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女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
7章 魔界戦争
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131話 厄魔原粘、討伐


 さて、原始母竜マザードラゴンになったマキナはかなり追い詰められている。これ以上に無く消耗させたわけだし、『殺生石』でエネルギーを奪い尽くせばわたしの勝ちだ。

 黒い竜鱗に包まれたマキナに対して、わたしは先制攻撃を放つ。



「重力収束、『天断』!」



 力場を薄く展開し、その圧力によって対象を切り裂く不可視の剣。堅い竜鱗を切り裂くことは出来なかったけど、かなりの衝撃を与えることは出来た。少しぐらいは傷も入れることが出来たかもしれないね。

 この『天断』は巨大な相手または大軍に対して凄く有効で、わたしも傑作だと思っている。重力場を極薄で展開するだけだから演算も楽だし、魔力を使えば出力は簡単に上がる。

 今回のように防がれたとしても相当な衝撃を与えることが出来る点もグッドだね。



「『天断』、『天断』、『天断』!」



 わたしは両腕だけじゃなく、尻尾も魔法発動の媒体として利用できる。

 体内には霊力、魔力、妖力を通す回路が通っているんだけど、その放出場所は殆どが手なんだよね。でもわたしの場合は尻尾もあるから、全部合わせて十一の魔法を同時発動できる。

 まぁ、『天断』の場合は同時発動すると重力場の計算がややこしくなるから、五発までが限界かな。集中すれば十一発同時発動も出来るけど、実戦では役に立たなさそうだし。



「グオオオオオオ……」


「『灼熱劫火ヘルフレア』」



 呻くマキナに強烈な熱攻撃を叩き込む。魔力によって空気分子を加速させるエネルギー攻撃だ。魔法はエネルギー保存則を守っているから、やっぱりシンプルな魔法が最も攻撃力も高い。

 複雑化すると、その分だけロスが増えるからね。

 熱、電気、重力とかを増幅して放射するだけってのが一番強いのかも。



「『絶氷零土コキュートス』」



 今度は絶対零度でマキナを包み込んだ。空気が液体化することで大量の空気が流れ込み、凄まじい突風も巻き起こる。魔法耐性の高い竜鱗でも、これだけ極端な物理法則には耐え切れないということだ。

 また高熱状態から急冷することで、竜鱗の元素配列を大きく損傷することに成功した。複雑に無拡散変態することで内部に必要以上の空孔が生じ、また分子配列の乱れによって竜鱗には細かい傷が大量に付いていることになる。

 魔法的な効果のせいで魔法耐性や強度は落ちていないだろうが、この細かい傷が重要だ。

 わたしも多くの魔物を討伐していると、攻撃が通じないほど堅い敵も出てくるわけで、そういった相手に対する特別な魔術をしっかりと開発している。



「正面突破が通じなければ、強力な毒を使えばいいってことよ。『腐死縛水(デッドリーアクア』」



 魔力によって大量の水を出現させ、それを高温高圧状態にする。高圧化によって原始母竜マザードラゴンとなったマキナすら閉じ込め、更に超高温とすることで水の特性を変質させた。

 水というのは面白い物質で、液体よりも固体の方が密度が小さくなる。普通の物質は固体、液体、気体の順で密度が小さくなっていくんだけど、水やシリコンなんかは液体、固体、気体の順で密度が小さくなる。だから、圧力を掛けても液体は固体にならない。寧ろ凝固温度が下がってしまうことになる。

 水の場合なら、高圧下ではマイナス十度とかで凍ることもある。逆に圧力を下げると、微妙に零度より上の温度で氷になったりする。

 まぁ、それは良いとしよう。

 ならば、高圧かつ高温という極限状態の掛け合わせをしたら、どうなってしまうのか。それが今回の魔法の大きなヒントである。

 わたしたちの体の多くを占める物質であり、生きるために必要な水。しかし、高温高圧状態では強烈な毒へと変質する。



「その名も超臨界水。強力な酸化能力で有機物を分解する対生物用の魔法よ。これで身体ごと溶かされてしまいなさい」



 竜鱗に無数の傷をつけたことで、超臨界水が浸透して内部にまでダメージを与える。巨大な黒竜の姿となったマキナも、この超臨界水による牢獄からは抜け出せず、更に分解作用によって地味に大ダメージを受けていた。

 特に口内や目などはあっという間に溶かされてマキナは苦しみもがく。

 うん。

 わたしがやっておいてこんなことを言うのもアレだけど、なんか酷いね。マキナはブレスで超臨界水の結界を吹き飛ばそうと息を吸い込むけど、その際に超臨界水が体内に侵入して大ダメージを与える。スライムの特性ですぐに修復するとしても、かなり痛ましい。

 でも、マキナも死ぬほど痛いのを我慢してブレスを完成させた。原始母竜マザードラゴンだけあって魔素の圧縮度も凄まじい。魔力を感知できるわたしも引くレベルの圧縮率だった。



「ゴバアアアアアッ!」



 ブレスの発射でわたしの『腐死縛水(デッドリーアクア』も解除されてしまう。

 勿論、ブレスは回避させて貰った。あんなのを防御する自信はないからね。結構離れたつもりだったけど、余波で生じた衝撃波のせいでわたしも吹き飛ばされたし。

 けど、丁度いいかんじに魔力も消費したみたい。

 生命エネルギーもだいぶ減ったしそろそろ美味しく頂きましょうかね。



「これで最後! 『殺生石』」



 固有妖術の力でマキナの生命エネルギーを奪い取っていく。これはつまり、スライムを構成する魔素を奪い取る行為に等しいから、マキナらからすれば体を引きちぎられて奪い取られているみたいに感じているだろうね。

 でも情けはない。

 わたしの家族を奴隷化して、さらに故郷をこんなにも荒らした敵はここで潰す。



「ガアアアッ!」


「危なっ!?」



 とはいっても、全てが思い通りにはならないね。竜特有の空中戦闘能力は本当に凄い。ただ動くだけで大気を叩き、衝撃波を撒き散らす。私は『殺生石』を発動中だし、それに対処するのも難しい。

 ってちょっと待て。

 今さっき直角移動とかいう物理を無視した飛行しなかった!?

