表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
7章 魔界戦争
132/142

129話 概念魔法


 とりあえず獣人たちを逃がしたわたしは、マキナの元へと向かうことにした。奴は中々に強い魔力を持っているから、感知は簡単。すぐに見つかったね。



「『核融合フュージョン・ボム』」



 まずは様子見で大爆発。

 核融合を利用した大規模熱破壊術式だ。建物は溶けてなくなり、スライムも消滅する。マキナの持つ大魔力は城のような建物から感じられるし、まずは城自体を破壊した方が良いかもしれない。そう思ったんだけど、どうやら城には結界が施されているようだ。わたしの『核融合フュージョン・ボム』では全く傷がつかない。どんだけ強固な結界なんだ……

 恐らくは魔境であることを利用し、周囲の魔素を取り込んで発動するタイプだね。多数の魔術回路を織り込むことで何重にも強化している。熱、衝撃、電気、物質は通さないようにしている。

 ここは『解呪ディスペル』を使ってもいいけど、妖力を使ったバージョンだから大規模な術式には使いたくないんだよねぇ。消費が激しいもん。

 ちなみに、魔境でも霊域でも妖力は使える。効率が落ちるけどね。多分、二つの中間的な要素を含んだエネルギーから中和されないんだろう。



「ま、ここはもっと簡単な方法があるから」



 実は、この結界にも欠点はある。

 それは光を通すということだ。つまり、光学攻撃ならば問題ないということ。ただ、夜だから太陽光を利用する『神光ゴッド・レイ』は使えない。ならばアレしかなかろう!



「魔素を変換、原子核を崩壊、最大励起、収束……発射『GENESIS』!」



 濃密なガンマ線が結界を透過して城に直撃した。あまりにも高エネルギーなため、『GENESIS』は城を構成する物質を原子崩壊させる。

 Gamma-ray Emission for Nuclear Extremely Stimurated by Interchange System.

 訳すと、相互換機能による極限励起原子核を用いたガンマ線放射。

 つまり生物にも環境にも滅茶苦茶有害ですね。

 まぁ、魔法法則によって生まれた現象だから、わたしが魔素を消せば現象も消えるけど。

 ともかく、適当に暴れておけばマキナも出てくるでしょう。

 てか……



「普通にアザートスさんに頼んだ方がいいかも」



 うん。

 こういった大規模破壊はアザートスさんの方が上だ。魔力制御も魔力量もアザートスさんには勝てないからね。凄まじい制御が必要な大規模術式に関しては魔王様に軍配が上がる。

 よし、適当に破壊してって頼みに行こう。

 『重力制御グラビティ』で飛び上がり、空中へと戻った。竜形態のギンちゃんが一瞬だけこちらを見たけど、ごめん……用事があるのは君じゃないんだ。悲しそうな眼をしているギンちゃんに心を痛めつつ、わたしはアザートスさんの所へと向かった。



「む、どうした?」


「ごめんアザートスさん。取りあえずここら一帯を殲滅して」


「獣人は助けたのか……いや愚問だな。よかろう」


「マキナたちが結界を張った城に籠っているから、一発デカいのよろしくお願いします」



 大きく縦に頷いたアザートスさんは大量の魔力を集め始めた。わたしも思わず尻尾が逆立つほどの魔力量と密度で、これほどの魔力を緻密に制御しているなど有り得ないとさえ感じる。

 ただ、これが魔人種の王、堕天魔人ルシファーの持つ魔眼の力だ。エネルギーの高い魔力を完全制御できるというチート級の能力だね。マジふざけてんのかと言いたい。

 そんなアザートスさんはわたしの方へと目を向け、ニヤリとしながら話しかけて来た。



「ルシアよ。面白いものを見せてやろう」


「面白いもの?」


「魔法の極限……私が到達した一つの概念を披露しよう」



 そう言ってアザートスさんが右手を【ラグナハイト】へと向けた瞬間、都市全体を覆い尽くすほどの超巨大魔法陣が出現した。



「……………………は?」



 いやいや待とうか。

 巨大な魔法陣を形成するのはいい。恐らくは物質を崩壊させる破壊の大魔術だろう。魔法陣の魔術回路を見たら大体は理解できる。けど、都市を丸ごと滅ぼすほどの魔法陣を一瞬……それも獣人で魔力感知の出来るわたしが知覚できない速度で展開するとかありえない。

 これがどれほど凄いかと言えば、崩されている五×五のルービックキューブを一瞬見ただけで解の最短ルートを導き出せるというようなレベル。もはや人の技ではない。

 極致ってこれかな?



