表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
女狐が異世界を調停します  作者: 木口なん
7章 魔界戦争
128/142

125話 スライムの罠


 魔王アザートス・ルナティクス・シファー・ドラゴンロードは北のアックス山岳地帯で厄魔原粘カラミティマキナを追っていた。スライム増殖の根源であり、魔族領全体を危機に陥れた張本人を討伐するために魔王自らが出張っていたのである。



「ふむ。見つけたぞ」



 アザートスは魔術で空を飛びながら捜索し、スライムの軍勢を発見する。今回、アザートスは兵站を担う僅かな人員と最低限の護衛だけを連れて出陣しており、実質的に戦闘員はアザートスだけだ。

 理由は原種であるマキナに対抗できるのは、同じ原種のアザートスだけだからである。



「黒いスライムは見当たらんか……まぁいい。攻撃すれば炙り出せる」



 眼下で蠢くスライムは万を超えている。そのため、パッと見ただけではマキナがいるのか分からない。しかし、スライムはどうせ全滅させるのだ。マキナが隠れているなら、一緒に滅ぼせばよい。



「『召喚術・極星號嵐流星群テンペスト・ミーティア』」



 アザートスが右手を天に掲げると、無数の隕石が出現する。召喚術によって生み出した巨大な大岩が炎を纏って落下していき、その全てがスライムの軍団へと殺到する。

 隕石の最終的な落下速度は時速500キロオーバー。

 そのエネルギーは凄まじく、一番下のランクA相当スライムなら一撃で粉砕することが出来る。それ以上に進化しているスライムも、二発目以降を喰らって消滅していた。

 まさにそれは隕石の暴風。

 災害の中の災害である。

 魔眼の力で自在に魔力を操ることが出来る原種・堕天魔人ルシファーは、高エネルギーの魔素を霊素以上に精密制御することが出来るのだ。このような高威力で繊細な魔法も自在に発動できる。



「『暴風術・災禍颶渦アストラル・ペイン』」



 次に発動した魔術は風を操る最強の攻撃だった。

 風を操り、超高圧の渦を形成して真下に撃ち込むだけの単純な仕組みだが、その威力は計り知れない。超高圧の暴風が触れる物体を一瞬で風化させ、破砕して塵に還すのだ。これを発動した後の地面は、綺麗にくり抜かれたクレーターしか残らない。

 先の『召喚術・極星號嵐流星群テンペスト・ミーティア』で三分の一を削っていたが、この一撃で殆どのスライムを消し飛ばした。残っているのはランクSS以上の高位個体だけである。

 アザートスはこのように雑魚を消し飛ばすことで、高位個体であるマキナを炙り出そうとしたのだ。だが、アザートスはマキナを見つけることが出来なかった。



「どこだ? 残っているのは銀色の個体と白い個体だけか……黒が見当たらんな」



 残っている二体も高位の個体なのは間違いない。だが、アザートスの目的は原種マキナなのだ。このアックス山岳地帯にマキナが出現したという情報があって来たのだが、やはり見つからない。



「まさか嵌められたか? いや、そう考えるのは早計か」



 情報は偽りであり、アザートスを誘い出す罠だという可能性もある。だが、アザートスは原種の中でも強い堕天魔人ルシファーであるため、同じ原種ですら勝てない個体の方が多い。ここにアザートスを誘い出したところで、その命を奪うことは難しいだろう。

 あるとすれば、アザートスを魔国の首都から離し、その隙にマキナが首都を強襲するという場合である。この場合はかなり拙いが、そうならないように情報網は構築してきた。それに、首都にはアザートスがいなくても原種に対抗できる防御が備わっているので、マキナが首都強襲を仕掛けて来たとしても問題はない。



「まぁいい。まずはあの二体を滅ぼす」



 アザートスはパンッと乾いた音を立てて両手を合わせ、大量の魔力を注ぎ込む。そしてゆっくりと引き離しながら魔素を雷へと変質させ、形状変化によって槍の形へと整えた。



「『雷鳴術・冥葬雷霆槍グングニール』」



 高エネルギー状態に励起した電子の塊が雷速で白いスライムに直撃する。すると、落雷のような轟音が鳴り響き、すり鉢状になっている地面が更に爆散して白いスライムを消し飛ばした。コアである魔核ごと消滅させたので、再生する余裕すらなかったことだろう。

 あとは銀色の個体だけである。

 銀色の個体はようやく上空のアザートスに気付いたのか、擬態で人の形へと変化した。そして背中からはドラゴンの翼を生やし、それによって一気に飛翔する。

 数秒と経たずにアザートスと同じ高度まで辿り着き、人型になった銀色スライムは口を開いた。



「その魔眼……魔王ね。想像以上の魔術で驚いたわ」


「貴様はマキナの配下だな?」


「ええ。第二のしもべ、ルナー。私の役目はあなたをここで足止めすること」


「やはり罠だったか。まぁよい。私の部下なら首都や他の都市でも守り切ってくれるだろう。そして貴様を速攻で倒し、私が帰れば万事解決だ」


「ふふ……甘いわね」



 ルナーの嘲笑するかのような笑みにアザートスは眉を顰める。銀髪が風に靡く彼女はそれなりの美少女に見えるが、その表情からは一種の狂気すら垣間見えた。



「私たちの目的はロークリア平原に集結しているあなたの軍を滅ぼすことよ。首都防衛のために魔国が保有する原種は国境戦線に出せないことも知っているんだから。そこに私たちの王マキナ様が行くの。どうなるかは分かるでしょ?」


