123話 なんか部隊に組み込まれた
青いドラゴンに騎乗した竜騎隊第六援軍部隊の隊長ことローザさんに付いて行くこと三十分。目的のロークリア平原とやらに辿り着いた。スライムとの戦いでは、この平原が最前線で、かなり激しい戦いが起きているらしい。
スライムの上位種も多数出現しているので、通常の部隊では足止めも難しいとか。
それで、基本戦術は竜騎隊のようなエリート部隊が到着するまで足止めし、援軍が到着してから一気に勝負を決めるとのこと。エリート部隊が常駐できればいいんだけど、やっぱり強い部隊は色んな戦場へと引っ張りだこにされる。だから、機動力の高い竜騎隊は今やブラック企業も真っ青な労働基準法ガン無視の職場だそうだ。
ローザさんがわたしに『若いのに頑張っているじゃない』的なことを行っていたのだけど、わたしは竜騎隊ではないんだ。
いつになったら理解してもらえるのだろう……
まぁいい。
ともかく、ロークリア平原でスライムを殲滅するのもわたしの仕事だ。
アザートスさんに頼まれているからね。
「降下する。ついてこい!」
ローザさんは青竜を操って下降し、部下の二人もそれに続く。わたしも後ろからそれに付いていった。まずはロークリア平原を抑えている常駐軍の指揮官に援軍到着を知らせるらしい。魔王軍が展開している陣地の中心部にある広場を目指してゆっくり下降し、順番に着地する。
どうやらここは竜騎隊専用の着地場所らしい。
流されるがままにわたしも着地し、ギンちゃんをミニドラ形態にさせて頭に乗せる。そして、ローザさんたちに付いて天幕へと歩いていった。
軍の指揮官がいる場所だけあって警備も厳重だけど、竜騎隊と分かると敬礼して通してくれる。竜騎隊が軍の中でどんな位置づけなのかよく分かるね。
エリート部隊であると同時に、みんなの憧れなのだろう。人族領でも、竜の乗るなんて絵本の英雄みたいなものだからね。それはきっと魔族領でも変わらないのだ。
「来ましたか。竜騎隊はこれで揃いましたね」
天幕の中にある大きな部屋に着くと、邪人族の男性がそう口を開いた。彼は防具もつけず、身体も鍛えられていないように見えることから、作戦参謀官なのかもしれない。着ている服は高級品なので、それなりの立場にいる人なのだろう。
そして見渡してみると、小さな竜を肩に乗せた人たちが二十数人ほどいた。彼らが竜騎隊らしい。他にも鎧を付けた魔人、邪人の人が結構いた。地位の高い人たちが集められているのだろうね。
わたしがそんなことを考えながら観察していると、先程の参謀官とも思しき邪人が口を開いた。
「では、ここで部隊を再編します。作戦指揮官ヤルス・ジェイルの名において、竜騎隊援軍各部隊はファラク・ゼイン殿を隊長として竜騎隊遊撃部隊に再編します」
「はっ! 賜りました」
黒い竜を肩に乗せたファラクという魔人が一礼して役を賜る。
おいおい。
わたしも勝手に組み込まれているぞ。関係ない人が紛れていて気づかないとか大丈夫か?
でも、そんなことを今更言い出せるはずがない。
黙っていると、ヤルス作戦指揮官が言葉を続けた。
「魔王陛下は厄魔原粘マキナを見かけたという情報を基に、北のアックス山岳地帯へと赴かれています。我々はここでスライムを足止めし、都市部へと進軍させないようにしなければなりません。また、魔王軍の大将各位は都市守護の任に就かれています。竜騎隊の方が援軍に来てくださったことは感謝の限りですよ」
アザートスさんはマキナを追っているのか。
マキナがどんな奴かは知らないけど、アザートスさんが取り逃がしたぐらいだし、結構強いハズ。ロークリア平原まで助けに来てくれる可能性はゼロに等しいだろう。そして、大将も都市の守護任務でここには来ていないようだ。
国は人が重要なわけだし、国民が住む都市に戦力を配置するのは正しいことだ。
で、実際の戦場には竜騎隊を送ったと。
わたしは完全に巻き込まれた形だね。もう少し早く来ていれば状況は違ったかもしれない。でも仕方ないじゃないか。魔法で実験していたら、つい時間を忘れてしまう。わたしは魔法学者だからね。これは不可抗力なんだよ。言い訳終わり。