「言っておくが、術の高速展開は私の言った極致ではないぞ?」



 心を読まれた!?

 まぁ、それはいい。実際に読まれたのではなく、わたしの考えていることを予想しただけだろうから。初めて会ったときに心を読む魔法を使われて以来、わたしはその手のプロテクトを常時発動しているし。

 それはともかく、術の高速展開が極致ではないとは一体……



「何が起こったんです?」


「何、簡単だ。時を止めただけだよ」



 はぁ?

 何言ってんだこのおっさん。

 時間停止とか出来る訳ないでしょうよ。時間というものは法則として存在しているものではなく、人間が概念として作り出したものだ。魔素、霊素、妖素という高次元感応粒子を通して自身の心象を世界に投影するのが魔法である以上、スクリーンである世界の法則には従う必要がある。

 それをガン無視して、概念を操るとか意味が分からない。

 白いスクリーンに映像を映すのが魔法だとしたら、時間の操作はスクリーンに直接色を塗るようなものだ。概念そのものを操るとか規格外すぎる。

 わたしが唖然としていると、アザートスさんはクックックと笑いながら言葉を続けた。



「驚くのも無理はない。この境地は私が心の底から願って作り上げた固有魔術だ。誰にも真似できない、私だけの法則ということだよ」



 なるほど。

 アザートスさんは自分の色で塗り潰したスクリーンを獲得したということか。ある意味、それは境地と言えるだろう。魔術の可能性を広げる、自分だけの固有法則を獲得したのだから。

 それが概念を操るということか。

 まぁ、同じ境地に達すればアザートスさんと同じく『時間操作』も出来るようになるだろうけど、恐らくは無理だろう。十人十色というように、それぞれにはそれぞれの境地があるのだから。



「さて、種が分かったかな?」


「何となく。ともかく、アザートスさんは時間を止めて、その間に大規模術式を展開したと……」


「そういうことだ。『万象崩壊マテリアル・コラプサー』」



 超巨大魔法陣が発動し、全ての無機物が消滅した。

 消滅という言い方は少し語弊があるかな? 正確には原子レベルで分解された。分解された元素はすぐに再結合して小さな粉末となり、【ラグナハイト】を更地に変える。恐ろしい魔術だ。この規模なら展開に数時間は掛かるだろうけど、それを時間停止ですっ飛ばした。

 なんて恐ろしい組み合わせ。

 この人相手には術の展開速度とか関係ない。発動に時間のかかる大魔術でもタイムラグなしで発動してしまうからね。マジで恐ろしいわ……

 それはともかく、これで城の結界も消え去り、スライムたちは剥き出しになった。急に【ラグナハイト】が消滅したことで動揺しているみたいだし、ここはチャンスだろう。

 アザートスさんも同じことを考えたみたいだった。



「『重力制御グラビティ』……岩石を引き寄せて……『量子変換ワールドブレイク』!」


「滅びろ……連続起動『召喚術・極星號嵐流星群テンペスト・ミーティア』!」



 わたしは適当な岩石の質量を量子化して全て熱エネルギーへと変える術式を掛けてそのまま落とした。本来はエネルギーを束ねて放つのが正しい使い方だけど、ここはそのまま落として広範囲に質量エネルギーの暴威を振りまいて貰った方が効率的だ。

 そしてアザートスさんは概念魔法『時間操作』による時間の停止で『召喚術・極星號嵐流星群テンペスト・ミーティア』を十回も連続発動した。

 この二つの広範囲大魔術が同時に発動されたわけだ。

 これで【ラグナハイト】に住むスライムは殆どすべて消滅したね。生き残るとすれば、原種マキナは当然として一部の上位種だけだろう。

 『量子変換ワールドブレイク』が起動し、落とした岩石は質量エネルギーを解放する。そしてすさまじい大爆発と共に、キノコ雲が立ち昇った。続いてアザートスさんの発動した『召喚術・極星號嵐流星群テンペスト・ミーティア』が大地を蹂躙する。時速五百キロで落下する大隕石が次々と地面を抉り、直撃しなくともスライムを消し飛ばした。



「ここからが本番ね」


「ああ」



 あとはマキナを倒すだけだね!








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