127話 原種多過ぎ……
「遅れて申し訳ありませんでしたホントに」
「まぁ、許そう。結果論だがこちらも助かった」
わたしは現在、アザートスさんに頭を下げて謝っている。何故かと言えば、約束の期間を大幅に過ぎて遅れたからだ。一か月ほどで行くと言っておきながら、こちらに来たのは二か月後。
怒られても仕方ない。
だが、結果的にわたしはロークリア平原で魔王軍を助けることが出来た。もしも一か月前に来ていたら、アザートスさんと一緒にマキナが出現したという誤情報を追って、ロークリア平原の魔王軍は壊滅していたことだろう。
偶然とはいえ良かった。
「しかしこれでマキナの戦力も大きく削れた。想定よりも早く終結できそうだ」
「六人のしもべでしたっけ?」
「そうだ。ソレイユ、ルナー、ゲル、リンド、ナブー、クレイブの六人だな。私がルナーを討伐した上に、ルシアはリンドとナブーを倒した。これであと三人だ」
「単純に戦力半減ですね」
「うむ」
この六人のしもべはマキナの部下の中で人の知性を得た奴らのことだ。言葉を話し、人間とそん色ない知性を発揮しているのだという。中でも、ゲルというスライムはそこいらの人間よりも賢いとのこと。
様々な道具を開発している発明家でもあるという。
どこぞの科学者でも捕食したのだろうか?
まぁ、考えても分からないけどね。
とりあえず、用意されたお茶を飲んで落ち着く。いい香りだ。
ちなみに、今わたしは魔王城にお邪魔している。マキナを撃退した後、九尾であることがばれてしまって連行。そして『魔王様からもてなすように言われています』とのことで、野営地の一角でもてなされた。そして魔王アザートスさんがやってきて『やっと来たのか……』『ごめんなさい』となったわけである。取りあえずの戦いが収束したので、こうして魔王城に戻ってきた訳だった。
それで、応接間に呼ばれ、簡単な報告と状況説明を受けている。
「これからどうやってスライムを駆逐するかんじですか? もう攻め込むイメージ?」
「まぁ、概ねその通りだ。ただ、私も国を預かっている身なのでな。安易に国防を緩めるつもりはない。スライムに対して無双の強さを誇れる少数精鋭を送る予定だ」
「スライムに対して無双って……どんな人たちですか?」
「全員原種」
「あ、察しました」
ちなみにこの国では原種が何人かいるそうだ。
魔王アザートスさんは魔人という種の頂点だし、他にも邪人という種の原種もいるらしい。邪人は蛇の鱗のようなものが体表に生えている人たちで、如何にも悪役ですみたいな見た目をしている。いや、普通に優しい人たちだけどね。
邪人の原種・海魔王女は一睨みで対象を石化させることが出来るという凄い人。石化といっても本当に石になる訳ではなく、肉体が硬直してしまうという意味だ。目を合わさないようにしなければ回避できるらしい。普段は目隠しして生活しているとのことだ。
そして後は獣人系の原種は狐以外コンプリートしているとのこと。
なんでや! って思ったけど、それには理由があった。
原種というのは、やはり同じ種の中でも浮いている。身体的特徴に大きな差があることも珍しくないのだ。それによって原種として生まれた獣人は迫害を受けたのである。狐族のように崇められるのは珍しいタイプだったようだ。
二尾妖猫、赤月妖兎、金剛妖熊、白皇妖獅と呼ばれる原種たちがいるらしいね。かつて迫害を逃れ、魔王に保護された人たちだそうだ。原種は不老だから寿命なんてないし、わたしなんかよりも年上の方々になる。
あとは原始母竜という竜の原種が魔王国と協力関係にあるらしい。普段は南部にある竜の渓谷と呼ばれる地域に住んでいるそうなのだが、彼女とは同盟関係にあるとのこと。ちなみに、竜の能力は肉体変化だ。原種である原始母竜は人化も出来るらしい。アザートスさんとは愛人関係にあるとか……。なんでも、昔に戦って勝利したら惚れられたという。愛人の証に、竜種の王が名乗る名である『ドラゴンロード』を授かったという話だ。
いやはや……どこのテンプレ主人公だお前は!
