから仕方ないね。ここで別れることにした。わたしは『加乗次元転位ディスロケーション』を発動して空間移動ゲートを作り出す。勿論、行先は【ハリス】近郊だ。



「また会いましょう」


「うむ。ルシアも元気でな」



 一応すぐに会う予定はあるんだけど、取りあえずはさよならだ。ゲートをくぐって【ハリス】近郊へと到着する。マキナと戦っていた時間はそんなに長くないし、まだ解放した獣人たちは残っていた。

 とは言っても、都市の近くに大量の獣人が現れたら騒ぎになる。【ハリス】では結構な騒ぎになっており、当然というべきか覇獅子レオンハルトのメンバーも来ていた。勿論スライムに捕えられていた獣人たちだと分かるわけで、所々でと感動的再会が起こっている。

 そんな場所にゲートを開いてやってきたんだから目立ってしょうがなかった。



「おお! 救世主様だ!」


「九尾様だぞ」


「ありがとうございます。ありがとうございます」


「献上品を持って来い! 取り合えず酒と肉だ!」



 拝まれましたハイ。

 やっばー。尻尾を戻すの忘れてたわ。もはや隠しようがないというか、そもそも隠しても意味がないというか。助け出す時に九尾の姿を見せちゃったから、もはや隠しても意味ないよねぇ。

 まぁ、わたしも力をつけたわけだし、隠さなくても良いかって思っている節はあるけど。

 そこへ覇獅子レオンハルトのリーダーことレオネス・ハウトさんがやってきた。相変わらずたてがみみたいでカッコイイ髪しているな。



「まさか本当にやり遂げるとは。驚いたぞルシア」


「まーね。取りあえずスライムは殆ど殲滅。ゲルって個体は逃したけど、厄魔原粘カラミティマキナは間違いなく討伐したよ」


「……つまりこの近くまで魔王軍が来ているのか?」



 あー。

 わたしが魔王軍に誘われて、一緒に討伐することになったって話を覚えていたみたいだね。あんまり誤解させるのもアレだし、ちゃんと話しておきますか。



「大丈夫。討伐はわたしと魔王だけでやったから。二人でも充分だったよ。初めに獣人を解放して、あとは強力な魔法で殲滅しただけだし。ああ、【ラグナハイト】があった場所は更地になっているけどね。それに魔境化の原因もマキナだったわけだし、次第に森も正常に戻っていくと思う」


「なら良いがな」



 うーん。出来ればアザートスさんとは仲良くして欲しいんだけどね。まぁ、それは今度で良いか。レオネスさんは覇獅子レオンハルトのリーダーとしてすることがあるから、わたしから離れて仕事に戻っていく。

 次にやってきたのは父さま、母さま、おじいさまだった。

 五年ぶりかな。

 ちょっと涙が出そう。



「よかった……あのスライムに勝ったんだな?」


「うん。間違いなくね、父さま」


「綺麗になったわね」


「それは否定しないわ母さま。これでもモテる方だし」


「ほほほ。逞しいの」


「おじいさまも元気そうで何よりね」



 三人が順に抱きしめてくれて、久しぶりに子供だと実感したわ。まぁ、この世界基準では既に大人だけどね。もう十六歳なわけだし、前世の享年にも追いつきそう。体は前世よりも遥かに女っぽいけどね。

 続いてルークもやってきた。

 背後にはぼんやりとした霊力の塊が浮いている。どうやら精霊ティスも一緒らしい。



「無事に倒したみたいだな」


「うん。なんとか勝ったよ」


「ったく……俺たちが覇獅子レオンハルトとして活動していた意味が全くねぇな。たった一人で解決とか驚きを通り越して呆れる」


「酷い言いようだね。まぁ、大丈夫だよ。覇獅子レオンハルトには相応の意味がある。それについては明日に出もレオネスさんに話す予定だけどね」


「ふーん。まぁいいけどよ」



 あの可愛らしかったルークが随分とふてぶてしくなったわね。

 おねーさんは悲しいよ。

 まぁ、そんなことを口に出したらルークも拗ねちゃいそうだけどね。わたしの中ではルークなんて子供のままだし。あの甘えん坊ちゃんが立派になったなぁっていうおばちゃん的思考だね。

 とはいっても、前世の記憶があったところでルークは同年代。立派な男に育ったんだから、ちゃんと扱ってあげないと可哀想だ。

 ……うん、でも昔の泣き虫ルークとのギャップが凄すぎて笑いそうだけど。



「なんだよ?」


「何でもないよー」



 ニヤニヤしていたのがばれたのかな?