 竜の体は頑丈だから、強烈な慣性力を受けても多少は問題ない。少しダメージが入った部分は、スライムとしての特性で修復しているんだろうね。

 わたしが苦手な相手は、やっぱり直接戦闘能力が強い相手だ。魔法戦闘ならアザートスさん以外に勝てる自信はあるし、どんな強靭な魔物でも絶対に倒せる。

 でも、一対一の物理戦闘となるとやっぱり苦手だなぁ。



「よし、そろそろエネルギーも回復してきたね」



 これで決めよう。

 わたしがマキナを追い詰めているからか知らないけど、周囲の魔素濃度が下がり始めた。つまり、魔境化の効果も消えている。これで霊術も使えるってこと。

 つまり、術構成が高度な魔法陣系の術も発動可能になったってことだね。複雑だから出力を出すのは難しいけど、複雑だからこそ解除が難しい捕縛系の魔法陣は幾らかある。さっきアザートスさんが使っていた呪印回路の術式も解析済みで、わたし流にアレンジもした。

 これで捕える。



「『呪印界縛』」



 これは肉体能力を制限したり、魔力の流れを阻害する効果に加え、重力による物理的拘束、及び電磁気系作用で神経にも作用する、とにかく捕らえることを突き詰めた魔法陣結界型呪縛陣だ。複数の効果を詰め込むために立体型の積層魔法陣にしているから、見た目は大量の回路と文字列が原始母竜マザードラゴンのマキナを覆っているようにも見える。

 でも、これだけでは倒せない。

 だから、この状態で攻撃魔法を叩き込む。わたしが保有する最強の対個人術式は、発動のために結構な集中力を使うからね。こうやってちゃんと捕えておかないと失敗してしまう。



「消えなさい。『消失ロスト』」



 量子を操り、存在確率を操作することで物質を拡散方向に偏位させる。つまり粒子レベルでバラバラにするという魔法だ。

 二度目の消滅魔法を喰らったマキナはなす術もなく肉体を消される。そして展開中だった『呪印界縛』の中心にマキナの魔核が残った。

 わたしは『重力制御グラビティ』で飛翔しつつ近寄り、大きな魔核に手を触れる。今の『消失ロスト』でかなりの魔力を消費したから、『殺生石』の発動条件としては揃っている。



「わたしの勝ちね、マキナ」



 容赦なく、躊躇いなく魔核に残った魔素を奪い尽くした。この私が何度も『殺生石』を使わなければ倒せなかったわけだし、やっぱり相当強かったみたいだね。再生能力が尽きるまで倒し続ける正攻法では無理だってアザートスさんも言っていた。

 魔力が尽きて残骸となったマキナの魔核を重力で砕き、本当の意味で終わらせる。どうやら周囲の魔素濃度も正常に戻ったみたいだった。

 尻尾で感知を広げると、アザートスさんは既に勝負を終わらせたらしい。少し離れたところの地上で佇んでいた。わたしは報告も兼ねてアザートスさんの方へと向かい、静かに降り立つ。



「終わりましたよアザートスさん」


「そうか。思ったより苦戦しなかったようだな」


「相性が良いので。まぁ、『殺生石』で無限にエネルギーも補給できますから、普段はおいそれと使えない大魔法もバンバン使えるってのが良かったですね。そうじゃなかったら戦闘中に五回はエネルギー切れてましたよ」


「やはり私の見立てた通り、九尾妖狐タマモノマエが天敵だったというわけか」


「そーゆーことですねー」



 わたしだって物理特化かつ、副次的作用で凍結効果を保有した崩氷魔狼フェンリルみたいな相手なら負ける可能性が高い。今回はマキナが崩氷魔狼フェンリルに擬態したときもアザートスさんに助けてもらったし。

 やっぱ、物理方面も鍛えた方がいいかなぁ。

 でも面倒なんだよね。わたしってインドア派だし、魔法を考える方が面白い。最近は魔法陣も使えるようになったから余計にね。外に出るときは魔法を試す時ぐらいだから。

 そうは言ってわたしだって獣人の端くれ……というか原種だ。近接戦闘武器も使え得るようになった方がいいかもね。

 まぁ、それは今度にしよう。



「それでアザートスさんもゲルとクレイブを倒したんですよね?」


「済まんな。クレイブは瞬殺だったが、ゲルは逃がしてしまった。分身のようなものを囮にしていたらしくてな。私も気付けなかった。面目ない限りだ」


「そうですか……まぁ一匹ぐらいなら大丈夫だと思いますよ」


「だと良いのだがな……」



 わたしはあったこともないからゲルがどんな奴なのか知らないしねぇ。見つけたとしても人型に擬態していたら見分けられる自信はない。

 でも、今はスライム一匹よりも大事なことがある。

 【イルズの森】を解放し、さらに冒険者ギルドの権力に屈しないための後ろ盾を得る。最近から考えていた計画を実行するために忙しくなる。

 獣人の国を建国するとしよう。







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