124話 幹部(笑)
取りあえず、魔法で火の雨でも降らせましょうか。
沢山の火の玉として扱うと制御が難しいけど、火の雨という現象として扱うと制御が楽になる。マクロ的な制御方法って奴だね。
汚物は消毒とばかりにカラフルなスライムたちを焼却する。まぁ、すぐに再生しているみたいだけど、他の竜騎隊の人たちも魔法を使っているし、かなり押していると言えるだろう。
攻撃を受けたスライムの何体かは擬態して対抗しているみたいだけど、空を飛んでいる竜騎隊と戦える個体は少ないみたいだ。空を飛ぶ魔物に変化しても一瞬で落されているしね。
まぁ、再生されると鬱陶しいから、少し派手にいこう。
「『核融合』」
掌の上に真っ赤なプラズマ球体を創り出し、回転圧縮をかけつつ制御する。遮熱用の結界があるので熱くはないけど、少しでも制御をミスしたらお陀仏だ。慎重に魔法を完成させ、それを下に向かって放った。
それが地面に着弾した瞬間、ドーム状にプラズマが広がって内部を焼き尽くす。核融合エネルギーを結界で内部に閉じ込め、灰も残さず焼き尽くすという恐ろしい霊術だ。
スライムであっても、魔核ごと滅ぼせる。
危ないから理論に留めていたんだけど、今回を機に開発しておいた。
「もう一発」
というか、何発も落としていく。
次々とプラズマのドームが形成され、地上ではスライムが消し炭になっていた。わたしが言うのもおかしい気がするけど、これは酷い。
まぁ、他の人たちも結構酷いけどね。
どうやら魔族たちは、人族のように魔法を定式化していないらしい。基礎学問として魔法を定式化し、属性によって六式から壱式まで分けている人族と異なり、魔族は魔法というものを理解している。
魔法なんて、不思議現象を引き起こすよく分からないものだ。
それを無理やり型に嵌めれば、自由度は極端に下がる。
習得は楽になるけどね。
で、竜騎隊というエリート部隊に所属している人たちの魔術は、当然ながら高度なものばかりだ。氷を刃にして落としたり、雷を操ったり、水圧で圧し潰したりとやりたい放題だもん。騎乗しているドラゴンも嬉々としてブレス発射しているし。
うん、まぁ、これは酷い。
とくにファラクって人は凄いね。黒くて霧みたいなものを放射しているんだけど、それに触れたスライムが崩れて去っていく。なんだれは。新種のウイルスか細菌か?
アポトーシスを促す生体干渉系の魔術だろう。
お、恐ろしい ←お前が言うな
「うーん。おもったよりも圧倒的?」
アザートスさん曰く、かなり苦戦しているって話だった。
けど、この光景を見るとかなり押しているように見える。まぁ、数が多いし再生力も高いから、先にこっちの魔力が尽きそうに―――
ああ、そういうことね。
初めは押していても、魔力が切れるとどうにもできないってことか。竜騎隊の人たちも、結局は一般人だからね。わたしやアザートスさんのように化け物みたいなエネルギーを持っているわけじゃない。こうして戦っていると先にガス欠になってしまうってことだ。
けど、手加減していたらスライムは倒せない。
あの再生力を貫くには、相応の火力が必要だからね。
「これ大変だね本当に」
スライム数万に対して、わたしたちは二十人ほどだ。
一人千体以上とかどんなムリゲーよ。しかも相手は耐久お化けとして定評のあるスライムさんだ。わたしも『殺生石』がなかったら戦いたいと思わない。
とりあえずは『核融合』で可能な限り、スライムを焼滅させておいた。この『核融合』は消費霊力が激しい。コントロールさえしてしまえば、威力は科学の力で保障される。そのかわり、制御が難しくて消費多すぎる霊術だ。十発も使えば残量霊力が半分になる。
ここまでの攻撃で倒せたのは千体に届かないぐらいだろうか。
しかも、その殆どがわたしの『核融合』で消し飛ばした奴だ。他の人たちも奮闘しているけど、スライムを完全消滅させるには届かない。
しかも、スライムの中には、死にそうなスライムを捕食して魔力補填してくる奴までいる。中途半端にダメージを与えると、周囲のスライムを強化することになってしまうみたいだ。
「そろそろ引き上げる! 一度戻って魔力の回復に努めるぞ!」
隊長のファラクさんがそう声を張り上げたけど、わたしはまだ余裕だ。
霊力こそ減っているけど、それも『殺生石』で回復可能だし、そのための餌は大量にいる。正直、一人の時じゃないと使えない魔法もあるから、このまま引き上げてくれるのは有り難いかもしれない。
ファラクさんが東にある魔王軍本陣のほうへと向かうと、それに続いて他の人たちも向かって行く。
うん。霊力も半分あれば十分だね。
「光学誘導型太陽光収束魔法陣八重展開」
魔法陣の投影を『物質化』で実行し、天を覆うばかりの巨大魔法陣を八枚も同時に展開する。これは太陽光を収束する魔法陣で、八枚展開すると256分の1にまでなる。
虫眼鏡の原理でエネルギーを集め、対象を焼き尽くす自然エネルギーを利用した大規模魔法だ。やはり、人が魔力や霊力からエネルギーを生み出すより、それを利用して自然エネルギーを操った方が威力は圧倒的に上だ。
「『神光』」
天地を結ぶ光の柱が発生し、スライムが消滅した。
さらにわたしは魔法陣を移動させる。これによって光の柱も戦場を移動していき、次々とスライムたちを焼き尽くしていた。太陽光のエネルギーとはそれだけ偉大だ。扱いやすさを含めれば『核融合』よりも圧倒的に上だと思う。
他にも物質の質量を直接的にエネルギー変換する魔法とか開発したけど、制御が難しすぎて、滅多な事では使えない。いつか魔法陣化すれば、エネルギー問題なんて起こらなくなるだろうけどね。まぁ、それはいつかの未来だ。
「んじゃ、行きますか」
霊力が尽き、『神光』が消えたところでギンちゃんから飛び降りる。そしてギンちゃんはミニドラ形態になってわたしの頭に着地する。退却しようとしている何人かがそれを見て驚いていたけど、そもそもわたしは竜騎隊とやらじゃない。ファラクさんに従う義理はないのだよ!