まぁ、それはいい。
ともかく、協力関係にある竜の王を含めて、動ける原種は八人となる。
一見すると、万単位のスライムに対して八人は少なすぎる気もする。しかし、寧ろ過剰戦力だ。一人で一国を危機に陥れるような奴が八人だ。これを過剰戦力と言わずに何と表現する。
だから全員での出撃は無いだろう。
「行くのは私、ルシアの二人だ」
「いや、それは少なすぎない?」
「ルシアがマキナを担当し、私がそれ以外のスライムを全て倒す。これで完璧だ」
「雑っ!? 作戦が雑いっ!」
「仕方なかろう。本国の守りが最も重要なのだ」
「確かに少数精鋭だけどこれは少数すぎる……」
うん、でもまぁ、場合によってはアリかもしれない。
わたしはマキナを倒すだけでなく、捕らわれている獣人も助けなければならない。スライムの国【ラグナハイト】では奴隷扱いらしいからね。そして、その開放を手伝うにあたって、邪人の原種、迫害されていた獣人原種の人たちが手を出すとややこしいことになりそうだ。
なんというか……余計にパニックになりそう。
わたしの場合は九尾伝説のお陰で崇められているし、アザートスさんはどうせ空から魔術をぶっ放すだけだから問題ない。だからこの二人で行くのはある意味で好都合かもしれない。
「ちなみに他の獣人原種には会いたいか?」
「いや、別に」
「む。そうなのか?」
「まぁ、特に思い入れもないので」
まぁ、会いたいか会いたくないかで言えば、会いたい方に傾く。しかし、別にどうでもいい。わざわざ会う予定を組まなければならないのならば会わなくてもいい。
その程度のことだ。
というか、ぶっちゃけて言えば早く帰って研究の続きがしたい。
わたしにとってはそっちに方が重要だ。
なんせ、学会が迫っている。
「ならば良い。ともあれ、近いうちに【ラグナハイト】を襲撃する。私の書類仕事が終わったらすぐに向かう予定だ。明後日には片付けたいが……まぁ、それまでは好きに過ごせ。何か要望はあるか?」
そうだねー。
まぁ、魔王国の街並みを見て回りたいというのもあるけど、お金もない。だからといって部屋でゴロゴロとしているのも性に合わない。ギンちゃんと戯れるのも魅力的かな。
いや、ちょっと待てよ……
ああ、そういえばアレがあった。
「魔導兵器ファランクスってのを見せてくれません? ちょっと興味があるんですけど」
「あれか……それなら研究室の見学許可を与えよう」
「お願いします。まぁ、兵器に限らず、この国の技術にも興味があるので」
「構わん。最深部の研究は見せられんが、表に出ている兵装ならば問題ない」
おおー。やったね。
割とダメ元でお願いしたんだけど、了承してくれたみたいだ。
許可証を貰ったすぐに行こう。
「ああ、それと君が宿泊する場所はこちらで手配しておく。恐らくは城のゲストルームに泊まることになるはずだ。それで構わないか?」
「それでお願いします」
「分かった。ならば夕食は共にどうだ? 折角だから魔術に関する話を聞きたい。マキナ撃退では面白そうな術を使ったそうだからな」
「まぁ、いいですよ。宿泊代ってことで」
「楽しみにしている」
アザートスさんはそう言いながら手早く許可証を書いてしまった。適当な紙にそれっぽいことを書いてサインした後、魔王の印を押せば完成だ。実に手慣れている。
「許可証だ」
「どうも。では早速行ってきます」
「うむ。では私も仕事に取り掛かるとしよう。気を付けていくのだぞ」
「はーい」
アザートスさんがわたしを娘っぽく扱っているところは気になるけど、まぁいいか。あの人って千年以上も生きているわけだし、わたしなんて赤子のようなものだ。
それに同じ転生者だと分かっているから気を許している部分もあるんだろうね。
さてと、研究室にお邪魔して見ますか!
この後、滅茶苦茶見学した。