「ちっ! そちらか!」



 アザートスはルナーを無視してロークリア平原へと向かおうとしたが、突如として周囲が大結界に覆われてしまう。十二か所の基点から形成される強固な結界であり、アザートスでも一撃では壊すことが出来ないだろう。

 これにはアザートスも驚いた。

 そんな彼を見てルナーは得意げに話し出す。



「私たちにはゲルっていう優秀な学者がついているの。彼が発明した原種専用の結界なのよ。十二体の高位スライムが命を削って魔力を送ることで一時間は足止めすることが出来る。何度も攻撃を喰らえば割られちゃうけど、私がそれを邪魔するわ」


「……こんなことなら空間系の魔術を諦めずに開発するべきだったか」



 アザートスはルシアのように空間転移を個人で発動することが出来ない。複雑な魔法陣による座標固定を利用して、どうにか発動できるレベルだ。



「仕方ない。貴様は一分で殺す」


「やってみなさい。竜身化!」



 ルナーはスライムの擬態によってその姿を白銀の竜王種へと変える。飛竜系の高位存在であり、運動能力は世界でも有数だ。これならば原種・堕天魔人ルシファーでも足止めできると考えたのである。

 だが、アザートスは落ち着いた様子でそれを眺め、宣言した。



「私がドラゴンロードを名乗っているのは原種・原始母竜マザードラゴンに勝利したからだ。彼女に貰ったこの称号にかけて、貴様は一分で殺す。擬態した雑種如きで私を止められると思うな!」



 北の地で魔王と竜王モドキの戦いが始まったのだった。







―――――――――――――――――――――――







 ふぅ。

 いつの間にかスライム帝国【ラグナハイト】の幹部っぽい奴を二体も倒しちまったルシアです。

 取りあえず残党のスライムから『殺生石』でエネルギーを徴収し、回復を済ませたんだけど、これからどうしようかと悩んでいる。

 わたしが使った大魔法を見て驚愕している竜騎隊の人たちが上に見えるし、魔王軍本陣付近からも騒がしい声が聞こえる。最後の『颶嵐暴竜エクス・ルドラ』はやっぱり目立ったかなぁ。あれって複数の竜巻で対象をすり潰すって効果だから、遠くからでもその威力を観測しやすい。

 絶対目立ったよな。



「取りあえず戻ろうかギンちゃん」


「キュル~」



 ミニドラ形態でわたしの頭に乗っているギンちゃんに声をかけると、可愛らしい声で返事をしてくれた。そしてギンちゃんはわたしの頭から飛び立ち、銀竜モードの大きさへと戻る。

 そしてわたしがギンちゃんに飛び乗ろうとしたところで異変は起きた。

 なんか知らんけど、いきなり目の前の空間が歪みだした。



「はい?」



 という間抜けな声を出してしまったのは仕方のないことだと思う。だってわたしの『加乗次元転位ディスロケーション』みたいなエフェクトが現れたんだもん。そりゃ驚くよ。

 そしてその歪みから出て来たのは二人の人物。

 一人は黒髪黒目の少年で、もう一人は金髪金目の青年だった。



「おや? まさか全滅しちゃうとはね。リンドとナブーもいたのに」


「全く情けない。六将に選ばれながら無様に敗北するなど……」


「まぁまぁ。でも僕たちがここに来た意味は出来たね。元から彼らで魔王軍を殲滅できるとは思ってなかったけど、これなら暴れ甲斐がありそうだ」


「ええ、早速ここに二匹の獲物もいますしね」



 なんか勝手に獲物認定されたんだけど。

 しかしこいつら誰なのかな? 強者の気配はするけど、さっきの会話的に味方ではない。それはつまり敵だということになる。そしてわたしたちの敵はスライムだ。

 もしかしてスライムが人型に擬態した姿なのかな?



「あなたたちは何者かしら?」


「うんうん。綺麗なお嬢さんには自己紹介しなくちゃね。ボクはマキナだよ。たっぷり甚振って遊んであげるからね。それとこっちはボクの部下ソレイユだよ。彼は部下の中では一番強いんだ」


「ソレイユだ。貴様はマキナ様の玩具だ。精々マキナ様を楽しませてみせろ」



 ラスボスじゃん。

 原種・厄魔原粘カラミティマキナがここに来ちゃったよ。てかアザートスさんがこいつを倒すために北のアックス山岳地帯に行ったとかだった気がするんだけどねぇ。

 もしかして嵌められたのかな。

 となると、ここには原種・九尾妖狐タマモノマエのわたしだけしかマキナと戦えないってことね。空間移動も使いこなしているみたいだし、予想以上に強敵だわこれ。



「じゃあ、ボクはこのお嬢さんで遊ぶから、ソレイユは予定通り魔王軍の方を潰してきてね」


「御意に」


「あ、ちょい待ちなさいよ」


「させないよ。お嬢さんはボクと遊ぶんだから」



 ソレイユは背中から竜の翼を出して飛び去って行く。

 それをわたしが風の魔法で攻撃しようとしたら、マキナが爆炎を飛ばしてきた。仕方なく水の膜で防御したので、ソレイユは逃がしてしまう。



「ギンちゃんはあのソレイユって奴を追って。わたしがマキナを倒すから」


「グルッ!」



 ギンちゃんが飛び立つと同時にわたしは『人化』を解除し、九尾状態になる。これで感知力は戻ったし、霊素魔素妖素の制御力も完全になった。

 流石に原種相手に『人化』しながら戦うつもりはないからね。



「ふーん。お嬢さんは狐獣人だったのか。しかも尻尾がいっぱいだね。レアだから捕獲してボクのコレクションにしてあげるよ」


「やってみなさいよガキ」



 こいつ腹立つわ。

 絶対潰す。







評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