「では、作戦の概要を説明します。時間もありませんので、概要を聞いて、後は臨機応変に対応して頂くことになります。まず、バルバロッサ中将の部隊、ザイトル中将の部隊、クライセス少将の部隊で正面のスライムを引き付けて頂きます。部隊を二つに分けて前衛と後衛を入れ替えつつ、持久戦を心がけてください。そしてグラム中将の魔法部隊は更に後方から魔法攻撃をして貰います。スライムには物理攻撃が殆ど聞きませんから、魔法部隊の攻撃が頼みです。残ったヘイク少将の部隊は左翼、ローランド准将の部隊は右翼から囲い込みを掛け、正面部隊同様に抑えをお願いします。
そして遊撃部隊の皆様は、空中を飛び越えてスライムの後方に回り込み、魔法と竜のブレスで殲滅をお願いします。徐々に囲いを縮めていき、殲滅する作戦です。ただし、遊撃隊の強みは機動力です、空中から戦場を観察して頂き、状況に応じて各部隊の援護をお願いします。
また、明日になれば魔導兵器ファランクスも到着します。最悪、明日まで耐えきれば勝利です」
おおう……
知らない単語がいっぱい出て来たよ。
上官将校の名前は知らなくても仕方ないね。これはノリと雰囲気で覚えていくことにしよう。記憶力には自信があるからね。
わたしは竜騎隊に組み込まれているわたしは遊撃担当だ。後方からの殲滅と追い込みがメインの仕事だけど、各部隊への援護も仕事に含まれる。
あと気になるのは魔導兵器ファランクスとやらだね。
これがあれば勝つるとか言っているし、結構な兵器なのだろう。魔道具を兵器運用する研究はわたしもしていたし、少しに気になるね。霊素銃もわたしがサマル教授と協力して作ったわけだし。
「では、すぐに動いてください。スライムは今も進軍してきています。抑えもそろそろ限界でしょう。各部隊はすぐに行動を起こし、遊撃隊は広場に集合。順番に離陸してください」
『はっ!』
各将校たちは敬礼してすぐに行動へと移っていく。わたしもファラク隊長に従い、着陸したときに使った広場へと駆け足で移動した。軍隊行動なんて初めてだけど、ノリで何とかなるもんだね。
今は『人化』を使っているけど、本来は獣人だし、体力には問題ない。あとは周囲を観察しながら会わせていけばそれっぽくなる。それに今は有事だ。多少の違和感があっても気にされない。それに竜騎隊が私服で許されているのも幸いしたね。わたしなんて冒険者として活動するときのローブ姿だけど、他の人たちも私服だから目立たないし。
それに上空を飛ぶから寒いし、ローブを着ている人は少なくない。
上手く溶け込めていた。
……というか、溶け込めてしまっているから気付かれないんだよね。
「整列! 五列縦隊」
ファラクさんがそう言うと、他の人たちはすぐに五列縦隊へと並ぶ。わたしもサッと列に入り、紛れ込んでおいた。偶に『あれ? こんな奴いたっけ?』みたいな視線を向けられるけど、わたしが堂々とし過ぎてバレない。
わたしって何でこんなことしているんだろう……
密かに溜息を吐くと、ファラクさんは言葉を続けた。
「これより離陸する。右前から順に私に従え」
『はっ!』
ファラクさんの肩に乗っていた黒竜が離れ、巨大化して広場で威容を見せる。その背中にファラクさんが飛び乗り、一気に離陸してしまった。続いて右の列の人が相棒の竜を巨大化させ、離陸する。そうして流れ作業のように離陸して行き、わたしも流れに乗って上空に上がった。
二十メートル以上の銀竜は珍しいのか、チラチラとわたしの方を見る視線を感じる。
だが、今いるのは戦場だ。
彼らもすぐに視線を下に向けた。
「バルバロッサ中将、ザイトル中将、クライセス少将の部隊が正面を抑え始めた。我らは上空からスライム共の背後に回り込み、魔法攻撃とブレスで叩く」
ふむ。
確かにかなりのスライムがいるようだ。尻尾を出していないから感知は出来ないけど、上位種っぽいスライムが数えきれないほど居る。ただでさえランクAオーバーなスライムの上位種が大量とか地獄みたいな光景だ。
まぁ、広域殲滅系の魔法を使えば問題なさそうだけどね。
原種ならともかく、たかが上位種でわたしの攻撃を止めることは出来ないだろう。
今回は、魔王軍も戦場で戦っているし、手加減しないとフレンドリーファイアになっちゃうけど。
まぁ、今回は魔王軍とスライム軍の戦力を観察できるいい機会だと思わせてもらおう。
「では行くぞ! 竜騎隊の力を見せつけよ!」
ファラクさんは黒竜を操ってスライム軍後方に飛んでいく。
眼下には夥しいほどのカラフルなスライムが蠢いており、かなり気持ち悪い。
さぁ、消毒の時間だ!