 訝しげな目で見られた。

 それにしても、故郷を奪われて五年。ようやく取り戻した。魔王が攻めてきたり、豚の原種と戦ったり、帝国で地位を築いたり、紆余曲折が激しい。でも、ここからはもっと忙しくなる。

 でも、それについては明日から。

 今日のところは皆で喜びに浸るとしよう。

 なんかわたしも崇められちゃってお祭り騒ぎだし……ね。







―――――――――――――――――――







 【イルズの森】を解放して二日ほど経った。

 森の解放はあっという間に各地に知らされ、遠くからも獣人が集まりつつある。昨日は覇獅子レオンハルトが主催で宴会が開かれ、アジトとして使っていた【ハリス】の拠点で騒ぎまくっていた。

 九尾であることが知られたわたしは、色んな人に引っ張りだこ。

 握手してくれとか、子供を抱いてくれとか、結婚してくれとか色々言われた。まぁ、宴会だし、結婚以外のことはしてあげたけどね。覇獅子レオンハルト幹部の猫姐さんは相変わらずの変態性を発揮してわたしの尻尾を触ろうとしてきたから、呪印術式で拘束しておいた。

 まぁ、そんなこんなで解放から二日目。

 ようやく具体的なことを話し合う会議が開かれた。集められたのは覇獅子レオンハルト幹部とわたしは勿論として、大人の獣人は殆どが参加だ。アジトにあるホールを臨時の会議場にして、ちょっとした集会が開かれた。



「話し合いを始めよう。俺は獅子獣人の長レオネス・ハウトだ。覇獅子レオンハルトのリーダーでもあり、今回の会議は俺が仕切らせて貰う。議題は森を取り戻した俺たちがするべきことだ。復興は勿論だが、それについて九尾のルシアから一つ提案があるらしい」



 昨夜の段階でレオネスさんにはある程度のことを言っている。

 今回の会議をスムーズに進ませるためには必須の打ち合わせだったからね。彼もわたしの意見には賛成してくれたから、今回の提案をすることにした。

 レオネスさんから名指しされたので、立ち上がって霊術を発動させる。声を拡散させるマイクみたいな魔法だから、特に害はない。



「結論から言うよ。わたしが提案するのは、これまでのように部族ごとの生活ではなく、獣人として纏まり、一つの国を作るということ。わたしたちは一人の王の名のもとに集まり、一つの共同体として存在するべきなのよ。五年前のような緊急事態にも対応しやすくなるし、獣人全体として危機に立ち向かえるようになるから、是非とも前向きに考えて欲しい」



 獣人の国を作ること。

 それがわたしの提案したことだ。獣人という種族は部族ごとの結束が強く、部族間はかなり疎遠になることが多かった。結果として五年前のような事態に陥ったと思っている。



「わたしたちの王は象徴となるべき存在であるべきよ。だからこそ、獣人の中で最も強い者が王として君臨する。でも、王は象徴であって政治に携わる人物じゃないの。民主制の議会を設立して、代表者たちが執政する。これがベストだと思うわ。流石に王に全てを負担させるのは拙いからね。

 王とはあくまでも象徴なのよ。外交の時には表に出ることもあるだろうけど、国の行く末を決めるのは国民によって選ばれた首相ということね」



 強い奴が良い政治を行えるとは限らないからね。

 常に強者の下に就く獣人という民族の性質上、王は最強でなければならない。でも、国家を運営するためには相応の知識と知恵を持った人物が必要になる。王の補佐官としてそういった人たちを起用してもいいんだけど、それならいっそのこと民主制にした方が効率的だ。