そういうわけで、ここからは蹂躙タイムだ。
「吸い取れ『殺生石』」
妖力を使用して周囲の生命力を感じ取り、それを無理やり奪い取る。原種・九尾妖狐にだけ許された最強の妖術だ。生命力を奪われたスライムは、イコール魔力消失に他ならない。魔力で身体を形成しているので、空気が抜ける風船のように縮みながら消滅した。
そしてわたしはエネルギー回復。
一石二鳥だ。
「次、『絶氷零土』」
分子運動を限りなく停止に近づける冷凍の魔術。
まぁ、魔力を使った力技だから、消費魔力も結構多い。けど、その代わりに効果は絶大だ。わたしを中心として全てが凍り付き、空気すらも液体化する。予め自分を保護する結界を張っておかないと自滅する危険性もあるほど強力だ。
これでかなりのスライムが凍結した。
「『天断』」
極薄の領域に圧力を集中させて横向きに薙ぎ払う。
つまり、見えないブレードで薙ぎ払ったのと同様の効果が得られる。刃物で切断するってことは、物理現象で考えると、圧力で分子結合を破壊する行為に等しい。つまり、刃物がなくとも、圧力を集中させれば刃物と同様の結果を得ることが出来る。
魔力の限り切断領域を伸ばし、『絶氷零土』で凍結させたスライム全てを綺麗に切り裂いた。
うわつよい。
「『颶嵐暴竜』」
今度はわたしを中心として竜巻と嵐を引き起こす。
空は暗雲に覆われ、天地を結ぶ大竜巻が幾つも発生し、空気が摩擦で帯電してバチバチと音を立てる。触れれば圧力で破壊される竜巻がスライムを次々と葬った。
動き回る竜巻どうしがぶつかり、回転する刃となってスライムをすり潰す。
放電によって生じた雷が魔核を破壊する。
ともかく理不尽なほどの威力だ。初めて使ったときは半径数キロの魔物が消滅したからね。アレは今から考えても酷かった。流石に今回は範囲を限定しているけど、これだけやって生きているスライムがいたら驚愕ものだね。
わたしが『颶嵐暴竜』を停止させると、暗雲は消え去り、巨大竜巻も霞のように消えてしまった。やっぱり魔法って不思議だね。
「ぐ……貴様何者……?」
そんなことを考えていたら、真っ赤な髪をして長身の男が話しかけて来た。『人化』で尻尾を全部隠していたから気付かなかったよ。最近は感知を尻尾に頼り過ぎだったね。素の感知能力も鍛えた方が良さそう。
まぁ、それはともかく、問題はこの男だ。
魔人じゃないね。
上半身が人型だけど、下半身がグチャグチャに崩れている。それで血が出ていないということは、人型に変化したスライムということだ。あの猛攻を喰らって生き残るって……もしかして上位種?
「あなたは?」
「我はリンド。マキナ様に使える第四のしもべなり」
幹部っぽい奴きちゃったよ。
しかも瀕死だね。多分、上位種だからどうにかわたしの魔法攻撃に耐えて再生している最中ってところかな? 今も徐々に下半身が形成されているし。
「第五のしもべ、ナブーだけでなく、我までも瀕死に追いやるとは……」
「え? ナブーさんって誰?」
「……知らずに倒してしまったのか?」
「というかいつ倒したの?」
「……」
「……」
済まぬ。
わたしの魔法は知らん間に重要っぽいポジションの奴を倒していたようだ。
なんか凄く哀れになってきた。
「……えっと、取りあえずあなたを倒すね」
「ふ、無論だが我もただで死ぬつもりは――」
「はいはい『殺生石』」
「ぐああああああああああああ!?」
生命力を吸い取り、リンドと名乗ったスライムを完全消滅させた。
いいのだろうか。
こんなギャグっぽい倒し方をしてしまって……
一応、スライムたちの幹部っぽかったのに。