 わたしの提案を理解できた獣人たちは七割程みたいだけど、概ね反対意見はなかった。顔を見合わせながら『なるほど』みたいな表情を浮かべている。それに、覇獅子レオンハルトという部族を超えた組織まで結成していたわけだから、国家として部族統一を図る提案には皆が賛成のようだった。



「反対意見、または質問はあるかしら?」



 ジッと見渡すけど、誰も手を挙げる様子はない。まぁ、複雑な話だから、各自で消化するにも時間がかかるのだろう。じっくりと待っていたら、幾らか手が上がった。



「はい、まずは兎獣人のお兄さん」


「今の話を聞く限り、王は血筋じゃなくて交代制なんですか?」


「そうね。わたしはそのつもりよ。別に初代の王を決めて血統制にしてもいいとは思うけどね。次はそっちにいる猫獣人のおじいさん」


「国を作ると言ったが、土地はあるのか?」


「まずは【イルズの森】はわたしたちの領土よ。そしてもう一つ、魔族領を幾らか貰うつもりにしている。実はスライムのせいで魔族領もかなり荒らされてね。数多くいた魔王も殆ど滅ぼされて、今は最強最古の魔王アザートス・ルナティクス・シファー・ドラゴンロードだけになっている。魔族領の東半分を支配する最強国家の王よ。わたしは彼と面識があるから、交渉して西側の余っている土地を貰うつもり。彼も管理しかねているみたいだから、簡単に渡してくれると思うわ。次は鳥のお姉さん」


「人族との折衝はどうするつもりかしら? 少なくとも人間至上主義の【マナス神国】は建国を認めてくれないと思うわよ」


「それも大丈夫。わたしは【ナルス帝国】の皇帝アルヴァンス・タカハシ・ナルス陛下と知り合いだから、そっちに手助けして貰うわ。帝国としては、人族領と魔族領の間に獣人の国という一つの緩衝地帯が出来ることに反対しないはずだからね。それに建国後は【ナルス帝国】と【魔国エンデュミオン】と同盟を結ぶつもりだよ。勿論、わたしの人脈頼みだけどね」



 このことを話すとかなり驚かれた。

 でも、今あげた二国との同盟は絶対に必要だ。建国直後だから政治的には弱いし、人族領で最も軍事力を持つ帝国とはすぐに同盟を結びたい。これによって【マナス神国】に牽制をかける。そして帝国への利を作るために獣人国は魔国とも同盟を結ぶ。

 帝国は密かに魔国……正確には皇帝アルさんと魔王アザートスさんが繋がっているからね。ここでわたしたちを挟んで国家の繋がりを持ってもらう。アルさんはわたしの友人だけど、利もなく国家レベルの頼みを聞いてくれはしない。そこは友人としてではなく皇帝としての裁量になるからね。だから魔国との同盟は絶対に必要なことなんだ。

 このことを詳しく説明することは出来ないので、表向きの理由だけ話す。魔国とは隣接する以上、仲良くするべきだよねっていう理由だ。まぁ、大体の人は納得してくれた。それに、スライムの殲滅に魔王の手を借りている話をしたら、納得せざるを得なかったみたい。



「これで建国までの方針はいいかしら?」



 本当は詳しく詰めたいけど、ここでは大まかな方針だけでも充分だ。わたしにとって獣人王国の建国こそが最も重要だからね。

 会場全体を見渡し、もう一度口を開く。



「じゃあ、建国に当たって暫定政府を設立します。わたしとしては覇獅子レオンハルトの組織をそのまま初代の運営組織として活用したい。だから、初代獣王をレオネスさんにして貰うつもりよ。そして幹部五名は政務官として国としての纏まりを作って欲しい。その間にわたしが先の同盟を締結させて、下準備を済ませるわ」



 実を言えば獣人最強はわたしだけど、王なんかにはなりたくないからレオネスさんに押し付ける。わたしも『外交するから!』っていう尤もらしい理由があるからね。

 でも、最終的には獣人国の相談役あたりの地位に座るつもりでいる。これでも神子として崇められているわけだから、本来は王というよりも神性の強い役割を担うことになると思うんだ。だから王にはならないよ。

 さて、学院の夏休みにも限界はあるし、余裕がある内に同盟を締結させないとね!






評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